Act.22『炎上するSNSと二つ目のダンジョン』
第二次侵攻から数日後。
ようやく使える傀儡が50体になったところで、休憩中たまたま見たSNSが炎上していた。
発端は、
「ただでさえ残党狩りで疲れているのに、上から未登録のプレイヤーを探し出してくれと言われて困っている。そもそも今の時点で自主的に登録していないプレイヤーは、おそらく元から協力的なタイプではない。それを無理に探し出して、上の人達はどうしようというんだろう」
というようなことを関係者に話したプレイヤーがいて、それがネットに流出、炎上したらしい。
SNS参加者の意見は「政府は自主的に協力してくれているプレイヤー達をもっと大事にすべき」というのが多い。
次いで「協力的でない未登録のプレイヤーでも、侵攻の時に参戦して助けてくれている人もいる。登録プレイヤーに無理な捜索をさせる前に、未登録プレイヤーと国側がお互い妥協できる互助的な案を考えるべきなのではないか。そうでなければ、彼らは協力するどころか、今まで自主的に助力していたのを止めてしまうかもしれない」というのも多い。
理性的だし、そりゃそうだ、と思う意見だ。
しかし理性的な人ばかりではないから、SNSは炎上する。
発端となった話をしたプレイヤーに対するひどい批判や悪口、未登録のプレイヤーに対する罵詈雑言、お門違いな恨み言、プレイヤー全体に対する意味不明な文句……、等々。
現状に対する不平不満が、ちょっとしたきっかけでプレイヤーという存在に向けられて爆発し、今はとにかく文句を言いたい人々が牙を剥いて吠え立てている、的な状況だ。
たまたまプレイヤーという立場で、一歩引いたところからこの騒動を眺めることができた私は、不思議に思う。
この書き込みをしている人達は、自分の書いた言葉でプレイヤーになった人が傷つき、契約を破棄してしまうかもしれない、という可能性は考えないのかな、とか。
もしそれでプレイヤーが減ったらモンスターに対抗できる有効な戦力が減少するわけで、自分で自分の首を締めるような行為だと思うのだが、それでもいいから不満をぶちまけたい、という破滅願望持ちの人が多いのだろうか、とか。
そもそもプレイヤーを同じ人間だと思ってないのかな、とか。
考えても理解できそうになかったので、気にしないことにした。
***
傀儡の数を増やして準備ができたところで、ステータスのチェックもしておく。
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プレイヤー名 : Rx
ランク : 6
武器:第6段階 タイプ『ライフル/黒』
防具:第6段階 タイプ『敏捷・ステルス優先/黒』
◆武器スキル
●『ライフル』レベル10
→『鷹の目』レベル9
◆防具スキル
●『消音』レベル10
→『隠蔽』レベル9
◆装備品
・瞬足のイヤーカフ(速度アップ (大))
・探知透過のペンダント(モンスターの索敵とプレイヤーの探索系スキルに発見される確率の低下 (中))
・忍の腕輪(『隠密』消費精神力60%軽減)
・剛腕の指輪(攻撃力アップ (大))
・万華鏡のアンクレット(被ダメージ反射 (発動確率・中))
◆特殊スキル
●『氷魔法』レベル5
→『アイスアロー』レベル4
→『アイスウォール』レベル5
→『アイスフィールド』レベル3
●『緑魔法Ⅱ』レベル3
→『チェーンシードアローⅡ』レベル3
→『ドレインフラワーⅡ』レベル3
→『グラスフィールドⅡ』レベル2
→『ガーデン・オブ・ジ・エンド』
◆補助スキル
●『隠密』レベル10
→『心眼』レベル10
→『遁行』レベル9
→『鑑定』
→『隠蔽』レベル10
→『分身作成』レベル1
→『隠蔽対象指定』レベル1
→『透過』レベル3
●『跳躍』レベル10
→『二段跳躍』レベル7
→『滞空延長』レベル5
●『スキル探知』レベル3
●『危険察知』レベル2
●『裁縫』レベル9
→『傀儡作成』レベル8
→『仮想人格憑依』レベル5
→『傀儡管理』レベル4
→『巨大化』レベル6
→『縮小』レベル1
→『能力付加』レベル2
→『護符作成』レベル1
→『アイテムドロップ率アップ』レベル9
●『調理』レベル7
→『特殊効果付与』レベル5
→『アイテムドロップ率アップ』レベル7
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「……ん? 『隠蔽対象指定』?」
レベルがマックス値の10になっていた『隠蔽』から、新スキルが派生していた。
内容を見ると、文字通り自分以外の対象を『隠蔽』状態にできるスキル。
珍しいアイテムを拾ってくることを期待して放つ、性格「気まぐれ」の傀儡達に使うのにちょうどいいスキルだった。
その他は武器と防具が第6段階に上がっていたり、他のスキルのレベルも上がっていたりして、おおむね順調な成長具合だと思う。
自分以外のプレイヤーのステータスが分からないから、成長スピードが早いのか遅いのかは分からないが。
ともかくステータスのチェックも終わって準備は完了したので、次のダンジョンに行こう。
プレイヤー装備に変更するのと同時に『隠密』を発動させ、ナビに言う。
(「ナビ、『転送』して」)
目的地は藍市、ツインタワー前ゲート。
了解の返事とともに景色が変わり、登録地点の足場が無くなっていることを覚えていた私は『二段跳躍』と『遁行』で人のいない地上に着地。
先日の第二次侵攻で甚大な被害を受けたツインタワー前ゲートまで、物音や土埃を立てないようにしながら『跳躍』で一気に移動した。
ここは被害が大きすぎて、まだゲートのところまで手が入っていない。
見張りもなく、監視カメラがあるようにも見えない、瓦礫の中にただそびえ立つ威圧的な黒々とした鉄扉。
手を当ててぐっと力を込めれば、それは思っていたより簡単に開いた。
中へ足を踏み入れれば、数歩も進まないうちに背後で勝手に鉄扉が閉じてゆく。
「ここは水辺の小路か」
扉を背に周囲を見渡し、ぽつりとつぶやく。
名前は不明だが、藍市のツインタワー前ゲートのダンジョンは、左側に大きな川があり、右側には鬱蒼とした青黒い闇に沈む森があり、見上げれば晴れ渡る空があった。
『心眼』で見てみれば、川にも森にも空にもモンスターがうろついている。
その間にある小路を進んでいけば、いずれどこかから襲いかかってくるだろう。
「よし。行くか」
一通り準備はしてきたのだから、立ち止まっているより試してみよう。
まずは「気まぐれ」の傀儡を3体出し、新スキル『隠蔽対象指定』を発動、(「アイテムを拾ってこい。……行け」)と送り出す。
次は攻撃用と索敵用の傀儡、12体を出し、スイッチと巨大化をオン。
(「この道を進みながらモンスターを迎撃しろ。深追いはするな。分かれ道、行き止まりがあった場合は一時停止。進行速度は私に合わせろ。……行け」)
そうして私は二つ目のダンジョン攻略を開始した。