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されど空の青さをまだ知らず

「えへへ……でも、これで私と半蔵君は立派な友達だね♪」


「そうだな。憧れのアイドルが友達ってのも妙だけど、仲良くしようとして変な言動になっちゃうヒロインなんて、誰かが面倒見てやらないと心配だもんな!!」


 思わぬカウンターが飛んできてビックリした。

 感動して損した。


「もうっ!! 半蔵君のイジワル!! それは言わない約束でしょ!!」


「『あら、ごきげんよう!! 半蔵さん、瑞希さんも。おほほほほほ』だってwww。

 いや~まさかスーパーウルトラマーヴェラスグレートアルティメットパーフェクトヒロインの二ノ宮双葉さんにあんなポンコツな一面があったとはね~。

 アイリスたんとはまた違った可愛さというか、いやはや貴重なシーンを観させてもらったよ」


「くぅぅ~!! ムカつく!! やっぱり友達やめるっ!!」


「ははっ、ごめんごめん。でも本当に可愛かったんだよ? あの時は距離を縮めるのが怖くて逃げちゃったけど、今なら受け止められるから時々はあんなポンコツな双葉ちゃんも見てみたいな~、でゅふでゅふ!!」


「もう絶対あんなことにはならないもんっ!! あれはプログラムのエラーだから、一時的なものだもんっ!! 半蔵君って思ったより性格悪いわね、ぷんぷん!!」


「ごめんって、お詫びに何でも一つ言うこと聞くからさ、機嫌直してよ」


 ()()()()()()()()()


 その申し出に、私はある仕返しを思いついてしまった。


「むうう~……、じゃあ、半蔵君の部屋が見たい」


「へ?」


「半蔵君の部屋!!見・た・い・の!!」


「い、いや~、さすがにそれは……やめておいた方がいいんじゃないかな?」


「なんでよ? 瑞希ちゃんはいつも入ってるんでしょ?」


「いや、あいつは幼馴染だから昔からよく来てるけど、瑞希ですらいまだにドン引きする程のヲタク部屋だよ? しかも『ドキすぱ』の双葉ちゃんグッズでいっぱいの……」


「なら尚更見せてもらわない訳にはいかないわね♪ 覚悟を決めなさい、何でも言うことを聞くって言ったのは半蔵君でしょ? エッチなDVDとかあってもとやかく言わないから」


「い、いや……、でも……」


「もうっ!! 私たち友達でしょ? さっき言ったよね? 友達なら自分の部屋くらい入れても普通でしょ!!!」


「わ、わかったよ……はぁ」


 ようやく覚悟を決めたのか、渋々といった感じで部屋に案内してくれることになった半蔵君の後を、私はスマホのカメラを起動しながらついていった。

 ソフィア会長やシルビアさんから学んだ、相手の弱みを握る作戦を実行しようとしていたのだ。


 ふっふっふ……。


「はぁ、まさか双葉ちゃん本人がこの部屋を訪ねて来るなんて思ってもみなかったよ。

 ファンとしては嬉しい限りなんだけど、なんだか複雑な気分だな……。

 ドン引きしても友達やめるとか言わないでくれよ?」


「もう~往生際が悪いなぁ~。そんなこと言わないから早くドアを開けてよ!!」


「わかったよ!! ええいっ、どうなっても知らないからな!!」


 半蔵君がドアを開けて、私は一歩室内へと足を踏み入れた。


 部屋の中には壁一面を覆う程巨大な『二ノ宮双葉』のタペストリー、他にも壁という壁には私のポスターやら小さめのタペストリーなんかが貼られている。

 ベッドの上には私がプリントされた抱き枕が置かれ、机の上にはフィギュアやアクリルスタンドなどの各種グッズ、他にも『ドキすぱ』のゲームやCD、漫画やなんだかよくわからない薄い本などが所狭しと置かれていた。


 他にもアイリスさんにシルビアさん、ソフィア会長や新米先生などのフィギュアも確認できたが、ほとんどが『ドキすぱ』の私のグッズで埋め尽くされており、さすがに予想を遥かに超えるヲタク部屋っぷりに私は言葉を失っていた。


