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白銀の機転  作者: 東雲鬼宿
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第五話 狩猟大会

 7歳。誕生日を誰からも祝う事もなく時間は過ぎ、春の狩猟大会に参加することを皇帝陛下からの手紙で知った。参加をするといっても俺自身が狩猟をするわけではなく、陛下の拠点天幕内で待機していればいいという話だった。強制参加であるようで、断りを入れることはすでにできず、久しぶりに母とも会話をしたが


「陛下の命です。行きなさい」


意外にもすんなり許可が出た。どうやら陛下自ら母に打診をしていたそうで、俺の外堀は埋められていた。できれば参加したくない。俺が王子であると公に発表をするようなものである。今まで顔を出していない分、玉座にもっとも遠いと噂は持ちきりで俺にとってはそれが平穏だったのに、ついに俺もその噂が消えてしまう。さらには王自ら王子を連れ歩くのだ。憂鬱だ。

 この狩猟大会という社交の場に俺を引きずり出したのは、陛下の側近達であり、俺の授業の先生方でもある。陛下も母も俺に関して何も公に出しておらず、国民にも忘れかけられている、こんな悲しい事はないとのことだ。どうにかして取り付けれたのがこの狩猟大会との事、お喜びくださいと言われたがこのまま何も外に出ないのが平穏だと思う。特に第二皇妃を刺激しないだろうか。顔を下に下げため息をこぼす。


「俺にどうしろと」


先生方は、いつも俺に期待した眼差しを送ってくる。まだ何もできない子供に。授業はとても楽しいのだが、その目が日々高まっていくのが最近は辛い。


「久しぶりだなオズワルド」


行く道の馬車の中で、半年ぶりに陛下である父親に会った。と言っても正式にあったわけではなく、庭ですれ違った程度だが。陛下も第二皇妃に振り回されており、なかなか子供たちにも構いづらい環境なんだそうだ。


「はい」

「、、、こうもっと話すことは無いのか」


話したいことなどない。何も変わりはないし、むしろ側近の先生方からきっと様々な事を聞いているはず。俺からはなすことなどない。と悶々と考えていたら、父上がため息を吐き出した。


「私はエミリアではない。言葉にしてくれないと分からい。それにオズは無表情ではないか、とんと感情が分からない」


そういえば、父上は俺の無表情を知られているから気を抜いていた。外向けの顔をすれば表情は出るのだ。ただとても疲れるので、やらなくて済むならそれが一番なのだが求められたらやるしかない。


「父上の前では、今後そうしますね。顔を動かすのは疲れるのです。意識しないとできないので」


あぁ久しぶりに長々と話した。それに微笑みも続けなければならない。眉を軽く上にあげ、目元をやわらげ口を横に引っ張る。社交中はこの顔を張り付けていないといけないと思うと、やはり憂鬱だ。


「それは、すまなかった。私の前では気を抜いていい。これでも親だ、社交辞令の笑顔は見たくない。今すぐやめろ」


やめろと言われたので元に戻す。ありがたい。顔の筋肉がひきつったように感じるので、頬を手でもんでいると、ふふと笑い声が聞こえ窓の外に向けていた視線を父上に向けた。

すまない。私も社交という場は笑顔を張り付けないといけないから、後々顔を引きつるとそう手で揉むのでな」


か。


「お前に伝えることがある。今日から、正式にオズワルドの護衛騎士をつけることにした。名前は、えぇっと名前は覚えてないな。皆が推薦した者だからかなり強いぞ。第二騎士団のものだから実力はある」



第二騎士団とは、主に魔物討伐部隊である。第一騎士団は、王城と王都を守護する役目を持っている。どちらが強いかと言われても、甲乙つけがたい。対応する敵が人か魔物かという点で剣や魔法の実力は相違ない。なので父上の印象はどうかと思うが、今後遠出もするようになったら、魔物に巡り合う率が高くなる。それを踏まえれば第二騎士団というのは妥当である。しかし王族の護衛というのは近衛騎士になるのでなかったかと、父上に聞いてみた。


