19:薄紅色の願い
薄紅色
校門の隣で佇むそれは、ただ、綺麗で
見とれていて…
命の限界
奥深くに潜む影が、身体を包み
そして…、全てを否定する
……………
途方のない海
そう、このまま沈んでいくだけ…
離れていく…
いつも見えていた空にはもう…
届かな………い…
「……………………………………………………………………、くん………?」
屋上に来て、だいぶ時間が過ぎた。
約束の時間より早く着いてしまった…。
あと数分もすれば全員、集まる。
…、さすがに立ち続けたままで待つのは…きつい。
座りたいのだが、今朝の雨のせいで水たまりが足下を制圧している状況。
腰を下ろした瞬間、推測される冷たい浸食…。
改めて、シートを用意するべきだったことを…反省する。
俺以外の誰かが持ってくることを祈るしかない。
すでに誰か居ると思って来たのだが、…予想外の結果。
まさかの俺、だけ………
こうして、1人で待つのは………苦手。
話をする相手がいない、何をしたらいいかわからない、時間の流れが遅く感じる…
……………………………………………………………………。
…。
………。
………………、…。
「………、時見………くん?」
「っ!!!」
「…やっと気づいてくれた………」
「…本当に………、…飛馬………?」
「………、ふ、ふふふっ!」
「…?ど、どうした急に笑いだして…」
「…う、ううん…、なんでもない…
ちょっと、かわいいな…ってね。」
「…???」
「…ふふっ。
隣り…いい………?」
「…、………。
…ああ」
会うのは体育祭以来…
今でも、覚えている。
飛馬がリレーのアンカーで走り抜ける姿…
そして、一番速く白線を………越えた…
みんなが笑顔で彼女を囲んでいた。
でも、その中には…涙があった
…嬉し涙………
本当に、温かかった………。
いつまでも、あのままでいたい
そう思っても、…叶わない
明日はもう…
…ふふっ、何を黄昏ている………んだ…
…出会いと、別れ…
…知ってるよ
俺が今から何を受け入れなければならないかことか…ぐらい………
……………。
「…時見………くん?」
「………?」
「どうしたの…
さっきから、ずっと海を見つめて…」
「…、え?」
「何を…考えてるの?」
「特に…」
「…うそ」
「…!!!」
「そんな元気のない顔で言っても、説得力ないよ…」
「…ははは」
「…時見くん。私にはわかるよ…」
「………」
「卒業式のこと………、…だよね。」
意識していないぞ…、俺は。
なのにどうして…なんだ。
どういうこと…だ。
無理やり……………隠している?
おかしい…ぞ。
こんなはずじゃなかった…のに。
急に胸が………熱い
抑えられ…ない
そうか………
飛馬の言葉が俺を正直にさせたんだ…
いまこの瞬間まで、見て見ぬフリをしていた自分…
バカ………だな…
この季節は嘘をついちゃいけない…
だから…、いいんだ。
…俺が自分を認めるということ
すべてを…出していいんだ。
「校門の横にある桜を見ていたんだ…
一枚の花びらが風に流されて…
…海に、舞い降りた」
「…。」
「初めは、たった一枚だけ…
そして、次第に海は薄紅色で染まっていった…
…数えきれない綺麗な、花びらで」
「…。」
「でも、しばらくすると沈み始めた…
何も見えない海の底へと…
堕ちていく…」
「…。」
「もう、今見えるのは消えていく姿だけなんだ…
あの桜にはもう…
…花びらが、………ないんだ…。」
「………。」
戻れない。
拒めない。
逃げられない。
避けられない。
認めなければならない。
従わなければならない。
受け入れなければならない。
進むしかない。
越えるしかない。
立ち向かうしかない。
勇気を出すしかない。
でも…
恐いんだ…
痛いんだ…
苦しいんだ………。
「…時見くんは、気づいていないんだね…」
「…、………え」
「さっきも、そうだった…
声をかけたのに、…。
気づいてくれなかった………」
「………、…。」
「すべて見えなくなる…って思っているかもしれない
でも、それは間違い…。
そして、その証は近くに隠れている…」
「…、…。」
「…意外と、自分じゃ気づけないもの…だよね」
…!!?
飛馬の身体が近づいてくる…
…?
………え
これはどういう…展開…だ………
さすがに無い…よな…
…っ!!!!!
顔を近づけ………て…くる……………
いや、急すぎる…
まさかこんな事が…
心の準備がまだ…
…ま………だ…………、…
っふ!!!!!!!
……………………………………………………
………………………、………………………………………………。
…、あれ………?
「この薄紅色に、…また会える…、よね………」
春風が吹く高校の屋上
そこには悪戯な笑顔で少年の頭についた桜の花びらをとる少女がいた
やがて、それは掌から空の彼方へと離れていく…