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ロイヤル社とロイヤル社の繋がり



 シャラの背中を見送って30分程度が過ぎた頃のこと。

 彼女は、知らない男性を連れて戻ってきた。格好を見る限り、ロイヤル社の方ね。胸ポケットに光る紋章が、ロイヤルマークになっているし。にしても、どうしてこの方は先ほどから落ち着かない態度なのかしら。


「ベル、お待たせ!」

「いいえ、待ってないわ。物珍しいものがたくさんあったから、全然退屈しなかったもの」

「ふふ、ベルらしいわ。あのね、紹介したい人が居るの」


 しかも、彼女は私のことを「ベル」と言った。

 それが意味することは、私がアリスとバレたら大変だということ。……そんな大袈裟なものじゃなくて、単に入国関連の提出書類の人物と照会させて別人だったら不法侵入になるから的なものかもしれないけど。

 でも、シャラは私の返答を聞いてホッとした表情をしている。ということは、やはり「アリス」だと気付かれたくないってこと?


 シャラが「紹介したい」と言ったら、隣に立っていた男性の背筋がピンと伸びた。

 伸びたのに、なぜかソワソワとした態度はそのまま。とりあえず、ここはシャラに話を合わせましょう。

 私は、ゆっくりとソファから立ち上がって、その男性へと身体を向けた。


「この人は、ロイヤル社の総括をしている社長さんの秘書。特に、公爵家関連の情報を担当しているの。さっき偶然会ったから、貴女のことを紹介したくて。……ジャーナル、この人は私の友人のベル・フォンテーヌ」


 紹介を受けた男性は、私と目が合うと更に背筋が伸びた。

 これ以上伸びたら、そのまま天井に突き刺さりそうだわ。その真面目さが面白くて、でも、初対面で笑ったら失礼かなって。色々なことを考えた末、私は微笑みながら初めましてのお辞儀をするのに成功した。


 すると、すぐさま男性が慌てながら名刺を差し出してくる。


「初めまして、お嬢様。ジャーナル・ロバートと申します。もちろん、本名ですよ」

「ふふ、初めまして。レオーネ国から来ました、ベル・フォンテーヌと申します。私の国のロイヤル社とはまた違った雰囲気で、とても楽しませていただいておりますわ」

「これはこれは、光栄でございます。以前は良くそちらのロイヤル社へ出向いたものですが、最近は機会がなくてね。今もありますかな、あのずらっと並んだ花瓶は」

「はい、ありますわ。いつも、綺麗なお花が活けられています」

「そうですか! あれは、私の友人が提案したものなんです。最近全然連絡を取ってないんですが、先日久しぶりに息子に会いましてね。元気にやってると聞いて、私も頑張らねばと気合を入れたところでして……」


 差し出された名刺には、金文字で「ジャーナル・ロバート」と記されていた。肩書きは……社長秘書ね。

 両手で名刺をいただき、読んでいる最中もロバート秘書さんのお話は続く。この話し方、まさに記者! と言う感じがして、面白いわ。まるでカリナ・シャルルがもう1人居るような、そんな感じ。


 やはり、ロイヤル社同士って国が違くても繋がりがあるのね。

 息子の居る人ということは、年配の人なのかしら? 息子さんはこちらの人? それとも、レオーネの人? わからないけど、こういう友好関係があるって良いわね。シャラと私みたい。


「ご友人様は、レオーネのロイヤル社のどの部署なのですか? 私も、少しでしたらロイヤル社の社員さんがわかるので、もしかしたらお知り合いかもしれません」

「おお、ロイヤル社に繋がりが!? やはり、シャラお嬢様のご友人様は素敵な方ですなあ!」

「そうよ、ベルは私の自慢の親友ですもの」

「ははは、今後ともご贔屓に! そのようなハキハキとした話し方、あいつも好みそうです。きっと、一目見たら気にいるでしょう。以前は、よくレオーネの侯爵夫人相手に一緒に突撃取材! なんてやってましたよ。あの時は若かったからできましたが、今考えると……」

「それよりもジャーナル、名前を聞かせてちょうだい」

「おっと、こりゃあ失礼しました。友人といっても、私よりも先輩でね。表向きは、シャルル記者! なんて堅苦しい呼び方をしていましたよ」

「……シャルル、記者?」


 にしても、この話の脱線の仕方!

 本当に、カリナ・シャルルと話しているようだわ。以前はシャルル卿なんて言っていたけど、今は呼ぶ気になれないほど尊敬できないと言いますか……。まあ、それは良いとして。


 なんて思っていると、唐突に「シャルル」の名前が飛び出してきた。

 でも、この方の言っている「シャルル」は、カリナ・シャルルではない。だって、彼はこのロバート記者よりも年下ですもの。ということは……。


「はい、シャルルです。ガルシア・シャルル。数年前に養子をもらった話は聞いたのですがねえ。あ! そうそう、ガルシアの妻の名前がこれまた面白いんですよ。シャルルー・シャルルと言って、どこかの諜報機「あ、あの!」」

「はい?」


 やはり、そうだった。

 ロイヤル社のシャルルと言ったら、多分その人しか居ない。

 名前を聞いたのは初めてだけど、この人はドミニクのお父様だわ。


 それに気づいた私は、もうひとつおかしなことに気づいた。

 先ほど、ロバート記者は「先日久しぶりに息子に会いましてね」と言ったことに。


「先ほど言った息子と言うのは……ドミニク・シャルルのことですか?」

「いいや、違います。ドミニクも知り合いですが、あいつは遺体で発見されたニュースくらい知っています。数日、私も喪に服しましたよ。まさか、あいつのセガレが……」

「え、じゃあ、カリナ・シャルル記者ですか?」

「はい、カリナです」

「そ、それはいつですか!?」

「……ベル?」


 私は、掴みかかるようにロバート記者へと詰め寄った。胸元のバッジがキラリと光ったけど、今はそんなことを気にしている余裕はない。身分とか、立場とかそう言うのはどうでも良い。

 驚いてシャラが声を出しても、止まらない。


 カリナ・シャルルがこちらに来ている。


 その事実で、私の中に散らばっている何かが形をなそうとしているように感じた。



***



 きっと、私がもう少し冷静だったら気づいていたでしょうね。


「アシ、どうしたの。誰か居た?」

「……いいえ、なんでもないわ。思い出し笑いしちゃっただけ。ほら、アベルがお砂糖とお塩を間違えて……」

「その話はもう良いでしょう! ほら、ちゃんと確認するよ。本当にマクシムの遺体だったら、お父様に直接報告しないといけないでしょう」

「ええ、そうだわ。今は、お仕事に集中しなきゃ」

「そうだよ」


 なんて会話をしながら遠ざかっている男女2名。先ほど、シャラが声を掛けに行った方々ね。

 そのうちの女性が、私の方を見ながら懐かしそうに微笑んでいたことを。それに……。


 ……いいえ。冷静じゃなかったとして、ちょっとでもそちらを向いていたら、気づいたと思うの。

 その2人の後ろに、ジョン・ドゥさんが続いていたことに。


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