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遊ぶのが仕事

20.04.22 ルーシャの年齢変更しました。

 陛下と私達、四姉妹がデモンストレーションを行った翌日、


 エルトレント大公家、グランケイン大公家、両大公家の公子、公女が全員揃って、王宮に参内し、陛下に面会を願った。陛下は快く承諾した。


 彼、彼女らは、申出書を携えていた。内容は以下の通り。


・現、両大公、モンタギュー・オールストレームとパーシヴァル・オールストレームは引退。


・両大公家の家督は、両家とも、両第一公子、アルバート・オールストレーム と クラレンス・オールストレームが継承。


・家督継承の手続き終了後、両大公家は領地を返上し、臣籍降下する。



 あまりにも陛下の言った通りになったので、私は賛辞を贈らざるを得なかった。


「陛下の慧眼、恐れ入りました。己が身の浅学菲才を痛感致しております」


「別に慧眼などではない。アリスティアは、公子公女らを知らない。私は知っている。ただ、それだけの差だよ」


「そうなのですか」


「そうだ、あの子達は父親()達とは全然違う、まともな王族だよ。トンビが鷹を産んだ」


「鷹ですか、では、鷲に育つ方もおられるかも知れませんね」


「おるかもな。出たら次の王になってもらおう」


 陛下が、あっけらかんに言うので可笑しくなってしまう。


「フフフ」


「ん、何か可笑しいか?」


「いえ、陛下は全く、自らの王子、王女への継承に拘らないのですね」


「まあな、王なんて、なって楽しいものではない。王としての適性がある息子や娘が、成りたいと望むならともかく、何が何でもとかは思わんよ」


 賢明だ、よくこれほど権力欲から離れられるものだ、感心する。


「そうだ、アリスティア。コーデリアがゲインズブラントへ養子に行くんだ、お前が代わりに、こちらへ来い。そして、王子の誰でも良いから、王配にして、王位を継いでくれ。こだわりは捨てる。ゲインズブラント王朝でも良い」


 藪をつついて、蛇が出た。


「女王なんて、御免ですよ。王より楽しくなさそうです」


「まあ、それは、そうかもしれんが」


 この世界でも、基本的に国のトップは、殆ど男性である。女性のトップ、女王もいることにはいる。でも、大陸にある十の国家の内、女王を戴く国は、たった一か国。お仲間が一人なんて寂し過ぎる。


「それに、私を養子にしようなどとしたら、エルシミリアが包丁を持って跳んで来ますよ」


「包丁とはぶっそうな妹だな」


「蒐集家の愛は深くて重いのです。触れてはなりません。ましてや、収集品を強奪しようなどと、ゆめゆめ、思いませぬように」


「そなたは蒐集品なのか」


「です、エルシーの一番のお気に入りです」


 陛下の目が可哀そうなものを見る目になった。


「アリスティア、そなた嫁ぐことが出来んかもな」


「かもしれません…… へ、陛下!」


 私は、ガシッと陛下の服を掴んだ。


「な、なんだ、急に」


「私を、エルシーの愛の蟻地獄から救い出して下さいまし! このままでは、行かず後家、犬猫いっぱい、庭いじりの日々しか待っていません!」


「しらん、私は包丁で刺されとうない。だいたい、そなたが触れるでないと、言ったではないか!」


「言いました、言いましたけどー」


「自分でなんとかしろ! 出来る、お前はやれば、出来る子なんだ!」


「そんなー、荒川先生みたいなことは言わないでー!」


「あらかわ先生? 誰だそれ?」


 私は、半分冗談だったのだけれど、陛下は本気で怖かったようだ。


 その日の晩、悪夢を見て、うなされたらしい。手懐けて子分にしたコーデリアと共に、包丁を持ったエルシミリアが迫って来る悪夢。それはそれは恐ろしかったそうだ。昔見た映画のワンシーンが、頭に浮かんだ。


「うちの姐さんに手を出そうなんぞ、身の程知らずが! お前一遍、死ねやー!」


 私の悪乗りのせいで、陛下の中のエルシミリア像は、とんでもないものになってしまった。二人に申し訳ないことをした。でも、訂正は、また今度にしよう。これはこれで面白い。


 話が脱線した、もとに戻そう。


 大公家の公子、公女は臣籍降下を免れた。陛下が許さなかったからだ。そして、王族としての、それなりの領地も与えらえた。今までの三分の一。領地が減ったことにより、抱えられなくなった家臣たちは、陛下が引き取った。大公領が返上され、増えた王領の管理に回すそうだ。


