二人の野乃
コーデリアも転生者だったのか…… それも大阪。異世界に生まれたのに、同郷に出会うとは思ってもみなかった。
しかし、前世のコーデリアは、野乃によく似ている。写真で見たら、なんの疑問もなく、自分の写真だと思ってしまうレベルで似ている。
「コーデリア」 私は呼びかけた。
「私はアリスティア。この姿は前世、葛城野乃だった頃のものなの。あなたも私と同じ転生者だったのね。驚いたわ、それも同郷なんて」
コーデリアは、少し呆れた感じ。
「そうね。あたしも驚いた。こんな異世界で、自分に会うなんてね。笑ってしまう」
「自分に会う? 何を訳のわからないこと言ってるの。確かに、あなたは私にそっくりだけど、私じゃない。コーデリアは、何が言いたいの?」
「あー、やっぱりわかんないか。仕方ないね。あたしみたいに、神になった経験がある訳じゃないし、あなた、あたしにしては、馬鹿そうだし」
ムカッ、自分にそっくりな奴に馬鹿にされると、とても腹が立つ。これは小さな発見。
「あたしの名前は、葛城野乃。平行世界、パラレルワールドの貴女よ。はじめまして、あたし」
「平行世界…… パラレルワールド……」
「それ、同じ意味だから」
「知ってるわー! そんなの!」
私はとても腹が立った。誰に? 人じゃない、世界に! 世界に、腹が立つ!
異世界に、ようやく馴染んだと思ってたのに、さらに平行世界まで出て来やがった。もう、頭がついていけない。これ以上、考慮すべきことを増やさないで欲しい。ドラマだって、あまりに複雑な設定だと、誰もついて来ない。 爆死する。
シンプル イズ ベスト! 頭空っぽに出来るものが最高! お約束万歳! 勧善懲悪万歳! 水戸黄門万歳!
逃避行動に走り始めた私をよそに、コーデリアとエルシーは話し始めた。
「コーデリア姫、平行世界って何なのですか?」
「んー そうねー。簡単に言うと世界は、刻々と枝分かれして行ってるってこと」
「枝分かれ?」
「そう、一つ例を挙げてみるとね。エルシミリアの目の前で、道が左右に分かれていると、想像してちょうだい」
「しました」
「あなたはどちらかの道を選ばなければならない。さあ、どちらを選ぶ? ここで、世界が二つに別れるの。右の道を選んだ世界、左の道を選んだ世界。こうして増えてゆく世界のことを平行世界って言うのよ」
「それじゃ、世界って無限に増え続けていくのですか? 気が遠くなります」
「そうよ。増え続けていくの。でも、その増え続ける世界を管理できる、神がいるの、恐ろしいわ」
「神って、コーデリア姫も神様だったと聞きましたが」
「まあ、そうなんだけどね。神って言っても下っ端よ。一番上の神を国王だとすると、あたしは、準男爵、いやもっと低いかな、騎士爵くらい。下っ端もいいとこ」
「わたし達の世界を、作ってくれた神様が下っ端だったなんて、ちょっと悲しいです」
「ごめんね、でも事実なの。許してね」
「ところで、エルシミリア。貴女の姉、ぶつぶつ言いながら座り込んだままだけど、大丈夫かな?」
「時々あるんです。大丈夫です、アリスティアお姉様は、そのうち立ち直ります」
実はとっくに、立ち直っていた。でも落ち込んだふりを続けている。ここは私が出て行くより、エルシミリアに任せた方が良い。私より、エルシーの方が、的確なアドバイスを、コーデリア姫にしてくれるだろう。適材適所、別名、丸投げ。
「コーデリア姫……」
エルシミリアの口調が変わった。核心部に切り込むつもりなのだろう。
「あなたは、愛されています。陛下に、ノエル殿下に、そして、ユンカー様に。特に、ユンカー様の愛など、とてつもありません。あのように不器用で、真摯な愛は、見たことがありません。なのに、なのに、あなたは、どうしてそれに気付いてあげないのですか? どうしてです!」
「ユンカー、ノエル兄上、父上、皆が、 愛してくれてるのはわかってた。でも、必死で無視して、無意識に押し込んでたのよ」
「必死に無視って、何故、そんなことをする必要があるのです? 愛には愛で答えれば、良いだけでは…… すみません、自分が出来てもいないことを、偉そうに」
エルシーが黙ってしまった。誠実な子だ、私なら、自分のことは棚に上げて、説教を続けたことだろう。
「いいのよ、貴女は間違った事を言ってはいない。そうよ、愛には愛を返せば、良いだけなのよ」
「それなら、どうして」
