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生徒会見学(瑞希視点)

(瑞希視点です)

 ──放課後


「瑞希ちゃん。準備できたら生徒会に行きましょ♪」


「あ、うん。ちょっと待って」


 右隣に座る二ノ宮さんが声を掛けてくれて、一緒に生徒会室のある旧校舎へ向かう。

 半蔵は後ろを向いて、羨ましそうにいいなぁいいなぁと言っていたが、自分で断った手前駄々をこねることはなく、新しくできた友達と一緒に帰っていった。


 生徒会室のある旧校舎は思ったよりも小さかったが、元々は理事長室や職員室などに使われていたということもあり、かなりしっかりと造られた建築物のようで、正面玄関前には意匠性の高い重厚な扉が備え付けてある。


 扉を開けて建物の中に入ると、正面には階段があり、二階が生徒会や委員会が使用するフロアで、一階が文化系の部室となっている。

 二ノ宮さんに続いてコツコツと板張りの階段を上ると、右側の扉の上には『生徒会執行部』と書かれた木製の札が掲げてあった。


「じゃあ、入るね♪」


「う、うん」


 緊張が伝わったのか、二ノ宮さんは私に笑顔で声を掛けてから生徒会室の扉を開けた。


 中に入ると、建物の規模にしてはかなり大きな部屋が広がっていた。

 正面には受付用のカウンターが設置されており、その奥には生徒会役員用にPCの乗った作業机と簡単な打ち合わせ用のテーブルが二組置かれており、小さめのオフィスといった雰囲気を作っていた。


 生徒会長室はさらにその奥に位置しており、部屋の扉は開いていた。

 役員と思われる生徒は現在居るだけで七、八人といったところで、皆忙しそうに作業を行っている。


「あ、二ノ宮さん。早速お友達を連れてきてくれたのね」


 私たちが生徒会室に入ると、役員の一人が気付いて声を掛けてくれた。

 メガネをかけた女性で、どうやら二年生の先輩のようだ。


「お疲れ様です。今日は見学だけど、これから口説く予定です♪」


 二ノ宮さんは私の方を見てウィンクしてきた。


「こ、こんにちは。三日月瑞希です。今日はよろしくお願いします」


「よろしく~。そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ、気楽に気軽に。私は生徒会で会計を担当している三森です、よろしくね」


 三森さんは右手をひらひらさせながら、人懐っこい笑顔で応じてくれた。


「三森さん、ソフィア会長って今大丈夫ですか?」


「ん〜、今は図書委員長と今年度の活動計画を打ち合わせ中だけど、端っこで見る位ならいいんじゃないかな」


「やった♪ 生徒会長の仕事ぶりが見れるよ、瑞希ちゃん」


 笑顔で案内してくれる三森さんの後に続き、生徒会長室の扉をくぐった。

 生徒会長室は十畳ほどの広さで、中には八人がけの応接セットが置かれ、窓際には生徒会長用の立派なデスクが置かれている。


 ソフィア会長は図書委員と思われる三人を相手に向かい合う形で応接用のソファーに座って話をしていたが、私たちに気付くと軽く微笑んでウィンクしてきた。

 なんだろう、生徒会ではウィンクが流行っているのかな?


 ソフィア会長の手には図書委員会から提出されたと思われるレポートが握られていた。


「んん、図書館の運営を行うための図書委員の活動には偏りがあるようだね」


「そうなんです会長。図書委員の中にも何らかの部活を兼務したり、塾などに通っている生徒もいるため、どうしても一部の生徒に負担をかけざるを得ない状況が続いているんです。今後も図書館の運営を持続していくためには、水曜日を休館にして負担を減らすしかないんです」


 どうやら図書館を運営するための人員が不足しているらしく、図書委員会としては閉館日を設けたい、という相談を持ち掛けているようだった。

 生徒会も人手が足りないみたいだし、どこも人手不足なんだなぁ。

 私はあまり図書館を利用しないけど、半蔵はよく行ってるみたいだし、休館になったら残念がるかもしれない。


「ふむ。図書委員会の意見は分かった。でも、そうなると図書館の稼働率が下がるね。受験を控える生徒に影響が出るだろうし、進学率の低下は学校にとってマイナスだ。そもそも受付は二名必要なのかな?」


「貸出返却の手続きだけでなく、本を棚に戻す作業などで受付を離れる場合もありますので、やはり二名居ないと難しいのです。なにせ管理をすべて紙で行っているため、手続きに時間がかかるんです」


「なるほど、それならばその手続きをシステム化しましょう」


「え、でもそんな予算はどこにも……」


 図書委員長と思われる人物は、そんなことが可能とは思ってもみなかったようで、目を丸くして驚いていた。

 確かにシステム化なんてお金がかかりそうだし、委員会の予算では難しそうだ。


「うん、要は受付を無人化できれば図書委員は一人で対応できるだろう?図書の管理システムをうちの電子技研(電子技術研究部)に内部発注して、成果を出せば電子技研の手柄として学校に報告すればいい。彼らも喜んで手伝ってくれるだろう」


