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十一歳の日々

 王都からオルバリスに帰って来て、約十三カ月たちました。

 

 私、アリスティアとエルシミリアは十一歳。

 来月のホーサー月の二十五日に十二歳になります。普通なら、どの神の眷属の紋章を貰えるのか? とワクワクしたり、神棄になったりしないか? などと戦々恐々になったりするのでしょうが、私もエルシミリアも、全くそんなことはありません。


「眷属の紋章? あー、そんなモノもありましたわね。くれるなら貰っておきますが、別にねー」


 という感じ。


 貰わなくても、今の私やエルシミリアは、魔術は自由自在に使えます。オリアーナ大叔母様とコーデリアに、みっちり教えてもらいました。オリアーナ大叔母様は魔術の天才ですし、コーデリアは転生前は、神々に魔術を教えた真の神様です。この二人の教えを受けた私達にとって、本当の神ではない十二柱から授かる紋章ごとき、はっきり言ってどうでも良いのです。


「なんなら、神棄でもかまいませんわ。なんにせよ、紋章隠しのブレスレットはするのです。外から分かりはしませんからね。オーホッホ」


 なのです。

 

 マイス、バッファ、ティーゲル、ピーター、ドランケン、クイネス、ホーサー、シーファ、マンキ、バンド、ドング、ボーター。どの神々でも構いません。適当に下さいまし…………


 …………ん? んんん?


「何じゃこりゃああ!」


 おもわず、ジーパン刑事、松田優作になってしまった私は、廊下に飛び出ました。


(「太陽にほえろ!」はお母さんに教えてもらいました。お母さんは殿下、小野寺昭が好きだったとのこと)


 コーデリアに問いたださねばなりません。コーデリアはどこにいるのでしょう? 多分、エルシミリアの部屋でしょう。最近のコーデリアは、エルシーにべったりです。


 最初は違ったのですが、今のコーデリアは、可愛くて、甘えんぼな妹、まさにエルシーが望んでいた理想そのものになっています。エルシーに甘えに甘え、甘えまくっています。


「エルシ姉様~。一人で寝るのは寂しいのです。一緒に寝て下さいまし」


「一人で寝るのが寂しいって、ただのお昼寝ではないですか? コーデはほんと甘えんぼさんですねー。えぃ!」


 エルシミリアがコーデリアのおでこを、人差し指で弾きました。


「きゃ、痛~い。お返しです! こちょこちょこちょこちょこちょー!」


「脇はやめて! 脇はー弱いのー! コーデ! アヘヘヘ、アハ」


 はっきり言って耐えられません。コーデリアの中身が平行世界の私であると思うと、居たたまれなさが倍増です。


 何やってんだ、私! 自分に若干、百合の気があるのは知っている。でも、香る程度よ。だいたい、あんた想い人は、兄さんじゃなかったの? まあ、それはそれで問題あるけどさー。とにかく露骨なイチャイチャは止めて、隣にいる自分、私のことも考えてよ。


 コーデリアが変わったのは、半年くらい前のことです。


 その日は、お父様、お母様、ルーシャお姉様が外出で、私、エルシミリア、コーデリアの三人だけで夕食をいただいておりました。その時のメインの料理には、ニンジンが沢山入っていたのですが、コーデリアは、フォークで、チマチマとニンジンを取り除いていました。それをエルシミリアが咎めました。


「コーデ、好き嫌いはダメですよ。栄養バランスは大切です。それに何よりも、農家の方々が一生懸命に作ってくれてるのです。きちんと食べなければダメです」


「バランスとか、農家の方々とはそんなのは知りません! 嫌いなものは嫌いなのです! えい!」


 コーデリアは、大きなニンジンをフォークに刺すと、手首を振り、そのニンジンを床に投げ捨てました。


「な、なんてことを!」


 烈火の如く怒ったエルシミリアが、コーデリアを椅子から引きずり下ろし、抱きかかえ、コーデリアのお尻を叩きはじめました。いわゆる、お尻ぺんぺん! です。


「痛い、痛いです! エルシ姉様!」

「食べ物を粗末にするような子は許しません!」


 パン! パン! パン! パン!


「食べます! ニンジン食べますからー! 半分食べます!」

「半分とかダメです! 全部食べなさい!」


パン! パン! パン! パン!


 私は呆然とその様子を見ていました。そして気づきました。気づいてしまったのです。


 お尻をエルシーに叩かれているコーデリアの顔が、()()()()していることに。


 

 コーデリア! あなた、Mなの! Mなのー!!



 私の人生で、これほど衝撃を受けたことはありません。コーデリアがMだとすれば、彼女の平行世界の私である私、アリスティアもMである可能性が高いです。


 百合の気がある上に、Mである可能性大。恐ろしいです、恐ろし過ぎます。


 私は、神様、MY神様に必死に祈りました。


『神様! どうか私に、普通の幸せな未来をお与え下さい! エルシーに鞭打たれ、嬌声をあげるような未来を来させないで下さい、お願いです。普通が一番、普通が一番なのです、お願いです!」


 それ以来、コーデリアはエルシーになつきました。お母様などは、なんて仲が良いのでしょう! 微笑ましいわ。などと喜んでいます。何も知らなければ、その通りでしょう。何も知らなければ。


 時々、コーデリアはエルシーのベッドに潜り込んでいるようです。あんなことやこんなことが起こっていないことを二人の姉として祈っています。コレットは喜びそうですが、お姉ちゃんは許しませんよ。


 案の定、コーデリアは、エルシーの部屋にいました。エルシーと二人でお絵描きしております。エルシーの絵は、お察しです。コーデリアの方はどうでしょうか?


