Act.??『**盤*****者*』
「アングレイヴィス卿」
長い回廊の左右に等間隔で連なる巨大な柱。
その柱に施された精緻な獣の装飾に座っていた人影に声をかけられ、規則正しく一定のリズムを刻んでいた足音が止まった。
「主が新しく開かれた世界に、一番最初に接触した感想は?」
年若い女性が溌剌とした声で発した、好奇心に満ちた問いかけに、男性の低い声が落ち着いた口調で答える。
「君が言った通り、あれがこちらからの初接触だ。まだ感想が持てる段階ではないと思うのだが、君はこんな答えでは満足するまいな」
「勿論だとも。よく分かっているじゃないか」
柱の装飾に腰かけたまま朗らかに笑って、続ける。
「卿のことだ、もう目ぼしい駒にはマーキングしてあるのだろう?」
唇の端をくっと曲げて、アングレイヴィス卿と呼ばれた男が言う。
「遊戯盤はまだ開かれたばかり。今の段階でのマーキングに、さほど意味はなかろうよ」
「へぇ。それでも卿がマーキングするような駒はあったわけだな?」
「ふむ……。まぁ、初期ランクが高い上に、特異な性質を持っているようでな。興味を引かれたことは否定しない」
「卿がそこまで言うとは、珍しい。その特異な性質というのは、どんなものなのかな?」
長い回廊に落ちる、数秒の沈黙。
低い声が響く。
「討伐数が、異常だ」
柱の上から苦笑を含んだ声が言う。
「アングレイヴィス卿、私に読心のスキルは無いよ。できればもう少し説明が欲しいのだがね。……それにしても、こんな初期から討伐数が異常、とは。さんざんシステムの抜け穴を利用して初期から膨大な戦功を積み上げて枢機卿にまでなって、「抜け穴を利用されるのはシステム設計が悪いせいだ」と真顔で言ってのけた、どこぞの坊やを思い出すね」
低い声が淡々と言う。
「単独型、というところは同じだが、あの駒に彼のような図抜けた優秀さは無いだろう。ただ、討伐数が異常すぎるのだ。あの駒が選んだメイン武器は、ライフルだというのに」
その言葉に、ふっくらとした艶やかな唇が、弓張り月のように優美な弧を描いた。
「へぇ? メイン武器をライフルにして、異常な討伐数を叩き出す駒とは。ふふ、自殺願望でもあるのかと思いたくなるが、卿がマーカーを付ける程度には優れた精神力の持ち主のようだね。なるほど、興味を惹かれるな」
そう言って、柱の上からふわりと着地。
「ありがとう、アングレイヴィス卿。私の手番が来る時が楽しみになったよ」
話すだけ話して満足したらしい彼女が回廊から去ると、静寂が下りたそこにぽつりと小さな独り言が落ちた。
「……さて、あの駒はどこまでもつか」