12:大切なもの
…………………。
デスクの上に広がる書類。
専門学校、大学進学、就職…。
どれも生徒の未来が書かれた…大切なもの。
………。
…あっという間だ。
すこし前に入学してきたと思っていたのにもう…、別れの季節。
こうして書類にサインをしていく度に胸の奥に穴が出来ていく。
一つ、また一つ…。
何年経っても、この気持には慣れない。
勝手に目尻が熱くなる…。
「ガタン」
…ダメだ。
気分転換しよう。
このまま筆を進め続けたら感情が破裂してしまう。
手首もだいぶ痛くなっていることだし…。
………。
えーと確か、この引き出しの中に…。
…、今度ここも掃除しておこう…。
…。よいしょっ…と。
「パラパラパラパラパラ…」
ふふっ。
笑ってしまう。
こうして高校生の自分を見つめると恥ずかしくて、息苦しくなる。
でも。
…同時に感じるこの気持ち。
懐かしくて、温かくて、柔らかい…。
そう。
まるで昔の自分に手が届くように。
………。
絶対にそんなことはありえない。
だけど。
なんだか、嬉しい…。
…………………。
泪が、溢れてきちゃう…な。
「お前も、白川と同じ胸に栄養がいけば良かったのにな…。」
急いで零れそうになった雫を堪えとめる。
背後から聞こえる自分以外の声。
それは紛れもなく高校生からの友達…。
「島田ぁ!いきなり入って来るな!」
「おうおう悪いな。…てか、島田先生って呼ぼうぜっ。校内なんだから。」
「お前はいつも私のこと呼び捨てだろうが!」
「ちゃんと白川、島田、君主にも呼び捨てだぜっ!」
「…、自慢して言うな!」
私の背中越しからアルバムを見つめる島田。
彼の瞳に映るもの。
それは必然と私たちの過去を思い出させる。
「…。」
「…、島田…?」
「……。」
「……、おい…?」
「………。」
「………。」
突然の沈黙。
…彼の掌が力なく震えている。
私は定まらない瞳で見つめる。
「なあ、長原…。」
「…。」
「高校生の自分から成長できたと思う…か?」
「………。」
「高校生の自分から変われたと思う…か?」
「………。」
「高校生の自分から強く、なれたと思う…か。」
「………。」
私は全ての質問に頷くことができなかった。
再び目尻が熱くなる自分、掌を震わす彼…。
二つの視線がアルバムの上で、…重なる。
「高校生の俺たちはどんな存在だったんだろう…な。
俺にお前、白川に細田に君主。
そして…。」
「………。」
「あたりまえな日常を暮らしていただけなのに。
こうして…。
再び見ると…、溢れてくるな…。」
「………。」
「あの日がくるまで俺たちは…気付づけなかった。」
「………。」
泪が零れる。
滲む映像。
しかし、それでも過去の現実は、…変わらない。
「アイツと約束した…。」
「………。」
「俺たちの夢は、アイツとの約束そのもの…。」
「………。」
「だから俺たちは今、この場所に…いる。」
「………。」
デスクの隅に置かれた一枚の写真を見つめる彼。
それは…。
私たちが初めて一緒に写った一枚。
「俺たちが夏祭りに行った時のやつ…だな。」
アルバムには刻まれていない一枚。
最初で最後…。
私たちが1人を囲んでいる写真。
「こんなに…笑いやがって…。」
中央に写る青い浴衣を着た彼女に、彼は崩れた声を投げつける。
抑えられない感情がまた一粒。
私たちの目尻から溢れてくる。
「…お前、なんでこれを飾ってるんだ………。」
「…………………。」
私たちの…大切なものを、忘れないようにって…ね。