Act.21『二度目の侵攻後と、私のやりたいこと』
帰ってくるなり泥のように眠り、ふ、と目が覚めると顔の真横で雪柳が寝ていた。
ひどく疲れていることだけが分かって、他のすべてが曖昧で、こんなことが前にもあったような気がする、と思った。
大切なひとたちが突然いなくなったばかりの頃に。
けれどふらふらさまよった視線の先に青いルームランプ……、ナビを見つけて、それで一気に記憶が戻った。
第二次侵攻で四つの戦場を渡り、飛行系モンスターと大型、中型のモンスターをだいたい倒した後、家に帰って倒れこむように眠っていたのだと、思い出す。
昨日、私が第二次侵攻の主戦場にしたのは、自宅から一番近い浅葱駅前ゲート。
飛行系モンスターを完封する狙撃手の私と、地上に展開したプレイヤーとチェスマンにより、戦況は終始こちら側の優勢で進み、そのまま湧きポイントの封印とゲート再設置で第二次侵攻の終結が宣言された。
終結宣言後、二番目の戦場に選んだのは藍市、ツインタワー前ゲート。
飛行系モンスターに対抗できるプレイヤーがいなかったらしく、被害甚大。
ツインタワーは倒れてはいなかったが、あちこち焼け焦げたり欠けたりしており、さらにその周りの建物は瓦礫の山と化していた。
そのせいで被害は甚大だが視界を遮るものは少なく、私は射程圏内にいた飛行系モンスターと大型、中型のモンスターを倒した後、次へ移動。
三番目の戦場は紅梅市、市民公園モニュメント前ゲート。
公園は焦土と化していたが、飛行系モンスターをうまく引きつけて戦っている、遠近揃ったバランスのいいプレイヤーとチェスマンがいて、公園の外の建物はほぼ無事。
しかしまだドラゴン3体と複数の中型飛行系モンスターがいたので、公園外のビルの屋上から狙撃して落とした。
次へ移動。
四番目の戦場は菫市、大型ディスカウントストア前ゲート。
元々、第一次侵攻で壊されていた大型店の出入り口が、完全に破壊されて封鎖状態になっており、そのせいかモンスターは店の中に入らず、周辺に散らばったらしい。
大破壊とは言えないが、被害が広範囲に及び、ここの残党狩りが一番厄介だった。
私はまず飛行系モンスターを片付け、四方に射線が確保できる鉄塔の中間付近に陣取って、地上を動き回る中型、大型のモンスターを狙撃。
そこから狙えない位置をうろつくものは、鉄塔から離れて街の上を駆け回りながら駆除。
『心眼』であらかた片付けたのを確認する頃にはもう夕陽が暮れかけていて、ナビの『転送』で帰宅するとベッドの上でプレイヤー装備解除。
そのまま倒れこむように眠りに落ち、現在に至る。
(「ナビ、今、何時?」)
「現在の時刻は午前四時三十二分です、Rx」
だからまだ暗いのか、と思いながら、ぱちぱち、とまばたきを繰り返しているうちに意識がはっきりしてきた。
のどが乾いている。
雪姉さんに、ただいま、って言わないと。
トイレに行きたい。
お風呂に入って、ベタついた体を洗いたい。
お腹が空いた。
一気に押し寄せてきたことの中に、「筋肉痛でしんどい」が無かったことに気付いて、ふと笑う。
一日三時間のダンジョン探索と、行く前、帰った後のストレッチ。
地道に続けてきた効果が出ているようだ。
「……動けそうだし、起きるか」
部屋着のまま眠っていたベッドから起き上がり、先ほど思い浮かんだことを一つ一つ片付け、早朝のニュースを音量を小さくして聞きながらご飯を食べていると、背後でカタンと音がした。
寝室に使っている部屋から、ペットドアを通り抜けてきたのだろう。
振り向けば、世界中の何よりも美しい黄金の眼がまっすぐに私を見ている。
知らず、微笑みが浮かんだ。
「ただいま、雪姉さん。それから、おはよう。雪姉さんの朝ご飯、今用意するね」
***
第二次侵攻は、モンスターの湧きポイントになったゲートの近くに、飛行系モンスターに対抗できるプレイヤーがいたかどうかが戦況の明暗を分けた。
私が四つの戦場で見た通りのことが世界中で起こり、飛行系モンスターに対抗できるプレイヤーがいなかった戦場では、被害は甚大なものとなった。
そして飛べるものは移動範囲が広く、侵攻の終結が宣言されてから二十四時間経っても、倒しきれなかったモンスターの目撃報告や被害報告が相次いだ。
ニュース番組はこの被害報告一色で、当然ながら外出禁止令が出される中、特別な許可を得た報道局のスタッフだけが、警察官に移動可能な範囲の指示を受けながらリアルタイムの映像を流している。
指示を出す警察官は各所と連絡を取りながら、安全が確保された範囲での報道をさせているようだったが、私が見ている時に一度、小型のモンスターが飛び出してきた。
そのモンスターは後を追ってきたプレイヤーが、肉眼では捉えられないほどのスピードで一刀両断し、砕け散って消えた。
そしてモンスターを仕留めたプレイヤーも、現れた時と同じように一瞬で消えた。
その映像はスロー再生で何度も映され、どうやら刀を武器とした軽装のプレイヤーで、顔はフードで隠れていたが体格から成人男性だろうと推測されていた。
忍者みたいでカッコいい、とネットで騒がれていて、私もそう思った。
刀ってロマンだよね。
まあ、ああいうのは見ているだけでいいから、自分でやろうとは思わないけど。
第二次侵攻の翌日、私はニュースを見ながらじっくりストレッチをして、あとはテレビを消して『傀儡作成』に没頭した。
出来上がったぬいぐるみには、全部に第二次侵攻後の残党狩りでドロップしたアイテムを入れた。
この世界に散らばった残党を狩るのは、情報網を持った政府に登録しているプレイヤーとチェスマンが適任だろう。
浅葱駅前ゲートからの侵攻を完封し、他の近隣ゲートでの残党狩りに参加したのが良かったのか、うちの近くにモンスターはいない。
今、私がやれることで、やりたいことは、戦力の増強とそれによるダンジョンの踏破。
「……うん。やっぱりドラゴンの素材はかなり能力値の高い、特殊効果持ちの傀儡が作れるな」
出来上がった物を鑑定しては、アイテムボックスに収納する。
それから数日、私は『傀儡作成』を続けた。