8 失礼だ
その声の主に向かって、私はつかみかかっていた。
「私、惨めじゃない!!!」
怒って、必死でつかみかかって、大泣きしている私をみて、なにがなんだか分からず戸惑っているようだった。
「何があったんだ?」
両手で私の肩を掴むと、今にも泣き崩れそうな私を支えてくれた。
なんのことか分からない、といった表情で私を見る白坂に、余計に腹が立つのが分かった。
「赤山さんに白坂が頼んだんでしょ!?」
しまった、という顔をした。
「誰に聞いたんだ?」
口元に手を当て、混乱しているようだった。
その様子をみて本当の話なんだと実感した。さっき教室で聞いた話は事実なのだ。
私は、知らないところで白坂に踊らされていたのがショックだった。
あの時の赤山さんの「OK!」という言葉が、素直に本当に嬉しかったから。
本当に…。
でも、あれは作られたことだった。
私が友達になれた、勇気を出してよかった、なんて話していたとき、白坂はどう思っていたのだろう。
それはそれは可笑しかったでしょうね。
私は、白坂をにらんだまま、目を放さないでいた。
あとからあとから涙がこぼれる。
白坂は、突然大泣きした私に掴みかかられて、最初はしまったという顔をしていたが、だんだん落ち着きを取り戻し、ゆっくりと私を見た。
「ごめん。傷つけるつもりはなかった。確かにあれは、俺が作った“場”だった。何も知らない黒田が怒るのも、無理ないことなのかもしれない。だけど、俺は、赤山と話せるようになって、黒田の笑顔が増えてよかったと思っている。だから、悪いことをしたとは思っていない。」
私の目をまっすぐみてきっぱりと言い切った白坂の顔はとても真剣で、とても遠く見えた。
白坂を掴んだ両手から力が抜けていく。
その手をそっと掴んで白坂は続けた。
「黒田のプライドが傷ついたなら謝るよ。でも、友達にそんなつまらないプライドなんかいらないんだ。声を掛けて仲間に入れた。それが、これからのお前を変えると俺は思っている。そう俺は確信しているんだ。」
「それに、」
と、さらに付け加えて言った。
「黒田にとってきっかけは最悪だったとしても、今も赤山がお前といるのは、俺が頼んだからじゃない。最初は俺が頼んだからだとしても、黒田と一緒にいて嫌だったらその時だけだ。今も一緒にいるわけない。赤山もお前のことを、気にいったんだよ。」
はっきりと、ゆっくりと、言葉を噛みしめるように、私にちゃんと聞け、分かれ、と言い聞かせるように、白坂は言葉を紡いでいく。
「赤山がお前と一緒にいるのは、赤山の意思だ。今一緒にいてくれる人の心まで否定するな。」
一度言葉を切り、まっすぐ私の目を見て、怒ったような顔で言った。
「失礼だ。」