「あぁまずはお試しというところだ。しばらくは第二騎士団と近衛の仕事を兼任してもらって大変だとは思うが、お前との相性もみなくてはな」


抜擢された人はかわいそうだ。魔物討伐に誇りを持っている人だったらどうしようと思う。こんな廃れた俺で申し訳ない。

 半日馬車に揺られていると、昼過ぎには狩猟大会の開始地点で拠点天幕が立ち並ぶ野原に着いた。馬車から降り立ち、草原のにおいが漂ってきて目を開き驚く。王城内の野原とは違い土臭く、そして獣臭い。紳士たちは甲冑を着て開始の合図はまだかとうずうずいており、淑女やご婦人方は色めき立っている。騎士たちにハンカチやリボンタッセルなどお守りを渡している。お守り代わりのものと聞いている。それを多くもらった騎士は強い弱い関係なしに淑女たちにとても人気だという証になると、となりで俺の手をつなぎ歩き進める父上が言っていた。


「父上はもらったことはあるのですか」

「いや、わたしはいかつい顔なので、今の皇妃が皇妃になる前にもらえたことは無い」


残念そうに父はしょげていた。ようは、父はイケメンではないと言っているようなものだ。残念な男だと冷えた目で父上を見ていると、ううんと咳ばらいをしこの話は終わりを告げられる。

 父が歩けば前にいた人は道を開け、頭を下げる。しかし下げた頭でもちらりと俺を盗み見られている。気持ち悪い。しかし見られることは王族として当たり前なのだ。少しは慣れなければ。父の隣にいる限り、この目は続くのだ。

 王族用として仕立て上げられた、広々とした天幕に着いた。中に入ると豪華な応接室がそこに出来上がっていて、カーテンで仕切られているその奥は食堂、食堂の奥は陛下の部屋に続いている。俺の部屋は、入り口から右手のカーテンの先にあるとのこと。警備のために騎士の天幕部屋が途中挟まれているが、そこを抜ければ俺の天幕になる。荷物などはすでに運び込まれていて、普段使っている部屋よりも広くちょっとばかし落ち着かない。

 この後開催のあいさつを父上がするため、俺もそれに備えて少しきらびやかな服に着替える。今回は黒字に銀の刺繍の服装で俺好みになっている。と言ってもこの服装を繕ってれたのは、陛下の側近たちとのこと。センスのいいが居そうだ。公式の催しな為、更にマントを羽織る。王族のマントは瞳の色や髪の色を基調としたデザインになる。俺の場合は、紺地に銀色の刺繍でセンリョウの絵が縫われている。これが俺の紋章ともなるので大事である。ちなみに父は深緑に黄色でルドベキア(正義公平)の花が咲いている。実に父上らしい。この花を選ぶのは、自分ではなく父が選んでくれる風習だ。俺のどこに才能などあるものかと卑下したものだ。変えることもできないので、黙っている。メイドがはやりのマントの掛け方ですよと言って、左肩だけにマントをかける。かっこいいのかこれが。

 着替えを終え応接室に向かうと、数人の騎士たちが待機しており2人を除いたものが膝をつき礼を取る。


「第一王子殿下にご挨拶申し上げます。私は第一騎士団団長、イシュ・カーターと申します」

「第一王子殿下にご挨拶申し上げます。私は第二騎士団団長、マシュー・ラッセンと申します」


二人は右手こぶしを胸に当て、腰から頭を下げる。こちらも挨拶を返さねば、二人はいつまでたっても顔を上げられない。


「初めまして、顔を皆上げて楽にしてください。第一王子のオズワルドです。今後ともよろしくお願いします」


現状精一杯の笑顔を作り出し、挨拶を交わす。なぜかおぉとどよめきの声が上がったが、なんだ俺は深窓の姫君になったつもりは無いぞ。


「殿下陛下より護衛の件を伺っていますでしょうか」


第二騎士団団長マシューが聞いて来た。この男ひげ面で父上よりも顔面強面である。額には深い傷がついており、魔物と幾戦も戦てきたことが一目瞭然でわかる。


「聞きました。お名前までは、聞けませんでしたが」


俺は少ししょんぼりとする。残念なのは俺なのではなく、名前を憶えて入れなかった父上なのだが。しかしマシューも同じようにガックシと肩を落としている。


「陛下、名前を覚えるの相変わらず苦手なのですね。マシュー仕方ありません。そう気を落とさず」


困った顔をしながら、口元は笑っている第一騎士団長のイシュがマシューの肩をポンと叩きうなだれているマシューを慰めた。このイシュという男、優男に見えるが内面はものすごく腹黒そうだ。

