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舞台裏

「陛下、第一、第三、第五、第七、第八、王都に残る全ての騎士団、南城壁にて、防隔の魔術、発動の準備、整いました」


「よし、私も近衛を率いて出る。大公達(弟達)にも、出るように通達しろ」


「陛下、御身自ら出られるのは、お止め下さいませ! 陛下にもしものことがあらば、国が成り立ちませぬ、近衛とともにお留まりください、王宮ならば、第二、第三城壁もございます。どうか、お願いでございます!」


「宰相、そちも見たであろう。あの巨大な魔力球。あれが爆発すれば、どう考えても、城壁と騎士団だけでは防ぎきれない。騎士の殆どはシルバーだ。そのシルバーに守ってもらうだけの、ゴールド(王族)とは何だ。恥ずかしいであろう、いる意味がないであろう」


「恥ずかしくてもかまいませぬ。私は大公殿下の下で、宰相など、しとうはございませぬ」


「死にはせん。幸い、聖女も戻って来てる。半死になったとて、癒してくれるさ」


 私は近衛師団とともに、南城壁は向かった。


 今、王都にはプラチナ上位のアリスティアがいる。言っても詮無いことだが、あの娘が、紋章を取得してくれていたらと思わずにはいられない。もし、プラチナの上位の術者が自陣にいるならば、どんなに心強いことであろう。あの娘の魔力量を前にしては、私達、ゴールドなど、大海の前の池に過ぎない。


 だから、アリスティアを他に渡してはならない。大公家などはもっての外。


 ああ、母上が正妃であってくれたら、高位貴族出身であってくれたらと、つい思ってしまう。母上には申し訳ないが思ってしまうのだ。


 先王の長子とはいえ、側妃の子である私の権力基盤は見かけほど確固としたものではない。私のゴールドの上位という高魔力容量が、なんとかそれを支えている。それとて、同じ容量を持つ王族が他にいない訳でもない。スタンリー叔父上などもそうだ。叔父上は私を支持してくれている。しかし、叔父上も高齢だ。いつ隠居されてもおかしくはない。憂鬱だ。叔父上、大変お好きなのは知っておりますが、酒はもう少しお控え下さい。


 近衛ともに、南城壁に到着した。


「オールストレームの勇敢なる騎士達よ、王都を、王都の民を守るのだ。我はそなた達の血を望む、我とともに戦え! 誇りを示せ! 最強の証をたてるのだ!」


 おー!! 陛下と共に! 陛下と共に! 陛下と共に!


 騎士達の歓声に、腕を一振りして答えた後、私は命令を発した。


「防隔、展開!」


 一千もの防隔の魔術が、現出してゆく。壮観な眺めだ。


 私も出せる最大の防隔を出した。騎士団一個分相当、騎士達にどよめきが湧いた。


 この謎の巨大魔力球は、誰が作ったのだろうか? 人の魔術で作れる規模には到底思えないが……


 まさか、アリスティア?

 それはない。あの娘まだ、十歳。使えても第二段階くらいがせいぜいだろう。

 それとも、ユンカー様?

 あの方は、エルフなので、もしかしたら可能かもしれない。しかし、めったなことでは魔力を使われないし、初代様の伴侶だった方、あのようなことをするとは到底思えない。では、やはり……



 神々か。



 また、人に罰を与えるつもりなのか? ドラゴンを作った時のように。


 神々よ、人は至らぬ生き物です。神々の教えを守り切れていないのも確かです。

 知らぬうちに、大変な過ちを犯しているのかもしれません。

 ですが、ご慈悲を。忠の民、罪の民ともども、神々に逆らおうなどの気持ちは、一筋たりともございませぬ。どうか、ご慈悲を!


 私は、ほとんど絶望していた。もし神々が怒っていたならば、私達、塵の如き人に出来ることなど何も無い。


 

 幸いにも、私の不安は当たらなかった。巨大魔力球は、数刻の後に消失した。


 大公達は最後まで来なかった。




 王宮に戻ると、宰相が怒っていた。怒りに怒っていた。


「陛下、王都の存続が危ぶまれる状況であったのに、大公殿下達は、王命を無視しました。これを捨て置いては、オールストレーム王朝は崩壊を待つばかりです。心を鬼にして粛清を行うべきです」


 宰相は、今でこそ、宮中伯ではあるが、男爵家の出身。本人の才能と努力で、今日の地位を得た。だからだろうか、男爵家出身の母を持つ、私に妙に肩入れしてくれている。自らを私に投影している感がある。しかし、貴重な味方でもあるし、人として嫌いではない。末永く仕えて欲しいと思っている。


「兄弟の情を捨てて下さいませ。宮廷の官僚の掌握は、私めが致します。騎士団も、本日、自ら戦陣の先頭に立たれた、陛下に感じ入っております。背く馬鹿な団などございませぬ。千載一遇のチャンスでございます。どうか、ご決断を下さいませ、陛下!」


