旅
がらがらと馬車を走らせる。
やがて街の関所につく。
「お疲れ様です」
「ん? ああ、修復店のとこのか」
仕入れのために何度も街の出入りはしているため、ある程度衛兵とは顔なじみになっている。
「そういえば、俺の娘もお前のところで修復してもらったって言っていたな。結婚指輪がまたつけられるようになったと喜んでいたよ」
「お力になれたようでよかったです」
「それで、離街理由は……ああ、店の仕入れか。いつも通りだな。で、人数は1人だな」
いつも通りの手続きをしようとした衛兵に「ああ、いえ」とグウェンが声を挟む。
「実はあと2人いるんです」
そう言うと、幌の中からテヴァとスフィナが顔をだす。
その容姿に衛兵が驚く。
「これは……お前、どういうことだ?」
明らかに縁もなさそうな少女らの姿が現れたことに疑いの目を向ける衛兵であったが、グウェンは冷静に説明する。
「こちらは少し前から雇うようになった子です。仕入れの手伝いのためについてきてもらっています。で、こちらは知り合いの顕術師です。こんな身なりですが、かなりの腕利きです。今回は彼女の専門が私との利害関係で一致したので同行してもらっているのです」
衛兵が2人に確認を取れば、どちらも肯定を示す。
特にグウェンとの行動に嫌がる様子もないため、無理やりというようでもないことに気づいたのだろう。
いくつか確認をとられたあと、グウェンたちは帳簿に名前を記し、出発した。
その後しばらくしてから、テヴァが幌から顔をだす。
「随分あっさりといったじゃあないか。もう少しいざこざがあると思ったんだけどねぇ」
「それなりにこの街で暮らしていますから。ある程度の信頼は築けているのですよ」
「とはいえ、少しひやひやするところはありましたが」と付け加える。
帳簿に名前をつけたように、街の出入りは管理されている。スフィナはともかく、テヴァは明らかに外から来た者。あの容姿で目立たないはずもなく、何か言われるのではないかという思いもあったが、意外とどうにかなったのはありがたかった。
「ひとまず、ここからは1週間程度の旅程となります。気長に休んでいてください」
「といってもねぇ、1週間も幌の中っていうのも億劫な気になってしまう」
そう言うと、テヴァは器用に御者台に移り、ぺったりとグウェンに身を寄せた。
それにつられてスフィナも顔をだす。
「あ、テヴァ様……」
「お、スフィナ。お前さんもくるかい?」
「えっと、その……でも、場所もありませんし」
御者台はそれほど広くはない。
しかし、テヴァはその体の小ささを活かしてグウェンの膝の上に乗り、「これで場所は空いただろう?」という。
少しためらいをみせたスフィナであったが、すぐによたよたと御者台に移ると、恐る恐るグウェンの腕を抱いた。そして、満足げに息をついた。
「……人にみられたら、たまったものじゃないな」
「いいじゃあないか。これまでまともにもてたこともないんだろう? 役得さ、役得」
グウェンのため息に対し、「かかっ」とテヴァが笑った。
・
・
ぱち、ぱちと火花が弾ける音がする。
ゆらゆらと揺らめく焚火から目を逸らし、スフィナを見れば、薄い敷物の上に簡素な布を被り、すやすやと寝息をたてていた。
どこでも眠ることができる、とかつて言っていたことを思い出す。地面の上で眠るというのは簡単ではない。寝心地の悪さは最悪であるし、かといって馬車で眠るには少し寒い。
彼女は一体どのような生活を送っていたのだろうか。なんて、そんなことも思うときがある。
「隣町に行くのに1週間、仕入れに数日、帰りに霊園によって1,2週間ってとこかね。お前さん、培養液の材料を仕入れるって言ってたね」
地べたに座るグウェンの隣で体を引っ付けているテヴァが言う。
「ええ。通常の培養液なら街でも手に入るのですが、生憎と私が使っているものは隣町で手に入る沼地の動物が必要でしてね。単体ではあまり価値のないものですから、こちらの街までは流通していないんです」
「他には?」
「あとは、遺骨を隠すために色々とそれっぽいものを買ってかさましする予定です」
「そんなのでばれないのかねぇ」とテヴァがこぼせば「コツがあるんです」と返す。
「ま、その時になったら手並みを拝見させてもらおうかね。じゃあ、荷車に空きはあるわけだ」
「なにか買いたいものでも?」
「ああ。折角自室をもらったからね。ものを揃えようと思ったのさ」
それならちょうどいい。
意外とそれっぽいものを買うというのは面倒であるし、あまり意味のないものを買うのも金銭が無駄になる。
「しかし、導魂士はどのようなものを買うのです?」
「それこそ色々さ。導魂士なんてものはそう多い数ではないからね、なんでも自作する必要がある。例えば魂を呼ぶ香炉であったり、魂除けの札であったりね。一般の顕術師が使う道具を改造することもあるから馴染みのあるものも買うと思うよ」
「なるほど……そういえば、いくつか消耗している道具がありましたね」
テヴァの部屋に荷物を運んだ時、黒焦げになったものや錆がひどいもの、熱か何かで曲がってしまったものなどもあった。一体どれだけの年月使い続けていたのか。一見して年端もいかぬ少女が長年生き続けてきた証左でもあった。
「それもある。いい加減新調したくてね。ひとつ前の体の時は遠出をするのも一苦労でね、なかなか機会がなかったのさ」
「となると、ここに来たのはかなりの博打であったのでは?」
「そりゃあね。けどね、今はこうして驚くほど素晴らしい体を手に入れた。結果良ければすべて良し、というやつさ」
そういって、テヴァはグウェンの腕を抱くと、ぎゅっと抱きしめた。
「お前さん様様ってやつだね」
「それはよかった。……で」
グウェンが横目でテヴァをねめつける。
「なぜこんなにも距離が近いので?」
違和感であったのだ。今日はやけにテヴァの距離感が近い。そもそも夜の営みを毎日している点からして距離が近いのは当然であるが、このように一日を通して密着するというのは初めてであった。性欲はあれど、このような交際したての男女のような行動をするとは思っていなかったために意外であった。
「……やってみたかったのさ」
「みたかった?」
「研究ばかりしていたからね。青春なんてものは一瞬で過ぎ去っていったよ。女として誰かの傍にいたいと思う頃にはすっかり売れ残ってしまっていてね。だから、折角これだけ若返ったのなら、今までしたことのなかったことも経験しようと思ったのさ」
グウェンはこじらせて死体を犯すようになった。であるなら、テヴァがこうして若返り続けるのは、テヴァがこじらせた結果なのだろうか。
それを聞こうとして、口を開きかけたグウェンの頬をテヴァがひとさし指でつつく。
「在りし日の郷愁だよ。変に妄想しちゃあ駄目だよ? お前さんの頭の回転が早いって言っても、乙女の心にずかずかと入っていくのは紳士的ではないからねぇ」
「……乙女という歳でもないでしょうに」
「なにをいうかね。わしはこんなにも可愛らしい乙女だろう?」
と、にっこりと笑うテヴァにグウェンは今日何度目になるかもわからないため息をついた。
「わかりました。追及はしないでおきましょう。ただ、旅の間は何もしないでくださいよ?」
恋人ごっこがしたいというならば実害はないだろう。とはいえ、体を洗う場所もないところでの性行為は処理が面倒になる。
だからこその釘差しであったのだが、
「じゃあ、これくらいなら問題ないだろう?」
といって立ち上がると、テヴァがソフトキスをする。
「まぁ……」
それならば、まぁ。
そして、テヴァはまたグウェンにキスをした。
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