俺が呆けた顔でもしていただろうか、イシュがはっとしてマシューを会話へと引き戻す。


「失礼しました。その護衛は私の三男でして、いまご紹介してもよろしいでしょうか」

「構いません」


なるほど息子の名前を覚えてもらえなくて、残念だったのか。しかし三男とは苦労しそうな位置である。生きてるだけでは、家を継げるわけではない。その点騎士は、実力が伴えばもらえる安定した職業だ。平民も目指せる当たり、いい職業だと思う。


「ファイ」


名前を呼ばれると膝をついていた騎士の中から、一人赤い髪の男が立ち上がり俺の前まで出てきて、再び膝をつき騎士の最高礼をとる。


「お初にお目にかかります。第二騎士団第一支部第三部隊所属、ファイリア・ラッセンといいます。本日付で殿下の護衛を務めさせていただきます」

「よろしくお願いしますファイリア」


手を差し伸べ握手を求める。するとまたもどよめきが上がる。何かおかしいことがあるだろうか。仲良くなるにはまずは握手が必要だろう。お願いしますとファイリアはおずおずと俺の手を取って握手をしてくれた。


「ファイリアは長いので今後はファイと呼んでください。皆もそうしてます」


ファイがそういうのでそうしよう。立つよう促すと、ではと言って、俺の後ろに立つ。えっと思い振り向くと、これが護衛の正しい立ち位置ですとさわやかに返された。後ろに人が立っているのに慣れない俺は背中がなぜかむずむずする気がした。これはしばらく難儀しそうだ。


「挨拶は終わったか」


甲冑にマントを羽織った父上が現れた。いかつい顔には普段の服装よりも戦闘服の方が良く似合っていると思う。


「恙なく。陛下時間が迫っております。お急ぎを」


イシュが答えると、父上と話す間もなく次の場所へと移動する。今日は睡眠の時間が訪れるまで父上はスケジュールが埋まっている。開催宣言にその後の狩り、そして夜の会食。大人は忙しそうだ。

 舞台に上がり父上の後ろにただ黙って立っている。時折父上の視線が俺に来ていた気がするが気にしない。貴族の前で何をするでもなく、粛々と開催宣言は終わった。


「これより狩りを開催する」


父上が壇上を降りるのについて行って、狩りへと出立するまで見送る。

馬が何頭も立ち並んでおり、騎士も周りに大勢控えれおり、これぞ王様感をまざまざと感じさせられた。


「どうだ父はかっこよいだろう」


うぬぼれたことを聞いて来たので冷たくあしらおうと口を開いたが、そういえばここは外向でなくてはならないことを思い出す。無表情でいることをやめてにこやかに微笑み返す。


「いいえ、父上。狩りで成功してこそかっこいいと思いますが、見てくれだけでかっこいいとは言えません。それに私が圧巻に感じたのは、騎士たちが勇ましくかっこよく見えたので、決して父上がかっこいいとは思っておりません」


ぶふっとイシュあたりが、笑ったのを俺は見過ごさない。やつはやはり腹黒だ。父上は俺の一言でショックを受けしょんぼりしながら馬に騎乗する。父の武器は槍で、狩猟を行うには比較的楽だそうだ。剣を振り回して獲物をしとめるより、突いたり投げることのできる槍は近接の中では適しているとの判断だ。


「ではマシューここの守りは任せたぞ」


第一騎士団は皇帝陛下に就き護衛と狩猟のサポートをし、第二騎士団はこの拠点地点の警備が主な役割分担だ。しかしマシューはどうも不満そうな顔をしている。というのも魔物討伐部隊の団長が魔物狩りに参加できないのも悲しい気持ちになるのもわかる気がする。若干騎士たちも落胆な顔持ちをしている。


「マシュー、去年も言ったが順々に役割を変えると。諦めろ次はマシューの番だ」

「はい。成果が豊富であった報告をここでお待ちしております」


うむと皇帝陛下はうなずき、馬に乗ったまま俺の側に来た。


「あー、護衛任せたぞ。オズいい子にしていろ」


はっ。と声を上げ後ろのファイが騎士礼をとった。そして父上は俺の頭をぐりぐりと撫でまわす。少し強くてごつごつした手をしていた。


「行ってらっしゃい。父上」


馬の上からでは見えなかっただろうが、俺は下を向きながら笑顔で送り出しの言葉を発した。父上はにやりと口を上げ、行ってくると言い騎士団を連れ森の奥へと向かっていった。


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