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二年前その2(半蔵視点)

(半蔵視点です)

 俺はその日も絶好調だった。体は思いのまま自在に動いてくれるし、味方も敵もどこにいるかが手に取るように分かる。

 ディフェンスがどう動くかも予想できるし、何より相棒の彷徨がいい動き出しをしてくれるおかげで攻撃のアイデアがどんどん湧いてくる。

 彷徨にパスを出すこともできるし、自分でシュートに行くこともできる。

 この日も五対〇で圧勝し、俺たちの中学は県大会の決勝にコマを進めていた。


「彷徨は今日もハットトリックで大会得点王は確実だな!!」


「それも半蔵のおかげだよ。いつも最高のパスをありがとうな!!」


「いやお前の動き出しがいいからだよ!! むしろパスを出させられてるみたいな?」


「いやいやお前ならこう動くってのが分かるから、パスが来そうなところに動いてるだけだよ!!」


「わっはっは!!! こりゃ全国制覇も夢じゃないな!! 今の俺たちを止められるヤツなんかいるはずがない!!」


 快勝した試合後のハイテンションで褒め称えあう俺たちを、一緒に帰る瑞希とののかが呆れた様子でたしなめる。


「熱血、スポ根、暑苦しい~」


「調子に乗ってると怪我するわよ。次の決勝は強豪校なんでしょ?」


「まぁな、強豪って言っても今年のメンバーに俺たちの敵になるほどの奴はいないっぽいし、去年も決勝で当たったけど三対〇でウチが勝ってるし、今年も余裕っしょ!!」


 実際、名実ともに俺と彷徨が中心となった今年のチームは、去年と比べてもチームとしての完成度が高く、今大会の大本命として注目されていたし、全国大会でもいいところまで行くだろうと予想されていた。


「油断してると足元をすくわれるわよ」


「盛り下がるようなこと言うなよー、今日くらいはいいだろー?」


「まあでも瑞希ちゃんが厳しいこと言ってくれるおかげで、俺たちも気持ちを引き締められてるところあるからね」


「さすが、彷徨くんはよく分かってる」


「へいへい、俺だって分かってますよーだ」


 瑞希が彷徨を褒めるのが気に入らなくて、俺は自分でも子供っぽいと思いながらもふてくされてしまうのであった。


 彷徨だけには言ってあるのだが、俺は瑞希の事が好きだ。


 小学生の時から、俺がサッカーで活躍するとすごく喜んでくれて、満面の笑顔でカッコイイ!!とか凄かった!!なんて言われてると、瑞希のためにももっと頑張ろうと思えた。

 クラスメイトに自分の事のように自慢していて、くすぐったいような、恥ずかしいような気持ちにもなったけど、試合のたびに応援に来てくれて、サッカーそのものも大好きだけど、瑞希が応援してくれるから頑張れるというか、うまく言えないけどとにかくそんな感じだ。


 俺の将来の夢は、サッカーのプロ選手になって、できれば日本代表にもなって、瑞希と結婚することなのだが、瑞希はそんな俺の気持ちも知らず、俺が女の子に告白されると「付き合っちゃえば」みたいなことを言ってくる。


 ののか曰く、「瑞希は恋を知らないお子ちゃまなだけ」とのことだが、もし彷徨みたいな男を好きになってしまっては俺には勝ち目がない。

 まぁ結婚なんてまだまだ先の話で、それまで待ってはいられないので、当面の目標は全国大会で活躍し、プロのユースチームや高校サッカーの強豪校からのスカウトの目に留まって、プロへの登竜門をくぐること。それができたら告白するつもりだった。


 そして迎えた県大会の決勝戦、これに勝てば全国大会という大事な試合だったが、俺たちは緊張することもなく、試合は圧倒的に押し込む展開となっていた。


 相手ゴールキーパーの好守もあり、点差こそ開いていなかったが、俺のアシストによる彷徨のゴールで一対〇とリードして前半を終了し、試合は後半に入っていた。


 前半から相手は俺と彷徨にマンマークを付けてきたが、はっきり言って相手にならず、俺は相手の裏をかき続け、彷徨も巧みな動き直しで簡単にマークを外していた。

 相手チームは守備に走らされて疲れが見えてきており、俺たちはやりたい放題だったが、最後のところで相手の身体を張った必死の守りでなかなか追加点が奪えない展開が続いた。


「半蔵、気をつけろ。お前をマークしてる奴、前半からお前に引っ掻き回されて相当イライラしてるし、疲れもあってプレーがラフになってるぞ」


「おう、分かってる。だがあんなヤツ相手じゃねぇ。ファウルでも止められないって、格の違いを見せてやる!!」


「まったく! すぐ調子に乗るのはお前の良いところでもあるが、悪いところでもあるんだぞ!! とにかく注意したからな!!気をつけろよ」


 後半十五分くらいだっただろうか、そのプレーが起きたのは。


 俺が後方からの味方の浮き球のパスを胸トラップしたその時だった。

 遅れてきた相手選手の膝が俺の腰を強打した。俺はそのまま相手に圧し掛かられるように前方に倒れこみ、そのまま動くことができなくなった。


 腰に激痛が走り、息ができないほどの激しい痛みで体に力が入らない。


 痛みで目を開けることもできなかったが、一瞬でとんでもない大怪我だということは分かった。


 すぐにチームメイトや審判が駆け寄ってくる。彷徨の声が聞こえる。


「半蔵!! 半蔵!! 大丈夫か!?」


 下半身に力がまったく入らない。それどころか、足の感覚がなく、指の一つも動かせない。


「うぐっ!! だ、大丈夫、じゃないな。腰が激痛だし、下半身の感覚がまったくない」


「審判!! すぐに救急車を呼んでください!!」


 審判は運営本部に走っていき、救急車を要請したようだ。

 チームメイトが俺に怪我をさせた相手選手に掴みかかり、会場は騒然としていた。


 審判が大きく笛を鳴らし、怪我をさせた奴とそいつに掴みかかった俺のチームメイトにそれぞれレッドカードが提示された。


 試合は中断され、しばらくして救急車が到着した。

 俺と交代でピッチに入る同級生が、「半蔵、お前の分まで頑張って、絶対優勝するから、全国大会までには戻って来いよ!!」と言ってきて、俺は力なく「おう!任せたぞ!!」なんて言ってはみたものの、全国大会までに治る程度の怪我ではないことは分かっていた。


 ストレッチャーで運ばれる中、遠くで心配そうにこちらを見る瑞希の姿が目に入った。


数ある作品の中から読んでいただきありがとうございます。


読んでいただけるだけでも大変ありがたいのですが、

ブックマークや評価などしていただけると泣いて喜びます。


引き続きよろしくお願いいたします。

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