光
…。
ここから望む景色。
…俺は。
好きであり…。
嫌い…だ。
……………………………。
「カチッ」
手探りでポケットの中のライタを取り出し、蓋を開ける。
………。
無意識に胸ポケットから最後の一本を取り出す。
「チチチチチ…」
鼓膜を揺らす燃え盛る音。
白衣が大きく揺れる…。
風にあおられその赤色は、加速していく。
「スーーーーーッ」
指先に灯る小さな炎を見つめながら大きく、吸い込む。
いつ始めたのか…。
手繰り探しても記憶の中にはもう…、その断片は見つからない。
「……………。」
渋い煙が体内を支配し、奥深くへ浸透する。
胸の中で言い聞かせる…。
過去の自分は不確かで、…曖昧な存在。
「…、フゥーーーーー。」
吐き出した煙は身体を包み、やがて静かに消えていく。
不思議に思う…。
そんな自分が今もこうして、この場所にいること…が。
…………………。
…もうすぐ、夜が…明ける。
病院の屋上から見える二つの空。
それは。
青空と暗闇。
頭上に広がるこの空。
なんで、夜の空は黒なんだ…?
どうして、青いままでいて…くれないんだ…。
俺のいるこの場所では青い空を「朝」と呼び、黒い空を「夜」と呼ぶ。
そう、それは…。
胸の鼓動を「生」と呼び、停止を「死」と呼ぶ…ように。
……………。
「スーーーーーッ、ハァーー…」
燃え盛る炎は灰を生みだし、足下に死骸を散らす。
「夜」が死んで「朝」が生まれる。
「朝」が死んで「夜」が生まれて………。
そうしてこの場所は、…動いている。
どこまで続くのか…。
一つ、また一つ…。
時を重ねる度に長く、連結していく。
その鎖は円を描き、やがて…繋がる。
そして…。
無限に続くこの「日常」をつくりだす…。
……………。
「スーーーーーッ、ハァーー…」
足下の死骸は風に出会い、大地へと運ばれる。
毎日………、同じようなカタチをしている。
だから…。
何も気づけないまま過ごして…しまう。
貪欲な膨らみは身体を溶かし、狂わせる。
数えきれない「日常」を過ごしても…。
それは消え…ない。
大切なものを探しているのに見つけられない。
…あたりまえ………なんだよ。
それは初めから…、持っているもの…なのだから。
……………。
「スーーーーーッ、ハァーー…」
大地についた死骸は、新たな生の種となる…。
……………。
…夜が、明けて…いく。
今、見つめているこの朝日は繋げられた…もの。
暗闇が姿を変えて。
再び、こうして俺を迎える…。
笑っても、泣いても、悲しんでも…。
いつでもこの水平線は続いている。
…痛いほど、残酷に………。
…自分がこの場所を嫌っても、憎んでも、拒んでも…。
何も変わらない。
いつまでも俺の瞳に…過去を、見せ続ける…。
……………………………。
一服を終えた白衣の男は仕事場に戻っていく。
「………なあ…。」
白衣の男は初日を背に崩れた声で呟く。
「お前はいつまで俺に、その光を………、見せつけるんだ…?」
あの頃の高校生が見つめていた一時の…幸せ…を。