「ほら、ドン引きしてるじゃんか……」


「ち、違うの……。ちょっとビックリしたけど、嬉しくて……」


 反論しようと息を大きく吸い込んだその瞬間だった。



 男の子の部屋の香りと同時に、私の中に大量の何かが雪崩の様な勢いで流れ込んできたのだ。


 それはあえて名前をつけるとしたら、『情報』や『データ』と呼ぶべきものだった。



*********



 気が付くと私は見知らぬ場所にいた。


 辺りは暗く、漆黒に包まれた空間はどれくらいの広さかも分からない。

 奥行きも、上下左右さえも不確かな空間に私の体は漂っていた。

 体はフワフワと宙に浮いているような感覚で、地に足がついていない。


 そして私の周りには、電子モニターのような緑色の画面が無数に展開されていた。


 まるで電子空間のように、漆黒と緑色の光だけで構成された世界が広がっていたのだ。


 モニターに目を凝らすと、それは私が元々いた世界、恋愛シミュレーションゲーム『ドキドキすぱいらる』のゲーム画面だった。


 周囲に無数に展開するモニターには、そのどれもに『ドキすぱ』のワンシーンが表示されていて、『二ノ宮双葉』が笑ったり怒ったり寂しそうにしていたりむくれたり泣いたり喜んだり照れたりヤキモチを妬いたり拗ねたり呆れたりと様々な表情を見せている。


 そして、プレイヤー欄には『半蔵』と書かれている。


 緑色に光るいくつものゲーム画面。

 

 それは間違いなく私と半蔵君が共に過ごしてきた時間であり、記憶であり、思い出だった。


 入学式での出会い

 初めて一緒に下校した日

 初めてのデートはちょっと遠くの大きな公園へピクニック

 私が作ったパニーニを美味しいって言って食べてくれた

 夏休みはプールに行った

 水着姿をジロジロ見られて恥ずかしかった

 夏祭りで綿あめを食べた

 秋には紅葉を見に日帰り旅行をした

 冬はクリスマスにプレゼント交換をした

 初詣では私の振り袖姿を褒めてくれた

 遊園地では機械トラブルでドキドキした

 雨の日には相合傘で下校した

 水族館でイルカショーを観た

 文化祭で初めて手をつないだ

 サッカー観戦に行った

 プールでウォータースライダーに挑戦した

 プラネタリウムで星を見た

 動物園ではコアラがお気に入りだった

 図書館で一緒に勉強した

 修学旅行は北海道へ行った

 ゲームセンターでクレーンゲームをした

 お化け屋敷では怖くて腕にしがみついてしまった

 映画もたくさん観た

 あちこち買い物にも付き合ってもらった

 大好きなグループのコンサートへ行った

 クリスマスに雪が降ってロマンチックだった

 初詣であなたと両想いになれるように願った

 スキー教室で一緒に遭難しかけたこともあった

 バレンタインデーには手作りチョコをプレゼントした

 桜並木を二人で歩いた

 夏祭りに行って、花火を見た

 海へ行った

 水着を褒めてもらった

 観覧車から見た夕日がきれいだった

 一緒に受験勉強を頑張った

 クリスマスもお正月も勉強ばかりしていた

 二人とも同じ大学に合格することができた


 そして、卒業式のあの日、私はあなたに告白し、二人の愛は結ばれた。




***********




 私は全てを思い出していた。


 思い出すという表現が正しいのかは分からないが、ともかく三年間に及ぶ様々な出来事が、プレイヤーである半蔵君の熱い想いや感情が、ゲームの中のヒロインとしての二ノ宮双葉の記憶や思い出が情報として私の中に流れ込んできた。


 それは情報のダウンロードといった感覚で、全ての情報を取り入れた私にとって、ゲームの中で私と半蔵君が過ごした日々は実際に起きた現実の出来事として蓄積されていた。


 そして、そこには「恋心」という感情も含まれているのだった。



*********



「双葉ちゃん!!双葉ちゃん!!大丈夫?」


 肩を揺さぶられて我に返ると、そこは半蔵君の部屋で、私は膝をついて呆然としていた。

 傍には私のスマホが落ちていて、私は両眼から涙を流していた。


「半蔵君……、私……」


「ああ、良かった。気が付いたみたいだね!! ビックリしたよ、急にガクッてなって倒れそうになったから慌てて支えたんだけど、意識がないみたいだったからどうしようかと焦ったよ!!」


