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XXX sad girl.



 夜、みんなが寝静まった頃のこと。

 カチャリと、部屋のドアが開く音がする。今日も、あの人が来たんだ。


 寝たふりをしよう。

 そうすれば、妖精さんがわたしを夢の入り口に連れていってくれる。だから、早く眠ろう。ほら、目を閉じたら今度は息を潜めて……。


「バーバリー。……バーバリー」


 来た。

 いつもあの人は、わたしの名前を呼びながらこうやってベッドの中に手を入れて弄る。何をしているのか、もうわからないような年齢じゃない。


 早く、早く妖精さん。

 私を夢の国に連れていって。早く、メリーゴーランドに乗りたいの。それとも、観覧車? ジェットコースターはちょっと怖いから止めておきたいな。でも、今連れていってくれるなら、好き嫌いしないで乗るから。

 妖精さん、早く来て。


「ああ、バーバリー。可愛いね。すぐ濡れる」

「マクシム兄さん」

「なんだ、来たのか。今日はどっちにする?」

「昨日マクシム兄さんが前だったから、今日は僕が前ね」

「じゃあ、俺は後ろか」


 また、違う人が入ってきた。

 あの人と一緒に、わたしのベッドに潜り込む。


 嫌だ。早く、早く。

 いくら待っても、妖精さんがやってこない。

 どうして? おやつをとっておかなかったから? アイスが美味しくて、全部食べちゃったから?


 わたしは、身体を這う手を振り払わず、寝たふりをする。気づかれたら、打たれるから。もっともっとひどいことをされるから。

 いつもそうだ。兄さんたちは、わたしの身体を弄ぶ。


「くひっ……」

「なんだ、起きてるじゃんか」

「バーバリーは寝たふりが下手だなあ」

「あ、あ、……に、いさん」

「ほら、歯ァ立てんなよ」

「ふぐっ……あふ、ふ」


 兄さんの手が、わたしの弱いところを何度も何度も責め立てる。

 そうすれば、私は起きるしかない。声を我慢できなくなったわたしの口に、サイズの合わない何かが押し込められる。


 兄さん、兄さん。

 もうやめて。兄さん、いいこにするから。いいこになるから。アイスもクッキーもチョコレートもいらないから。全部あげるから。


 だから、バーバリーの身体をいじめないで。





***





『っあ、あああああああ!!』



「!?」


 耳に悲鳴が届いて、ハッとした。

 先ほどまで付いていた照明が、消えている。停電があったのかな?


 見ると、手にはパレットと筆が握られていた。周囲を見渡すと、目の前には大きなカンバス、床には絵の具が転がっている。どうやら、絵を描きながら眠ってしまったらしい。幸い、キャンバスエプロンを着ていたため、服には汚れがついていない。

 良かった。絵の具は油性だから、一度ついたら落ちないんだよね。前も、外行きのスカートの裾につけちゃって大変だった。


 でも、今はそんなことはどうでも良い。それよりも、早く行かなきゃ。

 僕は、パレットと筆を置いて急いで部屋を出た。


「さむっ……」


 廊下に出ると、隙間風が頬を撫でる。

 ルフェーブルに居た時は、廊下も暖房が効いていて暖かかった。寒いなんて思ったことがない。でも、僕はこっちの生活の方が好きだな。ここは、心が冷たくなる暇がない。


 スリッパの音を響かせながら、いまだに聞こえる悲鳴を追って隣の部屋へと向かう。隣といっても、空き部屋を挟んだ隣ね。このフロアは、僕ともう1人、この悲鳴の主しか入っていない。

 僕は、そのドア前に立ってノックする。


「入るよ」

「あああああああぁああ!! いや、こない。さわあない」


 悲鳴の主は、僕を拒絶しているわけではない。

 それをわかって、パッと扉を開けた。すると、ベッドの上で毛布に包まり震えるバーバリーの姿が視界に入る。

 この部屋も、いつも付いているはずの照明が消えている。と言うことは、やはり停電があったのかもしれないな。彼女は、電気を消して眠りにつけないから。


 僕が近づいても、バーバリーは叫び続けていた。

 舌足らずな話し方で、何かを拒絶している。


「バーバリー、僕だよ。電気、消えちゃったんだね」

「こない! こない! いや、ようせいさん! いや、だ」

「バーバリー、触るよ」

「!? あ、あああぁああああ!!!」

「っ!!」


 暗がりが嫌いだから、早く毛布を取ってあげたい。その一心でバッとめくると、すぐさま涙に顔を濡らした彼女の手が僕の首元に伸びてきた。その力は、大の男でも出ないような、そんな強さを披露してくる。

 毎回わかっていても、足で押し止められずに床へ転がってしまう。エプロンを外してくれば良かったな。バーバリーに絵の具が付いたらどうしよう。


 もちろん、僕は彼女を拒絶しない。

 首を絞めてくる手を退けないし、身体を拘束して暴走を止めようとも思わない。昔、彼女が兄にされた行為を知っているから、こう言う時は拒まない方が良いこともわかってる。

 最初、彼女が暴走したのかと思って思い切り拘束しちゃって、アインスにものすごく怒られたんだ。


 こう言う時は、黙って頭をよしよしすると良い。力が抜けてきたら、ぎゅっと抱きしめてあげる。それが正解なんだって。


「……かはっ! ……バーバリー、落ち着いた?」

「……イリヤ」

「僕だよ。勝手に入ってごめんね」

「わたし、なに?」

「電気が消えちゃって、パニックになってただけ。もう大丈夫だよ」

「……うん。兄さんにあいたい」


 バーバリーは、出産経験がないのにも関わらず、フォンテーヌ家に来た時にはすでに子宮破裂寸前まで身体がおかしくなっていた。

 アインス曰く凄まじい痛みなはずなのに、彼女は何も感じずに過ごしある日突然倒れたんだ。アインスが緊急で子宮を摘出しなければきっと、バーバリーはここに居ない。非瘢痕性子宮破裂だって、出産時にしか起きないらしい。それほど、彼女は性的暴力をその身に受けていた事になる。


