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化け物

 陛下を見舞った後すぐに、私は、ライナーノーツ家 王都別邸に行き、ベルノルトお祖父様に面会を求めた。


「というように、褒章を要望しようと思うのですが、如何でしょう。お祖父様」


 アレグザンター陛下は王としても、親としてもちゃんとしてる。多分、これで納得してくれる。


「アレグザンターが乗ってくるかの? あいつは決断力あまりないからのー」


 お祖父様は、敬称もつけず、あいつ呼ばわりしている。さすがに、陛下に対して、それは不敬ではと指摘すると。


「あんなの、弟みたいなもんだ。敬称など、表の時だけで良いわ」


 お祖父様は、幼い頃の陛下に近習として仕え、君と臣の境を越えた交流があった。


「ですが、陛下は良き国王だと思いますよ。もう少し敬意を払ってあげても、良いのではないですか」


「誰も、あいつを悪い国王などとは言っとらんよ。先王に比べれば、遥かにマシな王だ」


 お祖父様が、先王について、話されるのを初めて聞いた。


「先の陛下は、悪い王だったのですか?」


「悪辣な王とかではなかったよ。だが、愚かではあった。先王が気にしていたのは、自分の子供ばかり。あれでは王としてダメだ、無能だよ」


「そうですか? 側妃が産んだ、アレグザンター陛下に、国王の座を引き継がせたではありませんか? ちゃんと陛下の有能さを評価しています。無能呼ばわりは可哀そうです」


「そこは問題ない、英断だよ。問題はその後だ、正妃の産んだ、第二王子と第三王子に、大公の地位を与えてしまった。オールストレームの中に、二つ自治領、つまり、二つの小国が出来てしまった、それも、穀倉地帯にだ。最悪だ」


 あー、これは酷い。どう考えてもやってはならないこと。これではお祖父様が、愚かと言い捨てるのも納得がいく。


「先王の最後の言葉を知っとるか?」


 我が息子達よ、一致協力して国を盛り立てて行くのだ。これは王命だ、父の願いだ、心せよ。


「馬鹿ですね」

「そうだ、馬鹿過ぎる」


 私は心底、お祖父様に同意した。私は、おバカは好きだけれど、馬鹿は嫌いだ。


「アレグザンターは、孝行者だから、先王の遺言を守って来た。その結果、今のこの有様だ。皇太子さえ、大公達に気を遣うあまり決められない。今のアレグザンターは真の王ではない。ただの有力諸侯、一番大きい諸侯に過ぎないのだよ」


「陛下が可哀そうです。馬鹿な親を持ったばかりに……」


「可哀そうだと言えば、大公達の息子達もだぞ。本人たちが真面なだけに、馬鹿親に苦労している」


「馬鹿親? 大公殿下達も馬鹿なのですか」


「ああ、父親に輪をかけた馬鹿だ。いまだに、正妃の息子である自分達の方が、王に相応しいなどと思っとる。政治の力量も魔力容量も、アレグザンターに負けとるくせにの」


 陛下もそんな弟達、早く切れば良いのに…… まあ、そうもいかないか、兄弟だしね。血は水よりも濃いって言うしね。でもやっぱ、切らなきゃダメ。このまま放置すると国がいつか崩壊する。しかし、切るにしても名目がいるよねー、何も無しでは、絶対無理。それこそ内乱が起こる。


「アリスティア、お前、昨日の謎の巨大魔力球を見たか?」


「え、ええ。まあ、一応見ました。王宮も大騒ぎでした……」


 ギクリ!とした。あの魔力球の下にいたことは。全員、口外しないことになっている。私達は何もしていない。見ていない。あんなところには居なかった。


「当然だな。爆発したら、王都が吹き飛びかねない巨大さだった」


 すみません。ほんと、すみません。全部、私の浅慮が悪いのです、お許しを!

 現実に謝る勇気はないので、心の中で必死に謝った。


「王都の騎士団のみならず、アレグザンター陛下まで、城壁に行かれたようですね。今、陛下は魔力枯渇で寝ておられます。さきほど、姫殿下と一緒にお見舞いに伺いしました」


「そうか、気の毒だな。しかし、大公達はほんとに酷い。あの二人、王命に反して最後まで、南城壁に現れなかったそうだ。王権を無視するにもほどがある。私が王だったら、あの二人は、内乱覚悟の上でも絶対潰す、あれを見過ごしては、国は終わりだ」


 王命に反して最後まで、南城壁に現れなかった……

 王命に反して……


 名目来たー!


「お祖父様! これは素晴らしい名目です! 王都が危急存亡の危機に陥っている時に、王命を無視して戦線から逃亡! 極刑も可能な名目。陛下は大公達を排除できます!」


「お前も、宰相と同じ意見か。しかしな、二つの大公家の経済力は合わせれば、アレグザンターの王領に匹敵する。抱える軍事力も侮れん。アレグザンターは決断出来んよ。奴は慎重派。平時向きの王であって、危機には向いておらん」


「そうですね。でも今の陛下なら大丈夫です。もう、以前の陛下ではありません」


「以前とは違う? それはどういうことだ?」


「神々は陛下に福音を与えていました、その福音はコーデリア姫に託され……」


 お祖父様、申し訳ありません。

 福音云々は全てウソです。コーデリア姫が、今まで心配をかけたお詫びに陛下に、魔力槽を密かに譲渡したのです。先ほどのお見舞いの時に、コーデリア姫が陛下の手に自分の手を重ねられました。その時に譲渡が行われました。姫殿下も、かなりの量を譲渡できたと喜んでおりました。


