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二年前その1(瑞希視点)

(瑞希視点です)

 私が風紀委員会の一員となってから数日後、教室である事件が起きた。


 ここ最近、ののか達と同じクラスのサッカー部員が双葉ちゃんにしつこくデートのお誘いをしていたのだが、双葉ちゃんは毎回やんわりと断っていた。


 にもかかわらず、懲りずにこの日も昼休みも終わりに近づいた頃にやってきたのだった。


「ホントにごめんなさい、平日は執行部の活動があるし、土日も生徒会の準備や勉強があるから……」


「じゃあさ、一緒に帰るくらいはいいだろ? 次期サッカー部のエースが誘ってるんだぜ。二ノ宮さんにも悪い話じゃないと思うんだけど?」


 お世辞にもイケメンとは言えない顔のどこからそんな自信が湧いているのか、私にはよく分からなかったが、諦めず誘い続けるメンタルだけは凄いものがあった。


「ええと……い、一緒に帰って、友達に噂とかされると困るから、ごめんね」


 双葉ちゃんがゲームの中のお約束というセリフを言うと、何故か半蔵が反応した。


「でゅふっ!! 決め台詞いただきました!! ……まぁどこの誰だか知らないが、双葉ちゃんにこのセリフを言われちゃあ一旦引き下がるしかないな。ぶっちゃけまだ好感度が足りてないんだよ。悪いことは言わないから攻略法を見直して出直しな」


「なんだと、このっ!!」


 サッカー部員は半蔵に向き直り距離を詰めた。クラスが騒然となるが、当の半蔵はどこ吹く風といった感じで涼しい顔をしている。


「あのなぁ、お前『ドキすぱ』やったことないだろ? 双葉ちゃんは数いるヒロインの中でも最高難度の設定なんだぞ? デートはおろか、一緒に下校するのにだってそれなりの手順ってもんがあるんだよ」


「はぁ? なんだそりゃ、キモいんだよ。お前虹元半蔵だろ? お前の事はよく知ってるぜ、中学時代調子乗って大怪我したんだろ? そんで今じゃ二次元大好きのキモヲタになり下がったってな。ははっ、だっせぇ」


「やめてっ!!! 半蔵君は関係ないでしょう? とにかくあなたとはデートもしないし、一緒に帰ることもできません!! 午後の授業が始まるから自分の教室に戻って。ねっ?」


 双葉ちゃんが仲裁に入ってなんとか場が収まりそうになったが、私はハラハラしながら見ていることしかできないでいた。


 そのサッカー部員が帰り際に放った一言が事件のきっかけになった。


「けっ、ちょっと可愛いからって調子に乗んなよな!! たかが二次元キャラのくせに!!」


「……っ!!!」


 気が付いた時には半蔵がサッカー部員の胸倉に掴みかかっていた。


「てめぇ今なんて言った? 取り消せ!! 今の発言を取り消せよ!!」


「ああ? なんだてめぇ、いきなりキレやがって!!」


「二次元がなんだって? たかがって何なんだ!! てめぇだってたかがサッカー部員じゃねえか!! 二次元とか三次元とか関係ねぇだろ!! てめぇが好きになって誘ったんだろうが!! 双葉ちゃんは双葉ちゃんだろうが!! ちょっと振られたからって二次元のせいにするんじゃねえよ!! ダセぇことすんなよ!! お前みたいにそうやって差別する奴がいるから変な偏見が減らねぇんだろうが!!」


「ちっ、ウゼェなこの野郎!! 離せよっ!!」


 サッカー部員が半蔵を突き飛ばし、そのまま机や椅子をなぎ倒しながら半蔵が地面に倒れこんだ。


「きゃあーーーーーーー!!!」


 教室のあちこちから悲鳴が聞こえ、周囲は騒然となった。半蔵は腰を強打したらしく、声も出せずに苦悶の表情を浮かべている。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!! 半蔵っ!!! 半蔵っっ!!!」