 なのに、ふとした瞬間にバーバリーは兄を求める。

 精神を壊され人としての会話が難しくなったのにも関わらず、身体は「男」を求めている。下腹部の疼きは、子宮を取っても続いているらしい。

 だからと言って、僕が兄と同じことをして彼女の身体を潤すことはしない。そんなの悪循環でしょう。


「バーバリー、身体動かそうか。外行って」

「……そと、くらい」

「旦那様が、好きに電灯つけて良いって。僕も、身体動かしたいなあ。組み手1回。ね?」

「……する」

「僕が負けたら、2回してね」

「うん」


 毎晩のように体を弄ばれるその行為は、到底許されるものではない。

 でも、そう言うのを取り締まる法律が存在していないのも事実。きっと、バーバリーのように苦しんでいる子はたくさん居る。だからって、1人ひとりを救っていることなんてできないけど。

 僕は、目の前に居る子を守るので精一杯だ。


 涙と鼻水でベトベトになった顔をエプロンの綺麗なところで拭いてあげると、やっと笑顔のバーバリーを見ることができた。良かった。


「イリヤ、まける。おかし、1こ」

「わかったよ。じゃあ、バーバリーが負けたら、夕飯のおかず1個頂戴ね」

「うん。ピクルス、あげる」

「えー、それバーバリーの嫌いなものじゃん」

「イリヤ、すき」

「そうだけどさー。なんか、不公平ー」


 バーバリーは、目の前でパジャマをバッと脱ぎ捨て、ベッドの柵にかけてあった庭師専用の作業着を羽織った。できれば、僕が居るところでは着替えて欲しくないんだけど……僕も、一応男なんだし。

 でも、バーバリーはそう言うのを気にしない。


 まあ、そういう理由もあるんだけどさ。一番は、彼女の素肌に残っている夥しい鞭とか火傷の跡を見たくないってのもある。これもきっと、兄にされたんだろうな。一生消えないらしい。

 家族を、しかも、自分より幼い子を2人で犯すってどんな神経してんだろう。僕には理解できない性癖だな。


「イリヤ、いく」

「僕も着替えてきて良い? ちゃんと相手したいからさ」

「うん。スカート?」

「ううん、動きやすいやつ着る」

「むり、しない」

「してないよ。僕は、何着ても可愛いから」

「うん。かーいい」

「……バーバリーも可愛いよ」


  そう言って再度抱きしめると、嬉しそうに身体の力を抜いてくる。他の人がしても、こうやって身体を預けてこないのに。どうして、バーバリーは僕を信用してるんだろう。女だと思われてる?

 パンツスタイルで居ると心配してくれてるから、わかってないことはないと思うんだけどなあ。


 でも、まあ良いか。懐いてくれることに、嫌悪はない。

 それより、困ったことがひとつ。


「イリヤ、くみする」

「はいはい、組み手ね」

「とばす」

「僕も本気で行くからね」


 バーバリーってば、身体能力が高すぎるんだ。

 マクシムと兄妹だって聞いて納得した。……ってか、納得を通り越してなんというか達観の域に来た感じ。マクシムの比じゃないくらい、飲み込みも早いし。きっと、家系的に身体が強いんだろうな。

 だから、彼女は並大抵の人なら死ぬような性的暴力を受けても命を落とさなかった。それが良いのか悪いのかはわからないけど。


 でも、彼女には優しさがあるから、必要な時にしかその力を使わない。ちょっと制御ができなくて暴走することはあるけど、それも悪気はない。だからこそ、庭師として力仕事をしながら屋敷の警護もできる。

 僕は、その暴走を制御できるよう身体に教え込む役を、旦那様から請け負っているんだよね。


「……あ」

「どうしたの、バーバリー」

「うら、もん。ネズミ」

「えー、また? 昨日、ザンギフが駆除団子蒔いてたけど」

「でも、はいった」

「じゃあ、そっちの駆除してから組み手しようか」

「うん」


 そうそう。

 彼女のすごいところがもうひとつあって。屋敷にいるだけで、ネズミ1匹侵入しても気配がわかるんだって。僕には無理だから、その能力が羨ましい。

 でも、アインスが言うには、それも精神的なものから来てるってことだった。ずっと兄がベッドに来るのを、耳を澄まして待ってたから自然と耳が敏感になったとか。


 僕は、着替えが終わったバーバリーの髪を整え、手を繋いで部屋を出る。


「イリヤ」

「何?」

「すき。イリヤ、すき」

「……僕も「すき」だよ」

「うん」


 その会話に、深い意味はないみたい。

 だって、僕がぬいぐるみを「好き」だと言っているのと同じ感じだからね。


 僕に妹が居たら、こんな感じなのかな。


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