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復讐の音は、行進曲のごとく



 王宮へ向かう途中、手錠をかけられたサリ様はこう言った。


『私の家では、化学がずっと隣にあったの。寝ててもご飯を食べていても、息をするだけだってずっと感じるほどにね。お父様は、……いえ、私たちは、その使い方を間違えてしまったのね』


 そう言って、泣きながら「お父様を止めて」と懇願してきたんだ。「お父様は、絶対に死んでいない」と、自家中毒に侵され血を吐きながら。


 その時の俺は、その意味を半分も理解できず、ただただ彼女を抱きしめ安心させることしかできなかった。



***



 でも、今ならわかる。

 サリ様とエン様のお顔を見て、ジェレミーの資料を理解した俺なら。


「もう、逃げ隠れはやめましょう。ロバン公爵」


 俺がそう言うと、部屋の空気が全て止まった。

 点滴の落ちる音が聞こえていなければ、別次元にでも迷ってしまったと本気で思っただろう。その音が、現実だと教えてくれている。


 反応を見るに、「そう言うこと」があるらしい。ジョセフの真っ青な顔色が、白くなってきた。

 半信半疑だったが、どうなっているんだ? 魔法でも使ったわけじゃないだろう。この世に、魔法なんて存在しない。


「声は、いくら薬に頼っても時間が経てば戻ってしまいますからね。身体なんて体調次第で形は変えられるし、そのための病気ですか? ……まあ、仮病ではないことはわかっています。今は、何もしないほうが良いですよ」

「ロベール隊長様、どう言うことでしょうか」

「このお方は、カウヌ国のロバン公爵です」

「なっ……!? ど、どうして」

「後ほどきちんと説明しますから、今は記録を続けてください。後に、法廷で使うと思いますので」

「かしこまりました……」


 とはいえ、俺だって完全に状況を理解しているわけではない。ここは、相手の様子を見ながら理解していくしかないだろう。手応えはあったんだ、どうとでもなる。

 目の前に居るのは、見た目が完全にジョセフであるロバン公爵……。それがわかれば、十分だ。


 ロバン公爵は、息をするのも忘れるほど驚愕の表情でこちらを見てくる。その顔が、ジョセフではないという確信につながっていく。

 俺は今まで、ジョセフの何を見ていたのだろうか。最初、ここにぶち込んだ時は確実に奴だった。どこから、入れ替わりがあったのか。本物の奴はどこにいるのか。考えることが多すぎる。


「まずは、残念なお知らせを先にお話しましょう。ジャック・フルニエを宮殿内にて確保済みです。また、サリ様とエン様も同様に降伏しております」

「……」

「あなたのお仲間のお店も、盗品も全てこちらで回収させていただきましたので悪しからず。残念でしたね、サリ様の毒を差し入れするジャックが居ないなんて」

「……」


 俺の言葉に、ロバン公爵は口をぱくぱくとさせながら話に耳を傾けてくる。どんな毒を使えば、身体が弱り声が出なくなり、そして、耳だけは正常に動くのだろうか。考えても、そっちの方面に疎いためわかりそうにない。

 アインスが居れば良いのだが……あいにく、眠り姫状態のクリステル様を診ているとのこと。邪魔をするわけにはいかないだろう。


 陛下と王妃が執務中で助かったよ。あのまま宮殿にいらしたらきっと、暗殺行為へ発展していたに違いない。目的が何にしろ、色々偶然が重なって良かったと思う。

 しかし、ロバン公爵の狙いはなんだ? それだけ、ジェレミーの書類に書いていなかったんだ。答えは散りばめられていたとは思うが……。それだけで事実を確定させるのには何かが欠けるという状態だ。決定打というものがなかった。


