催眠(弱)
「ほう、いいじゃあないか。いささか小さいが、当面はこれで問題ないだろう」
テヴァが広がる空間に向けて楽しそうな声をかける。
広さは幅6メール、奥行15メール程度の確かに荷物を詰め込むには心もとなさもある小さな部屋であるが、それでもこの完成には3週間程度の期間がかかった。作業員1人、運搬1人と考えればかなり早い方ではないだろうか。
「スフィナにも礼を言っておいてくださいね」
「勿論さ。当然、お前さんにもね。どんなことをしてほしい?」
夜の営みについて、という前置きが言われなくても聞こえてきた。
「それはまたあとで。それで、荷物の搬入に順番はあるのですか?」
「そうだね。わしのいう順番に入れてくれるかい?」
一度地上に戻ってきたところでテヴァはスフィナに礼と共に飛びついてキスをする。礼代わりのキスにしては突然すぎる。
そしてあたふたとするスフィナをそのままに、テヴァは順番を指示し始めた。
梱包をはがし、運び、やがて運び終えた部屋をみて、テヴァは満足げに頷いた。
部屋の様相は、一言で言うならば話に聞く魔女の部屋であった。
何に使うのかわからない巨大な鍋の中には溢れんばかりの骨董品が詰め込まれている。複雑の文様のカーペットは明らかに高価な素材が使われている。簡素な棚には、様々な道具が並べられており、本棚には聞いたこともないような分厚い本が所狭しに並び、次いで紙束が本棚からはみ出しながら詰め込まれている。
その他、どうにもならないものは部屋の隅に積みあがっている。
正直、部屋というより物置、よくて書斎といったところだろうか。
「部屋というには、肝心のベッドがないようですが」
「いやね、お前さんから離れてみてわかったのだよ。恐らく、ここにベッドをおいても使わないだろう、とね」
つまりは。
「……これからも、私のベッドにもぐりこむと?」
「今は隣にスフィナのベッドもあるだろう? わしはそっちで仲良く眠ろうと思ったんだけどねぇ?」
「…………」
からかうような口調であるが、それが実際には嘘であろうことはわかっている。
グウェンが細目でテヴァを睨むと、テヴァは「かかっ」と笑った。
「勿論冗談さ。お前さんにひっつくに決まっているだろう? けどね、それはお前さんにとって嬉しいことだろう?」
「お戯れを。最近はスフィナも積極的になっているんです。それに貴女まで加わったら、私は近い将来干からびてしまいます」
実際、ここ数日はテヴァがスフィナへの教育という名目で毎晩のように相手をすることになっていた。
「お前さんはなにもしなくていいよ」というテヴァのいうように、スフィナの奉仕技術を上げることが目的のため、グウェンはただ横になるだけで特に気疲れなどもなかったのだが、それでも毎晩最低2回はする必要があり、そろそろ苦痛が近づいている。
「しょうがないだろう? そういう契約なのだから」
「……やはり、テヴァさん。契約という建前で自身の性欲を満たそうとしていますよね?」
「いーや、どうだろうねぇ。けどね、どのみち、お前さんがわしに飽きるまではこの街に縛られるんだから、わしとしては毎日しなくちゃいけないだろう?」
やはり、そう誤魔化してテヴァはにんまりと笑った。
・
・
ようやく落ち着いた。それがグウェンの思いであった。
ここ最近はテヴァの部屋増設のために、あわただしい日々であった。
しかし、ひとまずの完成を迎えたところで久しぶりに穏やかな夜を過ごすことができていた。
「おつかれまでした、ご主人様」
「ああ、スフィナも」
ことりと作業台兼テーブルに珈琲が置かれる。
「テヴァ様はどちらに?」
「完成したばかりの自室にいるよ」
「あとはわしがやる」とすげなくグウェンを追い払い、意気揚々と自分の部屋に引きこもったテヴァ。
「入ってくるなとも言われているから、テヴァさんの分はスフィナが飲むといい」
そう言えば、少し逡巡した様子を見せた後、スフィナは椅子に座る。
これもまた、時間の変化といおうか。これまでのスフィナであればずっと立ったままであるか、無理にでもテヴァに珈琲を届けに行っていただろう。最底辺のような扱いを求めていたスフィナの言動があった当初は心配なところもあったが、よかった。
そう、軽く息をつくと、スフィナが首を傾げた。
「どうなされたのですか?」
「ああ、いや、スフィナがこうして座ってくれていることに安堵していただけさ」
「それは……きっと、ご主人様のおかげです」
「私の?」
「はい。あの日、ご主人様に抱かれて、わたしはまだ自分に価値があると、そして、こうした様々なお仕事の中でことあるごとにご主人様がお礼を言ってくださることで自分の行いには意味があるのだと、そう感じることができたのです。だから、少し自分に自信がもてるようになったのかもしれません」
「……無理して持ち上げなくていいといっただろう」
「ふふっ、本心です」
時間が穏やかに過ぎていく。
長い仕事が終わったからか、余計にこのゆったりとした時間が尊く思えてくる。
が、その時間は長くは続かなかった。
原因は何か?