 姫殿下が元神であったことは、口外出来ることではありません。どうか、お許しくださいませ。ベルノルトお祖父様。


「そのようなことが、ありえるのか……」


「ルーシャお姉様がそう言っておられます。お姉様が神々と繋がっておられるのは事実。私は信じております」


「そうか、わかった。信じよう」


 お祖父様の表情が柔らかくなった。お祖父様は、口では、陛下のことを、雑に扱うが、大変親身に心配している。


 『あんなの、弟みたいなもんだ』


「だったら、また直ぐにアレグザンターに会うのだろ、焚き付けて来い」


 お祖父様が、私を見下ろして不敵に笑った。


「はい、お祖父様」


 私もにっこりと笑い、頷いた。黒さが少々出たかもしれないが気にしない。


 こうして、祖父と孫の、()()()()()()()()は終わった。




 私は陛下の憂いを取り除くことを決心した。


 陛下はコーデリア姫が養女になるのを許してくれた。これで、


 コーデリア姫は、私達姉妹の妹、守るべき妹となり


 その妹の実父であるアレグザンター陛下は、私達にとっても大切な人となった。


 私は、私達の大切な人が、害され、苦しむのを許しはしない。



 絶対に、絶対にだ!


 容赦などするものか!



『アリスティア……』


 カインが話しかけて来る。


『オリハルコンになった君は、もはや化け物だよ。けどね、心まで化け物になってはいけないんだ。わかるだろ? なってはいけない。葛城の神は、そんな君を望んではいないよ』


 だけど、害をなすものは排除しなきゃ。

 誰かがやらないといけないことでしょ。


『そう思うならそれで良いよ。主は君だ、僕は命に従う。だけど、忠告したからね。それは覚えておいてよ』


 そう言ってカインは黙ってしまった。





 翌日、私は、陛下の執務室で、大叔母様と一緒に叫んでいた。


「「 レッツ 粛清! イエーイ! 」」


 誰か止めてくれないかな。私だけじゃなく、大叔母様までおかしくなってきている。どうしたら良いのだろう……どうしたら。心の奥底で、そう思っていた。



 大叔母様の手が、そっと私の肩に置かれた。


「アリスティア、ここまでよ。これ以上はやめましょう」


「大叔母様……」


 私は呆然として、大叔母様の顔を見た。


 オリアーナ大叔母様とは先に打ち合わせをし、同意を得ていた。


 大公家は排除する、絶対にこの方向性に持って行く。他の選択肢は無い。


 それなのに、どうして、今更やめましょうなどと…


 大叔母様はとても優しい顔をしていた。今まで見た中で、一番、一番、優しい顔。


「大公殿下達をどうするかは、陛下が決めること。私達は陛下のお手伝いをするだけ、するだけで良いの。あなたが全て決めなくて良いの、決める必要なんてないのよ」


「国王陛下を差し置いて、全てを決めてしまう十歳児、恐ろしいと思わない? 私は恐ろしいわ。そんな化け物になってはいけない。ならないで、お願いだから、アリスティア」


 オリアーナ大叔母様が私を抱きしめた。大叔母様の体温を感じていると、嗚咽が聞こえて来た。あの大叔母様が泣いている。信じられない。


 どこで道を踏み外し始めたのだろう?


 私は精一杯、頑張って来た。途中で、カインやエルシーに頼りまくったりしたけれど、それでも、一生懸命に頑張って来たのは本当だ。だけど、化け物になりたくて頑張ったのではない。頑張って頑張って、その結果、皆に恐れられる。こんなこと、誰が望むものか…… 誰が……


「アリスティア嬢、済まなかったな」


 陛下が声をかけて下さった。


「私が不甲斐ないばかりに、気を遣わせてしまった。申し訳ない」


 気を遣わせてるのはどちらだろう。それも、一国の王に……。


「そうですよ、陛下。しっかりして下さいませ」


 オリアーナ大叔母様が陛下の背中を軽く叩いた。


「そなたもな。騎士団副団長が泣くなど、ありえんぞ」


「元ですよ。元だから良いのです」


「そういうものか」「そういうものです」


 アレグザンター7陛下とオリアーナ大叔母様が笑いあう。私もつられて笑った。



 なんて優しい人達…… なんて優しい世界。



 今、私は幸せだ。


 幸せな時、私達がすべきことは何んだろう?


 ようやく気付いた。


 答えは簡単、噛みしめる、幸せを噛みしめることだけなのだ。


 決して、失うことを恐れて、心を歪ませることではない。


 心を化け物にすることなどでは絶対ないのだ。



 自ら、幸せを捨てるつもりだったのか!



 馬鹿 アリスティア!!





「アリスティア、頼みたいことがある。やってくれるか?」


 陛下はとってもすっきりとした表情。いつもより若々しい。


 私も元気よく答えた。


「はい、陛下!」



   仰せのままに!


アリスティアは、精神の振れ幅が大きいです。心が未熟なんでしょうね。だから主人公~とも言えるのですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の更新はお疲れ様です! アリスさんが粛清を言い出した時は軽い雰囲気なのに、まさかそんなに真面目シリアスだとは思わなかったです。 しかしアリスさんは急に切れ者に成りましたね!?…
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