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Students  作者: OKA
13/30

8:白い欠片


……………。




空からちる白い欠片。

一粒、また一粒…。

窓越しから見える白銀の世界。


乾いた空、凍てついた風、白い大地。

映るのは、どれも冷たな景色。

透き通るその色は街全体を包んでいく。


校門の横にたたずむ大きな木。

春に桃色の花を咲かせたその木は今。

つぼみをつけ呼吸している。


からだを覆う葉はすべて散り身を守るものはない。

白い欠片が枝先を包み、冷たく染めていく。

それでも、その木は静かに立ち誇る…。




……………。






…授業の終わりを告げるチャイムの音が、聴こえてくる。
















「バゴンッ!」


この用具入れには毎回、悩まされている。

ほうきやら、ちりとりやら、バケツやら…。

このままだと、らちがあかない。

…えっと、これをこうして…っと。


「バゴンッ!」


…っ、イライラする。

なんだ、この汚い雑巾は?チョークの粉が染み込んでいて鼻がむずむずする。

前の掃除当番は何をしていたのだろうか…。

教室よりもまず、こっちの掃除をしなくては。

ほこりやら髪の毛やら…。

…っ、なんだ?この虫は…。


「バゴンッ!」


ふう、やっと閉まった。

手を洗ってこよう。…、制服が汚れてしまった。

何はともあれ、俺はこれで終わり。あとは、残り3人が終われば帰れる…のだが。






「パッ、パッ、パッ、パッ、パッ、パッ、パッ…」

「ちょっ…、ミレア!もうちょっとあっちでやんなさいよ!」

「いや~、こうしてくっ付いてやんないと、寒いんですもの~。」

「雪が降ってるんだから当たり前でしょ!ガマンしなさいっ!」

「ガマンできないからくっ付いてるんデスヨぉ~。」

「…って、変なところ触るな~っ!!!」


ベランダで黒板消しをはたく貴殿院と藤林。

貴殿院は真面目に掃除しているのだが、藤林がちょっかいを出してなかなか進まない。

さっきから同じ言動の2人…。

俺はこの悪循環を解くために声をかける。


「俺はもう、帰れるんだが…。」


いかにも、迷惑そうな顔で言ってみた。


「ほらっ、時見くんが怒ったじゃない!

