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Students  作者: OKA
25/30

18:雨上がりにその腕を伸ばして

じっと見つめるとわかること

ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり…

数えきれない白い塊が動いている


あのカタチは昨日と同じ…カタチ?

胸の中で問いかける

でも

答えは…


いつもこの空は俺を見つめている

でも、俺はいつもこの空を見つめていない

そう

だから、あのカタチがわからない…


ふと見上げるとあるあたりまえな景色

それを当然のように見つめる…自分

腕を伸ばしてもあのカタチは、もう…











青い空と白い雲

その狭間から差し込む柔らかな日差しが

何も掴めないその腕を寂しく照らす

















今日の予報は晴れのち雨。

でも、この空を見る限りとても雨が降りそうな天気には見えない。

…。

どうせまた、はずれ…だろう。


これなら折りたたみ傘を持ってくるのだった…。

この透明のビニール傘というのは見分けにくくて困る。

学校に着いたらこの傘のそっくりさんが勢揃い。

帰り際、傘立てに立ち寄ると自分の傘が見当たらない…。

誘拐?神隠し?いや…。

傘隠し…ってね。


気のせいかさっきより空が暗くなったように感じる…。

見ればわかる状況。

これは、ちょっと危ない気配…。

久しぶりだ、正確に予報が当たるのは。

「午前中に通り雨が…」

とりあえず、この言葉だけでも聞いておいてよかった…。


段々と雨足が強くなってきている。

こういう時は大きさで勝るビニール傘の方が有利。

折りたたみだと骨組みがもろく、走りには適していない。

走る際に雨が傘をかわし、体に襲いかかることは…まぁ………。

とりあえず、…急ごう。






………。

…、………?

…あの傘は、もしかして…。











陰鬱な時雨しぐれが微細な音を紡ぐ中

走りだそうと濡れた路地にあしを踏み込んだその時

瞳に鮮やかな傘が映り込んだ…
















「…白鳥…?」

「…あっ、時見くん…」

「本当に、急だよな…」

「雨の日に走るのは…慣れないな…」

「こう降られると学校に着く時間が変わるんだよな…

 傘を差した人で溢れかえる商店街を抜けないとだから…

 …はぁ、このペースだと間に合わないな…」

「こういう時に、白川先生の授業が役に立つんだよね…」

「…?」

「ダイエットだと思えば、頑張れる気がする…」

「…、皮肉…だよな」


周りを見渡すと大量発生したビニール傘。

正確に言うと俺たちと同様、学校へ急ぐ生徒が傘を握り必死に走っている。

だれか1人でも止まったら大渋滞…

…商店街で起こるおじさん方の通勤ラッシュさえ緩和できれば解決するのだが。

当然そんなことは不可能であり、(すそ)を濡らしながら走らなければならない…。






「明日は筋肉痛で卒業するようだな…」

「………、…………………。」

「そういえば、貴殿院が今日の放課後に屋上に集合とか言ってたな」

「電話で…連絡きたね」

「まぁ、これじゃ中止だな…」

「『お菓子と飲み物は必須だからねっ!!!』って、言ってたけど…」

「いったい何をする気でいたのか…」

「…、………。

 明日は、晴れると…いいね」


傘越しに見える雨粒。

口元から漏れる吐息が、この透明な衣に霞みを描いていく…

水たまりを避けまた一歩、進んでいく

俺の隣にいるのは白鳥(かのじょ)

そして、白鳥(かのじょ)の隣にあるのは静止した海。

見えるもの全てが悲しく…見える

なぜだろう

雨のせい…か?

……………。






「今日はこっちの傘…なんだな」

「…ビニール傘だと、どれが自分のだかわかんなくなっちゃいそう…だからね」

「その傘、随分と大切に使っているよな…」

「高校に入学した時から使ってるから、もう三年経つかな…」

「めずらしいよな…

 女子で青色の傘、差すなんて…」

「…変…だよね。」

「…いいや、そういう意味で言ったんじゃ…」

「………、…。

 私ね…、どうしてこの色が好きなのか…わからないんだ」

「…、?」

「…どうしてだろうね、特別に好きだった記憶は…ないのに」

「…。」

「理由がないのに、………好き…

 …………………。

 …おかしいよ…ね」


通り雨じゃないのか?

なんでこんなに寒いんだ

やっぱり、(はずれ)だったのか…

何を根拠に天気がわかるのか

…何も、知らない

結局、訪れるその時までどうなるかはわからない

気まぐれな確立

そんなものに、この空は支配されている…

…そして、この腕はあの厚い雲を取り払うことができない

…どうすればいい

いつまでも俺はここで見つめることしかできないいのか…

…いいや、…違う………。






「理由なんて…なくていい」

「…、え?」

「確かに特別な思いがあることは大切…

 でも、それ以上に大切なことがある…」

「…、…。」

「いつも見ている景色があたりまえに感じること。それは、当然なこと…。

 …でも、こうして雨が降ると見えなくなってしまう…」

「………。」

「あの(あお)はいつも俺を見つめていた。でも、俺は見つめていなかった…。

 この(くろ)身体(からだ)を包んだ時、俺はようやく見つめた…。」

「…………………」

「俺は気づいた…。

 あの(あお)が好きで、この(くろ)が嫌いなことを…

 いつも見つめていなかったからずっと…、気づけずにいたんだ。」


いくら伸ばしても、この腕は届かない

どれだけ背伸びをしても、近づけない

決して…掴むことのできない存在

どれだけ待ち続ければいいのか…

立ちつくしたまま見つめるというだけの行為

時間だけが過ぎていく

でも、いいんだ…

だって、こうしていることの方が俺は

………好き…、だから

理由なんてない

だけど、なんだか…







…温かい…んだ
















交差する雲と太陽

差し込む日差しが織りなすその光はやがて濡れた(みち)を照らしだす

穏やかな風はきらめく海面みなもを揺らし、そして彼等を優しく包む…







「…さぁ、行こうか白鳥…」

「…うんっ」

「…あ、ちょっと待って…」

「…?」

「…あと、もう少し…」

「…何、してるの?」

「…ふふっ、見ての通り…」

「…、!私もやってみようかな…」

「2人なら、いける…かもな………。」












澄み渡る青空の下、そこには綿雲を掴む…二人がいた

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