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双葉と呼んで(瑞希視点)

(瑞希視点です)

「さて、と♪ 生徒会の見学って言ってもいろいろあるからね。瑞希ちゃん何か見て見たいものとかある?」


「うーん、実は生徒会の組織ってどうなってるのか、正直あんまり知らないんだよね」


「ああ、まあ普通はそんな感じだよね。じゃあ簡単に説明するね♪」


 二ノ宮さんの説明によれば、今自分たちがいるのは生徒会「執行部」と位置付けられる組織で、会長、副会長二名、会計、書記、庶務といった役員で構成される。

 学校行事の企画運営や生徒会費の予算編成、出入金管理、決算や広報、各部活動や委員会から提出された報告書や議案の確認、生徒総会の開催などなど、多岐に渡っていて全部は説明しきれないとのことだった。


 そして先ほどの図書委員会の他に、生活委員会、美化委員会、保健委員会などの委員会が会長直属として組織され、アイリスさんやシルビアさんの所属する風紀委員会もこの中に入るようだった。

 さらには体育祭実行委員会や文化祭実行委員会などもあるとのことだったが、こちらは時期が来れば組織される臨時の委員会ということで、今は活動していないとのことだ。


「へぇー、そうなってたんだ……。二ノ宮さん詳しいんだね」


「そりゃあゲームの中では生徒会長もやってたからね♪ でもソフィア会長は本当に凄い人だよ、頭の回転も速いんだけど、あの判断力、決断力はちょっと真似できないなぁ。だから私もいろいろ勉強させてもらっているところなんだ♪」


「二ノ宮さんでもそうなんだ……」


 確かに先ほどのソフィア会長の問題解決能力を目の当たりにすると納得できる気がする。完璧超人に見える二ノ宮さんだったが、性格や人当たりの良さから決断実行力ではソフィア会長に軍配が上がるのかもしれなかった。


「それで、しっかり者の瑞希ちゃんには執行部にスカウト……あ、スカウトって言っちゃった♪ 執行部の活動を見てもらいたいんだけど、どうかな?」


 おそらく二ノ宮さんは自身が所属する執行部に私を入れたいというのが本音なのだろう。それをわざと失言のようにお茶目にカミングアウトするところがかわいらしく、こういうところが人気の秘訣でもあり、私にとっても憎めない理由なのだろう。


「ふふっ、いいよ。みんな忙しそうだし、見てるだけってのも気が引けるから二ノ宮さんの仕事を手伝うよ」


「ホント!? 嬉しい!! 実はニャンコの手も借りたいくらい会計係は今忙しくて、そのお手伝いをしてくれると助かるんだ♪」


「全然いいよ。その方が具体的にどんなことをやっているか分かるしね」


「ありがとー助かるよー♪」


 二ノ宮さんは涙を流しながら私の手を取り感謝する。どうやら本当に忙しいようだ。


 ノートパソコンのある作業デスクに案内されると、二ノ宮さんは「未処理」と書かれたカゴから大量の書類を持ってきて私の隣に座った。


「ええと、まずはやっていることの背景だけど、新年度が始まると各部活や委員会は配当された予算を使いたがるのね。で、各団体は予算を使う申請を生徒会にしてくるので、それを会計係でチェックしています♪」


 PCのファイルを開くと、部活や委員会の名前や数値が入力された画面が立ち上がる。


「こんな感じで申請書類と添付文書が紙で提出されてくるんだけど、申請書に記載されている内容が適切かチェックして、それを入力していく作業をしてほしいの♪」


 私は申請書を一つ手に取ってみる。申請団体名、予算を使いたい内容と金額などが記載されており、添付文書として見積書やカタログのコピーなどが添えられている。

 PCの画面と見比べ、どこにどんな数値を打ち込めばいいのか確認する。


「ふむふむ、ここに記載されている数値を入力していけば、これまでに何を買ったとか、残りの予算が分かるってことね」


「さすが瑞希ちゃん、話が早い♪」


 私と二ノ宮さんは横並びに座り、未処理の申請書類を分担すると目の前のPCに文字と数字を入力していく。

 スマホの操作には慣れているけど、パソコンはほとんど使ったことがないため、キーボードの操作がかなりぎこちない。一方、二ノ宮さんはカタカタと小気味いいリズムを刻みながら書類を片付けていく。

