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Students  作者: OKA
14/30

9:一番星を見つめて


…雪が激しくなってきた。

急いで楽器を片付けよう…。


「今日も良かったぜ塚原っ!」

「明日もこの調子で頼むぜっ!」


背中を勢いよく叩かれる…。

俺も負けずにソイツらの背中を叩く。


「ああ、本番はもう明日だからな…。

 気合い、入れないとなっ!」


「バコンッ!」


鈍い音が白く、冷たな街に響いていく。


「…っ、痛ぁ~。」

「お前、少しは手加減しろよ~。」


この注文に対して俺は即答する。


「…やだね。」

「ほんと、お前は容赦ねぇな~。」

「…まっ、塚原…らしいな。」


この発言に俺は半分、笑いながら言い返す。


「…、いつも俺は、本気…なんだよ。」


吐き出した息は限りなく空へと近づき、雪の色と同調していく。


「…ふっ、言ってくれるな。」

「俺たちも、見習わなきゃだな…。」


肩についた白い欠片を振り払う。

…指先が少し、かじかむ。


「明日は楽しい夜に…、しような。」

「もう、俺たちでやるの最後…だから…な…。」


足下あしもとに積りゆく雪が冷たく、靴を包む。


……………。


「…じゃあな、塚原。」

「また明日な…。」


正面に見える白い大きな木。

電飾で枝先を覆われたその木は今、この街をやさしく照らしている。


「………ああ…。」


降り続ける雪の中、その誇らしく輝く姿を羨ましく見つめながら俺は強く、答える。


………。


互いを見つめ確かめるように頷き、俺たちは静かに別れる。


「…。」


通り抜ける風。それは今日も、…冷たい。
















「…、………。」


暗闇を照らす眩い光。

…店の照明か。

もう完全に陽は沈んでいる…。

普段のこの時間ならこんなに人はいない。

バンド仲間と別れた俺は、いつもと違う姿の街を歩いて行く。




「…、………。」


…寒い。

制服の上にコートを着ていても冷気が身体からだを突き抜けてくる。

…連日、降り続けている雪。

どうしてこの季節はこんなに冷たいのか?

なぜ、こんなに降るのだろうか…。




「………。」


周りの景色はもう、明日を待ちかまえている。

またたきするたびに映り込むもの。

それは俺を無意識に引き寄せていく。

…今年も残りわずか…。

どれもこれも自分が考えていたより早く、過ぎていった…。

初めはそんな風に、感じなかったのに…。


「……………。」


…不思議だ…な…。






ふと、空を見上げる。

頭上に遥かに広がる漆黒の空。

その向こう側で輝く、一つの光。


果てなく続く雪の中、俺は強く輝く一番星を見つめる。


………。




公園で歌い、海辺で歌い、商店街で歌い…。

学校以外で歌うようになったのは高校生になってから。

…。

バンドを始めたのもちょうどその時。

…思えばキッカケは本当に些細だった。


あれは、高校の入学式の日…。






立ち止まるその少年に一つ輝く一番星は、記憶の欠片を語りかける。
















「きーみーの声が聴きたいから、ぼくはうーみーを眺め…。」


歌い終えた後に込み上げてくるこの感覚。

その正体が知りたくて俺は歌い続けている。

誰も見てない場所で、誰にも気づかれず、誰にも知られないうちに。

ただ、声を空いっぱいに出してみると自分に、勇気があるような気がして…。

…そう信じて今も、この場所にいる。


新品の制服が爽やかな風に揺らされる。




「………。」


…本当の勇気があれば、ここにはいないだろう。

今まで、友達と呼べる友達はできなかった。

どうして俺は気持ちを上手く伝えられないのだろう?

ただ話すだけ。

そんな簡単なことが俺にはできない。

…歌うことなら、できるのに…。


春風が吹く屋上で、どこまでも広がる海を見つめる。




「………っ。」


小さい時、砂浜で会った長い黒髪の人。

あの時、あの人は俺に勇気をくれた。

…決めたんだ…だろ。

俺は歌で気持ちを伝えていくことを。

…でも、どうすれば…。

どうすれば歌を人に聴いてもらえるのだろうか…?


桜の花びらがまた一枚、風に流される。




「今日からもう、高校生…か…。」






……………。






「…君の歌、私も知ってる………!」

「!!!」




突然、俺の横に人が現れた。

…俺以外に誰もいなかったはず…。

俺の驚いた表情に、はにかみながら彼女は歌い始めた。


「きーみーの声が聴きたいから、ぼくはうーみーを眺め…。

 あなたーのー笑顔が欲しいから、わたしーはー空を見る…。」


俺の記憶の深くに眠るあの人の輪郭が、蘇ってくる…。






「…。」

「あ、もう行かなきゃ…。

 …私の名前は白鳥園歌。

 クラス、一緒になれたらいいね!」


偽りのない笑顔でそう言うと彼女は走り去って行った。






「………。」


俺は名前すら伝えられないままその場に立ち尽くしていた。






「キーン、コーン、カーン、コーン…」


予鈴よれいが鳴り響く。

…もう、指定された教室に行かなけらばならない。






「…………っ…。」


てのひらを強く握りしめたまま俺は唇を噛みしめる。

足下あしもとに散れた桜の花びら。

それを無情に踏みつぶす乱雑な俺がいた。


















高校生になったその日、俺は屋上で同じ歌を歌う彼女と出会った。


この出会いこそ、今の俺を導いたキッカケ…。


屋上で別れた俺はそのあと同じ教室の隣の席で再び、彼女と会う。




それが、今の俺に…つながったんだ…。

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