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Students  作者: OKA
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夏空の居場所


約束した時間の前に私は校門の前に1人で立っていた。

見慣れている学校の風景も毎年この日が来ると姿を変える。

校庭には様々な屋台が並んでいる。

わたあめ、かき氷、やきそば、りんごあめ、たこ焼き、射的、金魚すくい…。

小さな子供たちが、その小さな手の中におさまりきれない程の100円玉を大事に握りしめ、無邪気に走る。

人ごみの中に消えてゆくその小さな背中を私は見つめていた。


それにしても、もう約束した時間ちょうどだというのに、誰1人姿をあらわさない。

まさか、私の誘いをことごとく裏切ったのであろうか?昨日のメールでは全員、来ると言っていたはずであるが…。

園歌そのかは病み上がりの状態であり、遅れることは想像がつく。

だが、残りの4人の状況が想像できない。

はやみさんは几帳面なので1番に来てもいいはずである。

塚原くんも真面目な性格なので、もう来てもいい頃だ。

多分、彼は時見くんと来ているのだろう。あの2人が一緒になると妙に会話が盛り上がる。口数の少ない塚原くんが唯一、多く話している相手が時見くんなのである。

ミレアは…。まさか、また昆虫採集をしているのではっ!

補習のときの借りがある私は、仕返しの計画をしておくことにした。

あらかじめ用意してきた手作りのくじ引きに細工を施す…。







約束の時間から数分後、ようやく1人目が到着した。

病み上がりの彼女は、特に変わった様子もなく普段通りに声をかけてきた。

「ご、ごめんね。浴衣がなかなか見つからなくて…。遅れちゃった。」

「いいのよっ!あんたは優秀よ!!体調がすぐれないのに、速さんより早く来たんだから。」

申し訳なさそうに話す彼女を、私は明るく励ました。

まだ、ぬるい風が私たちの浴衣を揺らす。


「園歌、懐かしいわよね…。」

「…、そうだね…。」







私たちは残りの4人が来るまでの間、小さい頃の思い出話をするのだった…。

















「…麻美お嬢様、朝食のご用意ができました。」


1人では広すぎるその空間に私は閉じ込められていた。

毎日が同じ台詞、同じ動きで組み立てていかれる世界。

その束縛に抗うすべもなく、私は翻弄されていた。

家の中だというのに白々しい周りの人々。幾人もの仕様人が私の全てを奪い去る。


今日から生まれて初めて「学校」と呼ばれる場所に行く。

不安を告げる影が、私の胸を狭窄していく。

「本当はもっと上品な学校が良かったんだけれど、この街には1つしかなくて。」

「大丈夫さ。英才教育をさせてきたんだ。どこの学校に行かせても同じさ。むしろ、学校に行かせなくてもいいくらいだよ。」

高々と声をあげ、笑い合う父と母。

この笑い声は今でも覚えている。

1人の娘を讃える声は、1人の少女を傷つけていく。


家の大きさと同じくらいの建物を見たのは、あの時が初めてだった。

かわいらしい服を着た私と同じくらいの子たちが、その建物の中に入っていく。

1日でこんなに多くの子と過ごすのも初めて。

「学校」とはいったいどんな場所なのだろうか?どんな事をするのだろうか?

体を締め付ける堅苦しい服を我慢して私は「教室」という場所に行った。


「みろよぉ、あのふく!へんなの~。」

「あのコってたしか、ざいばつのコなんだって~。」

「うちのおかあさんが、あんまりはなすなっていってたよ。」

「なんで〜?」







「ソレハ、ミンナトチガウカラ…。」







私は望んでもいないのに、みんなから避けられていた。

まだ、何も知らないのに。

まだ、何も話していないのに。

まだ、何もしていないのに…。







甲高い声がその空間を埋めつくす。話し声と笑い声が入り交じり、1人また1人と紹介が終わるたびに拍手の音が鳴り響く。

その中で私は1人、机に顔を向けることしかできなかった。

自分の順番がくるまでの間、1つの景色しか見れない。

今、みんなはどんなものを見ているのか?

今、みんなはどんな風に笑っているのか?

