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Students  作者: OKA
17/30

11:時を刻む音


浜辺(ここ)に来るのは…、娘が小さい時に遊びに来た以来…。」
















「パシャ」


この音が鳴り響く度に刻まれていく。

一枚、また一枚…。

見えるもの全てが真実なの…か。






「パシャ」


今の自分は大切なものを見つめているのに。

未来の自分は瞳をそらしてしまう。

過去の自分は真剣に見つめていたはずなのに…。






「パシャ」


記憶(アルバム)をめくると残されている。

楽しいこと、辛いこと、悲しいこと。

そう、すべて…。






かけがえのない大切な、一枚。
















………………………。






あの大震災が起きた時、俺は撮らざるしかなかった。

…目を逸らしたい。

必然と映りこむ、変わり果てた世界。

娘の笑顔、高校生、そして街並み…。

それまで溢れていた全てが、切り裂かれた。






破壊された建物、燃え続ける火の海、押し潰されている人間…。

黒煙が空の色を制し、血の匂いが漂う。

鳴り響くサイレンの音。

海に映りこむ死影の残像。

奪われ、壊され、失った…。






自分はわからなくなった。

この目の前に映る、この目の前で倒れている、この目の前で崩れている…。

これが、今、なのか…?

レンズ越しに映る。

見たことのない世界。






願い祈り続けても変わらない現実。

ちっぽけな自分の希望。

嘘…だよな?

きっと夢の途中…なんだ。

……………瞳を閉じさせて………くれよ…。






突然すぎる。

誰が望んだんだ?

メチャクチャだよ。

…なんでこんなことするんだよ。

返して…くれよ。






………………………。





荒廃した街の中で俺は1人撮っていた。

…現実。

大勢の子供が親を亡くし。

大勢の親が子供を亡くし。

大勢の人が希望を失くした。






シャッタを切る度に胸の底に傷跡が刻まれていく。

震える指先、震える身体、震える唇。

耐えきれない…。

流れ落ちる涙が乾いた地面に溶けるのを見て。

自分も、消えたいと思った。






本当は目を逸らしたい。

でも。

見つめ続けた。

俺が見つめなければ。

…伝えられない。






一枚、また一枚…。

数えきれない写真を撮った。

どれも残酷な映像…。

だけど。

それを撮るのが俺の、宿命だった。






街は歳月をかけ姿を戻していった。

…少しずつ。

しかし、それは塗り固められた偽り。

どれだけ描こうとしても。

もう、前には戻れない。






………………………。
















足下(あしもと)に広がる砂の欠片を両手にとる。








…娘は覚えていない。

この浜辺で一緒に遊んでくれた高校生(あのこたち)のことを。

歌を教えてくれた長い黒髪の彼女のことを。

そして。

1人の男の子のことを…。






あの時と変わらずこの水平線は続いている。

憎いほどに…。

同じカタチ。

俺たちは忘れられない。

この世界は見せつけてくる。






なら、受け止めればいい。

全てを受け止めて。

全部、変えてやる。

そう。

…幸せ…というやつに。






簡単なんだ。

何もかも手にするのは。

…でも。

気付かないうちに。

零れ落ちてしまう。






だから…。

握りしめるんだ。

両手で。

包み込む。

絶対に零さない…ように。






自分の掌の上で砂をやさしく包み込む。
















「………。

 お父………さん?」


振り向くとそこには、制服姿の不思議な顔をした娘が立っていた。
















「お母さんが心配してるよ!どこまで買いに行ったんだって!」

「ゴメンごめん。」

「私、わざわざ商店街まで探しに行ったんだからね!」

「わるかったね。」

「お父さんにまかせるといつもこうなるんだからっ!」

「…あはは。」


こうして2人で歩くのは…久しぶり。


「…で、さっきは何してたの?」

「…別に。」

「ふーん。砂をじっ~と見てたけどね…。」

「…あはは。」

「ま、いいや。ほら、片方持ってあげる!」

「…ありがとう。」


両腕を塞いでいた買い物袋の片方を娘に渡す。


「…なにやってるの?」

「えっ、カメラいじってる。」

「見ればわかる!そうじゃなくて、…まさか撮るの!?」

「うん。」

「えー、いいよ!学校でたくさん撮ってるでしょ?」

「ま、記念にさ…。」


空いた片手で首にぶら下がるカメラを持つ。


「はーぁ。一枚だけね。」

「…ああ。」

「早く撮ってね。恥ずかしいから…。」

「わかった。」

「…あっ、ちょっと待って!前髪が…っ。」

「3、2、1…ハイ!」


慌てた様子のいい一枚が撮れた。


「今のナシっ!早すぎるわよ!」

「何回撮っても同じだよ。」

「……………。」

「…あれ、いい意味で言ったんだけどな…。」

「…もういいよ。映らない…。」

「…あはは。」


()ねたこの顔も…かわいいな。


「あっ、また撮ったでしょ!」

「じゃ、お詫びにもう一枚ほど…。」

「自分が撮りたいだけでしょうがっ!」

「バレたか。」

「本当にこれで最後ね…。」

「はいはい。」


…俺は撮り続けよう。


「はい、いいよ。」

「ほんとに?」

「早く!」

「ほんとに???」

「しつこい!!!」

「…ふふっ。」


俺が見つめているのは…大切なもの…だから。
















「パシャ」


時を刻む音がまた一枚…。
















「帰ろうか、園歌…。」

「…うん。」


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