「あたしね、この体で生きていた時、愛した人がいたの。好きで、好きで、大好きで。狂おしいほど、愛したの。一緒に生きたい、一緒に笑って、一緒に苦しんで、一緒に色々なものを乗り越えたい、そして、最後には、一緒に死にたい」
「そう思ってた、そう思い続けてた。でも、その人とは一緒になれなかった。結局、その人は別の人との結婚が決まったわ」
平行世界の私が、そこまで愛した人って誰だろう? 興味がある。
「だから、死のうと思ったの。もう生きてても仕方がないって。自殺の名所の断崖に行ったの、一気に跳ぼうと思った。だけど、跳べなかった。思いとどまったの、私は人生に絶望している、でも、死んではいけない。与えられた人生を生きねばならないってね。なのに、誤って足を踏み外したの。それで終わり、葛城野乃の十七年の人生は、一巻の終わり、あっけないものだったわ」
「足を踏み外してって、間抜けですね」
「そうよ、ほんと間抜け。しかし、貴女も良い性格してるわね。少しは、同情しなさいよ。間抜けなんて、言うのは、この口かー! この口なのかー!」
「いへー、いたひでふ、やへてくらはひ ひへさま!」むに~!
コーデリア姫が、エルシーの両頬を引っ張ってる。エルシーの頬、柔らかいな、伸びる伸びる。シリアスな話がいつの間にかコントになってる。私って平行世界でもシリアスに向かないのね、ちょっとショックだった。どこかの平行世界にいないかな? 正統派ヒロインの私。
コントは終わった。
「それはご愁傷様でした。でも、その悲劇からは、ユンカー様達の愛に、応えられない理由が、見えて来ません」
「話はまだ続くの。慌てる乞食は貰いが少ないって言うでしょ」
「言いません。この世界では聞いたことありません」
「そ、そうなの? 覚えておくわ」
「とにかく! あたしは死んだの。そうしたら神様に会ったの、女神様だったわ」
*********
「野乃、貴女の人生は終わりました。最後はあっけなかったですね、貴女の間抜けさに、驚きました」
「……」
「けれど、今回の生で、貴女は転生の規定回数を満たしました、そして魂のレベル値も下界生物としてMAXになりました。おめでとう、あなたの神界入りが決定しました」
「神界入りって、あたしは神様になるのですか?」
「そうですよ。一番末席ですが、神は神です。私達はあなたを歓迎します」
「そんな神だなんて、私は自殺しようとした愚か者です。そのような者が神になど、なって良いのでしょうか?」
「確かに、貴女は自殺しようとしました。しかし、最後の最後に思いとどまりましたね。素晴らしいです。よくぞ、私が与えた設定に耐えましたね。担当神として貴女を誇りに思いますよ」
「設定? 設定とは何なのでしょう?」
「あら、わかりませんか? 貴女が自殺しようと思う程、悩んだ愛、彼の者への愛、それが、私が貴女に与えた設定です。よくぞ、この過酷な設定に負けず、生を選びました。最後はちょっとお粗末でしたが、まあそれは良いでしょう」
「設定ってそんな……」
「貴女を転生させる時、いろいろ考えたのですが、今回はこれでいこうかなと。だって、普通過ぎる人生はつまらないでしょ」
「……」
「あら、怒ってるの? 本来、人如きには謝ったりしないのだけれど、貴女はもう神界入りが決まってる、私達の仲間だものね。謝ってあげる」
「ごめんね。でも、これからは貴女も、下界生物に人生を与える側。いろんな設定を考えると良いわ。面白いの出来たら教えてね。だって神の人生って、殆ど永遠なのよ。娯楽がないと耐えられない。だから頑張ってね、新神さん。期待してるわ、じゃあね」
*********
酷い、酷い、酷過ぎる…… コーデリア姫、平行世界の私、の担当神は、なんてことを、彼女にしてくれたんだ。平行世界の私が、狂おしいほどに愛した人、でも、一緒になれなかった人には、心当たりがある。
晶兄さん…… 前世の私の支え、私のスーパーマン。
幸いにも、私の愛は、平行世界の私とは違って、ぎりぎり兄妹愛に留まっていた。しかし、平行世界の私の愛は、コーデリア姫の愛は、そのようなレベルではなかった。
女性として、男性としての晶兄さんを愛した。当然、兄と妹だから結婚は出来ない。どんなに辛かっただろう。悔しかっただろう。私レベルの愛、軽度のブラコンでも、兄がいつか結婚して、他の女のモノになると思うと、クラっとしたのを覚えている。
それなのに、自分が兄に対して持っていた、狂おしいほどの感情が、愛情が、神が与えた設定!