 確かに、チャンスではある。しかし、亡くなった先王、父上のことを思うと、決断することが出来ない。父上は、自分の息子達が、一致協力して、オールストレームも守ってゆくことを望んでいた。それ故、大侯爵家、ライナーノーツ家の排除を望んだりもした。


「ライナーノーツを取り込み、大公家を切り捨てるべきか?」


「そうです、陛下。ベルノルト様は、これまでのことを、何時までも恨みに思うような、御方ではございませぬ。それは陛下の方が、よくご存じでしょう」


「しかし、取り込むとは言えば聞こえは良いが、逆に取り込まれてしまう可能性もあるぞ。ライナーノーツには、アリスティアがいるし、聖女まで取り込まれてしまっている。魔力的に、魔術能力的に、すでに我が家を凌駕している。そんな危険をおかして良いものか」


「陛下、リスクの無い選択などございませぬ」


「それはそうなのだが…… 話は明日にしよう。今日は疲れてヘトヘトだ。私はもう休む」


「ご決断を、お待ちしております。時間は少のうございます、アレグザンター陛下」


 宰相は、深々と一礼をして、自室に向かう私を見送った。


 翌日、私は寝台から起きられなかった。典型的な魔力枯渇症状を呈した。情けない、あの程度の防隔を張っただけで、この体たらく。もし、ライナーノーツと同盟を組んだとて、アリスティアを擁するライナーノーツに主導権が移るのは、目に見えている。


 私には、四人の王子がいるが、アリスティアを御せる者がいるだろうか? 皆、第二以外はそれなりに優秀だと思うのだが、どうだろう。わからない。

 貴族、王族の婚姻は後継ぎを作るのが、唯一の目的と言っても良い。夫婦間の愛情など、あればそれに越したことは無い、程度のものだ。しかし、アリスティア程の高魔力容量を持たれると、そうは行かない。愛情の無い婚姻など、簡単に、あちらの方から切られてしまうだろう。


 第三のノエルは、それなりに優秀だし、ちょっと面白い子なので、先日、冗談めかして、アリスティアはどうだ? と聞いてみた。


 『エルシミリア嬢の方が良いです。アリスティア嬢より、断然可愛いです』


 私には、アリスティアの方が、格段に美しく見える。あの娘を、初めて見た時は、コーデリアに匹敵する麗しい容姿に心底驚いた。王としての体面を守るために、ほぉ! 程度に見えるように必死に頑張ったのが、記憶に新しい。


 まあ、人の好みは、それぞれなので良しとしよう。 エルシミリアもゴールドの中位、王子の妃として十分過ぎる、というか適度、最適である。アリスティアみたいなのは、とんでもなさすぎて、扱い方がわからない。


 ええい、アリスティアを女王にして、第一あたりを王配にするか? それなら、すんなり…… バカか!それでは、もはやオールストレーム王朝ではない。ライナーノーツ王朝だ。二百年続いて来た、我が王朝を私の代で潰してしまうことになる。


 体が疲れているせいか、頭にろくな考えが浮かんで来ない。


 私は考えるのを放棄した。


「奇跡よ、起これ! 私の心労をすべて、取り除くのだ!」


 当然、何も起こらない。虚しい、もう一度眠ろう。


 そう思った時、小さな奇跡が起こった。




「陛下、お休みのところ、誠に申し訳ありません」


 第三従者のサミュエルが、寝室に入って来た。


「何だ、これからもう一度眠るところだ、大したことでない案件なら、後にせよ」


「いえ、大したことではないと言えば、大したことではないのですが、凄いことと言えば、凄いことなのでございます」


「言ってるのか意味が分からぬ、ちゃんと述べよ」


「コーデリア殿下が、陛下にお見舞いを申し上げたいそうです」


「なに、コーデリアが!」


「はい、陛下」

「ウソだろ」

「ウソではございません、陛下」

「サミュエル、お主、私をからかっておるな」

「からかってなど、おりませぬ、陛下」

「ほんとなのか」

「ほんとなのでございます、陛下」

「ほんとにほんとなのか」


「しつこいのでございます、陛下」


 コーデリアが入って来た。侍女のアリスティアが、後ろに付き従っている。


 コーデリアは私の顔を見ると、にっこりと微笑んだ。


「お父上、お加減は如何ですか?」


 初めて見る、コーデリアの笑顔に、胸が熱くなる。涙さえ出そうになったが、必死で抑えた。恥ずかしいではないか。そして、益々、頭が動かなくなった。


 コーデリアを女王にしては、どうだろう。


陛下は結構苦労人。大公家の扱いどうするんでしょう。悩みどころです。

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