「そ、そんなことができるんですか!?」


「もちろん。学校としてもメリットがあるし、部品などの購入費用は私が学校側と交渉して、電子技研には無償で提供すると言えば、きっと二つ返事でOKしてくれるはずだよ。私から電子技研に打診しておこう」


「あ、ありがとうございます!! 図書の貸し出しがシステム化されたら、図書委員一名と司書の先生だけで毎日運営できます!!」


「ふふ、システム化が実現できればみんなが幸せになれるね。ただ、何よりも図書館の本を日本十進分類表に基づいてデーターベース化するなど、適切な管理を行っているあなた達の普段の活動成果があってこそ、図書管理のシステム化がスムーズに進むと判断したまでだよ」


「そんな! 私達は普通の業務をこなしているに過ぎません!!」


「そういった日ごろからの地道な活動が最も大切なのだよ。残念ながら多くの人は派手なイベントに目が行きがちだけどね」


 ソフィア会長と図書委員会の打ち合わせは非常に充実したものとなり、図書委員会の面々は会長に感謝しつつ生徒会長室を後にしたのだった。


 私は素直に感動していた。

 なんというリーダーシップだろうか。素晴らしいアイデアだった。


 図書委員会が抱える問題を他の部活の活動を利用して、しかも費用をかけずに見事に解決してしまった。しかも相談を受けたその場で瞬く間に判断し、図書委員会への普段の活動まで把握して労うとは。おそらく電子技研や学校側の反応も想定済みなのだろう。

 こんな凄い人が私と一学年しか違わないなんて信じられない。


 ソフィア会長の手腕に舌を巻いていると二ノ宮さんが後ろから声を掛けてきた。


「凄いでしょ、会長。私も初めて見たときはビックリしたんだ♪」


 ニコニコしながら私に話しかける二ノ宮さんは誇らしげな様子だった。


「会長お疲れ様です。二ノ宮さんと三日月さんがいらっしゃっていますよ」


 三森さんが会長に声を掛けてくれると、ソフィア会長はソファから立ち上がって私に握手を求めてきた。


「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」


 私が握手に応じると、会長はグイと私に顔を近づけてきた。空いている手で私の制服のリボンに触れてくると、見定めるかのようにジロジロと観察してくる。

 ち、近い……。


「三日月瑞希さん、だったわね。あなた……アオザイを着てみない?」


「え? な、ど、どういう!?」


 眼前にとても美しい顔が迫り、とても良い匂いがする。な、なにをしてるんだこの人は!?


「アオザイを知らない? ベトナムの衣装なのだけれども。君にとても似合うと思うのだが」


「ア、アオザイくらいは知っていますけど、何故今? 初対面のこのタイミングで!?」


 私が目を白黒させていると、三森さんが近づいてくるのが目に入った。助け舟を出してくれるのかと期待したのだが……。


「み、三日月さん凄い!! 凄いことですよ、これは!! 会長が制服を着させようとするということは、相手を認め、仲間として信頼を示すということです!!! 私の場合は三か月かかりましたし、生徒会のメンバーでもまだ言われていない子もいるくらいです!! 三日月さんはその最短記録更新ですっ!! ああっ、羨ましい!!!」


「は、はぁ……」


 三森さんは興奮した様子で凄い凄いと連呼しながら身をクネクネしている。なんだか半蔵を見ているようだ。

 私は特に会長に認められるような生徒会への貢献もしていないし、入会するかどうかも決めていないので、反応に困ってしまった。


 そこまでニコニコしながら様子を静観していた二ノ宮さんがようやく口を開いて助けてくれた。


「ソフィア会長、いきなりそんなことを言われては瑞希ちゃんも困ってしまいますよ♪ それに今日は見学に来たのですから、勧誘は後にしてくださいね♪」


「ああ、そうだったね。すまない、あまりにも似合いそうだったので、ついね。改めて三日月さん、私は生徒会長の二階堂ソフィアです。生徒会執行部へようこそ」


 ソフィア会長はようやく私から離れると、にこやかに挨拶をする。


「い、いえ……私は一年三組の三日月瑞希です。今日は二ノ宮さんに誘われて生徒会の見学にお邪魔してます。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしく。双葉さんは素敵なお友達を連れてきてくれたようだね」


「そうなんです。私の自慢のお友達なんですよ♪」


 二ノ宮さんは「えっへん」と、大きな胸を更に大きく張って会長に答える。

 まだそこまで仲良くなった実感がなかった私は、この距離感の近さや感覚は二次元の人の特徴なのかな?などと思いながらも、こんな超絶美少女に自慢の友達なんて紹介をされたら悪い気がしないのも事実だった。


「それはよかった。今日はゆっくり見学していくといい。生徒会は様々な活動をしているから、見ていくだけでもいいし、何か実際に作業を手伝ってみるのもいい。私はこの後も打ち合わせが入っているから、直接案内できないのが残念だ」


「わかりました。お気遣いありがとうございます」


 一時はどうなるかと心配になったが、最後はソフィア会長の度量を感じることができて安心した。

 私たちは会長に一礼し、生徒会長室を後にすると事務室に戻った。


挿絵(By みてみん)

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