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ノブレス・オブリージュ

 ここは、王宮の東にある、貴賓門。

 この門を使えるのは、王族、公爵などのオールストレーム王国の最上位層のみ。しかるに、今現在、その門の前には、二人の王族が引き連れて来た重装騎士が、何十人も(たむろ)し、ものものしい雰囲気が漂っている。


 貴賓門の門番が、抗議をしている。


「大公殿下、いくら大公殿下とはいえ、王宮に私兵を連れてくるなど、もっての外です! すぐに騎士達を、お戻し下さい! でなければ、近衛が出てまいります、揉め事を起こさないで下さいませ!」


 その声は、もはや悲鳴に近い。


「門番風情が! 我らは、オールストレームの王子たるぞ、その王子の騎士達を、私兵などと無礼にもほどがあるわ!」


「王宮においては、第一から第八、近衛以外の騎士は、全て私兵でございます。無茶苦茶なことを、仰らないで下さいませ、殿下!」


 職務に忠実な門番が、必死に反論している相手は、二人の大公(グランドデューク)


 エルトレント大公、モンタギュー・オールストレーム。

 第十四代国王、パーシヴァル・オールストレームの第二王子。

 48歳、魔力容量はゴールドの中位。



 グランケイン大公、セオドリック・オールストレーム。

 第十四代国王、パーシヴァル・オールストレームの第三王子。

 45歳、魔力容量はゴールドの中位。


 母は共にパーシヴァルの正妃、カトリーナ・オールストレーム、現王太后。


 両大公とも、飽食と運動の不足の影響が体型に現れ始めている。このままでは成人病まっしぐらであろう。


「我らは、アレグ兄上に呼ばれたから来たのだ。それを通さぬとは何事か!」


「だから、先ほどから申し上げてるではございませんか! 大公殿下と側仕えのみ、お通りください、私兵は無理です、無理なんです!」


 そろそろ出よう、可哀そうになってきた。門番は馴染み、良いヤツである。


「モンタギュー叔父上、セオドリック叔父上、彼をイジメないでやって下さいませ」


 門番は地獄で天使を見つけたような顔になった。まあ、当然だろう。


「おお、ノエルか」


「我らは、虐めてなどおらぬ。この者に道理を教えたまでのこと。王族は、警護の者を常に引き連れねばならない、我らに何かあっては、国が乱れる。民の安寧のため、そんなことはあってはならんのだ」


 もはやギャグである。泥棒が、盗みはいけないと言っている。今度、エルシミリアと話す時のネタにしよう。きっと大笑いしてくれるだろう。


「ですが、王宮は安全でございますし、叔父上方には、私がご一緒しますゆえ、警護の者達はここに、お留め置き下さい。お願いでございます」


「お主が一緒に? 意味がわからぬな、お主が警護の代わりになるとでもいうのか?」


「私が警護? 私は最近、魔術の調子が悪くて、上手く扱えぬのです。それ故、これをしておりますので、警護などできません。申し訳ないことです」


 私は、右手の袖を引き上げ、手首に装着している、ブレスレット状の魔術具を見せた。

 叔父上達は、おおっ! という感じで目を見開いた。


「魔力封印の魔術具、囚人用のものではないか。よく嵌める気になったな」


「背に腹はかえられません。魔術が暴発するよりはマシなのです」


「良かろう、魔術が使えぬお主が、供も連れずに歩いているのだからな。譲歩しよう」


 叔父上達は、こちらの意図を理解したようだ。


 私が一緒にいる限り、叔父上達の身の安全は保障される。私は人質なのだ。


 叔父上たちは賢くはないが、極端なバカでもない。正妃の息子であることに、プライドを持ち過ぎ、その極端なプライドが道を誤らせている。


 何事も、ほどほどが良い。()はそう思う。

 コーデリアやアリスティアは、あまりに美し過ぎて、美術品を鑑賞する時のような賛美は出来ても、女性として見られない。その点、エルシミリアは良い、可愛さも、美しさも、人レベル。素直に女の子として見れる、愛せる。性格も世慣れているのか、初心(うぶ)なのか、よくわからないところが、魅力的で、一緒にいるととても楽しい()だ。


 一つ問題があるとすれば、彼女の性的志向が女性に寄っていること。別段、全く男性に興味がないとか、男性恐怖症である訳でもなさそうなので、どうとでもなるだろう。もし、ならなかったら、僕が女性になるという手段もある。まあ、これは最終手段なので使いたくはない。だって、一緒になれるなら、子供は欲しい。

 エルシミリアが産んでくれる子供はきっと可愛いだろうし、エルシーは素晴らしい母親になるだろう。理想的家庭が築ける。しかし、彼女は十歳、僕は十三歳。実現できるかどうかわからないが、まだまだ遠い未来である。


 私は、叔父上達と一緒に、王宮の大広間に向かった。


 既に、大広間には、侯爵やら伯爵やら子爵、その夫人、その令嬢と沢山の貴族が集まっている。父上の布告によって王都の主だった貴族が集められたのだが、もはや、大広間の収容人数の限界ギリギリだろう。


 私と叔父上達は、その混雑の中を抜けて貴賓席へ向かう。しかし、歩きにくくはない。殆どの貴族は私達に気づくと道を空けてくれるので、すんなりと辿り着いた。これだけ沢山の貴族が集まると、大公家の寄り子や派閥の者も多くいる。彼、彼女らは叔父上達に挨拶をするため、貴賓席に集まって来た。叔父上達は、彼らと談笑し、楽し気に見える。


 頑張ってるね。と僕は思う。叔父上達はもう終わりである。今、周りにいる取り巻き達も、もうすぐ掌を返し、叔父上達の周りから去っていくことだろう。自業自得、そう言うしかない。


 ノブレス・オブリージュ。高貴さは義務をともなう。


 叔父上達は先日の、巨大魔力球の騒ぎの時、王命が出たにもかかわらず、最後まで、南城壁に現れなかった。二人は義務を放棄した。義務を放棄するような者は、忠の民ではない。いくら、眷属の紋章を持っていようが、そんなことは関係はない。


 叔父上達の派閥に属していない他の貴族達は、叔父上達の集団と、明らかに距離をとっている。皆、彼らを白い目で見ている。叔父上達も、その取り巻きも、それに気付いていない筈はない、必死で平静を装っている、哀れなことだ。


「皆様、お静かに。アレグザンター陛下の御入場されます」


 宰相の声が響く、メリハリが聞いている、伝声の魔術を使っているのだろう。


 父上が、左側の扉から現れた。今日の父上は礼装で、威厳がさらに高まってる。父上は数段高くなったフロアの中央まで行き、集まった貴族達の方に頭をむけると、第一声を発した。


「オールストレームの高貴なる忠の民達よ、よくぞ集まってくれた、感謝する!」


 すべての貴族は黙ったまま、父上の次の言葉を待っている。


 恐れている、期待している。悲しんでいる。楽しんでいる。


 『陛下は、罪の民に落ちてしまった大公達をどうなされるのか?』 


 皆、立場はそれぞれ違う、思いも違うのだ。けれど、もはや彼、彼女らに出来ることは何もない。




 貴族達は、国王(父上)の次の言葉をじっと待った。待つしかなかった。

 

先王は愚か過ぎです。大公達もある意味犠牲者でしょう。

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