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新米先生と半蔵

(半蔵視点です)

 ふっふっふ……。今日は瑞希が生徒会の見学に行っていて帰りは遅くなるようだし、心置きなく二次元世界に没頭できるな。


 今日の作品鑑賞は『妖怪学校の新米教師』に決定だ!!


 主人公の千春が教師を夢見て就職活動をするが、なかなかうまくいかないところから物語は始まる。

 そんな時、住んでいたアパートの大家さんに紹介されて臨時教師として赴任したのはなんと妖怪の子供たちが通う学校だったのだ。

 戸惑いつつも憧れの教師になれるチャンスだと腹をくくって就職を決めた千春だったが、当初は人間に教師が務まるものかと妖怪の生徒たちから様々な嫌がらせが行われる。


 ところがどっこい、千春は超天然で嫌がらせに気付かない。

 それどころか生徒たちからコミュニケーションを図ってきているとポジティブに捉え、ド天然な返しで生徒たちを圧倒してしまう。


 さらには頼まれてもいないのに生徒たちのお悩み相談に乗り出し、これまた奇想天外な解決方法で強引に解決を図ってしまう。生徒たちの思惑とは裏腹だが、結果的に生徒たちの問題は解決し信頼や友好を勝ち取っていくというハートフルコメディなのである。


 この作品は漫画が原作だが、当然アニメ化もされている。

 現在では俺の担任となった千春先生だが、「天然」というキーワードを無視して接するのは危険だ。

 今の学校ではうまくごまかしているようで、クラスの連中などには「かわいくてちょっとセクシーな良い先生」と思われているようだが、俺だけは先生の本性を知っている。

 アイリスたんのポンコツとは一味違う天然っぷりは笑いを誘うし、超ポジティブな言動は時に感動を生む。


 しかしこの作品のもう一つの魅力は時々起こる天然が故のラッキースケベシーンと言っても過言ではない!!

 何しろあどけなさの残るチャーミングな顔立ちではあるが、メリハリのある大人セクシーなボディをも併せ持っているのだ。

 しかも何故か体のラインがしっかり出る細身のスーツを愛用するものだから、下着のラインやらが気になって授業になど集中できるわけがないのだ!!

 さらにアニメでは毎回のようにシャワーや入浴シーンがあるため、DVDをフルコンプしている俺は、ただ授業を受けているだけの連中よりも特大のアドバンテージを持っているのだ!!


 ただし、鑑賞するときはタイミングが重要だ。

 なにしろ瑞希のやつはいつ何時俺の部屋に侵入してくるか分からないからな……。

 玄関は合い鍵を持っているし、今日は部屋にも鍵を掛けておこう。


 傍らにティッシュボックスを用意して再生ボタンを押す。

 ここで早送りなどはしないのが俺の流儀だ。製作スタッフに失礼だと思うし、お色気シーンに至るまでの過程をも楽しむのがこの作品の醍醐味だと思っている。


 登場する妖怪の生徒たちも個性的で、全体的にはコミカルに描かれているのだが、それぞれ夢や希望や悩みやコンプレックスを抱えているのは俺たち人間と変わらない。

 そんな生徒たちに全力で真正面から体当たりでぶつかっていく千春先生はやはり魅力的だ。


 お色気シーンが近づき、ティッシュボックスを手にしたその時だった。


「今日は何を観てるのかと思ったら、新米先生じゃない。うわっ、妖怪だらけだ、キモっ」


 いつの間にか瑞希が隣に立っていた。


「うぉぉおおおおおお!!!! ビックリしたっ!! ちょ、ど、どこから入ってきたのよ!! 部屋の鍵は掛かってたハズですが!?」


 慌ててDVDを停止する。なんとかお色気シーン突入前に止めることができた。

 瑞希は得意のジト目で俺を見ながら窓を指さす。


「ちょ、いくら隣だからってベランダ超えて来るなんてどうかしてるぞ? 落ちたらどうすんだよ!!」


「何よ!! せっかく今日の生徒会見学の話をしに来てあげたのに、部屋の鍵まで掛けるのが悪いんでしょ!! それにベランダの仕切り板を開閉式に改造したのは半蔵でしょ?」


「………………」


 そうでした。

 随分昔の話だが、小学生の頃家の鍵をなくした俺が瑞希の家から自宅に入るために改造したんでした。

 バレて親に怒られたし、それからは鍵も復活して玄関から出入りするようになってたんで忘れてました。

 今度からは窓の鍵もかけてカーテンも閉めておこう。


 よく見ると瑞希は制服のままだった。学校から帰ってそのまま来たのだろうか?