 笑いと安堵がこみ上げてきました。コーデリアの絵は、平行世界の私であるにも関わらず、エルシー並みの絵でした。画伯でした。いくら、平行世界の私とはいっても、私との違いは多々あるようです。ほんと、ホッとしました。鞭と嬌声の未来を避けれる可能性が、高まりました。神に感謝を!


 心の重しが少しとれたので、本来の目的に戻ることにします。


「コーデ、あなたが作った十二柱の神々って、『干支』なの? 『干支』なのよね?」


「あら、アリス姉様。今頃気づかれたのですか、もう、とっくに気づいているものかと」


 コーデリアは意外そうな顔をしています。気付かないわよ。ここは異世界、神々の名が干支にちなんでるなんて、思う訳がない。


「アリス姉様、干支って何ですか?」


 干支なんて、当然知らないエルシミリアが尋ねて来ました。


「干支というのはですね……」コーデリアが代わりに説明してくれました。


「アリス姉様達がいた世界は、面白いですね。こちらの世界よりバラエティーに富んでます」


 確かにそう。しかし、それは仕方がないことです。世界の大きさも、人口も、歴史も圧倒的に、前世の地球の方が上なのです、文化が多彩なのは当たり前。比べては、この世界が可哀そうです。


 私が神々の名で気づいたのは以下の通り。


 ・マイス   (マウス)    子

 ・バッファ  (バッファロー) 丑

 ・ティーゲル (タイガー)   寅

 ・ピーター  (ラビット)   卯

 ・ドランケン (ドラゴン)   辰

 ・クイネス  (スネーク)   巳

 ・ホーサー  (ホース)    午

 ・シーファ  (シープ)    未

 ・マンキ   (モンキー)   申

 ・バンド   (バード)    酉

 ・ドング   (ドッグ)    戌 

 ・ボーター  (ボーア)    亥


 

「コーデリア、殆ど、干支を英語にして、変形させてるのね。でも、卯だけ違うわ。何故なの?」


 何か特別な訳があるのだろうか? ピーター神には、秘められた何かが!


「愛読書だったからです。好きなんですピーターラビット」


「……」


 平行世界の私ごときに、期待した私がバカでした。この世界の底が浅いのは仕方ないね。大本(おおもと)の神様がこれだもんね。あー、期待して損した。


「何ですか、そのお顔は。アリス姉様は、何かご不満でもお有りですか」


 コーデリアは私の態度に不満なようです。


「別にー、元、高校生が創った神々だから、こんなもんでしょ。コーデは頑張った。頑張ったのね、わかってるよ。えらいえらい」


 平行世界の私であるコーデリアに対しては、つい口調がぞんざいになってしまいます。


「ううっ」コーデリアが涙目になりました。


「わーん、アリス姉が、私をイジメます! 中坊までしか生きなかったくせに、高校まで行った私をバカにしてます。酷いです~!」


 泣き出したコーデリアは、ヒシっとエルシミリアに抱き着きました。明らかに嘘泣きです。


「エルシー、騙されないで、コーデは嘘泣きをして……」


「アリス姉様! 言い訳はいりません。可愛い可愛いいコーデになんて酷い物言いをなさるのですか!」


 ショックでした。私の人生、ショックばかり。


 あの、私一筋だったエルシーが、私よりコーデの方を大切にしています。晴天の霹靂としか言いようがありません。エルシーの胸に抱かれたコーデがこちらの方を、チラッと見てきます。天使のように美しい顔が、邪悪な笑いをみせました。


 にへっ。


 許せん! 私からエルシーを奪うなど、許せるものかー!


「コーデ、決闘よ! どちらがエルシーの姉妹に相応しいかどうか、白黒つけましょう!」


「アリス姉様、あなたはアホですか、いつからそのように残念になってしまわれたのです!」


「うわ~ん、ますます、アリス姉が虐めて来ます~」



 こうして、平和な(?)十一歳の日々は過ぎて行きます。


 来月の25日の誕生日で、私達は12歳。私とエルシミリアは、どの神の紋章をもらえるのでしょう。御神籤の結果くらいの興味があります。


『君たちはもらえないよ』


 カインが心の中に話しかけて来ました。


 何で? どうして、そんなことが分かるの?


『分かるよ、僕が弾くもん。君達を、あんな神もどきの眷属になんかさせないよ。大体今の君は、紋章なんて貰っても何の利益もない。相性問題が出る分、マイナスだよ』


 確かにカインの言う通りね。ならない方が得ね。


『だろ』



 これで、私達の神棄てになる未来は決定した。当日までそう思っていた。しかし、誕生日の朝。私とエルシミリの右手首には、紋章が、しっかりと刻まれた。二人とも同じ紋章。そして、その紋章は初めて見るもの。


 十二柱、以外の神……、


 知らない神からのものだった。


コーデリアは設定に嫌悪感を持たなくなり、人生を楽しんでいます。ちょっと危うい楽しみ方ですが。アリスも負けずに頑張れ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、百合百合の気は良いです!甘えるのは可愛い萌えです!ちょっと甘え過ぎるの気もしますけどw 何かアリスさんの方がイジメられたぽいですけどw エルシさんの方が人気のお姉様でしたw
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