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先祖帰り

「えっ、ルーシャお姉様、貴族学院の教師になられるのですか?」


「要請が来たの。でも、まだ返事してないの、決めていないわ」


 ルーシャお姉様は今も、三年生、最上級生として貴族学院に在籍している。お姉様は十六歳なので、本来ならもう卒業されている筈なのだが、聖女として、日々、病人や怪我人の治療に東奔西走していたため、出席日数が足らなくなってしまった。つまり落第したのである。


 貴族院側もこれには、頭を痛めたらしい。国の宝とも謳われる、聖女ルーシャに、「落第」などと言う汚点をつけて良いものか? それを避けるため、特例で、卒業を認めるべきか? 喧々諤々な議論が、教師達の間で交わされたが、最終的には、ルーシャお姉様の希望に沿うこととなった。


 要するに、卒業したかったらしていいよ。自分で決めてってこと。貴族院側は責任を放棄した。そして、ルーシャお姉様の選択は……


『落第でいいです。普通に留年します』


 ルーシャお姉様としては、卒業しても良かったのだけれど、それまで、学院生活を真面に送って来なかったので、一年くらいは、きちんと学院生として、勉強や院生間の交流をしてみたいと思ったそうだ。だから留年を選んだ。


 しかし、お姉様は、今まで通り病人の治療を続けておられる。学業との両立は、出来るの? と思ってしまいがちだが、心配はご無用。今のルーシャお姉様は、瞬間移動がいくらでも使えるようになっており、時間のロスが大幅に減ったのだ。それ故、病人の治療と学業の両立は、以前よりずっと簡単なのである。


 こうして、ルーシャお姉様の学院生活は続くこととなった。お姉様は、学院生と交流を図るため、生徒会に入った。しかし、これは失敗だったらしい。お姉様としては、友人として交流を図るつもりだったのだが、生徒会が、ルーシャお姉様、聖女ルーシャの崇拝者集団となってしまった。これでは対等な交流など夢のまた夢。


 今のルーシャお姉様は、神人(かみびと)のレベルの回復魔術を使えるようになっている。これはとんでもないこと。元神様で、魔術なら何でも使える、あのコーデリアが、段違いで威力負けする。


 神人のレベルの魔術は、もはや魔術だけでは成り立たない。神力が必要になって来る。お姉様はマンキ神とドング神の神力を借りることが出来る。これでは、いくらコーデリアでも、人になった今、勝てる訳がない。


 そのような凄い術者である上、本人の容姿は、超絶美少女。いや、年齢と共に女性らしさを増した今、絶世の美女と言った方が良いだろう。性格も、昔あった劣等感が解消され、とても温和で、暖かなものとなっている。そして、留年したせいで、年が一つ上なのである。周りが対等の友達ではなく、信奉者ばかりになってしまうのは、致し方がない。


 諦めて下さいませ、ルーシャお姉様。私だって今の立場でなかったら、お姉様の信奉者になっていたことでしょう。


「アリスティアは、どう思う? この話、受けた方が良いかしら」


「私は、受けられた方が良いと思います。私達は、エルフじゃないんですから、どんなに頑張っても、寿命は百年以下、後進の育成は大事です、絶対しなければならないことです」


「そうね、やっぱりそうよね…… 私達、ただの人だもんね」


「……」


 私が、エルフなんて言葉を出したばっかりに、二人ともしんみりしてしまった。


 コーデリア……


 コーデリアはユンカー様の子孫。けれど、何代も代を重ねているので、ユンカー様の血はほんの僅かしか受け継いでいない筈。だのに、コーデリアの耳は尖っている、エルフへの先祖帰りを起こしている。その先祖帰りがどこまで影響するかは分からない。もし、エルフのように何百年も生きるとしたら、私も、ルーシャお姉様も、エルシミリアも、他の皆も全員、先に死んでしまう、コーデリアを一人にしてしまう。


 コーデリアが結婚して、子供を産んだとしても、その子供も、その孫も、彼女より先に死んでいく。可哀そうで仕方がない。コーデリアが、神から人へ転生する時、このような設定を自分に果たしたとは到底思えない。先祖帰りは、ただの偶然だろう。エルフの血がもたらした残酷な偶然。


 だから、ユンカー様は、あれほどまでに、コーデリアを愛したのだろう。ユンカー様はコーデリアに、申し訳なくて仕方が無かったに違いない。


 彼女は、自らが愛した者達が、自分を残して、次々と死んでゆく辛さ、悲しさ、をよく知っている。それなのに、自らの血が、彼女の子孫であるコーデリアに、自分と同じ悲劇を与えようとしている。辛くない訳がない。よく耐えて来られたものだ。


「アリスティア、このことは心配したってどうにもならない。それに、私達はまだ若い、時間はある。これからゆっくり、考えていきましょう。もしかしたら名案が浮かぶかもよ」


「はい、そうですね。浮かぶかもです。ルーシャお姉様」


 名案ね…… そのようなものが有るとは、私には思えないのです。お姉様。



 ルーシャお姉様は、色々と考えた末、学院の教師の件を受けることにした。


「ルーシャ先生、来年から宜しくお願いします」


「アリスティア、貴女には神人レベルになってもらうからね。覚悟して、ビシビシいくわよ!」


 全身の力が抜けた。


 学院なんて行きたくない。不登校児になってやる~!




 コーデリアの先祖帰りについて、もう一つの可能性として考えていることがある。


 彼女の先祖帰りは、高位の神が、彼女に与えた罰ではなかろうか? 神としての仕事を放棄した罰…… もし、そうであるならば、なんて残酷、なんて残酷な神。


 こんな神は、嫌いだ。ほんと嫌いだ。


本作では、神様も色々です。人と同じです。

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