「で、どうだったんだ? 生徒会は」


「うん、すごかった!! 会長は変な人だと思って警戒してたんだけど、図書委員会の問題をババっと解決しちゃったの!! 頭の回転がいいのはもちろんなんだけど、それだけじゃなくって、なんていうかカリスマが凄かった。それにね、双葉ちゃんも……」


「双葉ちゃん? へぇ、下の名前で呼ぶようになったんだ」


「え、ああ……そうしてくれって言われた。それでね、双葉ちゃんもかわいくて性格がいいだけじゃなくって、すっごく仕事もできてカッコよかった!!」


 瑞希にしては珍しく興奮しているようだった。

 よっぽど刺激になったんだろう。

 俺としても生徒会に入るのは瑞希のためになると思っていた。どうやら運動部に入る気はないようだし、まともな組織にいてくれた方がなにかと安心できる。

 

 その後も瑞希は会長や生徒会のおかげで各委員会や部活が活動できていること、それ以外にも自由な校風や生徒による自治が保たれていることを熱っぽく語り、学校運営を支える活動に感銘を受けているようだった。


「へぇ、瑞希がそんなに感動するとはね。いろいろ勉強になりそうだし、しっかり者の瑞希には意外と合ってるかもしれないな」


「うん、勉強にはなると思う。生徒会の人たちも皆優秀で良い人そうだったし。

 ただ……あそこには私は必要じゃないんじゃないかな」


 俺はすっかり瑞希は生徒会に入ることを決めているのかと思ったが、どうやらそういうことでもないらしい。


************************


 所変わって生徒会長室にはソフィア会長と双葉が密談をしていた。

 他の生徒会メンバーは仕事を終えて帰宅しており、部屋には二人しかいない。


「それで……双葉さん、どうだい?三日月さんは我が生徒会に入ってくれそうかな?」


「う~ん、どうでしょうね。会長のスキルには素直に感動していたみたいだし、生徒会の活動にも興味を持ってくれたとは思いますけど……。でも私とは友達になったので、これからもしつこく勧誘を続けてみようと思います♪」


「ふむ……。虹元半蔵にはあっさり断られてしまったからね。なんとしても瑞希さんには我々の仲間に加わって欲しいところだね」


「しっかり者だし、可愛いですもんね♪」


「そうだね……。それに、何と言ってもアオザイを始めとした制服がよく似合う。ああ、彼女ならどんな衣装でも着こなしてしまいそうだ……韓国のチマチョゴリも合いそうだし、インドのサリーもいい……ああ、ドイツのディアンドルを着て一緒にパレードに参加してくれないだろうか……はぁ、はぁ」


「会長、個人的な欲望が駄々洩れですよ……」


 ソフィアはハッとして我に返る。その頬は少し高揚している。


「んんっ、すまない……。まぁ、『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』と言うからね。正直虹元半蔵にどれほどの価値があるのかはよく分からないが、「あのお方」の指示だからね、双葉さんには引き続き期待しているよ」


************************


 ある日の昼休み、友人たちと食堂で昼食を採った後、俺は中庭のベンチでラノベを読んでいた。

 普段は食後もそのままアニメやゲームの話で盛り上がることも多いのだが、今日は他のクラスメイトとグラウンドでサッカーをするということで、俺は遠慮してこうして一人で過ごしていた。


「虹元くんは一緒にサッカーやらないの?」


 顔を上げると担任の千春先生が弁当を持って立っていた。


「え、あぁ、サッカーはちょっと……・」


「そう……。私はこれからお昼なんだけど、隣で食べてていいかな?」


「えっ、も、もちろんです!! ど、そうぞ!!」


 俺は先生の服が汚れないようにベンチを軽く手で払って着席を促す。


「うふふ、ありがとう。意外と紳士なのね」


「い、いえ、先生にはいつもお世話になっているので……でゅふっ!!」


 つい先日DVDを観てムフフとしていた相手がこんなに近くにいるということで、俺は変なテンションになっていた。

 先生が弁当を広げると、お手製だろうか?妖怪のキャラ弁になっていた。


「へぇ、先生弁当自分で作ってるんですか?」


「そうよ~、少しでも節約しなくっちゃね。これはね『河童くん』弁当なの。前の学校の生徒なんだけど、妖怪世界水泳大会でメダルを取るほどの実力者だったのよ~」


「あ~、先生……俺だからいいけど、他の人の前でそういう話しない方がいいですよ? 妖怪の学校に勤務していたとか、普通の人が聞いたら変に思われるから」


「そう? 事実なんだし、別に私はいいと思うけど」


 そう言って先生は美味しそうにお弁当を食べ始める。

 俺はキャラ弁なんて食べたことないから分からないけど、大好きなキャラを食べるのはどんな気分なのだろう? と思って見ていると、先生は遠慮なく河童くんの顔面を真っ二つに箸で切り裂いた。


