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二年前その7(瑞希視点)

(瑞希視点です)

 半蔵と喧嘩してお見舞いに行かなくなってから一週間が経っていた。


 その間メールや電話も一度もしていなかった。


 おばさんからは『ウチの子がひどいこと言ってごめんね』とか『気にしないでまたお見舞いに来てね』とかメッセージが来ていたけれど、病院に足は向かなかった。


 最初は自分も言い過ぎたな、と反省したりもしていたが、どう考えてもいきなり見舞いに来るなと言い出した方が悪いと考え直していた。

 半蔵が何を考えてるのか、まったく分からなかった。


 怪我が原因でサッカーを辞めなければいけなくて、それがショックで落ち込んでいたのは間違いない。


 私はそんな半蔵を励まそうと、毎日お見舞いに行っていた。

 私にできることなんてそれぐらいしかなかったから、支えているつもりでいたんだけど、辛気臭い顔をしていたと言われればそうだったかも知れない。


 でもだからって見舞いに来るなってのは言い過ぎじゃないか。しかも彼氏ができないとか、関係ないことで私を遠ざけようとして、どういうつもりなのか。


 私が思ったことをそのまま愚痴っていると、ののかに笑われた。


「そんなに悶々と悩むくらいなら、お見舞いに行って直接本人に聞いたら?」


「やだ!! 絶対行かない!! あっちが謝ってきたら考えるけど……」


「だってさ、どうなの? 半蔵くんの親友としては」


 放課後の教室にはサッカーの大会が終わって部活が休みの彷徨くんもいた。


「どう、って何がだよ」


「半蔵くんから何か聞いてるんじゃないかってことよ」


「いやぁ~、何も聞いてないよ~」


「うそ、絶対うそ!! お見舞いにも行ってるんでしょ? どうだった?」


「うーん、瑞希ってば思いっきり気にしてるね。くっくっく……」


「当たり前でしょ!! むぅぅ、彷徨くんムカつく!!」


「まぁ、謝る気はないだろうな。でもアイツにはアイツの考えがあるって事だよ。瑞希には悪いけど、俺はアイツが決めたことなら応援するって約束してるんだ」


「瑞希、今から彷徨君は私たちの敵になったわ」


「いやいや、ののか、怖いよ……」


 何か知っている様子だったが口を割るつもりはないようだ。

 私たちは仕方なく下校することにしたが、彷徨君は恋人と約束があると言って逃げるように帰ってしまった。


「くそぅ、リア充め!! 爆発しろ!!!」


「瑞希それヲタクっぽ~い」


「う、うるさいっ!! この際ヲタクでもなんでもいいわよ!! もぉ~、何考えてるのよぉ~、半蔵のバカ~!!」


「うふふ、恋を知った瑞希は可愛いねぇ」


「笑い事じゃないよ~。それに何かババくさいよ!!」


「あらまぁ~……。でもねぇ、意地張ってたらいつまでも今のままだよ~」


「う~~~~~~~ん、うむむむむ」


 私にも意地がある。

 でも半蔵とこのままというのも嫌だ。

 半蔵は謝る気はないらしい。

 となれば、これしかない。


「あ、あらあら~、ののかったら、そんなに半蔵のお見舞いに行きたいの~? もぅっ、仕方ないわねぇ、い、一緒に行ってあげる!!」


「あらまぁ~……そうきたか。でもいいわよ、一緒に行ってあげても」


「ち、違うわよ!! ののかが行きたいのに私が付き合うの!!」


「うわぁ、瑞希ってめんどくさい女ねぇ~」


 なんとか私の自尊心を保ちつつ、私たちは病院へと向かった。

 ののかの付き添いとはいえ、一週間ぶりのお見舞いに私は緊張していた。


「ど、どうしよう。どんな顔して半蔵に会えばいいの?」


