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三日月瑞希の憂鬱(瑞希視点)

(瑞希視点です)

 ──入学式から数日経ったある日。


 学校の敷地内にある旧校舎の生徒会室に二階堂ソフィアと二ノ宮双葉の姿があった。


 旧校舎と言っても、それほど古い建物ではなく、二階建ての洋風建築で規模は小さい。

 元々は理事長室、職員室、学校の備品倉庫として建てられた施設で、昨年新校舎が建てられるまで利用されていたが、現在は生徒会執行部、文化系の部室、各委員会事務室、生徒用の会議室が入っており、生徒の生徒による生徒のための自治施設として管理運営されている。

 また、生徒会長のソフィアにちなんで『哲学の館』と生徒たちからは呼ばれていた。


「急な呼び出しで申し訳ない。来てくれてありがとう二ノ宮双葉くん」


「いえ、ご用件はなんでしょうか? ソフィア会長」


「入学式での新入生代表としての答辞は素晴らしかったよ。流石入試トップだっただけのことはある。そんな君を見込んで、生徒会執行部への入部をお願いしたくてね」


「ありがとうございます。実は私、もともとゲームの中で生徒会長をやっていたので、お誘いがなくても入ろうと思っていたんです♪」


「そうか、それは余計なことをしてしまったね。実は君さえよかったら私の補佐を頼もうと思っていたんだ。将来の生徒会長候補としてね」


「会長の補佐……って、副会長がやるんじゃないんですか?」


「ああ、副会長には生徒会選挙で選ばれる必要があるし、彼らにはある程度の裁量を与えて別の仕事をしてもらっているんだ。君にお願いしたいのは私のサポート役といったところかな。ちょうどポンコツ風紀委員長におけるシルビア君のような」


「メイド……とかじゃなくて秘書的な感じですかね?」


 シルビアと聞いて真っ先にメイド服姿を想像し苦笑いを浮かべる双葉だったが、おそらくソフィアがイメージしているのは服装ではなくポジションのことだろう。


「ふふふ、もちろん、正当な制服たるメイド服で仕事してもらっても構わないし、むしろそうしてくれたら誰もが喜ぶだろうが……。服装は規則の範囲内であれば自由にして構わないし、秘書って程私に付き従う必要もない。ただ私が助けを必要とするときに手伝ってもらえたらそれでいい。後継者候補は他にも何人かいるのでね」


「わかりました。少し考えさせていただけますか?」


「ああ、構わないよ。慎重なところも私好みだ」


*********


(瑞希視点)


 入学して二週間ほど経過し、校内の雰囲気も落ち着きを見せ始めていた。


 満開だった桜もすっかり新緑に替わり、温かく穏やかな日々が流れている。


 入学当初は二次元のキャラクターが教室にいることに驚いていた生徒も、実害がないからなのか今では気にする者もいない様だった。

 うちのクラスで言えば担任教師は時々熱血スイッチが入って博多弁になったり、例え話が妖怪モチーフだったりと少し変わった所がある他は生徒思いの良い先生に見える。


 後は何と言っても超絶美少女の二ノ宮双葉さんがいるのだが、ほとんどの生徒は遠巻きに眺めているだけで、話しかける勇気のある男子はあまりいない様だ。

 まさに『高嶺の花』といったオーラを身にまとっており、かと思うと女子には気さくに話しかけ、表情豊かでお茶目な顔も愛らしく、女子からも憧れの眼差しが向けられている。


「あれがスーパーウルトラアルティメットヒロインたる由縁なのね、はぁ」


「なんか毎回形容詞が違うんだけど、瑞希大丈夫? なにかあった?」


 まさに完璧なクラスメイトを目の当たりにして、一瞬でも並び称される美少女とか舞い上がってしまった自分が恥ずかしい。


「あ~二ノ宮双葉さんね~、ウチのクラスでも話題になってるよ。上級生も休み時間のたびにわざわざ見に来るって聞いたよ~」


 私とののかはこの時昼休みで、一緒に食堂で昼食を食べていた。

 この学校の食堂はとても大規模でおしゃれで、メニューも豊富でどれも美味しいと評判だった。


 食堂と言うよりもカフェラウンジと言ったほうが適切かもしれない。

 広い店内の二面は全面ガラス張りで開放感があり、芝生や木々が生えた中庭が一望できる。

 注文はいわゆるセルフサービスというやつで、入り口にある自動販売機で食券を購入する。

 入ってすぐ右側のカウンターで食事を注文し、空いているテーブルを見つけて座ることになるのだが、テーブルも4人掛けや二人掛け、一人向けのカウンターテーブルなどが多く用意されているため、お昼時の混雑する時間でも難なく座ることができる。


