表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/55

Act.??『*戯****ろ***』



「駒一つごときに、またずいぶんと削られたものだな、エクルーズローダー卿」


 からかう様子はなく、むしろ感心した口調で女が言った。

 欠けた左腕の袖が揺れ、迷惑そうな表情を隠しもせず少年は答えた。


「この程度、じきに戻る。わざわざそれを言いに来たのか? グリンデルト卿」

「まさか。私とてそこまで暇ではないよ」


 長い回廊の途中、柱に寄りかかって休んでいた少年の、それでも微塵も揺らがない強い眼差しに、珍しく女は真面目な顔で唇を開く。


「主があの遊戯盤に制限をかけられた。今後、あの世界に触れられるのは私と坊や、それにアングレイヴィス卿だけだ」

「当然の処置だな」


 あっさりと応じた少年に、グリンデルト卿の眉がくっと吊り上がって不快を示す。


「……エクルーズローダー卿。ログを見たが重要な部分は完全に破損していて、復元することができなかった。枢機卿がそこまで削られるなど、前例の無い異常事態だ。あの駒はいったい何をした?」

「あの駒が原因であると、確信しているのだな、グリンデルト卿。僕があの駒に接触することを知っていたとしても、通常の思考であれば、駒ごときに枢機卿へ干渉する力は無いと判断するはずだ。卿はなぜ、僕の状態があの駒のせいだと考えた?」

「それはもちろん……、……?」


 即座に答えようとして、しかし声が途切れる。

 今、自分が言おうとした言葉を、急に取り上げられたかのように。


 エクルーズローダー卿が頷いた。


「それが答えだ。貴殿も、僕も。そしておそらくアングレイヴィス卿も。あの駒について知るには階位が足りていない」

「まさか! 駒と枢機卿だぞ? 階位にどれだけの差があると思っている?!」


 驚きに大きくなったその声に、淡々とした答えが返る。


「貴殿が見たログ。破損が起きたそこで、僕はあの駒に対して精神接続による内部精査を試みた。しかし逆に、そこにあった『欠落』に呑まれそうになった。

 貴殿は僕を見て“削られた”と言ったが、正確には“喰われた”のだ。

 そして僕がその欠落に喰われ、この身の六割を失った時、主が強制介入によって僕たちの接続を切断し、こう仰られた」


 グリンデルト卿の大きく見開かれた瞳に、少年が告げる。


「あの欠落は侵蝕されて戻らぬ永遠の(うつろ)。通例であれば耐えきれず死ぬはずが、どうしてか生きのびて、今も無自覚に生きている。

 ――――――これは『ありえない残骸(ざんがい)』だ、と」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりお猫様なんだよなあ
[良い点] ざまー、好き勝手にされない主人公が好き!
[気になる点] 両親の死で精神の重要な部分が欠落して 本来は心神喪失状態みたいな感じって事かね? 普通はそのまま衰弱か自殺かで命を落とすところを 雪姉さんがいたからギリギリ生と死の境界で生きてるとか?…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