三人の侍女
「お初にお目にかかります。姫殿下、次女、ルーシャです」
「お初にお目にかかります。姫殿下、三女、アリスティアです」
「お初にお目にかかります。姫殿下、四女、エルシミリアです」
何なの、この美少女三姉妹! なんで、一気に三人も来るの!
「ノエル兄上、新しい侍女が三人なんて、聞いてませんが」
「オルバリスから帰って来た後、何回も言ったよ。コーデリアがちゃんと聞いてないだけだよ。ねえ、ユンカー」
「言ってたな」
「ほら、みなよ。人の話はちゃんと聞こうね」
ユンカーはいつもの仏頂面。
ノエル兄上はニコニコしてる。ムカつく、何がそんなに楽しいのか。
しかし、三人か…… 厄介だな。今までみたいに、一人ずつなら、沈黙攻撃と、冷たい視線攻撃「下賤の者め」が有効なのに、三人では、効果が分散するし、互いに慰め合うだろう。面倒だけど、一人ずつ、心を折っていくしかないか。どんな攻撃が有効だろう?
・相手の不細工さを、笑う。
「あなたのような不細工が、この超絶美少女の私、コーデリアの侍女が務まると思ってますの! オーホッホッホ! オーホッホッホ!」
絶対無理、三人とも容姿整い過ぎ。
自分が、負けているとは思わないが、大勝しているとはとても言えない。特に、三女アリスティア。これほどの美少女見たことがない。単に目鼻立ちが整っているだけではない。アリスティアは、人の心を惑わせる、不思議な輝きを身に纏っている。その輝きはとても恐ろしい。
彼女を見つめていると、心が飢餓状態になってくる。
語り掛けて欲しい、微笑んで欲しい、一緒に泣いて欲しい、一緒に笑いあって欲しい、
そして、いつかは……
一緒に、死んで欲しい。
この娘は用心しなければ。私は心中事件など起こしたくはない。
アリスティア、死ぬ時は一人で死んでくれ。
後の二人の美しさは分かる。
次女、ルーシャは神々の恩寵の御蔭、マンキとドングだな。あの子達、仲悪いくせに、よくつるむ。本当は仲が良いのか?
四女、エルシミリアは一番普通。神々の助けなしに、人が持ち得る最高の容姿って感じ。まあ、どうってことない。双子の姉、アリスティアに、段違いの差を付けられてる。この子、絶対姉を嫌ってる。
「双子なのに、どうして皆、姉さんばっかり褒めるの! 姉さんなんか、いなければいい!」
姉妹なんて他人の始まり、女の嫉妬の闇は深い。よし、エルシミリアはそのあたりを攻めよう。
・相手の魔術的無能を笑う。
私はまだ、九つ。だから眷属の紋章はもらっていない。でも、魔術は自由自在に使える。十二柱のあの子達に、魔力と神力の使い方を教えたのは私、使えて当然。
これは、ルーシャ以外には使えるな。ルーシャはマンキとドングが肩入れしてるから、かなり高位の魔術が使えるだろう、魔術の実力差で心を折るのは少し難しい。やってやれないことはないと思うが、最高難度の魔術など使ったら、目立ってしまう。静かな生活が脅かされる。ルーシャは別のやり方で行こう
・相手の無知を馬鹿にする。
昔は曲がりなりにも神だった、世界の隅々まで目を通した。人に転生後はさすがに、そんなことはできないが、普通の人ごときに、知識で負ける筈がない。
「あなた達は、そんなに無知で、愚かなのに、私と話が出来ると思うのですか? 百年くらい勉強していらっしゃい。まあ、その頃は私死んでますけどね。オーホッホッホ!」
三人の中で一番、賢そうなのはエルシミリア。この子は知識の差で攻めても、「知識が多いと賢いと思っているのですね。なんと愚かな」とか言って来そう。論理でやり込めねばならない。面倒臭い、ほんと面倒臭い。
・物理的に排除
これは最終手段。護身術の訓練とか、戦闘魔術の訓練とか適当な理由をつけて、相手をボコボコにする。訓練に危険はつきもの、仕方がない。これをやるなら、三人の排除は簡単。私の魔力容量は教会の計測では、ゴールドの下位となっているが、本当はプラチナの上位。負ける訳がない。
アリスティアも、プラチナの上位を持っているらしいが、あちらは紋章取得前。殆ど魔術は使えない筈。使えても精々、第二段階くらいだろう、相手にならない。しかし、アリスティアが、紋章取得前でほんと良かった。私だって、おなじプラチナ上位とガチでやり合いたくはない。もし、王宮なんかでやったら、宮殿が消し飛ぶ。
・変態性で排除
これは超最終手段。絶対採りたくはないが、どの方法もダメな時は致し方がない。変態的趣味を捏造し、相手を引かせる。
「さすがに、このような趣味をお持ちの御方の傍には、おられません、辞めさせていただきます…… うう、私の貞操を返してくださいませ、わーん!」
これは諸刃の刃、この手段をとったために、自分自身がその手の趣味に目覚めてしまう可能性が、全くないとは言えない。恐ろしい、恐ろし過ぎる。
実はもう一つ、手段がある。でも、意識的、無意識的に弾いてる。
・存在の抹消、殺す。
私がこの世界を創って上げたのだ。私がいなければ、この世界にいる者達の生はなかった。だから、私が、三人を殺しても何の問題があろうか?
しかし、短絡過ぎ。後の処理、隠蔽を考えると割に合わない。不可。
などと、つらつら考えるに、排除の方法は色々ある。最初、侍女が三人!と焦ったが、なんてことはない。どうとでもなるだろうと考えていた時、エルシミリアが声をかけて来た。
エルシミリアが微笑んでいる。なかなか良い笑顔だ。
「コーデリア殿下、お茶を淹れました。お飲みになられませんか」
私が、彼女達の排除方法を考えている間に、淹れたのであろう。テーブルの上には全員分のカップが並んでいた。
「殿下はなくて良い、コーデリアで良い。敬語もなくて良い、語尾が長くなるばかりで、煩わしい」
少し、優しい王女を演じてみよう、相手の気が緩んでからのほうが、叩いた時に効果が大きい。
「そうでございますか、では」
エルシミリアの顔から笑顔が消え、表情がなくなった。まるで陶器の人形のよう。
「コーデリア、早く立ちなさい、お茶が冷めてしまいます。わたしは冷めたお茶が嫌いなのです」
「!」
今、何を言ったこの娘? 主人に向かって、王女に向かって、何を言った?
呆然とする私に、エルシミリアがさらに言う。
「聞こえないのですか、私は鈍くさい子供は嫌い。二本の足はなんのためについているの、早く立って!」
私を見下ろしてくる、エルシミリアの顔をじっと見てみた。
その顔には、その表情には、一つの感情しか浮かんでいない。
軽蔑。ただ、それだけだった。
エルシミリアは考えての行動なんでしょうけど、いきなり過ぎですね。