 ののかと二人掛けのテーブルに向かい合う形で座っていたのだが、少し離れたところで4人掛けのテーブルで半蔵がクラスメイトと談笑している。


「半蔵って元々はサッカーやってたからコミュ力意外と高いのよね。もう新しい友達が出来たみたいだし」


「彷徨くんは既に女子にモテモテみたいだよ~」


 ののかが指さす方向を見ると、彷徨君は女の子三人に囲まれるように壁際のテーブルで食事をしていた。朝より取り巻きが一人増えている。


 少し前に活動紹介も兼ねた部活説明会があり、彷徨くんはサッカー部へ入部したようだ。半蔵がサッカーを辞めて以来、あまり熱心に取り組んではいないようだが、他にやることもないからと言って早々に入部を決めていた。


 ののかは中学時代は私と一緒にテニス部に所属していたのだが、高校ではバドミントン部への入部を決め、今は体験入部として放課後は体育館へ通っていた。

 半蔵はアニメ研究部や漫画同好会などの見学に行ったらしいが、「俺は二次元全般を愛しているので、どれか一つに絞れない!」と言っていた。

 私はというと、ののかにはバド部に一緒にと誘われたものの、運動系の部活は朝練とかあるし、かといって文化系の部活もピンとくるものがなかったため、決められないでいた。


 食事も半分くらい進んだところで、不意に声を掛けられた。


「あ、瑞希ちゃん、隣の席いい?」


 顔を上げると、そこには超絶美少女の二ノ宮双葉さんが微笑みながら立っていた。


「あれっ、二ノ宮さん今からお昼? 遅かったね」


「お~、これが噂の二ノ宮さんね、どうぞどうぞ。私は二組の三城です、よろしく~」


「あっ、ごめんなさい!! 瑞希ちゃんのお友達? お邪魔じゃなかったかしら?」


「もちろんもちろん! あ、隣の席をくっつけるね」


 私は横にあった二人掛けのテーブルと椅子を動かしてくっつけた。二ノ宮さんは私の隣の席に座ると、購入したパニーニが乗ったトレイをテーブルに置いた。


「実は生徒会室に行ってたらこんな時間になっちゃって、みんなと食べるタイミングを逃しちゃったんだよね」


「へぇー、生徒会かぁ。そういう選択肢もあるんだ」


 部活説明会でも確かに説明がされていた。この学校では部活動は強制ではなく、無所属も当然認められている。生徒会活動も部活動に準じた扱いがされており、兼務している人もいると言っていた。


「いただきまーす♪」


 二ノ宮さんは両手を合わせてからパニーニを一口齧った。

 なんだろう、このリスなどの小動物がエサを頬張るような愛らしさは。動画投稿サイトに投稿したら一億ビューは余裕で稼ぎそうだ。


「双葉ちゃんはパニーニが好きなんだよねっ!!」


 突然半蔵がやってきてののかの隣に腰掛けながら二ノ宮さんに話しかけた。


「うん。美味しいし、手軽に素早く済ませたいときとかは注文率高いかな。今日はお昼休み短くなっちゃったし」


「美味しいよね。パニーニ。言葉にしても楽しいしね。パニーニ! パニーニ!」


「ふふ、なにそれ♪」


 二ノ宮さんは微笑みながら半蔵に答える。


「双葉ちゃんは覚えているか分からないけど、パニーニは俺とゲームの中で初めてデートをしたときにランチで食べた思い出の品なんだ。あの時のデートはテンパって失敗続きだったから俺の中では黒歴史なんだけど、あのランチだけは最高の思い出だよ。そしてそれが現実に起きているなんて。嗚呼今日もなんて素晴らしいんだ!!でゅふふふ!!!」