 私は半狂乱になって取り乱していた。

 苦痛に顔を歪める半蔵を見た瞬間、二年前の光景がフラッシュバックして、ショックのあまり私はその場で意識を失ってしまった。



************************



 双葉は半蔵に駆け寄っていたが、あまりに動転して失神してしまった瑞希を見て驚いていた。


 騒ぎになっているのが隣の教室にも聞こえたのか、彷徨が走ってやってきて逆にサッカー部員を突き飛ばしながら半蔵に駆け寄る。


「半蔵っ!! 大丈夫か? おい誰か!! 救急車を呼んでくれ!! 早くっ!!」


 午後の授業のためにちょうど教室に入ってきた千春先生がスマホを取り出し救急車を要請する。


「な、なんだよ……ちょっと突いただけで大げさに転びやがって!!」


 青い顔をしたサッカー部員が言い訳のようにつぶやくが誰も聞いてはいなかった。


 千春先生は半蔵と瑞希の近くまで来ると、双葉に何が起こったのか確認する。教室中が騒然とする中、やがて救急車のサイレンが近づいてくるのだった。



************************



 ──二年前


 中学二年生のある時期まで、瑞希にとって半蔵は自慢の幼馴染だった。


 幼い頃から家が隣同士で、幼稚園、小学校、中学校まで同じ学校で育ってきたが、半蔵は少年漫画やスポーツ漫画程度は読むものの、ヲタクとはとても遠い場所にいた。


 半蔵は小学生の時からサッカーがとても上手くて、性格も明るくクラスの人気者だった。

 特に中学に入り彷徨くんと同じチームになってからは、一年生にしてチームの中心選手として彷徨くんと共に活躍し、全国大会に出場するまでになっていた。


 中学二年生になると、県選抜にも選ばれ半蔵と彷徨くんは学校内で知らない者はおらず、女子生徒の人気を二分するほどの有名人となっており、度々ラブレターを渡されたり、放課後呼び出されて告白されることもあった。


「半蔵、また告白されたんだって? モテるわねぇ!! どうするの? 付き合うの?」


 この時の半蔵は私にとって仲のいい自慢の幼馴染でしかなく、恋とか愛とか、そういう対象ではなかった。


 それは半蔵の魅力というよりも、私が幼すぎて初恋すら自覚していなかったからなんだけど。


「いや、断るよ、気持ちは嬉しいけど……。今はサッカーの事しか考えられないし、ボールが恋人だ!!」


「いや恋人蹴っちゃダメでしょ!! それDVだから!!!」


「物の例えでしょうが!!! 人気漫画の超有名なセリフだぞ!!!」


「あはは、知ってるよ。昔からよく言ってるもんね。告白してきた子にはかわいそうだけど、その方が半蔵らしいよ」


 断ると聞いて内心ホッとしていたが、それは彼女ができると今までのように仲良くできなくなるからだと思っていた。

 それが例え私と半蔵が幼馴染だってことをよく知っているクラスメイトだったとしても、だ。


 女子の世界はいろいろと複雑で、もしそうなってからも私が半蔵と仲良くしていたら女子の大半から白い目で見られることになる。

 そうすると私と仲のいい、ののかにまで迷惑をかけてしまうため、できれば避けたいところだった。


 私とののかはテニス部に所属しており、成績は地区大会でそこそこといったところで、スポーツの面で半蔵や彷徨くんとは比べるべくもなかった。

 彷徨くんには彼女がいたため公に告白されることはなかったが、ファンクラブができており試合のたびに黄色い声援が飛び交っていた。


 私とののかも二人の試合の時は一緒に応援に行っていたが、ファンの子たちとは距離を置き、遠くから密かに応援をしなければならなかった。


 今日は全国中学校サッカー選手権の県大会準決勝の試合で、私はいつもと同じくののかとスタンドの隅っこで応援していた。

 半蔵と彷徨くんを目当てにウチの学校のみならず他校の女子生徒まで見に来ており、キャーキャーと声援を送っている。


「いやぁ、相変わらずすごい人気ですなぁ、あの二人」


「ふふん、ウチの半蔵ってば凄いでしょ!!私の自慢の幼馴染なんだから!!」


「出た出た瑞希の幼馴染自慢が。瑞希はそれでいいの?」


「いいの、って何が?」


「あんなに人気じゃ他の子に取られちゃうかもよ?」


「取られちゃうって何よ、別に半蔵は私のものじゃないし。それに『今はボールが恋人だ』とか言ってたし、誰とも付き合う気はないみたいよ?」


「そんなこと言って、今のうちに捕まえとかないと、いずれ高校サッカー部のマネージャーとか、プロになってモデルとか女子アナとかに取られるかもよ~?」


「そ、そんな先のことなんて知らないわよ!!」


 ののかは最近いつもそんな調子で、妙にムズムズすることを言ってくる。こういう話になると私はとたんに居心地が悪くなるので、話を逸らそうと試みる。


「そういうののかだって、二人の事カッコイイって言ってたじゃない」


「彷徨くんも半蔵くんもカッコイイとは思うけど、近藤くんには遠く及ばないね~」


 近藤くんというのは当時売り出し中のアイドルで、ののかは彼に夢中だった。


「それに、熱血!!スポ根!!ってちょっと古くな~い?」


「そんなことないと思うけど……」


「まぁ瑞希はそうかもね。恋は盲目って言うしね」


「もぅ、またそれ? そんなんじゃないってば」


「はいはい、そういう事にしといてあげる。半蔵くんもかわいそうに……」


 その時、ひと際大きな歓声が上がった。半蔵のアシストで彷徨くんがゴールを決めたようだった。


「今のはシュートも上手かったが、あのパスは凄かったな!! ディフェンスの届かない絶妙なコースを通す技術もさることながら、そのパスを出すための一個前のフェイント!! まさにファンタジスタだな、大したもんだ!!!」


 私にはサッカーの事はよく分からなかったが、詳しそうなおじさんがしきりに半蔵のことを褒めちぎっており、私は自分の事のように嬉しく思うのだった。


数ある作品の中から読んでいただきありがとうございます。


読んでいただけるだけでも大変ありがたいのですが、

ブックマークや評価などしていただけると泣いて喜びます。


引き続きよろしくお願いいたします。

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