 そして、いつの間にか眼鏡を掛けていた。


「あれ? 二ノ宮さんって目が悪かったの?」


「ん? ああ、これ? これはブルーライトカットのパソコン作業用の眼鏡で、度は入ってないの。これをつけると目が疲れにくいよ♪」


「そうなんだ。キーボードの使い方も慣れているみたいだし、結構パソコンを使う作業をしてるんだ?」


「そうだね。何かとパソコンを触る機会は多いかもしれないな♪」


 えへへ、と微笑み作業へ戻っていく。

 ブラインドタッチで次々と書類を処理していく二ノ宮さんは仕事のできるキャリアウーマンのようで、同級生とはとても思えないほどカッコよかった。


 よし、私もできる限りのことはやろう!!

 それにしても色んなものを買っているんだな。私が中学のときに使っていたテニスボールなんかもこんな風に買っていたのかな。


 ぎこちない手つきながら私も次々と入力作業を進める。ほとんどはシャトルコックなどの部活で使う消耗品で、不審な点は見られなかった。

 ん? なにこれ、畳???……二畳分って何に使うんだろう?


「ね、ねえねえ二ノ宮さん。この畳って何か分かる? 柔道部でもあるまいし、なんでこんなの買うんだろう?」


「どれどれ? ああ、かるた部だね。最近出来たらしいんだけど、急にメンバーも増えてきたしそれで追加するんだろうね」


「かるたで畳? 絨毯とかじゃダメなんだ?」


 私はお正月とかに親戚なんかが集まって行うかるたを思い浮かべる。そもそもあれが部活になるの?

 頭の上にはてなマークを浮かべている私を見て、二ノ宮さんが解説してくれる。


「瑞希ちゃんは小倉百人一首とかって知らない? それを使った競技かるたのマンガが人気で、競技人口が増えているみたいだよ♪」


「へぇ、知らなかった。勉強になります」


 疑問が解消した私は申請書の内容をPCに入力する。


 時々二ノ宮さんに確認しながら二時間ほど作業を行い、私に分担された書類が無くなった。二ノ宮さんは私の五


「今日は見学だけって話だったのに、手伝わせちゃってごめんね!! 今日はもう十分だから、帰っても大丈夫だよ♪ 私は今日中にやらなきゃいけないことができちゃったからもう少し残るけど」


 他の生徒会の人たちは黙々と作業を行っていたり、打ち合わせをしていたりで忙しそうだったが、私は慣れない作業で疲れていたし、生徒会の雰囲気も見学できたため、二ノ宮さんの言葉に甘えて帰ることにした。

 そこに、打ち合わせが終わったのかソフィア会長が数人の生徒と一緒に会長室から出てきた。生徒たちはしきりにソフィア会長に頭を下げ「会長、ありがとうございました!!」と何度もお礼を言って生徒会室を出て行った。どうやらまた一つ問題を解決したようだ。


