7 ごみ捨てを頼まれたら…
「終業式にごみ捨てを頼まれるなんて…。」
帰ろうと思ったら担任の先生に呼び止められ、教室のゴミ捨てを頼まれてしまった。
ついてないな…。
仕方なく、ゴミ箱からいっぱいになったゴミ袋を取り出し袋口を縛り、新しいゴミ袋をセットした。
ゴミ箱は教室の前と後ろにそれぞれ一つずつ置かれていた。今日は終業式ということもあって、持ち帰るものを減らそうとロッカーを整理したクラスメイトもいて、どちらのゴミ箱もいっぱいだった。
持ち上げてみると、
「お、重い~。」
うう、とても重い。何を捨てたんだ。
カバンを持って、ゴミを捨てたらそのまま帰宅しようと思っていたが、それは無理そうだった。
仕方なく教室にカバンを残し、校舎裏のゴミ捨て場まで捨てに来ていた。
「教室に戻るの、面倒だな。」
このまま校門まですぐなのに、今日持って帰る上履きをまた履いて3階まで階段を上がるところまで想像すると、今日のこの暑さが恨めしくさえ思われた。
明日から夏休みだ。
通学が自転車なのでいい天気なのは嬉しい。雨降ると最悪だものね。
合羽来て、雨に打たれて帰るのを想像して「うぇ…。」と変な声がでた。
校舎裏のゴミ捨て場は、校舎の裏手にあって年中日陰なので、幾分涼しい。
重いゴミ袋を一つずつゴミ捨て場に放り投げると、教室へ向かった。
もうすぐ教室に着くという窓が全開の廊下を、生ぬるい風がサァと駆け抜けた。
風に乗って女の子の声が聞こえてきた。
私が教室を出たとき、もう誰も残っていなかったのにな。誰だろう?教室に入ろうとしたとき、
「いち果、あのとき聞かなかったけど、なんで黒田さん班にいれたの?接点なかったじゃん?」
いち果って、赤山さんの下の名前だ。会話に私の名前が入っていたので、思わず足を止め、教室の中から見えないように、教室の入り口の手前で立ち止まった。どうやら話しているのは、林間学校で同じ班に入れてくれた、赤山さんと、赤山さんといつも一緒にいる三人のクラスメイトのようだ。
「私も正直ちょっと驚いたんだよね。」
「いち果、知り合いだったとか?」
それぞれに、赤山さんに質問しているようだった。
「ああ、あれね。白坂に頼まれたんだ。」
ドクンッ。
心臓が嫌な音を立てた。何?今なんて?
「だよねー!だってあんなぼっちの子、突然声かけられたらひくよね。まじ。」
けたけた笑う赤山さんの取り巻き達。
体が、がくがく震えだして止まらない。
え?どういうこと?
まだ話しているみたいだけど、なんだか急に耳が遠く感じる。
わんわんと頭に音が響いて自分の心臓の音すら耳を塞ぎたくなる。
とにかく、カバンをとって帰ろう。今の話を聞いていないふりしなくちゃ。
何度も深呼吸して、あたかも今来たように教室に駆け込む。
私をみた赤山さんとその取り巻き達は一瞬「やば、聞かれた?」というような、気まずい顔したのが分かった。
それに気づかないふりをして、まっすぐ自分の席に行くと、机の横に提げてあったカバンをつかみ、
「さようなら!また、二学期ね!」
と、一生懸命笑顔を作って笑いかけ教室をでた。
それから、教室が見えなくなるまで廊下をゆっくり歩き、見えなくなると全力で走った。
下駄箱で上履きを乱暴に脱ぎ、上履き入れに突っ込む。
靴を玄関に放り投げて足を入れると、きちんと履くことも煩わしく、踵を踏んだ状態のまま走り出していた。
ああ、私が頑張ったからでも、私と話したいと思ってくれたわけでもなかった。
林間学校でも、赤山さんたちが仲良く話してくれていたことを、疑いもせずに舞い上がっていた自分が恥ずかしい!
そして、どんどん走っていくうちに涙が勝手に溢れだし、だんだん惨めになっていくのを感じていた。
こんな思いをするくらいなら、最初から断られた方がよかった!
自分でもどこへ向かっているのか分からない。
ただひたすら走っていると、学校から駅に向かう途中の、通学路とは少し離れた公園の前で、声を掛けられた。
「黒田?どうした?」
それは白坂の声だった。