「ひぇええ~」


「う~ん、河童君の大好物のきゅうりの浅漬け、上手にできたわ、もぐもぐ」


 顔面が半分になった河童くんを見て、俺にはキャラ弁は無理だと思った。

 もしも双葉ちゃんのキャラ弁があったら、見るのは楽しそうだがとても食べられる気がしない……。


「ふぅ~美味しかった~。河童君、ご馳走様でした」


「河童くんも美味しく食べてもらって安らかに成仏したことでしょうね」


「あら、妖怪は私たちよりよっぽど長生きするのよ? 今もどこかで水泳の練習を頑張ってるんじゃないかしら。それより、虹元君は今何か悩みとかないの? 先生何でも聞いてあげちゃうよ?」


「いや、悩みなんてこれっぽっちもありません。先生もそうだけど、双葉ちゃんやソフィア会長、アイリスたんにシルビアたんに囲まれた学園生活に不満などあるはずもありません!!」


 本当は千春先生のとんでもお悩み相談やド天然の問題解決に興味はあったが、自分が当事者として巻き込まれるのは遠慮したいところだ。

 とりあえず悩みがないのも本当だったので俺は逆に先生に質問することにした。


「ところで、先生は漫画のキャラっていう自覚はあるんですか?」


「そうねぇ、そういうことになってるっていうのは分かるんだけど……私としては普通に生きてきて、大学を卒業して、憧れだった教師をやってるというだけだから、生徒が妖怪でも人間でもあんまり変わらないかな?」


「人間になった時の記憶はあるんですか?」


 千春先生は俺の質問にきょとんとした表情で応じる。


「あのねぇ……私は生まれてからずっと人間のつもりよ? もしかしてこの学校に転勤になったことを言ってるの?」


「おお……千春先生にしては奇跡的に察しが良いですね!!」


「むむっ!! 虹元君って私の事バカにしとる? なんか前から私の事知っとるみたいやし……はっ、まさかストーカー!?」


「いや、今そういう天然求めてないんで……」


 俺が改めて転勤になった経緯を聞くと、先生は少し思い出す素振りをした。


「う~ん……随分前の事だし、正直よく覚えてないのよね~。普通に寝てて、目が覚めたら誰かが近くにいたと思うんだけど、人間の学校に転勤になったって言われて……。住むところも用意されてたし、教師の仕事も続けられるみたいだから、まぁいいかって。あっ、もうこんな時間!!午後の授業の準備があるから私もう行くね、またね虹元君」


 そういって千春先生は職員室の方へ行ってしまった。


(ふむ、千春先生はこの世界に顕現したときの記憶が怪しいみたいだ。双葉ちゃんや他の皆も同じなのかな? まぁどっちでもいいか!! それにしても千春先生可愛かったな~、でゅふっ!!)


 俺にとって二次元作品の世界はテレビやパソコンの中の世界、二次元キャラは普通の人にとっての芸能人とか憧れの存在みたいなもので、千春先生とのひと時は大好きな推しタレントと過ごしたことに等しい。


 でゅふでゅふした気分で俺が校舎に入ったところ、廊下に人影があることに気付いた。


「やあ、ニジモトハンゾウくん」


「あっ、アダム先生……どうしたんですか?」


 声をかけてきたのはこの学校の英語教師を務めているアダム先生だった。

 金髪ロン毛でグリーンの瞳、身長も高くスタイルもいい。

 分かりやすいイケメンで独身ということで、女子生徒から絶大な人気を誇るため、男子からはあまり好かれていない。


 俺は好きでも嫌いでもなかったが、高身長で圧迫感があるのが少し苦手だった。

 俺の名前を知っていることに驚いたが、瑞希の話では俺は既に学校で悪目立ちしているらしく、教師なら知っていてもおかしくはないのかもしれない。


「ニイマイ先生とはナニを話していたんデスか?」


「え、う~ん、大した話はしなかったけど……手作りのキャラ弁の話とか?」


「ふむ……ならばいいのデス。デスが、あの女にはなるべく近づかない方がイイ……。これは忠告デスよ……」


 アダム先生はそう言い残し、スタスタと職員室へ向かってしまった。


「な、何だったんだ???」


 千春先生は原作通りの天然キャラで、悪い人間ではない。

 それは俺がよく知っているが、天然故に周囲をトラブルに巻き込んでしまうこともしばしばあった。

 現に俺も巻き込まれるのを警戒していたし、アダム先生ももしかして同じ教師としてトラブルに巻き込まれたことがあるのかもしれない。


 それにしてもアダム先生はハリウッドスターみたいだな。

 俺の知る限り二次元の作品には出てこないから、もともと三次元の人なんだろうけど……。どこかで会ったことがあるような、そんな雰囲気を持っていた。

 

もしかしたら本当に元ハリウッドスターとかで、何かの映画で観たことがあるのかもしれない。そんなことを考えながら、俺は自分の教室へと向かうのだった。


挿絵(By みてみん)

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