 ソフィア会長が見送りを終え振り返ると、私と目が合った。


「今日の作業は終わったみたいだね、お疲れさま。執行部の面々もとても助かったと思うし、代表してお礼をさせてもらうよ」


「そ、そんな、私も勉強になりましたし、こちらこそありがとうございました」


 ソフィア会長は軽く頭を下げて私に感謝の言葉をくれたのだが、私はたいして役に立ったとは思えなかったので、恐縮してしまう。


「もしよければまたおいで。生徒会としては大歓迎だから」


「ありがとうございます。えっと、その……考えてみます」


「おや、意外に釣れないね。」


 はははと笑いながら私の肩をポンポンと叩き、生徒会長室に戻っていった。


「瑞希ちゃん今日はありがとうね♪ また明日教室で」


「うん。二ノ宮さんも大変だろうけど頑張ってね!!」


「瑞希ちゃん。二ノ宮さんじゃなくて双葉って呼んで♪ もう、いつになっても名前で呼んでくれないんだから」


 双葉はほっぺを膨らまして抗議する。エサをため込むリスのようで可愛い。


「ん、ああ、そ、そうだね……ふ、双葉ちゃん」


「よろしい♪ ふふふ、じゃあ気を付けて帰ってね」


「うん、またね」


 満面の笑みで手を振る双葉ちゃんに対して、私ははにかんで小さく手を振る。


 実はそれまで『双葉』と名前で呼ぶことには少しためらいがあった。

 普通の女友達は仲良くなったら自然と名前で呼べるのだが、双葉ちゃんの場合は元々ゲームの登場人物ということもあり、名前で呼ぶのは半蔵の様なヲタク的な呼称みたいで何となく”いやらしさ”を感じていたし、彼女のことを警戒していたからでもあった。


 でも、双葉ちゃんは接すれば接するほど優秀で気さくで親切で可愛くて、警戒する要素はないように感じ始めていたし、いざ呼んでみると、普通の女友達の様に違和感なく呼ぶことが出来た。


 私は生徒会の人たちにも頭を下げて生徒会室を後にした。

 階段を降りると文化系の部活動や委員会活動に精を出す生徒たちを何人も見かけた。『哲学の館』を出ると、運動系の部活動に勤しむ生徒たちの声があちこちから聞こえてくる。


 入学前からこの学校の部活動は盛んであると聞いていたが、実際に学校に入ってみると盛況さがよくわかる。これも生徒会が各活動を熟知し全体の調整を行っているのも一役買っているのだろう。


 ソフィア会長の登校シーンを見たときは、こんな人が率いる生徒会はほんとに大丈夫かと心配になったが、実際の仕事ぶりを見ると圧倒的なリーダーシップをもって学校自治を運営していることがよくわかり、感動してしまった。


 そんな会長の下、双葉ちゃんを始めとする執行部の面々も熱心に仕事に励み、より良い学校になるよう努力している。

 会長はちょっと変な人だけど、意外に面白いのかな。というのが今日見学した私の感想だった。


 生徒会に入ると他の委員会には参加できなくなるだろうから、もう少し他の委員会とかの話も聞いて、それから生徒会に入るかどうかを考えようかな。


 充実感に満たされながら私は帰路へ着いたのだった。



****************************



 そんな瑞希を新校舎の風紀委員会室からアイリスとシルビアが見つめていた。


 アイリスは窓辺に佇み紅茶のカップとソーサーを手に瑞希の後ろ姿を眺めている。


「二ノ宮双葉が既に生徒会の手に落ち、三日月瑞希にも接触しているようですね」


 シルビアが静かに部下からの報告をアイリスに伝える。


「そう。ついに本格的に動くようね」


 アイリスはティーカップに軽く口を付けてから答える。熱い。


「熱っつ!!舌が火傷ひゅるじゃらい!!ふーふーしてから出してちょうらい!!」


「失礼しました。紅茶は熱いに限りますゆえ」


 シルビアは笑いをこらえて謝るが、アイリスには泣いて反省しているように見えたらしい。


「ま、まぁ分かればよろしい。二ノ宮双葉が執行部に入ったのは確定なのかしら?」


「そのようです。なかなか手強い相手になりそうです」


 二ノ宮双葉はその完璧なヒロインたる容姿だけでなく、入学式での答辞や入試トップの成績など、優秀さにおいても校内で評判となっており、執行部と対立する風紀委員会としては厄介な状況となっていた。


 アイリスも勉強はできるのだが、答案用紙に名前を書き忘れたり、解答欄が一行ズレていたりと、成績としてはあまり結果が出せていなかった。


「ふーむ、それはそうと、あの三日月瑞希って子、なかなかいいと思わない?」


「そうですね。容姿も学業成績も良いですし、なにより虹元半蔵に親しい存在です」


「それに、なかなかの現実主義者と聞くわ。我が風紀委員会にこそふさわしいんじゃないかしら?でも、既に生徒会が接触しているようだし、どう勧誘したらいいかしら?」


「それならばおまかせを。良い案がありますので」


「じゃあ任せるわ。頼りにしているわよ、シルビー」


 そう言うとアイリスは窓から離れてカップをシルビアに渡して部屋を後にした。


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