Arms With You~注意力散漫物語~
初投稿です。更新頻度も仕事の関係であまり早くありませんがよろしくお願いします。
プロローグ
「おつかれっしたー」
僕は仕事を終えさっさと接続を切る。すると先ほどまでの整頓されたオフィスは消え失せ、ごちゃついた自分の部屋の景色に戻る。水の入ったペットボトルをあおり喉の渇きを癒すとヘルメットのような装置を取り出し首の後ろにあるソケットに接続する。今日は半年前から待ち望んだVRMMOタイトルである「Arms With You」のサービス開始日なのである。このゲームのために最新VRハードである「Empty reality」を半年間必死に仕事の後にアルバイトをして購入までしたのである。
―――西暦2067年現在AR技術とVR技術が飛躍的に発展した結果人類は拡張現実と仮想現実の世界の中で生活するようになった。新生児は脳に装置を取り付けられ、すぐにでも完全に世界に対応できるようにされる。勿論当初は散々騒がれたらしいが、その有用性が示され米国などで少しずつ実験的に行われいつしか世界中に広まっていった。
会社のオフィスに行かずともVR技術を利用した仮想空間のオフィスに出勤し、仕事をする。工場などでは人間の手と大差ない動きができる高性能マニュピレータに遠隔で接続し作業を行う。買い物は実際のものを手元に投影し、ネットを介して購入する。配達は超高速ドローンによってすぐに手元に届く。
その結果町からオフィスや実際の商店などは消え失せた。かつての景色を知る人は
「便利にはなったが、町は寂しくなった。かつてあった人ごみと喧騒は最早幻であったかのようだ。」
と、語る。
だが、商店やオフィスビルが消え失せた代わりに飲食店は爆発的に増えることになった。最早実際に外に出かけることなど外食ぐらいしかないと言ってもよい。自動車などもあまり見かけなくなり、建物の外は非常に閑散としている。それが2067年の風景である。
そして、ゲーム業界は非常に驚異的な発展を遂げることになった。仮想現実世界に広大なフィールドを形成し、体の五感はそのままに全く違う世界を味わうことができるとなると受けないはずがない。2000年代初めの方ではまだ作りが甘く、粗いCGと雑な挙動そしてゲーム内のフィードバックも特になかったそうだ。そこから随分と進歩したものである。
この非常に発展したゲーム業界において半年前に発表された新規タイトル「AWY(Arms With You)」は発表と共に新ハードを発表し、相当な話題を呼んだ。
今までハードの発表と共にソフトが発表されることはあっても、ソフトに合わせてハードの発表など聞いたことがなかったからである。つまりこの新ハード「ER(Empty Reality)」は完全に「AWY」専用機であるということに等しいといえるだろう。―――
「ER」を起動すると早速ユーザー名と生体認証登録画面が現れる。さて、名前は何にしようか。本名のもじりがいいかな。本名は「推名 中」だからタルタルにしよう。うん、美味しいしね。生体認証は脳の装置を介して行われすぐにゲームが開始されキャラクタークリエイト画面に飛ばされる。「AWY」ではプレイヤーはいくつかのクラスを選択し、プレイすることになる。それぞれクラスの部屋があって扉にかけてある。
早速説明プレートを見てみよう。
剣士 その名のごとく剣を使って戦うクラス。派生クラスに剣闘士、侍などがある。攻撃スキルを主に習得する。
闘士 主に肉弾戦だがボーラやヌンチャク等特殊な武器を用いたりもできる。特殊スキルを主に習得する。派生クラスにバーサーカー、トリックスター等がある。
盾士 盾を用い戦う攻防一体のクラス。自身を強化したり敵を弱体化するスキルを主に習得する。派生クラスにウォータンク、バスターウォール等がある。
魔法士 魔法攻撃を主体とし、高火力な攻撃ができる反面防御力が低い傾向にある。魔法スキルを主に習得する。派生クラスにソーサラー、スペルキャスター等がある。
隠密士 ステルス行動を主に行い死角からの攻撃を主に戦うクラス。速度、俊敏性が高く防御力は魔法士よりも更に低い傾向にある。隠密スキルを主に習得する。派生クラスにアサシン、忍者などがある。
射手 遠距離攻撃を主に用い戦うクラス。高火力が望めるが接近戦は不得手とする。遠距離攻撃スキルや低級魔法スキルを主に習得する。派生クラスにマジックアーチャー、スナイパー等がある。
んー、ざっくりでいまいちはっきりしないけど概要は何となくわかったかな。
この手のゲームだと近接戦闘なんかは今まで全くやってきてないし苦手なんで、剣士・闘士・盾士は除外かな。魔法士は防御力に不安もあるし、攻撃の溜めも長かったりしそうなのでやっぱり名前にあやかって射手かな。けど、なんでこれだけ「士」じゃなくて「手」なんだろう?まぁ、特に意味はなさそうだし気にしないでおこう。隠密士も気になるけど、結局敵に近づかないとだめそうだし。