コーデリア姫が、人と関わるのを避けていたのは納得がいく。自分の感情でさえ、最初から、与えられたモノ、これでは生きている実感なんて持てるもんじゃない。他者と関わって行こうなどとは思えない。
自分自身の本当の心で、感情で、生きたいの! 神を楽しませるために、生きてるんじゃない! と叫びたくなる。
「はあ、そんなことが理由なのですか? 馬鹿馬鹿しい」
へ? エルシー、何を言ってるの?
「エルシミリア、馬鹿馬鹿しいとはどういうことです。あなたは人を愛したことがないの?」
「ありますよ。今一番愛しているのは、アリスティアお姉様です。死ねと言われれば死ねます」
そんなこと言わない。愛が重いよ、重過ぎる、もっと軽くして!
「だったら」
「だったらも、へちまもないのです」
「だいたい設定の何が悪いのですか? 世界は設定で成り立っています。設定が無いモノはありません。設定があるから、世界があり、わたし達が生きられるのです。人生を送れるのです。人を愛せるのです。間違っていますか?」
「間違ってはいないけれど、神が、前世の私のように、感情まで、決めてしまうのはダメでしょう。それでは、心はただの作り物、無いのと同じじゃない」
「そうですか? 神様は土台を作ってくれただけ、その上にどのような建物、心を作っていくかは、その人次第でしょう。責任転嫁はよくありません」
「責任転嫁って、そんな……」
エルシーは、なんて大人なんだろうと思った。私も、コーデリア姫も、最初から神様が悪いと決めつけていた。どうしたら、そのような洞察力が持てるの? 教えてよ、エルシー。
「神様は、コーデリア姫に、ちゃんと設定を与えました。神様の仕事をしてくれています。もし、何の設定も無かったとしましょう。それこそ最悪です。最初の起点になる動機が無ければ、人は何も始められません。ただ、食べて、糞をするだけの肉塊になってしまいます。これでも、神様が悪いのですか?」
「悪いわよ! 私が女として、愛した男性は、兄だったのよ! こんな最悪な設定は、欲しくなかったわよ!」
「何ですか、そんなチンケな悩み」
「チンケ? 言ってくれるわね。たかが十歳のくせに」
「年は関係ありません。それだったら、姫は九歳、たかが九歳のくせに! です」
「う、それは……」
コーデリア姫が墓穴を掘った。さすが、平行世界の私。そんなところ、そっくりだね。嬉しくないけど。
「コーデリア姫、人は色々な望みを持つものですよ。わたしだって、望みはあります」
「わたしは、アリスティアお姉様に、わたしの子供を産んで欲しいです、もしくは、お姉様の子供を産みたいです。でも、それはかないません。物理的に無理です。でも、コーデリア姫の場合は、兄と妹。障害は、ただの社会的規範だけ。姫には勇気がなかった。ただ、それだけです。それだけなんです」
「神を恨むのはお門違いですよ」
ガーン!