 半蔵がでゅふでゅふしだしたので私は構わす話題を変えた。


「そういえば、生徒会って言ってたけど、どんなことをしてるの?」


「うーん、まだ始めたばかりだから分からないことだらけなんだけど、各委員会の予算とか活動内容の報告をまとめたりとか、色々と調整したりで気付いたら遅くなっちゃって」


「さすがは才色兼備のパーフェクトヒロインだけはあるね。なにせ入試トップだったし!」


「いえいえ、ただ勉強しているだけですよ。そういえば、瑞希ちゃんは部活とかまだ決めてなかったよね♪ 生徒会活動に興味ない?」


「えっ、うーん。確かに部活は決めてないけど……」


「実はソフィア会長に頼まれてお手伝いを始めたんだけど、一人じゃ不安もあって一緒に入ってくれるお友達がいたら嬉しいんだけど……」


「う、うーーーーーん……」


 私は返答に困ってしまった。

 朝練のある運動系の部活に入る気がないのは、もともと運動部でたいした成績が残せなかったのもあるが、半蔵への配慮というか、半蔵の両親に面倒を見ると約束したこともあって、身動きの取りやすい立場にいたかったからでもある。


 しかし生徒会ならば朝練はないし、繁忙期を除けば放課後の活動も多くはないと説明会で言っていたし、内申点や将来の就職に役立つとも言っていて、正直に言って興味をそそられるものはあった。


「じゃあ近いうちに、見学だけでもしてみない?」


 私がなかなか前向きな返事をできないでいると、二ノ宮さんは放課後時間のある時に案内すると言ってくれた。なるほど、見学だけすることもできるのか。


「あ、それなら……ちょっと見て見たい、かも」


「やった! じゃあ約束ね。私は基本的に毎日生徒会に行くから、声かけてね」


 昼休みが終わりに近づいてきたため、私たちはそこで会話を切り上げ、教室へ向かった。


******


 その日の夜、夕飯を食べた私は半蔵の部屋を訪れていた。


「お母さんが夕飯のおかず作りすぎたから持って行けって。冷蔵庫入れておくよ」


「ああ……」


 半蔵は相変わらずゲームに夢中で、モニター画面から目を離さずに返事をしてくる。


「もう、ちゃんと聞いてるの? ゲームばっかりやってるとバカになるってよ」


「ちゃんと聞いてるよ。それに俺はゲームばっかりやっていない。漫画もラノベも読むし、アニメだってかなり観ている。でも前ほど夜更かしはしなくなったぞ」


「確かに、朝もちゃんと起きてるし、授業中も寝ないでちゃんと聞いてるわね」


「だって朝は双葉ちゃんに早く会いたいし、真後ろに双葉ちゃんがいるのに寝てられないだろぅ、でゅふ!!」


 ああ、そういう理由でしたか……。


「ねぇ、半蔵はどう思う?生徒会へのお誘い……」


「んー、瑞希が興味あれば見学だけでも行ってみたらいいんじゃない?」


 半蔵は画面から目を離さず応える。


「二ノ宮さんは一人じゃ不安だからって言ってたけど、だったら半蔵でもいいんじゃない?」


「あー、俺はソフィア会長からも双葉ちゃんからも誘われたけど、断ったよ」


「え、何で?」


 既に誘いを受けていたことも驚きだったが、断っていたことにもっと驚いてしまった。大好きな二次元のキャラと一緒に活動できるのだ。半蔵なら飛びつきそうなものだが……。


「うーん、中学の時あんなことがあって、チームに迷惑かけただろ?だから高校では本気で何かやってる集団には入る気にならないんだよな。アニ研とか同好会ならって思ってたけど、ちょっと方向性が違ったというか……。だから俺は帰宅部で決定だ!!」


「へぇ…………」


 私は驚いたが、半蔵の気持ちも分かる気がした。


 それにしても何故会長や二ノ宮さんは半蔵を生徒会に誘ったのだろう?

