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贅沢と倹約と質素と貧相


 レオーネ国よりも豪華すぎるロイヤル社の受付に、私は身を置いていた。


 シャラが普通にソファへ座っているのに私ったら「うわ!?」とか変な声を上げてしまって……だって、ソファの生地が柔らかすぎるのよ!

 柔らかすぎるのに、全然疲れないの……。この素材は何かしら。


「なんか、騒がしいわね」

「本当。何かあるのかしら」

「今日は、特に行事があるなんて聞いてないけど……」

「何か、大きなスクープでもあったとか?」

「それなら、ありえるかも」


 今は、シャラがアポ取りしてくれた記者を待っているところ。

 ……なんだけど、シャラが言うようになんだか受付の奥の方が騒がしい。


 私の国のロイヤル社に行った時も、こんな光景を見たことがあった。あの時は確か、王族の誰かが罪を犯してどこかの国に飛ばされてしまったんだっけ。

 誰なのかは公表されなかったけど、あれからしばらく黒い噂が絶えなかったのをよく覚えているわ。だって、本当かどうかわからないような話がたくさん飛び交っていたのよ。そんなの聞いたって、気分悪いじゃないの。


 その時のことを思い出しながら、私はシャラと同じ方向を見る。


「あら、あのお方は……」

「お知り合い?」

「ええ、カウヌで知らない人は居ないんじゃないかしら?」

「……そ、そうなの」


 人混みの中、一際目立つ男女がそこに居た。

 他の人と何が違うのかわからない。でも、とても存在感のある2人が。


 数秒見て、彼らの背筋がピンと伸び、真っ直ぐ前を向いている姿勢がそう見せているのかなと思った。でも、それだけじゃないような……。

 特に、女性の方は最近どこかで見たことがある気がする。でも、思い出せない。


「あのお方たちは、カウヌとレオーネの外交を担っているお方よ。どちらも、レオーネの国籍を持っているわ」

「……お会いしたことは、ない気がする。でも」

「まあ、近年だから。ちょっと、ここで待っててくれる? アベル様とアシ様にご挨拶してくるわ」


 どこかで見たことがある。


 そう口にしようとしたところで、シャラがパッと立ち上がって人混みの方へと小走りで行ってしまった。その足取りは、とても親しい人へと向いているような……そんな印象を与えてくる。

 アベル様とアシ様、って言っていたわよね。名前、覚えておきましょう。レオーネの国籍を持っているとのことだったけど、どこの貴族なのかしら……。


 私は、人の間に消えていくシャラの背中を見ながら、必死になって昔のお茶会の様子を思い出した。

 近年に外交を担っているということは、数年前から権力のある貴族に違いない。そういう貴族は、女性であればどこかしらのお茶会に出席しているものなの。見た感じ、私よりもずっと年上に見えるけど……もう少し近くで見たいな。


 再度シャラを視界に捉えた時、例の2人と楽しそうに話しているのか、笑っている横顔が確認できた。

 ……私もご挨拶した方が良かったのかな。うーん、今更感も否めない。



***



 俺は今、息を切らせて城門に立っている。

 背中から流れる汗が、妙に冷風を感じさせてくるんだ。その感覚が、なぜか直接心臓でも握られているような気がしてならない。


 フィンガープリントに関しての資料を集めている最中に、早馬の知らせを受けてここまで来た。

 本来ならば、俺ではなく当直の奴が出向けば事足りるのだが……早馬を駆ってきた相手が、カウヌ国の国王陛下代理なんだ。これは、少なくとも俺が出迎えないと失礼だろう。むしろ、俺でも失礼に値すると思うが。


「ご足労、感謝いたします」

「いいえ、こちらこそ連絡も寄越さずに失礼いたしました。あまり公にしないでいただけると……」

「承知しております。失礼ですが、その容姿であれば見間違いが発生しそうですね」

「ふふ、頑張った甲斐があります。ミシャには睨まれましたが、陛下には……呆れられました」

「ふはっ……し、失礼しました」


 国王陛下代理は、まるで先ほどまで農作業の収穫をしてきた農民のような格好で馬を従えている。

 その……本当に失礼承知で発言するのであれば、本人が変装しているなら馬も変装……いや、馬ってなんていうんだ? 変身? とにかく、馬もどうにかして欲しかったな。乗ってる本人はボロボロなのに、その馬は肉体美を魅せつけ誇り高い表情で主人に寄り添ってるなんてチグハグすぎるだろう……。


 まあ、とにかくそんな国王陛下代理は、向こうの国ではかなりのお偉いさんだ。

 俺も、一度だけしかあったことがない。茶目っけたっぷりな、それでいて、ちゃんと自身のしている行動を理解しているような気配がある。……きっと、俺の思考もダダ漏れだろうな。ほら、こっちを見て笑ってる。


 俺は、その茶目っけに笑いを堪えられなくなり、吹き出してしまう。


「では、こちらへどうぞ。陛下もお待ちです」

「ありがとう。うちのロバンが暴れたようで。そっちも見させてもらって良いかな」

「その格好で、でしょうか」

「ダメかい? これなら、ロバン一家が私と気づくことはない」

「……陛下に従います」

「まあ、そうだろうな。マルティネスは、良い部下を持ってる」


 すぐさま表情を変えると、なぜか頭を撫でられた。しかも、哀愁漂う表情で。

 ……よくわからない。


 とにかく、俺は陛下に言われた通り、客間への道をゆっくりと歩いた。目立つはずの代理を連れながらビクビクしていたが、幸い誰とも遭遇しなかった。

 途中、馬留めに立ち寄ったんだ。いつもは、騎士団員が誰かしら居るのだが……ここまで人がいないと、奇跡に近い。


 そんな俺の疑問が顔に出ていたんだろうな。

 代理は、「私は、運だけは良いんだ」と自慢げに笑っていたよ。



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