人生最大のショックが襲った。エルシミリアが私に、自分の子供を産ませたいなんて、そこまで思われているとは、さすがに思っていなかった。けどね、けどね、これから、エルシーの理想の姉になれるよう頑張るよ、ほんと頑張る。だからそれで許してお願い。
そうそう、もし、二人とも、行かず後家になってたら、貰ってくれても良い。良い妻になります。旦那様。
「勇気がなかった。勇気がなかったかー そうだね。私は勇気がなかった。悪いのは私なんだ」
コーデリア姫から、憑き物が落ちたようだ。表情が今までと違う。
とても柔らかく、優しくなった。とても可愛らしい。
カインが、少々手直ししてくれた、今の野乃より可愛いい。くそ~。
「ですよ。コーデリア姫はヘタレです。ベッドにでも潜り込めば良かったのです」
こら、エルシミリア! 十歳の女の子が、はしたない! お姉ちゃんは悲しいぞ。
「そうね。妊娠という手があったわね。最強の一手なのにね」
「ですよ、女は度胸です。アリス姉様が言ってました」
「いや、それ間違ってるよ。正解は、男は度胸、女は愛嬌」
「やっぱり! お姉様はウソを教えたんですね。今度懲らしめておきます」
「そうね。ガツンとやっちゃって」
「フフフ」「アハハ」
私は、完璧に会話に加わるタイミングを逸した。いつの間にか、大災害クラスの災禍をもたらしかけた、コーデリア姫の、長年の苦悩が、エルシーのカウンセリングで、あっさり消えた。あまりにも、あっさりしているので拍子抜けだ。
そして、私は不満だ。コーデリア姫のせいで、皆、とりわけエルシーはとてもとても苦労した。まかり間違えば、脳挫傷で死んでいた。その落とし前をつけて貰わなければならない。私は念じた。ここはコーデリア姫の意識の中、念じるだけで出せる筈。
出でよ、超硬い紙のハリセン!
私は憤怒の大魔神のよう仁王立ちになった。
「コーデリア~! あんたねー 何が『アハハ』よ。自分が、何をしでかそうとしたか、分かってるの!」
「え、それはその……」コーデリア姫の目が泳いでいる。
「アリスティアお姉様! 復活なされたのですね!」歓喜のエルシー。
「エルシミリア、本当にありがとう。馬鹿な私達の目を覚まさせてくれて。あなたは最高の妹よ」
「なんて勿体ないお言葉、うう、泣けてきました」
別に泣かなくても。あなた、私のこと、好き過ぎ! もう病気よ! 治療しよ、治療。
まあそれは後のこと。先に、コーデリアに制裁を加えなくては!
スパーン!「きゃあ!」
「何するのよ! そのハリセン、超痛いんだけど!」
コーデリア、平行世界の私が抗議する。野乃の顔で口をとんがらせている。益々、腹立たしい。
スパーン! スパーン! 「うぎゃ!」
「何が、痛いんだけどや! 自分が何をしようとしたと思ってるんや! 少しは反省しろ! アホ! ボケ! カス!」
スパーン! スパーン! スパーン! スパーン!
「する! する! するから止めてー!」
スパーン! スパーン! スパーン! スパーン!
「反省ですんだら、警察いらんのや!」
スパーン! スパーン! スパーン! スパーン!
「言ってることが無茶苦茶じゃない! 無茶苦茶ー!」
スパーン! スパーン! スパーン! スパーン!
「無茶苦茶で、結構! 一遍、死んで来い!ボケナス!」
スパーン!
「アリスティア様、エルシミリア様。申し訳ございませんでした。ううう」
私とエルシミリアの前に、ボロボロになったコーデリア姫、平行世界の私が土下座している。
「謝るだけかい、誠意みせんかい、われ~」
「アリス姉様、それではただのチンピラです。相手はこの世界を創ってくれた神様、元神さまですよ、少しは労わってあげて下さい」
「ああ、なんてエルシーは優しいの、涙が出る」
私はエルシミリの頬に優しく手をやった。猫のように目を細め、喜ぶエルシー。そしてコーデリアを、平行世界の私をキッと睨みつける。
「それに比べあんたは何よ、あんたは!」
「うう、私の魔力槽の半分をお渡しします。それで勘弁して下さい」
「ええ、そんなこと出来るの? マジ?」
「出来ます。これでも元神です。出来るのです」
さすが元神、神ってスゲー。
「わたしは要りませんよ、それより欲しいモノがあるのです」
エルシーも貰っておけば良いのに、勿体ない。
「何でしょう? エルシミリア様」
「わたしが欲しいのはコーデリア姫。今のあなたでは、ありませんよ、九歳のあなたです。妹になって欲しいのです」
「え、あたしにですか? あたしなんかを、妹にしても、何も良いことはありませんよ」
「そんなこと無いです。コーデリア姫が『お姉さま~!」って抱きついて来てくれて、甘えてくれたら、心が蕩けてしまうでしょう。最高です」
エルシーが段々遠い世界に行っているように感じる。放っておいて良いのだろうか。
「そうなのですか。わかりました。精一杯頑張って、貴女の可愛い妹に、ならせてもらいます」
いいの? ほんとにそれで、良いの?
