Act.11『ステータスチェックと真偽不明のネット情報』
翌日。
今までで一番マシな筋肉痛がきた。
三時間でもくるのかぁ~、とため息がこぼれたが、まあ三年引きこもってるわりには動けてる方だろう、と思っておく。
筋肉痛で動けずモンスターにやられる、というのは間抜けすぎて嫌なので、今日は休養だ。
作りためた傀儡に、『仮想人格憑依』を使おうと思う。
朝ご飯の時につけたテレビでは、遠くから撮影されたらしい、封鎖を解除されたゲートに入っていくプレイヤーやチェスマン達の映像が流れている。
アナウンサーによると、報道規制線がゲートから遠い場所に張られているので、ズームしてもよく見えない映像しか撮れないらしい。
プレイヤーやチェスマン達への取材も、政府から「自主規制を要請」されているそうで、ダンジョンの攻略状況や、チェスマンがどれくらいの戦力になるのかなど、私が興味を引かれそうな情報は無さそうだ。
他には短時間営業で再開した店での買いだめ騒動や、銀行からのお金の引き出し騒動、モンスターを見かけたという誤通報が複数件あった、等。
どうやら第一次侵攻で出現したモンスターの全頭駆除は成功したらしく、コメンテーターがこの様子なら教育機関の休校解除も可能なのではないか、と話していた。
食事が終わったらテレビを消して、本日の作業を開始。
まずは完成したぬいぐるみをコタツの上に並べる。
ウサギ 1
クマ 2
ネコ 2
イヌ 4
いつの間にか9体もできていた。
前に作ったことがあり、簡単な型紙を使ったとはいえ、短い期間で思った以上に数が出来上がったことに、並べてみてはじめて気づき、ちょっと驚く。
「道具屋で買った布が縫いやすかったおかげ……?」
首を傾げつつ、まあ困るわけじゃないからいいか、で終わる。
そんなことより『仮想人格憑依』だ。
クマ2体は「勇猛」。
イヌ1体は「従順」。
……に、設定したところ、次のイヌの時に選べる性格が増えていた。
新しく増えた性格は「冷静」と「楽天家」。
どういう行動をする性格なのか、まずは詳細を読む。
一つ目の「冷静」は常に周囲を警戒し、敵を見つけると攻撃するが、自分が攻撃を受けた場合は回避行動を優先する。
二つ目の「楽天家」はいつも楽しそうに動き、放置しておくとプレイヤーとはぐれたり、知らないところでモンスターを倒したり、自分が倒されたりしている。
「これまた正反対の性格だなぁ。というか楽天家はこれ、傀儡としてはどうなんだ……? ダンジョンで使えなさそうすぎるだろ……。でもこういう性格のぬいぐるみって、可愛いだろうな~」
迷ったが、ウサギ1体、ネコ1体、イヌ3体は「冷静」。
ネコ1体は「楽天家」に設定。
名前は「五号」から「十三号」と名付けた。
9体のぬいぐるみにずっと動き回られると邪魔だし、雪柳がキャットタワーの上から目を丸くして固まっているので、ステータス画面のスキル『傀儡管理』からスイッチをオフにしてアイテムボックスに収納。
「……ん?」
ついでにステータス画面をチェックするとスキルのレベルが上がっていたり、新スキルが派生していた。
――――――――――――――――――――――
プレイヤー名 : Rx
ランク : 7
武器:第3段階 タイプ『ライフル/黒』
防具:第3段階 タイプ『敏捷・ステルス優先/黒』
◆武器スキル
●『ライフル』レベル7
→『鷹の目』レベル5
◆防具スキル
●『消音』レベル7
→『隠蔽』レベル3
◆装備品
・俊敏のイヤーカフ(速度アップ (小))
・防毒のペンダント(毒状態30%防止)
・隠密の腕輪(『隠密』消費精神力20%軽減/防御力アップ (小))
・攻撃の指輪(攻撃力アップ (小))
・反射のアンクレット(被ダメージ反射 (ランダム))
◆特殊スキル
●『氷魔法』レベル2
→『アイスアロー』レベル1
→『アイスウォール』レベル2
→『アイスフィールド』レベル1
◆補助スキル
●『隠密』レベル9
→『心眼』レベル7
→『遁行』レベル4
→『鑑定』
→『隠蔽』レベル5
→『分身作成』レベル1
●『跳躍』レベル8
→『二段跳躍』レベル1
→『滞空延長』レベル1
●『スキル探知』レベル1
●『裁縫』レベル6
→『傀儡作成』レベル3
→『仮想人格憑依』レベル3
→『傀儡管理』レベル2
→『巨大化』レベル1
→『縮小』レベル1
→『護符作成』レベル1
→『アイテムドロップ率アップ』レベル6
●『調理』レベル4
→『特殊効果付与』レベル2
→『アイテムドロップ率アップ』レベル4
――――――――――――――――――――――
知らないうちに『隠密』スキルが9まで上がっている。
常時発動させているから上がりやすいのだろうが、これは思ったより早くマックス値の10までいくかもしれない。
あと気になるのは、新スキル『巨大化』と『縮小』だ。
試してみようと思って性格「従順」の黒ウサギ、一号を取り出すと、ぬいぐるみに重なって操作パネルが出た。
「ん? なんだこれ? ……ああ、『傀儡管理』がレベル2に上がったから、いちいちステータス画面開かなくても操作できるようになったのか。えーと、操作項目は……」
操作パネルを上から読んでいく。
―――――――――
傀儡 : 一号
耐久 : 1/1
性格 : 従順
