Act.16『四月の現状と問題』
四月中旬。
世間では新年度が始まり、第二次侵攻が起きた時の避難経路や避難場所が大急ぎで決められて、休校が解除された学生たちは少し遅れたが入学式を無事に終えた。
会社も営業を再開し、新入社員へのインタビューがテレビに映る。
ゲートがある所は瓦礫もだいぶ撤去され、立ち入り禁止の区域が縮小された。
そのおかげでたとえば浅葱駅は使用を再開されたし、出入り口にゲートができて営業停止になった大型店が、別の出入口を使っての、ゲートから離れた店舗の営業再開が許可されたりしている。
扉一枚向こうにはモンスターがいるのに、丸腰でその近くを通って通勤したり買い物したりしている人達をテレビで見ていると、「うちの国民、平和ボケしすぎなのでは??」と思ったが。
他の国では立ち入り禁止の解除がもっと早かったりして、日本よりもっと豪胆だった。
一応、どこの国もゲートに武装した監視役を置いてはいるが。
第一次侵攻でモンスターには銃とかほとんど効かないの分かってるのに、みんな心臓強いなぁ、と私は感心してテレビを見ていた。
あと、海外ではプレイヤーとチェスマンがテレビに出たり、SNSで情報発信するようになった。
そしてあっという間に、予定調和のごとく英雄化した。
有名な俳優や歌手みたいな感じで、とくに若年層の間で非公式ファンクラブが立ち上げられるくらい顔と名前が広まった。
少し遅れて、たぶん日本でも同じようなことが起きるだろう。
海外の流行はたいてい遅れて日本にも入ってくるから。
他のプレイヤーの情報を見るのはわりと楽しいので、日本のプレイヤーが表に出てくるのを、私もわくわくしながら待っているところである。
なにしろ私は、先月からさして変わらない生活をしているので。
以下、現在の私のステータス。
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プレイヤー名 : Rx
ランク : 6
武器:第5段階 タイプ『ライフル/黒』
防具:第5段階 タイプ『敏捷・ステルス優先/黒』
◆武器スキル
●『ライフル』レベル10
→『鷹の目』レベル9
◆防具スキル
●『消音』レベル10
→『隠蔽』レベル8
◆装備品
・俊敏のイヤーカフ(速度アップ (小))
・防毒のペンダント(毒状態30%防止)
・隠密の腕輪(『隠密』消費精神力20%軽減/防御力アップ (小))
・攻撃の指輪(攻撃力アップ (小))
・反射のアンクレット(被ダメージ反射 (ランダム))
◆特殊スキル
●『氷魔法』レベル5
→『アイスアロー』レベル3
→『アイスウォール』レベル5
→『アイスフィールド』レベル3
●『緑魔法』レベル3
→『チェーンシードアロー』レベル3
→『ドレインフラワー』レベル3
→『グラスフィールド』レベル2
◆補助スキル
●『隠密』レベル10
→『心眼』レベル10
→『遁行』レベル7
→『鑑定』
→『隠蔽』レベル9
→『分身作成』レベル1
→『透過』レベル2
●『跳躍』レベル10
→『二段跳躍』レベル4
→『滞空延長』レベル3
●『スキル探知』レベル3
●『危険察知』レベル2
●『裁縫』レベル9
→『傀儡作成』レベル7
→『仮想人格憑依』レベル5
→『傀儡管理』レベル4
→『巨大化』レベル6
→『縮小』レベル1
→『能力付加』レベル2
→『護符作成』レベル1
→『アイテムドロップ率アップ』レベル9
●『調理』レベル7
→『特殊効果付与』レベル5
→『アイテムドロップ率アップ』レベル7
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全体的にスキルのレベルは上がったし、『傀儡管理』がレベルアップしたことで一斉管理ができるようになり、取り出した傀儡のスイッチや巨大化の一斉オンができるようになったのは便利になった。
が、それだけだ。
わりと深刻なレベルで青緑色の洞窟に飽きつつある。
新しいダンジョンに入るため、別のゲートをひっそりコッソリくぐり抜ける方法を、たまに真面目に考えては、思いつかずため息をつく日々だ。
一応、『傀儡作成』のレベルは順調に上がり、『仮想人格憑依』もレベルアップして選べる性格が四つ増えた。
レベル4で増えたのは「気まぐれ」と「慎重」で、レベル5は「豪胆」と「活発」。
詳細はこんな感じ。
「気まぐれ」は、プレイヤーの命令を聞いたり聞かなかったりする。たまに珍しいアイテムを拾ってくる。
「慎重」は、周囲への警戒心が強く、敵を見つけると味方に報せる。敵が近づいてくるとプレイヤーの傍まで退避する。
「豪胆」は、襲いかかってくる敵に対し、決して退くことなく戦い続ける。自分から敵を探しに行くことはない。
「活発」は、好奇心旺盛で、いつもあちこち走り回っている。何かを見つけると味方に報せ、自分はそれに向かって一直線に走っていく。敵だった場合は戦闘になり、トラップだった場合はハマる。
以上。
珍しいアイテム目当てに「気まぐれ」を何体か作って放つようになった他は、攻撃役と敵接近の警報役が増えてぬいぐるみ軍団が順調に強化されていっている。
『巨大化』もレベル6になると成獣のライオンぐらいのサイズになり、ぬいぐるみ軍団は「あるだけ全部出す」から、「能力値の低いものから出し、倒されたら次を出す」に変わった。
あと、ふとした思いつきからぬいぐるみを作る時、中にワタと一緒にドロップアイテムのモンスターの爪を入れたら、『傀儡作成』から新スキル『能力付加』が派生して、傀儡としてスイッチをオンにしたら見慣れない爪が生えていたし、『鑑定』で見てみたら能力が上がっていた。
それに気付いてからは色んな物をワタと一緒に詰め込むようになり、その一番の成功作がこちら。
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傀儡 : 百十二号
耐久 : 7/7
性格 : 豪胆
レアリティ : A+
動作 : オフ
巨大化 : オフ
縮小 : オフ
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これはワタと一緒にドロップアイテム『フルメイルベアの核』を入れたクマのぬいぐるみの通常表示で、『鑑定』だとこう出る。
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アイテム名 : 百十二号
カテゴリー : 傀儡
レアリティ : A+
基礎効果 : 攻撃力アップ (中) 防御力アップ (中) 俊敏性アップ (中)
特殊効果 : 攻撃力アップ (大) 防御力アップ (大) 貫通無効 雷耐性 (-)
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フルメイルベアは雷に弱かったようで、その耐性だけマイナスが付いて弱くなったが、その他は申し分ない出来になって満足である。
が、いいかげん、わりとガチで浅葱駅前ゲートのダンジョンには飽きてきた。
フォレストタートルも、あれから七回エンカウントして倒しているが、魔法書をドロップしたのは初回だけだったし、他の種類の中ボスっぽいのも見つからない。
しかし。
しかし、他のゲートをひっそりコッソリくぐり抜ける方法が……!
「うーん……。私がもうちょっと賢かったら、思いついたのかなぁ……」
しょんぼりとため息をつき、私は今日もダンジョンに行く。
「行ってきます、雪姉さん」
いつも通りに進もうとしたダンジョンで、いつもとは違うことが起きるなんて、想像もせずに。