あなた王女でしょ。妹になるなんて勝手に決めて良いの?
陛下とか滅茶苦茶怒るんじゃない?
私、知らないよ。自分でどうにかしてよね。
エルシーは、ガッツポーズをしている。
恐ろしい子。ほんとに、王女様を手にいれちゃったよ。リーアムお兄様が怖がる訳だ。
でも、なんだかなー。ほんとにこれで良いのかなー。
まあ、良しとしよう、後は野となれ山となれ。
「ねえ、コーデリア姫、じゃなくて、野乃」
私は呼称を変えた。
「何でしょうか? アリスティ…… 野乃」
向こうも変えて来た。
「あなた、聖藤女学院の生徒だったんでしょ。私もね、高校からの編入枠に合格してたんだ。でも、入学前に、死んじゃってね。行けなかったの」
「そう、残念だったわね。でも、高校からって枠あったの? あたしは普通に小学校からだったから、あるの知らなかった」
「単年度導入の枠だったの、たった十名の枠だったから、難しかったのよ。頑張って、頑張って、滅茶苦茶頑張って、合格した。晶兄さんや荒川先生に指導してもらって、勉強方法もいろいろ工夫したの。合格した時は、ほんと嬉しかった。天にも昇る気持ちだった。兄さんも、母さんも、先生も、佐智達も皆、喜んでくれた」
「お姉様……」エルシミリアが、私の突然の昔語りに、戸惑っている。
「なのに、なのに、私は、自分自身の不注意で死んでしまった。聖藤に通えなかった、その制服に袖を通せなかった。憧れの学院だったの。長く通えた、あなたが羨ましい。だから、教えてよ。聖藤ってどんな学校だった? 楽しかった? クラスの雰囲気はどう? 行事とかは? クラブ活動とかは? 聖藤のことなら、何でも良いの。教えて、お願い」
ダメだ、声が震える。前世は前世として割り切ってるつもりだった。でも、全然ダメ、割り切れてない。
野乃が私の目を覗き込んでくる。
その目をみると、こちらのことを、真摯に思ってくれているのがわかる。
「教えるくらいなら、なんでも教えるよ。でも、体験した方が良いんじゃない。勿論、ほんとの体験じゃない、あたしの過去の体験で良かったらだけどね」
「過去を体験するなんて出来るの? そんなの無理でしょ」
「ハリセン出しといて、なに言ってるの。ここは、あたしの意識の中、どうとでも出来る」
どうとでも出来るのよ、野乃。
気がつくと、澄み切った青空の下、私は、聖藤女学院の制服に身を包んで、歩いていた。プラタナスの並木に飾られた石畳の路が、正面に見えるスパニッシュ様式の瀟洒な校舎まで、一直線に続いている。多くの女生徒が、校舎をめざして歩いてゆく。私もその中の一人。
「ごきげんよう、野乃さん」
後ろから、声をかけられ振り向く。そこには、長い黒髪を三つ編みにした上品な女生徒が笑っていた。
「公子さん、ごきげんよう」私も笑顔で返す。
「今日、リーダーの小テスト憂鬱ですね。私、英語は嫌いです、日本人なら、日本語、日本文化で勝負すべきだと思いません? 野乃さん」
「そうですね。でも、ミッションスクールで、それを言っても説得力ありませんよ」
「確かに」公子さんが、苦笑する。
「さあ、行きましょう公子さん、始業に遅れてしまいます」
「ええ、今日も一日長いですけど、頑張りましょう。野乃さん」
私は、公子さんと、他愛のない、お喋りを続けながら、校舎へ向かった。
私達が校舎へ入った後、予鈴がなった。授業開始五分前、一時間目は数学。
今日は、当てられる日。予習してない、どうしよう。
主人公、変えます。エルシミリアにします。
まあ、冗談はさておき、神様関連はこのあたりで、一段落。早く学院編に行きたいです。普通の世界を書きたい……。