 私が言うのもなんだけど、半蔵は生徒会とかちゃんとした組織が似合わないし、風紀委員会の人も風紀を乱しそうな人物としてチェックしていたし、校内でもどちらかといえば悪目立ちという意味で有名になりつつあるし……。


 何か半蔵に近づく目的があるのかもしれない。そう思うと辻褄が合うような気がした。だとすると半蔵のためにも生徒会の様子は確認しておいた方が良さそうだ。


「まぁ瑞希が生徒会に入ってくれれば会長や双葉ちゃんにも会いやすくなるだろうし、見学だけでも行ってみれば?もし手伝いが必要なら俺もできる範囲で手伝うし」


 半蔵はようやく画面から目を離し、私の目を見て話してくれた。


「うん、ありがとう。じゃあ見学には行ってみるよ。入るかどうかはそれから考える」


******


 ……とは言ったものの。

 翌日登校すると、校門前で例の生徒会長パレードに遭遇した。


 今日の会長は大きなスリットの入ったロングの真っ赤なチャイナドレスに身を包み、髪を二つのお団子にまとめて、手には扇子を持っている。

 ランウェイを歩くモデルのようなウォーキングで、スリットから除くニーハイ丈の網タイツが色っぽい。

 後ろでは中国雑技団とかで見たことのある造り物の龍を複数人で操作していた。


 私と半蔵は人垣に埋もれる形となっていたが、半蔵は以前と同じようにスマホで写真を撮りまくっていた。


「でゅふっ!! でゅふっ!! でゅふっ!! でゅふっ!! でゅふっ!! でゅふっ!!」


 何なんだろうコレ? シャッター音なのかしら?

 私たちに気付いたのか、目が合った瞬間会長にウィンクされた気がした。


「う、ううううーーーーんんんんんん」


 教室に移動してからも、私の頭の中は色々な考えで渦巻いていた。


 生徒会の見学に行くことは決めたのだが……。

 ソフィア会長のことは入学式での祝辞の時に初めて見て、すごく美人でスタイルが良くて、演説も堂々としていて、カッコいい先輩だと思った。

 ちょっと制服への愛が謎だったけど。


 でも翌日サンバの衣装で登校してきて、私の中で要注意人物という印象に変わった。

『生徒会長の世界制服』という漫画に出てくる二次元キャラってだけでも意味がわからないのに、今日のチャイナドレスといい、変な人という印象が強かった。


 でも……風紀委員長とのやり取りといい、このカオスな学校を束ねる生徒会長としてかなり優秀だという噂も耳にするし、生徒の評判だけでなく、先生方からの評価もとても高いようだ。

 なにせ制服の自由化とか普通無理だもんね。どうやったんだろう。

 会長の事は正直言ってよく分からないが、生徒会の一員になってみたら何かと勉強になるかもしれない。


 でもでも、やっぱり変な人だしなあ……。


「うーん、むむむむむむむ……」


 私がソフィア会長について悩んでいると、二ノ宮さんが教室に入ってきた。


「瑞希ちゃんおはよう♪ 生徒会に行ってみる気になった?」


「ん〜。見学には行ってみようと思ってるけど……。ねぇ二ノ宮さん、生徒会って、あのソフィア会長がリーダーなんでしょ? 今朝もチャイナドレスでパレードしてたし、意味不明すぎてちょっと不安だなぁ」


 私はこれまでの出来事から、会長への不信感というか、そんな人が率いる組織自体が大丈夫なのかという不安を素直に口にしてみた。


「大丈夫だよ♪ 会長は制服に対しては異常なこだわりをみせるけど、それ以外は普通、というよりも超優秀な生徒会長だと思うよ。実際に仕事ぶりを見れば分かるけど、私もいろいろ勉強になってるし、信頼できる人だと思うよ♪ それに私も居るし、見学に行ったからって必ず入らないといけない訳じゃないから。ねっ?」


 二ノ宮さんは可愛らしく上目遣いで訴えてくる。半蔵だったらこの笑顔にイチコロなんだろうな、と思いながら私もドキっとしてしまう。ああ、だからドキドキがスパイラルして『ドキすぱ』なのか、なんて変なことに気付かされてしまった。


「うん……。二ノ宮さんがそこまで言うなら。今日の放課後見学に行ってもいい?」


「わーい、ありがとー瑞希ちゃん♪」


 二ノ宮さんが私に抱きついてきて、振り向いた半蔵と目が合った。


「でゅっ、でゅほぉぉぉぉぉ!!!」


 何を興奮してるのか知らないけど、百合展開とかないんだからねっ!!!!


挿絵(By みてみん)


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