 一人の死者、厳罰者をも出すことも無く、王家と大公家の対立は解消された。奇跡に近い…… というか、奇跡のおかげである。コーデリアがしてくれたこと(魔力槽を陛下に譲渡)なんて、奇跡以外の何物でもない。あれが無ければ、こうも上手くは行かなかっただろう。元神様に感謝である。


「ライナーノーツ家と陛下の遺恨も、なんとかなりましたし、全て上手く進みました。そろそろ帰りましょうか。ルーシャお姉様」


「私は別に帰っても良いんだけど、あなた達しなくて良いの?」


「しなくて良いとは?」


「王都観光」


 ショックだった。


 ここ、王都ノルバートは、この世界一の大都会、花の都なのだ、名所旧跡は言うに及ばず、タルモにはない、多彩な商店、煌びやかなレストラン、華やかな遊技場と訪ねるべきところは、山のようにある。それなのに、せっかく、馬車で三日もかけてやって来たのに、観光という概念が、頭の中から抜け落ちていた。


 これでは、ただの仕事人間ではないか。十歳にして仕事中毒…… 終わってる。これでは過労死へ一直線。ダメだ、遊ぼう! 子供は遊ぶのが仕事なのだ、政治なんぞに関わってる場合ではない。


「します! しないでいられましょうか! 良いとこ! 行って楽しいとこ、教えて下さいませ!」


 ルーシャお姉様は、色々と候補を挙げてくれた。そして、その中から私が選んだのは……



 温泉、王都セントラル温泉。


 まったく子供らしくない。はっきりいって年より臭い。しかし、しかしだ。この世界に来て、はや十年。一度たりとも、温泉に入ったことがないのだ。私が温泉を選んだことを、誰が責められよう。


 有馬温泉、白浜温泉、洲本温泉、十津川温泉 etc 懐かしい。どれも良い温泉、一度はどうぞ。


 という訳で、私達は温泉に向かった。向かったメンバーは、ルーシャお姉様、私、エルシミリア、コーデリア、セシル、コレット、キャロライナ、サンドラ、そして、ルーシャお姉様の臨時の侍女、二人、総勢十名。


 セントラル温泉は、その名とは違い、王都の西端にあった。有名な観光施設であるせいか、とても豪華で、清潔感あふれる温泉施設。浴場の数は十四。四つの大浴場と、十の中浴場がある。温泉施設側に掛け合って、中浴場を一つ、貸し切りにしてもらった。先日の件で私達は有名人であるし、王女や聖女までいる、到底、他の人と一緒は無理だろう。


 浴場は、中浴場とは言っても、全然小さくはなかった。日本の温泉ならこのサイズは大浴場。ゆったりくつろげ、泉質も良い。セントラル温泉最高! 万歳ー! と最初は思った。思っていた。


 しかるに、今! 普段は、神々の恩寵を一身に集めし者、とか、神の化身のような美少女と謳われる、コーデリアと私 アリスティアそしてエルシミリアは、浴槽の片隅で、縮こまっていた。


 いくら人々の賛美を集めようと、私達は、まだ十歳と九歳。裸になれば、手足はそれなりに長いが、凸も凹もない、スットンな体型、つまり子供体型なのだ。


 しかるに、しかるにだ!