レアリティ : E
動作 : オフ
巨大化 : オフ
縮小 : オフ
―――――――――
空中に浮かぶパネルの中の「巨大化:オフ」という項目に指でポンと触れると、表示が「巨大化:オン」になり、黒ウサギがグググっと大型犬サイズまで巨大化した。
「お、おお~」
雪柳がキャットタワーの上から「ふぅぅぅ~」と、警戒する時の声でうなっている。
驚かせたみたいだ。
ごめん、雪姉さん、と謝って巨大化をオフにする。
次に試した縮小では、手のひらサイズまで小さくなった。
持ち運びはアイテムボックスでするから、このスキルが何に使えるのか分からないが、とりあえず確認だけしておく。
「これ、繰り返し巨大化させてたら、そのうちレベルが上がって、もっと大きくなるのかな~」
今のところ戦力にはならなさそうな傀儡だが、スキルを育てれば使えるようになる気がする。
「……よし、『傀儡作成』スキルのレベル上げしよう」
というわけで、今日も一日ぬいぐるみ作りだ。
***
ぬいぐるみを作っている途中、ふと身体が固まっていることに気づいて、作業を一時中断。
立ち上がってコタツから離れ、んん~、と伸びをして、軽くストレッチをする。
「……あっ。そういえば私、ダンジョン行く前に準備体操とかしてないな?」
今さら気づいて、準備体操しとけば筋肉痛ももうちょっとマシだったのでは、と遠い目で思う。
引きこもりには無縁の単語なので、「準備体操」の「じ」の字も思いつかなかったが。
前に読んだスポーツマンガでも、準備体操はスポーツをする上で必須のもので、身体をより良く動かせるようになるし、怪我の防止にも効果がある、とコーチ役のキャラが言ってた気がする。
たしかスポーツ後も、クールダウンのためのストレッチがあったはずだ。
気になったので、ネットで検索。
片っ端からページを開いて、私でもできそうなものを探す。
そして簡単なものをいくつかピックアップしてメモすると、ついでにニュース一覧に目を通しておく。
「……ん?」
その中に一つ、中東の某国にある石油採掘施設でプレイヤーとチェスマン数人によるテロ事件が発生したが、軍属のプレイヤーとチェスマンにより鎮圧され、テロリストは全員死亡、というトピックがあり、興味を引かれてリンクをたどる。
海外で起きた事件なので詳しい内容はよく分からないのだが、テロリストを殺して鎮圧した軍属プレイヤーは今も資格を失っておらず、現在もプレイヤーのまま、何のペナルティも受けていない、と政府関係者が話しているという。
そこから読者コメント欄に「プレイヤー資格について」というリンクを見つけ、またそれを開いてみると、掲示板サイトで「プレイヤー資格の喪失条件は何か?」を様々な人の証言や情報提供から考察しているところに辿り着いた。
「へぇ。第一次侵攻の時に、目の前でプレイヤーじゃなくなった人を見た、ねぇ……」
考察のための素材となる情報は玉石混交、参加者も野次馬や荒らし混じりの掲示板サイトの話をどこまで信じられるかは判断が難しいが、実際に私が見たことのある事例も報告されているし、興味深い話ではある。
ざっと流し読んでみると、彼らは実体験の報告や又聞きの情報から共通点を探り、どうやら「プレイヤーの能力を使って非プレイヤーに攻撃すること」が資格喪失の条件なのではないか、と考えているようだった。
攻撃が当たったかどうかよりも、非プレイヤーに対する害意によって判定されるようで、害意があればその攻撃が当たらなくても資格を喪失するし、害意なく事故で非プレイヤーに怪我を負わせた場合には資格喪失は起きない、という推測だ。
そして、今回の海外でのテロ事件で、プレイヤー同士での戦いが起きた場合は、相手を殺しても資格喪失にはならず、ペナルティも発生しないらしい、という情報が追加された。
今、掲示板サイトではその話題がメインになっており、誰かプレイヤー同士で戦った時に何が起きたか、情報を持っている人はいないか、という呼びかけが書き込まれている。
しかし今回のテロ事件以外、プレイヤー同士の戦闘に関する情報は無さそうだ。
海外でプレイヤー契約をしたテロリストが無差別テロ事件を起こし、たまたまそこに居合わせた一般人のプレイヤーが応戦したらしい、という話が出てきたが、「情報源は?」と問われると、その話を書き込んだ人が消えた。
私はいったん手を止め、考え込む。
「そういえば私が第一次侵攻の時に撃った人、プレイヤーじゃない人を攻撃しようとしてたような……? その人の悲鳴で私が気づいて撃ったし、その後でナビが資格剥奪でプレイヤーじゃなくなったって言ってたな。つまりこの推測、当たってるのか……?」
プレイヤーから非プレイヤーへの攻撃による資格喪失。
アウトラインは「害意を持っていたか否か」。
もし当たっているのならば、ナビが教えてくれない禁則事項の一つが判明したことになる。
「これはなかなかお手柄なのでは?」
ネットの片隅にある掲示板サイトの一ページで考察されているだけの話だし、検証もされていないから確定情報ではない。
が、私にとっては有益なものだった。
「非プレイヤーへの害意を持った攻撃、ね。最初からする気ないけど、注意しとこ」
うん、と頷いてから、先ほどメモしたストレッチをやってみることにした。