閉ざされた1つの場所は、確実に私を孤独にさせてゆく。

同じ場所にいるはずなのに…。


「つぎは、貴殿院さんです。…貴殿院さん?貴殿院 麻美さん!」

暗闇の世界の中、私の順番がきたことを知らせる先生の声。

硬直していく体に耐えながら私は黒板の前に向かう。

あまり離れていないのに、なぜか遠く感じる。

私の歩く姿は、みんなの視線を冷たくさせていく。

…ある1人を、除いて…。







やっと見れたみんなの姿はとても残酷なものだった。

誰1人私に目を合わせてくれない。

私が前に来た瞬間、その空間は沈黙した。私は机の上と同じ世界を望まざるを得なかった。

「…。…。…き、きでんいん あさみです。

よ、よろしく おねがいします…。」

そう。私には何もできない。私には何も変えられない。

目の前に広がるのは同じ空間。沈黙だけが私の居場所だった。

…ある1人を、知るまでは…。







家の中も、学校という場所も、教室という空間も私には同じ世界。

私の何がいけないのか。何が悪いのか。何を直せばいいのか。

自分の考えることは所詮、無意味。

涙を堪え席に戻ろうとした時、私の居る世界に微かな光が差した。

「は~あぃ!!!」

元気に手を天井に突きあげ、にっこり笑いながら目を合わせてくれた1人の女の子。

周りにいた他の子たちが不思議そうに彼女を見つめる。

彼女は恥ずかしそうに手をおろし、目をそらした。

よくみると、その子が座るのは私の隣の席だった。

あの時が初めてだった。私が涙を堪えることができたのは…。







小学校に入学してからの毎日、彼女は私の家まで来てくれた。

学校でのみんなの視線は変わらなかった。私の全てが否定化されてゆく。私の存在が影そのものだと思えるぐらいだった。


「おまえ!なんできゅうしょくたべてるんだよ!」

「おじょうさまは、こんなものたべられないんじゃねーのかよ!」

「おまえには、これでじゅうぶんだろぉ!」

給食の時間、私の机に置かれるのは何も食べ物がのっていない空の皿とスプーンだった。

この時も、彼女が支えてくれた。

罵声を浴びながらもただ1人、私を信じてくれていた…。

「しらとり!なんでおまえがでてくるんだよ!」

「おまえもそいつのなかまなのか?きもいわりぃ~。」

「おまえには、かんけないだろ!」


彼女は無言で、私の給食を運んでくれた。







季節の流れは早く、いつの間にか夏がきていた。

長らくの家での生活は、この日差しに耐えられる体をも奪っていた。


「きょうもあついね〜!そういえば、きょうここでおまつりがあるのしってる?」

お祭りという単語は知っていたが、それが何なのかは知らなかった。

境界はあるが、家の中も外の世界もどうせ同じ。

私の住む場所は、外の世界を教えてくれなかった。

「あさみちゃん、いったことないの?いっしょにいってみようよ!いろいろおしえてあげるから!」


そこには黄色い帽子をかぶり海辺を指さす彼女と、胸を高ぶらせる私がいた。







いったん家に荷物を置いてから私たちはお祭りに向かうことにした。私は、玄関の前で鼓動する胸を抑えながら彼女がくるのを待っていた。

「おまたせ〜!いこうあさみちゃん!」

私の手をしっかりと握り、目的の場所に向かおうとする彼女の浴衣姿は、今でも鮮明に覚えている。

夕暮れの夏空、心地よい風が私たちの小さな背中を押していた。







人々が賑わうその場所は見たことのないもので満ち溢れていた。

様々な食べ物の香りがし、夜空を突き抜ける轟音が鳴り響く。これだけの人々が笑い合う姿を、楽しそうにする姿を見るのは初めてだった。

「おまつりはね、みんなでたべて、みんなでわらって、みんなですごすところなんだよ!

あさみちゃんは、なにがしたい?」

何がしたいと言われても何をしたらいいかわからなかった私は首をかしげ、彼女に頼ってしまっていた。

彼女は残念そうな顔をして、どこかに走っていってしまった。


1人になってしまった私は、その場にたたずんだままだった。目尻に涙を溜め堪えていると彼女が戻ってきた。両手に私たちの背丈ぐらいあるだろう大きな袋を持ち、こっちに向かって来た。

「ふう~。はいっ!これは、わたあめっていうんだよ。」

渡された片方の袋の中を開けてみると、ふわふわとした白い塊とが入っていた。彼女の食べる姿を見て、私も真似して食べてみた。

口の中に入れ、舌でなめてみる。優しいその塊は意外にも、すばやく溶けていってしまった。







1つの店だけ異様な人の数であふれていた。私たちは人々のあふれるその中をかき分けながら進んでいた。

そこには、きれいに輝く装飾細工が売られていた。

その光景は、私が今まで見た景色の中で1番美しかった。私は魅了され微笑んでいた。

「あさみちゃん、どれがほしいの?」

彼女の問いかけに私は首を横に振る。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。幼い自分は、あらゆるものから逃げていた。

「…あさみちゃんは、いつもそうだよね。」

いつも笑っていた彼女はその時、真剣に私と話をしてくれた。


「もっと、あさみちゃんはじぶんをみんなにつたえなきゃ。

がっこうでも、ほかのコとちゃんとはなした?…はなしてないよね。

あさみちゃんはひとりにされているんじゃない。」







ひとりに、なりたがっているんだよ…。












私は勝手に自分が憎まれているのだと勘違いをしてきていた。

自分の身分がいけない。自分の格好がいけない。

周りの人間は私を別の世界の人間にさせようとしている。

ならば私はみんなが望む世界で生きよう。

何を言われても何をされても知らないフリをする。

仮面を被りひたすら本当の自分を隠す。

それが私の正義だと思ってきた。

だけど、もうその必要はないことを知った。

そう、私は。







わたしなのだから…。












彼女は私に1つ選んで買ってくれた。

何の変哲のないただの髪留め。

値段も1番安く、たくさん売れ残っていた商品。


「………あ、ありがとう。」

私は嬉しかった。初めて心の底から見えた感情。

それは、本当の自分の気持ちを初めて、伝えられたことだから…。

















「麻美?麻美っ。麻美!」

「あ~。ごめんゴメン。で、どこまで話したっけ?」

「麻美ったら急に遠くを見つめて、ありがとうって言ったからビックリしちゃったよ。」


…しまった。おもわず声に出してしまっていたようだ。

私はあわててしらを切る。園歌の追求に必死に対抗していると、残りの4人がようやく来た。

「ごめんね。途中で白川先生に会っちゃって…。」

「悪い。遅れた。時見のせいで。」

「半分はお前だろ!塚原っ。」

「愛しの麻美におみやげだ~。」


私たちの脚先は、賑わう光の中へと導かれていく。

「~ッ!ミレアはしつこいっ!!!」







お揃いの青い髪留めが、2人に今日も時を刻んでゆく…。












私たちは今なにを感じ、なにを見つめているのか。

私たちには理解できなかった。

この夜空に満ちる花に出会うまでは。

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