「瑞希は今日は付き添いなんだから、黙って私に付いてくればいいよ~」


 オロオロしだした私にののかは容赦しない。

 スタスタと院内を進むと、さっさと病室に入ってしまう。


 慌てて後を追い病室に入った私は衝撃的な光景を目にすることになった。


「おう、ののか、瑞希、久しぶり!! でゅふっ!!」


 そこにいたのはアニメのDVDや漫画、ライトノベルに囲まれ、ダサいアニメTシャツを着て満面の笑みを浮かべる半蔵(らしき人)の姿があった。


「「は……………………?」」


 あまりの事態に流石のののかも絶句している。

 え、部屋間違えた? 誰この人?


「いや~、今まで馬鹿にしてたけど、ラノベとかアニメって超いいよね!! 漫画は前から好きだったけど、いろんなジャンルを見てみるもんだね!! 異世界サイコー!! 萌えサイコー!! でもでも~~~~、だけじゃない!! 深い、カッコいい、面白い!! でゅふっ!!」


「…………」


 なんだろう、すごく気持ち悪い。


 え、ナニコレ? ドッキリ? カメラどこかにあるの?


 私は室内を隈なく探し始める。


「あらまぁ~」


「でゅふっ!!」


 とてつもなくシュールな光景が病室に広がってしまったが、どうやら隠しカメラなどは仕掛けられていないようだ。


「いやー、入院で暇だったからさ、差し入れの漫画片っ端から読んでたんよ。スポーツ系とか少年漫画とか読み切って、今まで手を出さなかったジャンルにも挑戦してみたら、これがまた面白くって!! ああ俺も異世界転生したいなぁ。あっ、でも一口に異世界モノとか言っても色々だからね!! ひとまとめにしちゃいけないよ!! 今俺が着てるTシャツもその作品のひとつなんだけどね……」


「ちょ、ちょっと待って、ホントにホントに半蔵、なの……?」


「他の誰に見えるというんだ? でね、萌え系アニメってのも、女の子がかわいくってね、ヒロイン皆だいたい癖が強いんだけど、それぞれ個性的っていうか、とっても魅力があってね!! でゅふ!! ラノベだと絵師さんが神っててね、ああ神様はここにいたんだなって気づいたんだよ」


 え、髪? 壊死? 何それおいしいの?


「あらまぁ~、楽しそうで何よりね~」


 ののかは困惑しつつ、早くも受け入れ始めている。

 こういうところは実にののからしい。自身もアイドルにどっぷりハマっているからか、寛容というか、ヲタク気質に耐性があるようだ。


 私はというと、喧嘩したとはいえ、傷付き弱って苛立っていた半蔵の顔を見たのが最後で、わずか一週間でここまで人は変わるのか、と驚き戸惑っていた。あとキモい。


 なんだろう? 私の知っている人じゃないみたいでキモい。

 「どぅふっ」とか「でゅふっ」とか意味不明でキモい。


 何かの宗教みたいだな、などと私が思っていると、


「ああ、退院したら聖地巡礼に行きたいなぁ。そうだクラスの連中に布教活動もしないといけないなぁ」


 本当に宗教みたいだった。


 私は気分が悪くなってふらついてしまい、ののかに支えられて立っているのがやっとだった。

 すると病室のドアが開き半蔵の母親が入ってきた。


「あら、瑞希ちゃんにののかちゃん。久しぶりね、お見舞いに来てくれたの?」


「あ、はい……」


「半蔵君が思ったより元気そうで何よりです~」


 ののかはともかく、ドン引きしている私に気付いたおばさんは申し訳なさそうに言った。


「ごめんねぇ、元気になったのはいいんだけど、ウチの主人が半蔵のためとか言ってどんどん二次元作品を買い与えるものだから、たった一週間でこんなになっちゃって。私もサッカーを諦めて次の目標を持ってもらいたいって思っていたけど、まさかこういう方向に進むとは思ってなくて、我が子ながら正直若干引いてるわ」