 周りを見れば、ルーシャお姉様 14歳、セシル 16歳、コレット 14歳、キャロライナ 17歳、サンドラ 15歳、ルーシャお姉様の臨時侍女、二人とも18歳。


 はっきり言って、みんなもう()である。凸も凹もある、ちゃんとした女性の体型をしている。スットンでペッタンな私達は肩身が狭いのだ。縮こまっているしかないのだ。


 ルーシャお姉様と侍女の皆は、ゆったり悠々と温泉を楽しんでいる。くそ~。


 ルーシャお姉様が声を掛けて来た。


「アリス、エルシー、コーデリア。どうしてそんな隅っこにいるの? こちらへいらっしゃいよ。広々として気持ちいいわよ」


「結構です。お姉様とは並びたくありません」


「ルーシャお姉様がそのように、鈍感な人だとは思いもしませんでした。失望しました」


「持つ者には、持たざる者の気持ちが分からないのです。残酷です」


 ルーシャお姉様の顔に、斜線がはいり、口が半開きになった。


『どうして私がそのようなことを言われないといけないの? 何が悪いのよー!』


 と心で叫んでいることだろう。完璧に私達の八つ当たり、私達に話しかけた、御自分の優しさを呪って下さい。女の嫉妬は恐ろしいのです。


「ねえ、コーデリア。あなたのお母様はどう? 大きい?」


「んーそうですね。お母上は、小さくもなく、大きくもなく、普通です」


「ふ、勝ったね。エルシー」


「勝ちましたね、アリス姉様」


「な、なんですか、その勝ち誇った顔は! アリス姉様も、エルシ姉様も、私と同じでしょ。ペッタン極まってますよ」


「フッ、それは今だけのこと。私達のエリザお母様は、それはそれは凄いの。ボンキュッボンで、ここにいる誰よりも凄いのよ。コーデリアとは未来の可能性が違うのよ。オーホッホ!」


「そうでございましてよ、オーホッホ!」


「そ、そんなの当てにしてるですか! 未来は決まってませんよ、隔世遺伝って知ってます。親ではなく、祖父や祖母の形質が遺伝するです。お二人のお祖母様はきっとスットン、ペッタンです。お二人はきっと、永遠にそのままです!」


「あーら、元神様とあろう御方が、嫉妬されてますわ。落ちたものでございますねー」


「ほんとでございます。アリス姉様。落ちたくはないものです」


「きー! いくら、平行世界の私であろうと、心を解放してくれた恩人であろうと、許せません!」


「きゃー! コーデリアが大魔神になりましたわ。助けてー」


「だいまじん? 何ですかそれ? ひとつ詳しく」


 後で聞いたのだが、醜い争いを繰り広げる、私達三人を見て、コレットは思ったそうだ。


 養子縁組が決まって間もないのに、もう姉妹喧嘩できるほど、仲が良くなられるなんて、なんて素晴らしい。互いの心の垣根を取り払う交流こそ、真の交流。それに、さすが神々に見初められし方々。真っ裸で、喧嘩されるお姿も麗しい。眼福です、目に焼き付けましょう。


 コレットもちょっと変だ。どうして私の周りはこんなのしかいないのか?


 (ロバート談、お前が言うな)



 一日目の観光は、このように微妙なものになってしまったが、翌日からはノエル殿下が加わってくれたので、なかなかスムーズに上手に、観光を楽しむことが出来た。女子が十人も寄れば、姦しいどころではない。それを、無理なくエスコート出来るとは、ノエル殿下は、とんでもなく凄い方なのかもしれない。私の中で、殿下の株が劇上がりした。殿下なら、エルシーを陥落させられるかもしれない。少し期待しておこう。


 私達の観光は、計三日で終わった。一国の王子をこれ以上付き合わせるのも悪いし、私達も里心がついてきた。華やかなノルバートも楽しくて良いが、やはり、生まれ育った、オルバリスのタルモの方が、落ちついていて、暮らし良い、心が安らぐ。


 私達は明日、オルバリスへ向けて出発することに決めた。今晩中に、陛下やお世話になった方々に、挨拶にまわろう。


 コーデリアが、瞬間移動を使いましょうかと言ってくれたけれど、断った。



 瞬間移動は楽だし、時間もかからない。だけど、何にも見れない、出会いもない。


 馬車で行こうよ、コーデリア。瞬間移動は寂しいよ。


 あなたは部屋の中ばかりにいた。だから世界を知らないでしょ。


 え? 神様だったから知ってるって? そんなのは知ってるうちに入らない。人として地面を踏みしめて、横から、同じ高さから見るの。そうしないと、世界は分からない。ほんとうの真実を見せてくれない。上からみるだけでは駄目なのよ。


 世界に触れなきゃ、感じなきゃ。


 だから馬車で行きましょ。ガタガタ揺られ、お尻を痛くしながら、世界を見つめるの。


 あなたが作った世界。でも、あなたが知らないことは沢山ある。きっとある。


 あなたはそれを知らなければならない。


 だって、あなたは、この世界の母。この世界は、この世界の生きとし生けるものは、あなたの子供。私だって、あなたの子供。


 愛してよ、愛してあげてよ。


 ユンカー様は、あんなにもあなたを愛してくれた。あなたは十分学んだでしょ。


 今度はあなたの番。お願いよ、コーデリア。


 約束よ。私達の可愛い妹、コーデリア。


コーデリア編はこれで終わりです。懐かしのオルバリスへ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者さん、最近の更新はお疲れ様です! デモンストレーション、ここまで超派手とは流石にかなりやり過ぎだと思います。まさか全国に見せつけるとは!?而も魔法の強度も非常に危ないです。。。 奇跡的に…
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