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白銀の機転  作者: 東雲鬼宿
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第七話 友達って何

 朝食後、すぐにはシスターの元には行かなかった。ファイもまだ子供たちも集まっていないと思うから少し後でいいだろうと言っていたので、部屋で本を読み時間をつぶす。そういえばファイは魔法でもどの分野が得意なのだろうか。遠距離に近距離、それに属性。基礎は後々俺も通うであろう学院で皆が学ぶが、得意分野は人それぞれ違い、騎士や魔術専門に進むものは特に顕著だ。興味本位と暇つぶしの一つで聞いてみる。


「ファイが得意とする魔法は何ですか」


急に尋ねてしまったせいか、ファイはびくっと肩を揺らした。申し訳ないことをしたな。そこまで仲良くはなっていないから、突然声をかけるのは間違っていた。以後気を付けよう。


「失礼しました、今後の事を考えていたので。得意と言ったら、火の属性を扱うのを得意としていますが、魔術師のように遠くに飛ばせるような魔法は不得意です。剣や体に炎をまとわせるのが主な戦い方ですね。学院時代は苦労しました。初級魔法でファイアボールを20m先の的に当てるが課題にありましたが、私は5m飛べばいい方なので散々な成績でした」


髪の色と相まって炎属性だ。髪の色は、本人が得意とする魔法属性の色が出るが、必ずしも得意とする属性色の髪色になるわけではない。だいたい色があっているものは、極端にその属性しか使えないものを指したりしていて、魔術師には向かない色ともいえる。魔術師は5大属性と言われる、火水土風雷が基本使える者たちが慣れる職業だ。


「その代わり騎士に必要な無属性魔法は伸びが良かったので、安心しております。殿下はどのような魔法が得意ですか?」


無属性魔法は、浄化や身体能力の向上や動物との親和力を上げるなど五大属性にはまらないものを指すが、騎士になる者たちは新身体能力向上の魔法を基本つかえるものがなる。しかし逆に言うと、使えないものの方が探すのに苦労するので、後は剣術の上達度も加えとく項目だ。


「俺が得意とするのは、その」


実はほぼすべての属性が使えるが、これはあまり言いふらさない方が良いと先生から忠告を受けている。それに得意と言っても、今は腕輪で力を制限していないと日常に支障が出るほど制御ができていないので未だその項目に含めることはできない。


「あぁ言えないのは仕方ありません。学院に上がるまで秘密にしている人たちも多いので気にしないでください。それよりも殿下が一人称を変えてくださった方が嬉しかったです」


ふわっと目元をやわらげファイは言った。しまったと口を手で押さえるが、突いて出てしまったのを訂正するために時間が戻るわけがないので諦める。首が折れため息を吐き出す。ずっと目元をやわらげているファイを見るが、今後もそうして欲しいと強請られているように思える。しかしこの後同年代の子供たちと会った時、「私」を使う子供がいたらどう思われるか考えてみた。気色悪いな。確かにそう教育されている貴族は多いだろうか、遊びの場において私をわざわざ使うものもいない。ファイは友人と呼べる相手にしていいわけではないが、心を預けるべき存在ではある。完全に預けるのはまだ不安だが、ずっと同じ空間にいて気遣いあっているのもとても疲れるだけだ。妥協点は必要だ。


「殿下そろそろ時間です。行きましょうか」


グダグダ考えている間に行く時間が訪れた。少し長めのため息を吐き出し本を隅に置いて、決心をつける。


「ファイ、聞いてもいいか」


もう諦めである。「俺」を使うなら必然と敬語も取れてしまう。私と敬語はイコールでつながれている。


「どうぞ」


後ろを歩いているファイは、途中道案内を挟みながら俺についてくる。護衛をするなら対象から周囲を見回す後ろが一番やりやすいと言っていた。そのファイは、俺の敬語が取れてからどこか嬉しそうに常に明るく接してくれる。