 おそらくおばさんは恋愛方面に話を進めようと思っていて、それを私に期待していたのだろう。

 私もそれを感じていたし、希望していたのだけれど、一気にどうでもよくなってしまった。


 半蔵には幸せで笑っていて欲しいとずっと思ってきた。

 目の前の半蔵は確かに幸せそうに満面の笑みを浮かべているんだけど、何だろう。

 コレジャナイ感が凄い。


「あ、私気分が悪いんで帰ります」


 私はののかに支えられながら病室を後にしたのだった。


******


 それからの半蔵はつらいリハビリにも積極的に取り組んで、医者が驚くほどの回復力を見せた。

 三か月ほどの入院生活で、歩行はゆっくりながらも日常生活に支障はないほどに快復し無事退院となった。

 学校にも復帰したが、神ギャルゲーに出会ったなどと、興奮した様子で周囲に話している。


 半蔵の両親も半蔵の望むがままに二次元作品を買い与えていたため、益々ヲタク化は進行し歯止めがかかることはなかった。


 三年生に進級しても布教活動と称してアニメ、ゲーム、ラノベ、漫画などを推し付け周り、以前とは別の意味で校内で知らないものはいない存在となっていった。


 キャーキャー黄色い声援を送っていた女子たちは蜘蛛の子を散らすように離れて行った。

 クラスメイトからは「華麗なる都落ち」などと揶揄されていたが、半蔵本人は気にも留めていない様だった。

 逆に一部の層からは絶大なる人気を勝ち取り、楽しそうに学校生活を送れているようでそこは正直良かったなと思っている。


 彷徨くんはそんな半蔵の転落っぷりを楽しむとともに、ときどき半蔵に布教されるがまま二次元作品を楽しんでいるようだ。サッカーの方は相棒を失い、チームの成績もイマイチらしく、以前ほど情熱を持てなくなっているとのことだった。


 ののかは追っていたアイドルがスキャンダルで失脚してから、生来の付き合いの良さを発揮し、半蔵の特にお勧めする作品は一通り観たり読んだりして良い関係性を築いていた。

 私もしぶしぶながら、ののかが良かったという作品は見る様にしていて、ヲタク文化には相変わらず拒否感があったけど、感動して泣いてしまう作品も多かった。


 必然的に話題の中心は二次元作品になることが多く、(不本意ながら)アニメや漫画などのおかげで以前よりも話す機会が増え、私たち四人の関係性はより緊密なものとなっていった。


 そして当然のように同じ高校を受験することとなり、全員が無事に合格を果たした。


 桜が咲くにはまだ少し早い、少し肌寒さの残る三月。

 私たちは中学校の卒業式を迎えていた。


「同じ高校に行くんだから、幼馴染ってのはいずれバレるでしょうし、せめて恥ずかしくないようにクラスではヲタクを隠しなさいよ」


「何を言う!!高校でこそ二次元の素晴らしさを布教すると決めているんだ!! お前が恥ずかしいとか知るか!! むしろ布教を手伝え!!!!」


「ええええ、やだよ~!!」


 そんな私たちのやり取りを楽しそうに眺めていた彷徨君が半蔵に乗っかった。


「半蔵に付き合ってアニメやラノベも結構見てきたけど、確かに面白い作品、感動するような素晴らしい作品もたくさんあるよね。よし、俺も布教を手伝うよ!! 共に世界を変えてやろう!!」


「イケメンのお前がついていれば百人力だ!! 主に女子への布教を頼む!!」


「あらまぁ~、楽しそうだね~。私も協力するよ~」


「ののかまで。…………はぁ」


 新たに始まる高校生活に向けて、私の頭上にだけ暗雲が立ち込めていたのだった。


数ある作品の中から読んでいただきありがとうございます。


読んでいただけるだけでも大変ありがたいのですが、

ブックマークや評価などしていただけると泣いて喜びます。


引き続きよろしくお願いいたします。

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