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翻弄される若い長



 今日は、午後からヴィエンとマークスの口頭尋問がある。

 そのため俺は、待機室でラベルと聞きたいことをまとめてるのだが……。


「〜〜〜〜〜〜あぁ、もう!」

「……んぁ?」


 ここ数日、なぜかこいつが居る。

 一眼見て高級とわかるシルクのスーツを着こなし、誰がどう見てもあの指名手配中の殺人鬼には見えない奴が、仮眠用ソファに寝そべり大あくびだ。イラつくのもわかってくれるだろう? この、ジェレミーの奴!


 変装しているからか、ラベルは目の前に殺人鬼が居るのに呑気に「入団希望ですか?」だ。俺が教えてやろうとしたら、その殺人鬼がものすごい殺気を飛ばしてくるものだから黙るしかない。

 ……いや、こんなんで良いのか? でも、本気出されたら絶対に負ける自信しかないんだ。お願いだから、「入団希望」にならないでくれ。こんな部下を持ちたくない。

 というか、なんでラベルはこいつの殺気にケロッとしてんだ? 強者だろ……。


「お前さあ、なんで俺についてくるんだ?」

「なんでって……。入団希望です♡」

「死ね!」

「わあ、辛辣」

 

 そう言ってケタケタと笑う奴を警戒する自分が、だんだんバカバカしくなってくる。こんなやつに煽られてイラついている時間こそ、無駄だろう。早く、尋問時の質問書を完成させなくては。


 そうやってあしらおうとしているのに、やはり奴はそれを許してくれないらしい。


「まあまあ、アレン。この人、剣筋は良いから入団してくれるなら即戦力になると思うよ」

「は!? なぜ、ラベルがこいつの剣筋を知ってんだ?」

「なんでって……一昨日からかな。エルザ様から見学希望の打診受けて、演習場来てるんだよ。アレンも居なかった?」

「居ない!! いや、は!? おま、なんっ……」

「ははっ、おもしれぇ顔」


 俺も演習場に足を運んでるが、居なかったぞ!

 それに、なぜエルザ様から打診がくるんだ? 殺人鬼だぞ!?

 どこから突っ込めば良い!?


 急に情報量の多いものが頭の中に流れ込んできた俺は、バンッと机を両手で叩き立ち上がる。

 なのに、当の本人は知らん顔してソファでくつろぎながら、俺の顔見て笑ってんだ。おかしいだろ、そもそも不法侵入に近いぞ……。


「アレンの知り合いなら、先に教えてくれれば良かったのに」

「こんなやつ、知り合いでもなんでもない!」

「ベル繋がりって感じだよな」

「え!? じゃ、じゃあ、まさか、イイイイイイリヤ団長とも……?」

「おう、あいつとはマブダチだぜ」

「ヒィイィぃィぃィぃぃ……。お、お世話になっておりますぅ」

「……なんだ、この茶番」


 そろそろ、こいつが殺人鬼だって言おうか。

 そう思ったところ、イリヤと聞いて萎縮してしまったラベルがなぜかジェレミーに向かってスライディング土下座を決めている。殺人鬼に頭を下げる騎士団第二団長ってなんだ? よくわからん。