「それにしても、驚きました。隣国には、「整形」というものがあるのですね。毒人間で驚いていた私には、情報過多すぎます」

「……っ、っ」

「おっと、これ以上は捜査の邪魔になりそうなのでお話は控えますね。続報をお待ちください」

「……!」


 今の話を聞いて、固まりつつも必死になって腕を動かしている医療者は白だろう。こんな茶番に巻き込まれて可哀想に。

 彼には申し訳ないが、これから取調べが待っている。ロバン公爵との接点が少しでもあれば、こちら側としては調べないという選択肢はない。


 後は、足で稼ごう。

 いつものことだ。


「ああ、それと」


 医療者から記録用紙をもらった俺は、部屋を出ようとしたところで言いたいことを思い出す。


「アイコンタクトの合図は変えたほうが良いですよ。それ、カウヌ国の近衛兵団のものでしょう。私にも解読できてしまいますから」


 返事を待つ必要はない。


 俺は、そのままポカーンとする医療者とロバン公爵を置き去りにして部屋を後にする。そして、ちょうど通りかかった団員に警備と医療者の保護を頼み、長い廊下を早足で歩いていく。

 これから、行く場所があるんだ。

 


***



「戻りました、お嬢様」

「おかえりなさい、イリヤ。副団長様も、お疲れ様です」

「お心遣い感謝いたします」

「あら、ドーラ様ったらお顔が赤いわよ」

「そっ、外が暑かったんです……」

「ふーん」


 シャラと一緒にお屋敷の客間でカウヌの地形について勉強をしていると、そこにイリヤと副団長様がやってくる。

 確かに、ドーラ副団長様のお顔の色が赤いような? でも、イリヤがキッと睨みつけるとすぐに真っ青になってしまった。……どうしたの?


「お嬢様に邪な感情を抱いたら、イリヤの作ったクッキーをプレゼントします」

「ヒッ……ご、ご勘弁を!」

「……副団長様は、召し上がったことがあるのですか?」

「ありませんが……その威力は、いろんな人物より聞いております故」

「……イリヤのクッキーは、国境を超えて話題なのね」

「ふふん、イリヤは有名人なのです!」


 と、衝撃の事実を知ってしまったわ。

 シャラはポカーンとして意味をわかっていないようだけど……知らない方が良いこともあるって、こういう時に使うのね。勉強になる。


 イリヤは、出かけた時よりもずっとずっと顔色が良い。

 何か良いことでもあったのかな。もしかして、ドミニクじゃない証拠があったとか!


「あの、イリヤ」

「どうされましたか?」

「えっと……その、ドミニクのことなんだけど」

「お嬢様、もう少しだけお待ちいただいもよろしいでしょうか? どうやら、この事件はレオネル国にも関わってきているようです」

「私たちの国?」

「ええ。ロバン公爵とご息女、主治医が、第一王子暗殺未遂、及び、強盗致傷罪に問われ捕らえられました」

「公爵が見つかったの!? お父様でも見つけられなかったのに!」

「なっ……アレンは無事なの?」

「はい、見つかったようです。アレンが手紙を寄越したので大丈夫でしょう」


 イリヤは、そう言いながら胸ポケットの中の手紙を私たちに見せてくれた。受け取ると、シャラがそれを覗き込んでくる。


 この、達筆な字はアレンのものだわ。よかった、巻き込まれなくて。

 王様や王妃様は無事かしら。シャロンは……。うーん、何かできるってわけじゃないんだけど、国に帰りたい。お父様達も心配していると思うし。

 でも、カウヌ国の公爵が捕まったってことは、国境が荒れそうだわ。戦争なんて始まらないと良いのだけど。


「イリヤ」

「はい、なんでしょうか」

「今ね、マリーにあなた達の泊まった宿を調べてもらってるの。ドーラ様も、もう少しここに居られるかしら」

「調べようと思っていたのですが、先越されましたね」

「そうですね。私も気になっているので、ご一緒させてください」

「ありがとう。夕方には戻ると言っていたから、お夕飯も召し上がっていって」

「でも……」

「公爵家の命令です」

「ありがたきお言葉です」

「ふふ……」


 私は、その会話であの遺体がドミニクのものと確定したことを悟る。

 だって、イリヤが話を逸らすなんてそうそうないもの。今までだって、……今までだって。


 ダメよ。何か違うことを考えましょう。

 ドミニクが死んだら、ベルが面白がるわ。あの2人、結構相性良いと思うの。……ジョン・ドゥさんは嫉妬しそうだけど。

 ほら、面白いことを考えて考えて……。


 頑張って気づかれないように涙を拭ったつもりだったけど、全員にバレてたみたい。隣に居たシャラが、持っていた手紙を受け取りそのまま抱きしめてくれたから。

 多分、バレていたわね。


 

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