…ごめん、もう少しだから…。」

「…す、すみませーん。」


いつもなら騒いでごまかす2人だが、今日は素直だ。

まあ、掃除のほとんどは俺がやったのと同然。

主導権はこちらにあるため強く反抗できないのだろう。


「…っ、寒いから扉を閉めるわよ!ミレアはこれ、戻してきて。」

「りょうか~い。」


ブルブルと身震いし、扉を閉める貴天院。

ピカピカになった黒板消しを片付ける藤林。

閉ざされていく扉の隙間から、風が教室の中へと通り抜ける。


「スーーーーーッ」


…呼吸するだけで胸が痛む。

凍えた風は肺に入り、身体からだに浸透していく。

街を包む風の軌跡は、俺までをも白色に染めていく…。






「…それにしても園歌、遅いわね。」


窓の外を心配そうに見つめる貴殿院。


「ふむ、もう帰ってきていい頃だけどね…。」


同情した顔つきでうなずく藤林。




白鳥はゴミ捨て担当。

ゴミを校舎の横にある焼却炉まで運び、新しい袋を職員室まで取りに行かなければならない。


あの大きな袋を捨てに行くのは一苦労。

両手が塞がるほど大量なので時間がかかってしまう。

なので、遅くなるのは仕方がないのだが…。


「…園歌、なんか最近、様子…変よね…。」

「私が絡んでも、上の空な反応しかしないしね…。」

「…大丈夫かしら。様子、見てこようかしら…。」

「うーん、確かに気になるよね。なにも、なければいいけど…。」

「………。」

「………。」


やがて2人は無言になり、その視線は黒板の上へと向けられる。


「さすがに、遅すぎる…よな。」


俺も、2人の視線の先を見つめる。




「カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ…」


音が消えた教室に響く、時計の音。

聴こえてくるのは聴き慣れた飾り気のないもの。

でも、なぜかいつもと違って聴こえる…。


「カコンッ」


分針が動く。

時計をここまで見つめるのは初めて。

おそらく、こうして人を待たない限り体験しない。

気付かないうちに、時が過ぎていくことを改めて実感する…。


「……………。」


秒針は果てなく動き続け、分針を動かしていく。

止まることなく、休むことなく、確実に。

そんな無情に進んでいく黒い針先を、俺たちは放課後の教室で見つめていた。


時が、満ちていく…。




「キーン、コーン、カーン、コーン…」


…もう、下校の時間…か。
















「ガラガラッ」


教室の扉が開かれる。

静寂を破るその音とともに、人が入ってくる。

…やっと、戻ってきた。


「ちょっと遅いわよ!いったい、何分待ったことやら。」

「とか言って、本当は心配してたクセに…。」

「…っ、ミレアだって心配してたでしょ!」

「まあ、私はアサみんみたいに照れ隠ししてないし~。」

「ちょっ、どういう意味よ!」

「さーあね~。」


再び、教室は騒がしくなっていく…。


「まったく!いつも余計なこと言って!!」

「アサみんは人のこと言える立場かな?」

「あんたに対しては間違いなく、対等以上に言える立場よ!!」

「フ~ン、何を根拠に言ってるのデスカ?」

「なに?なんなの、その挑発的な目つきは!!いちいち、つっかかってきて!…もう!」

「~ワカッタ、ワカッタ。私が悪かったね~。スミマセンでしたァ。」




さっきは白鳥を心配して心を一致させていた2人。

仲が良いのか、悪いのか…。

…いつまで、騒ぐのだろうか?


もうすぐ、見回りの先生が来るというのに…。




…………………。


終わる気配がないので、俺と白鳥は2人を残して帰宅する。




「こうなったら、ミレア!もう絶交よっ!!!」

「あなた、小学生デスカ???」
















ー数分後ー


…電子辞書でコツコツ、頭を叩かれている。


校門を出た俺は教室を見てみた。

…予測通りというか…。

そこには長原先生の説教を受ける2人の姿があったのだった。
















……………。






左右に立ち並ぶ商店の外装は、鮮やかな装飾で飾られている。

サンタクロースにトナカイ、雪だるま…。

歩く先に立ちはだかる巨大な着ぐるみたち。

…チラシを勧めてくる。

中に入っている人には悪いが、無視して突き進む。

そうか。もう…。


こんな季節…か…。




「…もうすぐ、クリスマスだね…。」


空を見上げたまま、ぼやけた声音で話す白鳥。

…なぜだろうか…?

彼女の表情が悲しく、俺には見える…。


「…そういえば白鳥の誕生日は、クリスマス・イブだったよな?」


沈んだ雰囲気を晴らすために、俺は明るい調子で言った。


「……………うん。」


降り続ける粉雪を見つめたまま小さく答えた白鳥。

…どうしてだろうか…?

微かに笑うものの、その笑顔は嬉しさを表すものではなかった。


「……………。」

「……………。」


白い世界に訪れた沈黙。

…今日の授業中もそうだった。

声をかけても窓の外を見つめたまま。

隣の席だから、見えてしまう。

彼女の、…俺が望まない、その横顔が…。


…。






…結局、まともに会話をしないまま俺たちは別れる。




「…また明日な。」


俺は、いつもと同じ台詞セリフを言う。


「…また、あした。」


偽りの、やさしい笑顔で答える彼女。






俺は、その小さな背中を見つめていた。

明日は、いつもの笑顔を見せてくれるだろうか…。

薄く積もる雪の道に、そう思う自分がいる…。







白い欠片がまた一粒、額に淡く溶ける。

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