部屋に入ると防具が一式かけてあった。さて、ここからがこのゲームの本領である。このゲームに厳密には「武器」というアイテムは存在しない。防具が変形し一部若しくは全体が武器としての役割を持つのだ。各パーツごとに違うスキルが付随したり、5体全部装備して初めて効果を発揮する一式装備などがある。そしてこの初期装備は装備した段階でランダムにクラス内の装備があてがわれて決定される。所謂ガチャシステムになっている。
つまり初めから格差が生まれ得る厳しい仕様なのである。勿論一式装備はゲーム進行そのものに支障をきたす可能性があるので除外されるらしいが。
願わくは最高までとは言わないのでほどほどの性能がある防具であることを祈ろう。
まずは頭部から。かかっている帽子をかぶると変化が始まった。うねうねと動き出し形を変化させていく。結局帽子は眼帯とマスクに変化し装着された。備え付けの姿見を見てみるとある一定の年齢層がかかる病気になった気分になって複雑だ。
「厨二病かよ・・・」
しかし、引いてしまったものは仕方がない。効果を確認しておこう。さすがに射手なのに眼帯ってのはどうかと思うんだよね。
厨二病のマスク 眼帯とバンダナを組み合わせた非常に不信感のあるマスク。これを装備していると非常に生暖かい目で見られることになるだろう。遠見の魔眼Lvl.1、気配遮断LVl.1が付与される。
「マジでそのまんまかよ!」
思わず語気が荒くなってしまう。しかし、効果自体は悪くなさそうだ。
実際視界は悪くなっていないので何かしらの効果があるとは思っていたけど、
初期装備にしては破格の性能のような気がする。
まぁいい、気を取り直して次に行こう。
次は胴の装備だな。また装備するとうねうねと変形し始める。今度は一般的な
胸当ての様な形に留まって・・・ないな。何故だ!胸当てではあるけど完全に
腹がむき出しになっている。完全に不審者じゃないか!まさか効果と引き換え
に見た目が犠牲になる仕様なのか?
蛮族の胸当て まさに蛮族!といった形の胴用装備。射手用なので胸当てがかろうじて付いてい る。町ゆく人々に腹筋を見せつけてやろう!射出した物体に速度+2、威力+3が付 与され防御力は-5される。
うわぁ、、威力と速度が上がるのはいいけど防御力が下がる効果がついていた。見た目通りなのは間違いないけど、流石にこれは早めに対策した方が良さそうだな。大したことのない攻撃を受けて大ダメージなんてのはごめんであるが、火力特化にするなら悪くはないかもしれない。PSでどうにかするのもVRゲームの醍醐味ではあるし。
「さて、次は腰かな。」
腰用装備を手に取り装着する。今度は日本鎧の草摺と言われるような形になっ
た。全く統一感がないが、ランダムなので仕方ない。
矢筒の草摺 利き腕側に矢筒が付く腰部装備。矢(使用武器により変化)はどこからともなく補充 され尽きることがない希少な装備。威力+2 ※売却、譲渡不可防具
おぉ!これはちゃんとした当たりなのではなかろうか?あと、今更気になったのだが、防御力など書かれていないのはなぜだろう?あとで何か出てくるのだろうか?今は気にしても仕方ないので次に行こう。
次は腕だな。両腕でワンセットになっているみたいだ。
短弓の腕当 短弓を発生させることができる普通の腕当。威力、射程は通常
の弓に劣るが連射速度は勝る。長く引き絞りチャージすること
で威力と射程がUPする。連射+2が付与される。
おぉ、やっと普通の防具が出た。なんかちょっと物足りない気もするけど、普通に射れるならいいか。短弓なのが若干残念だけどね。やっぱ射程はあるに越したことないし、今までのゲームの経験も生かしたい。僕は超遠距離からの狙撃が得意なんでね。そのうち長弓などに替えればいいだろう。
次はいよいよ最後の脚部装備だな。変なデメリットなんか付いてないといいけ
ど・・・。
雷雨の脚甲 この防具を付けて駆けると雷鳴が轟き豪雨が訪れると言われる脚甲。跳躍力、蹴撃力 に優れ、空を短時間ながら駆けることができる非常に強力な防具。しかし、現在は本 来の能力が封印され制限されている。固有スキルとして雷脚が使用可能。命中補 正+3、速度+3が付与される。※売却、譲渡、破壊、変換不可能。
「ん?なんだこれ?強すぎなんじゃないのか?」
初期装備がランダムとはいえこれはいくら何でも異常なんじゃないか?強力す
ぎるぞ。
ぴろりん☆
流石におかしいなと訝しんでいると、メッセージが届いた。
おめでとうございます!最高レア度の装備を見事ゲットされたあなたには追加
でこちらの装備をプレゼントさせていただきます!楽しい「AWY」ライフを!
与一の腕当 那須与一が使っていたような気配がする腕当。命中力が大幅に上
がる代わりに弓系統以外の武具が使用できなくなる。
命中補正+7※売却、譲渡、装備変更不可(条件を満たすことで
解除できるようになります)
運営より
「おぉ、弓外の武具が使用できない代わりに命中補正が+7もついてる!これはいいぞぉー!早速装備だ!」
この時僕は最後の装備変更不可の文字を完全に見落としていた。そして、武器が腕にしか付いてないことも完全に忘れていた・・・。まさかこれが落とし穴だったとは露程も思わなかったのである。