「どこの家の貴族が集まっているのだろうか」

「そうですね。殿下に近しい年齢ならば、今回は侯爵家のご令嬢や伯爵子爵の子息が多いですかね。特に気にするべきことではないと思いますが、緊張してますか」


ちらっと後ろを覗けば、心配そうな顔をしている。不安ではある。今までいた場所とはまた違う、子供同士の話題など分からない。また遊びなど何をしているのか見当もつかない。分からないものを想像すればするほど、目の前が真っ暗に見える。気にしない、今は気にしない。行けば案外どうにかなったりするのだ。


「殿下。一応申し上げますが、考えていることを口に出していただけると、私もフォローしやすいです」


ファイは、ね?と俺の前に出てきて立ち止まらせる。心の中のを吐露しろと、難しい事を要求してくる。それに言って笑われたら恥ずかしい。自分を見て笑うのは、貴族の大人で不用意な言葉は話さず黙って笑顔でやり過ごすのが楽だ。そうだ笑顔だった。


「殿下。私の前では無理して笑わなくていいと言いました」


ファイの一言に、俺はすとんと無表情に戻る。口には出していなかったが深いため息も聞こえた気もする。落胆させてしまったのか、本性を隠す方がダメと言われたのはエミリア様の前で言われた以来で、少し新鮮だった。

 周りを見渡すと、どうやら例の天幕の側に付いていたようだ。ここの天幕は壁の垂れ幕はかかっておらず、外から中で何が行われているのかが丸見えだ。子供がはしゃぐ声と姿、大泣きしている子供をあやしているシスターの後ろ姿が小さく見える。俺の修羅場がもうすぐそこにあると、視覚的に確認すると憂鬱な気分がずーんと押し寄せる。


「殿下。場内は、大人は入れないことになっています。私は周囲を警備している第二騎士団と合流し見守っています。迎えは昼時のどらがなったら来ます。大丈夫ですか」


ファイは片膝をついて、俺と目線を同じにする。大丈夫ではない、心の中はざわめいている。しかし行かなければ、大事な書物ははく奪だ。


「行ってきます」


ファイの横を通り過ぎ、天幕の入り口と思われる柵の先に入る。


 柵を越え中に入ると、ボールを蹴って追い回しているグループ、本を静かに読んでいる子、お人形遊びに牛耳ている女の子たち、カードゲームを楽しんでいる少し年齢層が上に見えるグループ。その他それぞれ仲の良い同士で集まって遊んでいる。ざっと70人程度。シスターは3人ほどいるが、子供たちに要求されたことをしているまでで、シスター自ら遊びに参加しているわけではなさそうだ。あくまで親の代わりの監視だ。すでにグループ化した中に突撃するのも、中々に上級的行動なので、ここは静かに本でも読もうかと足を延ばす。

 途中から入ってきた俺を皆見はするが、王子だということは分からないようで構いには来なかった。すぐに元の遊びの中へと戻っていく。少しほっと安心する。大人のような蔑んだ目や残念そうな目を向けてはこない。期待されたような目もなく、案外外を散歩しているよりは、気楽かもしれない。


「こんにちは」


 本に手を伸ばそうとしていると、隣から上品な金髪で頭の両横に髪を二つで結び後ろは流している女の子が声をかけて来た。向こうから話しかけてくる子はいないと踏んでいたため、少し驚いた。


「わたしユリアっていうの。あなたは?昨日はいなかったわよね?」

「昨日は疲れて寝てたんだ。俺はオズよろしく」


昨日からここは開かれていて、式典中も預けられている子の方が多い。その為俺の顔を知っているものがいないのだ。彼女は同じ年くらいだろうか、ユリアという女の子は社交に富んでいる。知らない顔を見たら声をかけて情報を得る。しかし人に話しかけられない俺からすれば、この社交性はありがたい。一匹狼にならずに済むのだから。上手いこと遊べれば父上との約束も果たすことが出来る。