「あの、あのね……半蔵君、私……全部思い出したの!! この部屋に入った時、大量の情報が私の中に流れ込んできて……三年間、一緒にいろんなところへ行った。いろんなことを経験した。そして卒業式のあの日、私があなたに告白したの、大好きって!!」


「ふ、双葉ちゃん……?」


「大好き、好き、愛してる……。どうしてこんなに大切な感情を忘れていたんだろう? ああ……半蔵君、もうずっと離さない。ずっと一緒にいようね♪」


 私は半蔵君に抱きついて背中に腕を回した。

 ああ、愛しさが止まらない。


「でゅっ……でゅふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」


「あっ、さっきの友達って言ったの取り消すね♪ こんなに愛しているのに友達なんかじゃいられないもん……」



*********



 私に必要な情報を全て取り込んだからなのか、不思議とそれ以来頭がぼんやりすることもなくなった。

 思考がはっきりとして、視界までクリアになったように感じる。


「これも愛の力かなぁ? どう思う、半蔵君♪」


「でゅふっ!!! ちょ、双葉ちゃん……あ、当たってるって、その……胸が」


「当たってるんじゃないよ? 当ててるんだよ♪♪」


 私たちは一緒に登校しているところで、私は半蔵君の腕にべったりとしがみついているのだった。


 ピピーっ!!とホイッスルを吹く大きな音がして、振り返ると瑞希ちゃんが怖い顔をして立っていた。


「ちょっと双葉ちゃん!! 何があったか知らないけど、いきなり半蔵にくっつき過ぎ!! 風紀委員として連行するわよ?」


「えーっ!! もう、瑞希ちゃん厳し過ぎ!! 固い事言わないでよ!!」


 私が文句を言うと瑞希ちゃんは得意のジト目で私を睨んでため息をついた。


「はぁ、風紀委員になって半蔵を注意するはずだったのに……なんで双葉ちゃんを注意する事になってるんだか……」


 そう言うと、瑞希ちゃんは力ずくで私を半蔵君から引きはがした。


「ちょっと!! 私と半蔵君は愛し合ってるんだから!! 邪魔しないでよ!!」


「ダメです、近すぎ!! 風紀が乱れるでしょ!!」


「横暴だー!!」


「仕事です!!」


「「むむむむむむむむむぅ……」」


 やはり風紀委員会に瑞希ちゃんを取られたのは失敗だった。

 まさかこんな形で邪魔をされることになろうとは……。


「よう半蔵、何があったか知らないが、モテる男はつらいねぇ」


「あらま~、面白そうなことになってるね~」


「ああ、彷徨とののかか……俺も突然の事で理解が追い付かないよ……。

 はぁ、どうしてこうなった?」


*********


「エピローグ。

 こうして私は失っていた記憶を取り戻し、半蔵君との愛の物語は幕を閉じたのでした。

 めでたしめでたし」


「ちょっと! 双葉ちゃん!? 何勝手にまとめようとしてるのよ!!

 それに半蔵との愛の物語って何? 私は認めないからね!!」


「え~、もうっ、瑞希ちゃんはしつこいなぁ。

 せっかくのハッピーエンドなのに~!

 読者の皆様、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 それでは皆さんごきげんよう♪」


「えっ?双葉ちゃん誰に向かってしゃべってるの?

 やだ、何コレ怖いっ!!!」


 されど空の青さを知る

 第一章 終わり


挿絵(By みてみん)

今回で第1章完結です。

ここまで閲覧いただきありがとうございました。


関連作品近日公開予定です。

数ある作品の中から読んでいただきありがとうございます。


読んでいただけるだけでも大変ありがたいのですが、

ブックマークや評価などしていただけると泣いて喜びます。


引き続きよろしくお願いいたします。

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