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二ノ宮双葉……だけじゃない!?

 俺の頭の中は混乱していた。


 枝垂れ桜の麓に佇んでいた少女は『ドキすぱ』の『二ノ宮双葉』ちゃんに間違いない!

 という直感があったものの、流石にゲームの中の少女が現実世界に現れる訳がない……とも思う。


 歩いてきた通学路を振り返ってもそこには変わらず桜並木と見知らぬ人達が歩いているだけである。


「疲れてんのかな、俺……」


 夜更かしをして寝不足なのは重々承知しているし、ゲームをしながら何度もこんな子が現実にいたらなぁなどと夢想していたから幻でも見たのだろうか。

 いや、確かにあれば現実だったはずだ。現実であってほしい。


 先に行った瑞希達が『二ノ宮双葉』を目撃している可能性もある。あいつらがこの通学路を通ったのは五分と違わないはずで、その可能性は大きいはずである。

 俺は睡魔をどこかへ吹っ飛ばし、学校へと歩みを速めた。


 学校の校門へ着くと瑞希が校門の前で驚いた顔をして待っていてくれた。


「どうしたの? そんなに急いで。眠くてダルかったんじゃないの?」


「ああ、ただ眠気はもうどうでもいい。それよりも確認したいことが……」


「え? とりあえず歩きながらね」


 既に集合時間ギリギリということもあり、教室へ向かいながら話をすることにした。


「通学路の桜並木で二ノ宮双葉ちゃんを見なかったか? ほらあの枝垂れ桜の辺りで」


「え? 二ノ宮双葉ちゃん? って、『ドキすぱ』の?」


「そう、その双葉ちゃんだよ!! 『ドキすぱ』のメインヒロインにして、最も攻略難易度が高く、多くのプレイヤーを苦しめたことで有名だ。しかしながらプレイヤー達に挑戦させてしまうのには理由があるのだ。それは容姿端麗、文武両道、品行方正と全てが完璧なパーフェクトすぎるヒロインだからだ。桜を思わせる鮮やかな髪の毛をショートツインテールにし、大きい瞳は常に潤んだ優しい眼差し。小柄で可愛らしい身体にもかかわらず立派なお胸。魅力という言葉は彼女のためにあると俺は思うね!!」


 急いでいるにもかかわらず、立ち止まって双葉ちゃんの魅力を熱く語りだした俺に、廊下のど真ん中ということもあって周囲の生徒から怪訝な目が向けられる。


「いいから、早く歩きなさいよ!!」


 瑞希が小声でたしなめながら俺の腕を引っ張って教室へと向かった。


「そんな外見の娘は居なかったと思うけど。寝ぼけて白昼夢でも見たんじゃないの?」


「白昼夢とは失礼な。まさか! 我が右目に封印されし心眼がついに開放されたか!?」


「学校でそういうこと言うの止めなさいって。あれ、でも二ノ宮双葉ってクラス分けの名簿で半蔵の下に書いてあったような……?」


「なに!? ホントか!」


 食い気味に瑞希の言葉に反応をする俺に瑞希の補足が入る。


「たしか、おぼろげだけど……」


 だがこの時俺は既に興奮し、浮かれてしまっていた。


「あぁ、双葉ちゃんにどう挨拶しようかなぁ」


 そんな俺を見て瑞希が小声で注意してくるものの、既に自分の世界に入っている俺にその言葉が届くことはなかった。


 俺たちが今日から通う高校は伝統ある私立学校にしては珍しく校舎は真新しい。

 なんでも、一昨年に用途を指定した多額の寄附があり、昨年度に校舎のほぼ全てを建て替えたらしい。そのため、今年の高校入試は今までにない倍率の中行われた。

 学業優秀の瑞希は難なく突破することができたが、中の上くらいをうろついていたこの俺が合格できたのは奇跡と言えよう。


 クラス分けは先に登校した瑞希たちが掲示板で確認していて、俺と瑞希は三組で彷徨とののかは二組だった。一年の教室は三階にあり、浮かれていた俺は瑞希に引っ張られるようにして教室の前へ着いた。


 瑞希が教室の前後を確認し後ろ側の引き戸を開けて中に入る。到着した時間が遅めであったため、教室にはすでに多くの生徒がいた。自分の席に座っている者が大半であったが、中にはクラスメイトと立ち話をしているものもちらほら見受けられた。


 教室の黒板には座席表が描かれており、それに従って自分の座席を探す。俺の席は真ん中より少し左の列の後ろから二番目。瑞希は俺の左斜め後ろの席であった。

 そして座席表の瑞希の右隣、つまり俺の後ろの席には『二ノ宮双葉』の名前があった。


「ま、まじだ……」


 さっき教室に入ってきたときにはあの特徴的な髪色は目に入らなかったから、まだ教室にはいないようだ。

 俺が自分の席に座りもじもじしていると、教室の前方から桜色の髪をなびかせた超絶美少女が入ってきた。

 クラス中がざわつき、あちこちから「うおおっ」「ほわあああ」などの声が上がる中、その美少女は自分の座席を確認し、こちらに向かってくる。


 俺はどうしたらいいか分からず、思わず瑞希に助けを求めるが、瑞希も信じられないものを見るような顔をして固まっていた。


「お、おい。瑞希、俺ど、どどどどうしたらいい?」


「し、知らないわよ。ナニコレ現実? こんなことってあるの?」


「ヤバい何も考えられない、うっ、吐きそう。いやそれだけはダメだ。助けて瑞希!!」


「バカ言ってないで前向いて!! まずはご挨拶でしょ!!」


 俺たちがそんなやり取りをしていると、双葉ちゃんらしき美少女が席に着く。


「お二人は前からの知り合いなんですか? 初めまして、私は二ノ宮双葉といいます。これからよろしくお願いしますね♪」


 麗らかな春の日差しのような心地よい声が俺の鼓膜を震わせる。


「でゅふっっ!!」


 この声、この話し方。間違いなくあの『二ノ宮双葉』ちゃんだ!!