 すると、ジェレミーが俺の方を向いて話し始めた。


「っつーことで、フォンテーヌの屋敷行くぞ」

「はっ!? え、今から尋問があるんだが」

「んなの、こいつに任せとけ。なあ、イリヤに「真面目に仕事してた」って伝えとくから」

「は、はいイイいい! ぜひやらせていただきますぅ!!」

「いや、待てよ。お前、俺の仕事に「お前、ここ数日見てたけど自分で仕事溜めすぎ。お前が倒れて喜ぶ奴がいることを理解しろ」」

「……っ」

「任せたくねえのはわかんだけど、お前が次の瞬間死んだらどうする? 騎士団が機能しなくなんだろ。それくらいは考えておけ」

「……」


 その言葉に、俺は再び椅子に座る。

 正論すぎて、言い返せない。

 きっと、ラベルも同じことを思っていたんだろうな。そんな顔して、こっちを見てるよ。


 でも、どうしても人に仕事を振れないんだ。

 上に立つ人間とは程遠い価値観が、いつも脳内をぐるぐると駆け巡っている。だから今でも、なぜイリヤが俺を後継者に選んだのかの答えが出ていない。


「はいはい、うざってぇ悩みは部屋でやれ。まず、行動!」

「……わかったよ。フォンテーヌ子爵のお屋敷に行って何をするんだ?」

「拾い物してくるだけ。それに、ラベル殿が仕事頑張ってるってイリヤに伝言しにな」

「わあ! 一生ついていきます!!」

「ラベル! 騙されんな、こいつは……なんでもない」


 こええ。殺されるかと思った。

 ほら、やっぱ俺にはトップが相応しくない。こんな殺人鬼の言いなりになってどうする。

 でも、ここで乱闘騒ぎを起こしたところでこっちの損失にしかならない。外に出たら、ぶちのめしてやる……。


 俺に向かって殺気を放ったジェレミーは、ソファから起き上がりこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。何をするのかと思いきや、俺が記載していた尋問表に何やら質問を書き足してるじゃんか。勝手にやるなと言いたいところだったが、その質問内容は的を得たもの。やっぱり、こいつは事件に一枚噛んでいると見て間違いない。

 だったら、利用させてもらおう。あっちだって利用してるんだろうし。


「ラベル、悪いが口頭尋問行けるか?」

「オッケー、行けるよー。今回は、王族側だけだし元老院来ないし」

「すまない……。議事録も頼んだ」

「はいよー。もっと頼って良いからね、こっちはヴィエンやマークスと違って君に故郷まで知れてる。親まで使って騙そうとは思ってないから」

「……ありがとう」


 ジェレミーが書き加えた尋問表をラベルに手渡しすると、すぐに笑顔で受け取ってくれた。

 ラベルはいつだって、シエラと一緒に俺を見守ってくれる。こんな年下な俺が上についても、文句ひとつ言わず。イリヤと言いラベルと言い、みんなお人好しすぎるだろ。


 俺は、自分の中にあるひとつの計画をラベルに話してみようと思った。

 実際やるには、俺1人じゃ難しいと思っていたんだ。他にも、この機会に計画へ巻き込む人の選定も一緒に考えてもらおう。


「戻ったら、色々頼みたいことがあるのだが時間を取れるか?」

「良いよ〜。書類整理やるよか全然良い」

「それよりも頭を使うかもしれないがな」

「アレンは、戦略派だもんね。イリヤ団長に似てるとこあるよ」

「……そうなのか」

「まじで、それ以上似ないでね……」

「ふはっ!」


 考えを巡らせているところに、ラベルの情けない表情が飛び込んでくる。これに笑わない方がどうかしてる。ほら、ジェレミーも笑ってるし。


 それにしても、ジェレミーは不思議な奴だな。

 こうやって普通にしていれば、貴族の坊ちゃんにしか見えない。エルザ様と御面識もあるってことは、それほど悪いやつでもないのか? アリスお嬢様に固執しているように感じるが、過去に何があったのかも気になる。……その関係性も。

 アリスお嬢様は、こいつには正体をちゃんと伝えてあるのだろうか。あの時一緒に王宮へ向かったのを見るあたり、最近会った仲ではなさそうだったし、脅されているようにも見えなかった。いやでも、まだ彼女がアリスお嬢様と決まったわけでは……。いや、確定……いや……。


「話、終わったか? そろそろ行こうぜ」

「ああ、わかったよ。……ラベル、口頭尋問と一緒に「演習場と王宮内の見回り、サレン様周辺とジョセフの容態チェックでしょう? わかってるよ。あと、元老院とは揉め事を起こさない!」」

「……サンキュ」

「それよかさあ」


 ジェレミーは、俺らの話に全く興味を示さずに上着を着出した。それについていこうとした矢先、ラベルが口を開く。


「そこの兄ちゃん、名前教えてくださいな」

「おっと、名乗ってなかったな。俺の名前は、ドミニク・シャルル。ロイヤル社に居るシャルル記者の義兄ね」

「なんだ、ロイヤル社のシャルルか。じゃあ、身元割れてるから怪しい人ではないね。てっきり、悪い人かと思ってたよ」

「……そうだな」


 悪い人です、この人。


 という言葉を飲み込んだ俺は、そのままジェレミーと一緒に部屋を後にした。

 ちゃんと「長」をやろうと思った矢先に、これだよ。ラベルすまん。後でちゃんと説明するからな……。

 本当、なんで俺は隊長なんかやってんだか。


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