表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Students  作者: OKA
18/30

12:大切なもの

…………………。






デスクの上に広がる書類。

専門学校、大学進学、就職…。

どれも生徒の未来が書かれた…大切なもの。

………。

…あっという間だ。

すこし前に入学してきたと思っていたのにもう…、別れの季節。

こうして書類にサインをしていく度に胸の奥に穴が出来ていく。

一つ、また一つ…。

何年経っても、この気持には慣れない。

勝手に目尻が熱くなる…。







「ガタン」


…ダメだ。

気分転換しよう。

このまま筆を進め続けたら感情が破裂してしまう。

手首もだいぶ痛くなっていることだし…。

………。

えーと確か、この引き出しの中に…。

…、今度ここも掃除しておこう…。

…。よいしょっ…と。







「パラパラパラパラパラ…」


ふふっ。

笑ってしまう。

こうして高校生(むかし)の自分を見つめると恥ずかしくて、息苦しくなる。

でも。

…同時に感じるこの気持ち。

懐かしくて、温かくて、柔らかい…。

そう。

まるで昔の自分に手が届くように。

………。

絶対にそんなことはありえない。

だけど。

なんだか、嬉しい…。






…………………。






泪が、溢れてきちゃう…な。
















「お前も、白川と同じ(ところ)に栄養がいけば良かったのにな…。」


急いで零れそうになった雫を堪えとめる。

背後から聞こえる自分以外の声。

それは紛れもなく高校生(むかし)からの友達…。






「島田ぁ!いきなり入って来るな!」

「おうおう悪いな。…てか、島田先生って呼ぼうぜっ。校内なんだから。」

「お前はいつも私のこと呼び捨てだろうが!」

「ちゃんと白川、島田、君主にも呼び捨てだぜっ!」

「…、自慢して言うな!」


私の背中越しからアルバムを見つめる島田。

彼の瞳に映るもの。

それは必然と私たちの過去を思い出させる。






「…。」

「…、島田…?」

「……。」

「……、おい…?」

「………。」

「………。」


突然の沈黙。

…彼の掌が力なく震えている。

私は定まらない瞳で見つめる。






「なあ、長原…。」

「…。」

高校生(むかし)の自分から成長できたと思う…か?」

「………。」

高校生(むかし)の自分から変われたと思う…か?」

「………。」

高校生(むかし)の自分から強く、なれたと思う…か。」

「………。」


私は全ての質問に頷くことができなかった。

再び目尻が熱くなる自分、掌を震わす彼…。

二つの視線がアルバムの上で、…重なる。
















高校生(むかし)の俺たちはどんな存在だったんだろう…な。

 俺にお前、白川に細田に君主。

 そして…。」

「………。」

「あたりまえな日常を暮らしていただけなのに。

 こうして…。

 再び見ると…、溢れてくるな…。」

「………。」

「あの日がくるまで俺たちは…気付づけなかった。」

「………。」


泪が零れる。

(にじ)む映像。

しかし、それでも過去の現実は、…変わらない。






「アイツと約束した…。」

「………。」

「俺たちの夢は、アイツとの約束そのもの…。」

「………。」

「だから俺たちは今、この場所(せかい)に…いる。」

「………。」


デスクの隅に置かれた一枚の写真を見つめる彼。

それは…。

私たちが初めて一緒に写った一枚。






「俺たちが夏祭りに行った時のやつ…だな。」


アルバムには刻まれていない一枚。

最初で最後…。

私たちが1人を囲んでいる写真。






「こんなに…笑いやがって…。」


中央に写る青い浴衣を着た彼女に、彼は崩れた声を投げつける。

抑えられない感情がまた一粒。

私たちの目尻から溢れてくる。






「…お前、なんでこれを飾ってるんだ………。」

「…………………。」
















私たちの…大切なものを、忘れないようにって…ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