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この世界で2度目の人生を

 それから数日経った。

 グウェンが仕事に励む傍ら、テヴァは一日の大半を眠りに費やしていた。

 どうやら、顕術に慣れていない体で段階を踏まずに顕術を発現したため、副作用が強くなっているようだ。

 そのため、ここ数日はテヴァに襲われることはなかった。もっとも、テヴァからは好きに使ってくれてかまわない、とは言われていたが。ということで、体に響かない範囲でグウェンはテヴァを犯していた。疲れのためか、行為の最中にもテヴァが起きることはなく、普段襲われる方が強いグウェンにとって背徳感を感じることとなった。

 また、一日に数回、地下の少女の様子を見に行っている。少女は少しは体が馴染んできたのか、軽く指を動かしたり、目を開けたりすることはできるようになっていた。それでも言葉の回復にはより時間が必要なようで、少女はまだ意味のある言葉を話せていない。


「おはよう、お嬢さん。苦しくはないかい?」

「あう……あ、い……」

「無理に話す必要はないが……ただ、言葉の回復のためにはこういった試みは積極的にした方がいいか。先に必要なことを質問させてもらうからできる限り言葉で答えるように努力してみてほしい。ある程度試して、無理そうなら瞬きで答えてくれ。はいなら瞬き1回、いいえなら2回だ」

「う……あ、え、あ……い……」


 このように、時間がある時には、できる限り回復の手助けをしていた。

 今回はテヴァのときとは違い、不確定要素が大きい。何かあれば二度目の死を迎えてしまうかもしれない。それはグウェンにとっても手痛いものであり、回避しなければならないことだった。

 その甲斐もあってか。

 テヴァの調子が大分良くなり、夜の世話を言い出すくらいになると、少女はついに言葉を回復するほどになった。


「そう、そのままゆっくり、足に体重に預けて」

「……はい」


 ベッドに腰かけた少女がゆっくりと立ち上がろうとする。

 既に裸ではなく、街娘が着るような目立たない服を纏っている。

 その彼女が、立ち上がった。


「私の手をとって、そう、そのまま歩くよ」

「は、い」


 一歩、一歩、歩いていく。

 そうして、壁までおよそ数十歩。無事に歩き終えた少女は涙ながらに座り込んだ。


「わたし、わたし、本当に、また……また、生きることが……」


 悲しみではなく、喜び。

 通常であれば、女性が培養液に浸されている地下でそのような感慨を得られるのかとも思うが、それを気にせずにいられるというのは、少女の口の固さを証明する一因なのかもしれない。ただ、他に気が回っていないだけかもしれないが。


「おお、やっているね」


 そのタイミングでテヴァが降りてくる。


「ふむ、その様子だと、無事に回復に進んでいるようだね」

「ええ。この調子なら、1週間もすれば十分に動けるようになるでしょう。今日から食事も私たちと同じにしてみます」


 グウェンの言葉にテヴァが頷く。

「グウェン様、テヴァ様」と少女が言う。

 見れば、少女が体を震わせながら、土下座していた。


「わたしをまた、この世界で生かしていただき、本当にありがとうごうざいます。もう無理だと思っていた、それでも諦めきれなかったわたしに機会を与えてくださり、本当に……この御恩は、2度目の生涯をかけてお尽くしいたします」


 グウェンは片膝をつき、静かに少女の頭をなでる。


「何度でもいうが、君の2度目の人生は、君が思うより素敵なものにはならないかもしれない。君に自由を与えることはできないし、私のような人間に尽くさなくてはいけなくなる。しかし、君がテヴァさんの声に応え、その身に宿った以上、私は最期まで君の面倒をみよう」


 すると、少女は首を弱弱しく横に振った。


「良いのです。わたしは、あなた様に尽くすことができるなら、それで良いのです。今度こそ、最期まで、わたしに仕事を全うする機会をくださったあなた様に、ご主人様に! わたし、スフィナはこの魂を以てご奉仕いたします」

「……そうか、ありがとう。君は、スフィナというんだな。改めて、私はグウェンという」


 少し離れたベッドに腰かけるテヴァが笑う。


「今更になって自己紹介か。とはいえ、わしも生身同士で名を交わすのはこれが初めてとなるねぇ。テヴァ、と、そうお呼び」


 これが、スフィナが本当にこの世界に再誕したことの瞬間だった。


「テヴァさん、貴女がお気に入り(コレクション)にしたい理由、よくわかりましたよ」

「そうだろう?」


 テヴァが、嬉しそうに笑った。


 ・

 ・


「さて」と、テヴァが話題を変える。


「この子の寝るところはどうするんだい? 上のベッドで三人仲良く眠るのかね?」

「それは――」


 ぱっと、これからは培養液浸る棺の中ではなく、通常の生活に移行すると言ってしまったが、様々な問題を忘れていた。

 グウェンが言葉に詰まると、ようようベッドに腰かけ直すことができたスフィナが言う。


「わたしはどこで眠ろうとかまいません。このベッドでも十分すぎるほどです」


 スフィナがいうベッドは地下に置かれた行為のためのもの。眠ることは想定していないため、必要最低限の機能しか備えていない。加えて、臭いもそれなりにこびりついている。正直、そこを使わせるのは羞恥があった。

 とはいえ、ではスフィナ共々地上のベッドで眠るかといえばそれもしづらい。スペース自体はある。男がひとりに少女がひとり、それに加えて幼女といって差支えない少女がひとりだ。ひっつけば落ちるなんてことはない。

 しかし、それは男にひっつくのに慣れている人間でなければならない。反応から、果たして応じてくれるか。が、反対されてもそのベッドを使わせるのは良心の呵責もある。


「……わたしはご主人様に従います。たとえ、どのようなお言葉でも喜んで」


 それは、どうやら本心であるようだった。

 ……で、あるならば。


「……ひとまず、今日のところは全員上のベッドを使おう。明日にでも、新しいベッドを用意させる」

「優しいじゃあないか。奴隷のような扱いすら喜んで従う少女にベッドを用意させるなんてねぇ」

「貴女のも用意しましょうか?」

「いーや? もうだいぶ力も戻ってきた。そろそろ外にでてもかまわないだろうさ。わしの荷物も待っているからね。それまではお前さんと一緒に寝るさ」

「……そうですか」


 グウェンとテヴァのやりとりをきいていたスフィナ。

「ベッド……一緒に……」とつぶやき、やがて真意に至ったのか「あっ……」と顔を赤らめる。

 それをみた傍らに腰かけるテヴァがスフィナの耳元で囁くように言った。


「安心おし。そんなすぐ食われるってことはないだろうさ。この男は、死体を犯す変態だけど、良識はあるからね」

「きこえてますよ」

「きこえるように言ってるからねぇ」


 かかっ、とテヴァが笑う。


「はぁ……だから、自我のある人間は好きじゃないんです」

「喜んで従うのだから、遠慮などしなければいいのにねぇ」

「それができたら、わざわざ死体を犯すなんて七面倒なこと、するわけがないでしょうと前も言ったでしょうに」


「とにかく」と。


「一度、上に戻りますよ」


 そうして、テヴァは歩いて、グウェンはスフィナを抱えて階段を上り始めた。

 なお、今夜ばかりはテヴァとの行為は拒否した。

「どうせ、いつかはこの娘ともするんだから、ちょうどいいだろうにねぇ」という言葉は黙殺した。

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