9 わかってる…よ
まっすぐな白坂の目に、私のすべてが見抜かれているような、いたたまれない気持ちでいっぱいになった。
頭と体がどうにかなってしまいそうだ。
最後に、怒ったような顔をした白坂に向かって、
「うるさい!何も知らないくせに!」
そう叫ぶと、掴まれた手を振りほどき、また走り出していた。
振り返ることなく全力で走って走った。
走りながら、さっきより大粒の涙が頬を伝って流れていく。
「わかってる…わかってる…わかってるわよ!」
嗚咽とともに、叫んでいた。
走り続けて息が上がって苦しい。
それでも足は止まらない。
白坂の話は、いちいち正しい。
白坂がやってくれたことは、確かに私の生活を少し変えてくれた。
白坂がくれた勇気で、林間学校に参加できた。人生で初の楽しいお泊り行事だったことも事実だ。
たとえ、それが偽りだったとしても。
そして、今、白坂のおかげで、赤山さんという“友達”と呼べるかもしれないクラスメイトができていた。
「ありがとう。」
という言葉が心から沸きあがっているのに、教室で聞いたクラスメイト達の言葉に、感情に任せて掴みかかって怒鳴ってしまった。
さっき白坂に取ったあの行動が一番みじめな行為だ。
心を素直に表すことができなくて、さらに私を苦しくさせていた。
夏休みの間、静かに過ごした。
一人で図書館に行ったり、宿題をやったり…。
終業式の日の、あの出来事が、私を掴んで離さなかった。
今は8月。宿題もあらかた終えた。思い出すのは、赤山さんたちの話より、白坂のあの顔だった。
「失礼だ。」と言ったときの怒ったような顔。
あれから、何度も反省と後悔を繰り返している。
そして、やっぱり白坂の言葉はいちいち正しくて、素直になれない自分を恥じていた。
もうすぐ、2学期が始まる。
あんなにひどいことをいって、取り乱した私をみた白坂の態度は、変わってしまうだろうな…。