「と、隣の席の三日月です。これからよろしくね」

 

 瑞希は戸惑いながらも挨拶を返している。さすがはしっかり者だ。


「お、おおお俺はにじもてぃよぉっっ!!!!!」


 噛んだ。盛大に噛んだ。実際に舌を噛んだ。痛い。いろんな意味で痛すぎる。

 しかしそんな俺に双葉ちゃんはさっとハンカチを出してくれた。


「だ、大丈夫ですか!?これよかったら使ってください」


 天使の、いや女神さまの所持品を俺なんかの汚い血で汚すわけにはいかない!!

 断腸の思いで俺はそれを固辞する。そして気を取り直して自己紹介をしようとしたが……。


「虹元半蔵君ですよね。これからよろしくお願いします♪」


「っ!!! なぜ俺の名を?? まさかこれがディスティニー!?」


「あはは、面白い人ですね、虹元君は。黒板の座席表に名前がありましたから♪」


「あ、なーるほど、それで……って、てゆうか、あ……あう……あ……に、二ノ宮双葉さん?ってまさかそんなはずが……」


 俺はようやく言葉を発したものの、まだ事態が呑み込めないでいた。


「あれ? 私のこと知らない? 『ドキドキすぱいらる』の二ノ宮双葉ですよ♪」


「「えっ!?」」


 思いがけない発言に驚き、瑞希と声が重なる。


「いやぁ出てきちゃいました~♪」


 双葉ちゃんは右手人差し指を顎に当てながらそんなこと言ってのけ、「てへっ」と可愛らしくペロッと舌を出す。

 その姿と声はまさしく俺がよく知る『ドキドキすぱいらる』略して『ドキすぱ』のメインパーフェクトヒロイン『二ノ宮双葉』本人だった。


「で、出てきちゃったって……」


「えっ、へっ? これは夢なのか!? ついに次元の壁を超えたのか!?」


 驚きを隠せない瑞希と、混乱して自分の右頬と左耳を抓って痛がる俺に対して双葉ちゃんは優しく声をかけてくる。


「夢じゃないよ、痛いでしょ? それに三日月さんにも私が見えてるし、現実の感覚はあるでしょ?」


「はい……痛いれす」


「た、確かに夢ではないかもしれないけど、その、『ドキすぱ』? の二ノ宮双葉のキャラクターを完コピしているレイヤーさんかもしれないし、集団催眠とかの可能性はゼロではないし……」


「おおっ、三日月さんはなかなかの現実主義者だね。まあ、確かに私がゲームの登場人物本人だってことを証明するのは難しいんだけど、そのうち分かってくれるといいな♪」


 可愛く苦笑いをする双葉ちゃんを見て、俺は何かを確信した。


「いや、原理はどうあれ『ドキすぱ』の双葉ちゃんに間違いないだろう!! この愛くるしい顔立ち、桜を思わせる鮮やかな髪と背格好!! それに、こんなにいい香りがするなんてっっっ!!! 『ドキすぱ』の双葉ちゃんルートを何十回とプレイし、隠しを含めた全てのイベントCGをコンプした俺が言うんだから間違いない!!!!」


「いい香りって……うわぁ」


 あまりの興奮ぶりにドン引きする瑞希には全く気を留めず、俺は両手を握りしめて雄たけびを上げてしまう。


「でゅふっ!! ついに双葉ちゃんとの邂逅を果たしたお。よろしくね双葉ちゃん!!」


 思わず地が出てしまったが、今はそんなことを気にしている場合ではない……。


「こ、こちらこそよろしくね。半蔵くん……」


 流石の双葉ちゃんも困惑気味な笑顔を浮かべている。やだ、死にたい。


「三日月さんも改めてよろしくね♪」


 満面の笑みを瑞希に向けて挨拶をする双葉ちゃん。


「こ、こちらこそよろしく……」


 瑞希は思うところが色々ありそうながらも笑顔で応えていた。大人だな。

 

 そんな俺たちのやり取りをクラス中が注目して見ていたらしいが、その時の俺達にはそれに気付く余裕など全くと言っていいほど無かったのだった。


 ちょうどその時、教室の前扉が開かれ、教師と思われるパンツスーツの女性が入ってきた。

 腰くらいまで伸ばしたロングヘアの髪に少し幼さの残る整った愛らしい顔立ち。出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んでいるメリハリのあるプロポーションは大人の女性の色気が漂っている。


 クラスの男子や一部の女子はざわめきだし、その女性の一挙手一投足に注目が集まった。女性は教壇の前で止まり、黒板に名前を書くとこちらを振り返り教室をぐるっと見渡す。


「みなさんおはようございます。私は一年三組担任の新米千春(にいまい ちはる)です。これから一年間よろしくお願いしますね」


 「おぉっ」という男子生徒の感嘆の声と共に教室には歓迎ムードが広がるが、俺だけは驚きを隠せずにいた。


「ま、まさか新米先生まで顕現するとは……ここは天国か!?」


 そんな俺の反応を見て瑞希もこの先生が二次元のキャラクターであることに気づいたようだった。


「えっ、まさかこの先生も!?」


「そのまさかだ!!漫画『妖怪学校の新米教師』の主人公、新米千春先生だ!!」

挿絵(By みてみん)


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