それは他ならない、「よーし、できたー!」と快哉の声をあげながら脱ひきこもりを果たしたテヴァである。
手には、一目では識別できない素材でできた球体を持っている。
「できたというのは、それですか?」
「ああ、そうさ! わしも物を作るというのは専門外だったけど、手慰みに作ったことくらいはあってね、いや、腕が鈍っていなくてよかったよ」
「それで……テヴァ様、そちらはなんなのですか?」
スフィナが首を傾げながら問うと、テヴァがうなずく。
「うん、早速試してみようか!」
すると、テヴァは一度球体をベッドに放り投げると、空いた両の手でグウェンとスフィナを引っ張る。
行き先は当然というか、ベッド。そこに座らせられた二人を確認した後、テヴァは球体を拾い、そこにロドをこめた。
瞬間、球体に桃色で複雑な文様が浮かぶ。
空気が変わった、とでもいおうか。少なくともグウェンはそのように感じた。
そして、その思考のあと。
「……ッ!」
やけに体が脈打っていることに気づく。呼吸が荒くなっており、吐き気とは違う、何か、感情が湧き上がってくるかのようだった。
グウェンでこれなのだ、か弱いスフィナは大丈夫なのかと、そちらをみやれば――グウェンはたちまち目を逸らした。それはなにも、スフィナもまた、息を荒げ、胸を抑えているからではない。スフィナを見た瞬間、犯したいという気持ちが津波のように押し寄せたためだ。自制ができていなければ無意識のうちに襲っていたのかもしれない。
「ご主人……様……」
ふと、スフィナが至近距離にいることに気づく。それだけで体が反応し、固くなる。
スフィナは顔を赤らめ、潤った目でグウェンを見上げていた。体を捩っており、明らかに発情していることがわかる。
「テヴァ、さん」
元凶にやめさせるようにいおうとそちらに目を向けると、テヴァは既に自分の体を弄り始めていた。
秘部から糸のように液体が滴っている。
「んっ、これは……すごい、ねぇ」
「テヴァさん、これはまさか」
「そうだよ。前に回収した【催眠】の顕術が施された儀式具を応用した物さ。わしたちには、んっ、ちと出力が足らんと思ったからね、色々と弄ってみたら、この通りさ」
そして、今度は、スフィナと共にグウェンを押し倒す。
「干からびるって言ってたからね、これなら、いくらでも出すもの出せるだろう?」
「そんなわけ、私以上に貴女方がそれでは――」
グウェンが最後の言葉を言い終える前にスフィナが口を塞いでしまった。荒い息のまま、うるんだ目で舌を絡ませてくる。どうにか音のように声を出すが、スフィナがキスに夢中になって聞こえていないようだった。
突然、グウェンの秘部にヒダのような刺激が走る。馴染みのある感触であるとともに、これまでにない熱さ。みればテヴァが勝手に始めており、その動きもこれ以上にない速さであった。
(これは……)
これは、死ぬのではないか?
興奮しているのに、どこか醒めた思考がグウェンの片隅に漂い続けていた。
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