「でも普段のお茶会とかでも見ないわ」

「あぁあまり外には出れなくて」

「まぁ!病弱なのね。でも今日会えてよかったわ。これからもよろしくね」


にこりと元気に笑顔を見せてくれた。なかなかの大声で俺は少し驚き目を丸くし口を軽く開けた。その顔が呆けた顔にでも見えたのか、ユリアは行きましょうと言って俺の腕をつかみ引っ張る。その力強さに少しこけたが転ばずには済んだ。


「あ、ごめんなさい。いつもクレアには強引すぎると言われていたのに」


と言いつつもそのままユリアは俺の腕をつかんだまま、今度はゆっくりと歩きどこかへと引っ張っていく。クレアとは誰だろうか、いやそれよりもどこへ行くのかと尋ねたら。分かりませんわときょとん顔をされた。


「え?」


足をとめ訝しむ。社交性はあっても計画性が無いのかこのご令嬢は。例えば友達のところに行くとか、カードゲームをしようとか。彼女の足はカードゲームが置いてある方だったが、どうやら違うみたいだった。


「ごめんなさい。私と遊ぶのは嫌でしたか」


強くにらみすぎただろうか、彼女は目に涙を浮かべ始めた。いや怒ったわけではないのだ。泣かれるのは困ると、俺は慌てて彼女をなだめにかかる。


「いやそうではなく」

「ほかにお友達がいましたか?」


より涙をためて、泣くのをこらえているようだが思い出してほしい。初めて会った時俺は一人で本を読もうとしていたことを。


「いやいない。こちらこそ一緒にいてくれると嬉しい」


そう言ったとたん、彼女はパッと目を輝かせ俺の両手を握りこんで、私も嬉しいですわと喜んでいた。よかった泣かなくて。するとユリアの後ろからくっくっと笑いながら、赤茶色の髪色をした男の子が歩いて来た。


「よかったなユリア。初めてのお友達だ」


クレアと彼女は振り返りながら嬉しそうに名前を呼ぶ。彼がクレアか。クレアの髪は男性にしては長く、伸ばした分だけ後ろ手に一つに結ばれていた。嬉しそうにしていたユリアだが、すぐに怒り顔になり握りこぶしを作ってぽかぽかとクレアの胸元をたたく。しかしその力は弱くクレアは大したことは無く、やれやれといつもの事のように流していた。


「クレア!わたしに一人も友達がいないような言いぐさはやめてくださる?」

「実際そうじゃないか。今日この場にお前と遊んでくれる友達はいたか?さっきまでお茶とお菓子をむさぼってたじゃねえか」

「くっ、クレアも友達ですわ」

「ただの従妹だろ。俺は仲のイイ奴らとボール蹴ってました。でもユリアに捕まった少年がかわいそうで駆け付けたのよ」


クレアは、ぽかぽかと叩かれながら、俺にウィンクをかました。なるほど従妹か。ちょっと違うが、俺とリティリアのような関係だろうか。兄弟のような友達のような気兼ねない仲に見える。確かにこの後どうすればいいか分からなかったから、クレアという助け舟はありがたかった。


「俺は、オズです」

「クレアだ。よろしくな」


二人で軽い挨拶と握手を交わす。これでクレアも友人枠になるだろうか。ユリアはもぅと怒りながらもどこか機嫌がよさそうなユリアはお茶しましょと誘ってきた。


「なに、ユリアは豚にでもなるつもりか。オズ俺たちと行こうぜ」


クレアは親指を突き立て、後ろにほうる。いつの間にかクレアの後ろには汗をかいた少年たちが数人わらわらと集まっていた。クレアが長々と話していたから、再び呼びに来たのだろう。ユリアは豚と言われたことに衝撃を受けていて、どこか別の場所へと気持ちが行っていた。それを放っていいのかと視線をやると、いつもの事だから平気だとクレアに言われ、俺はクレアたちと遊びに行くことにした。ボールを追いかけ走り疲れて、立ち止まりユリアはどうしているのかと探すと、いつの間にか何人かの女の子達と集まって、俺たちの試合っぽい何かを応援していた。寂しそうにしていなくてよかった。


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