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超国家機密

 アレグザンター陛下とノエル殿下のオルバリス訪問は無事終わった。


 陛下と殿下は、来られた時と同じように瞬間移動で王都へ戻られた。

 それを見送りながら、リーアムお兄様は、ゴールド持ちは良いな、ほんと羨ましいと、愚痴っていた。お兄様は、普段全く無駄口をたたかない、珍しいこともあるものだ。傍にいたルーシャお姉様が慰めていた。


 ん? もしかしてルーシャお姉様がいたから?


「便利だとは思いますが、きっと味気ないですよ。景色の移り変わりを見ながら、感じながら、自分の足で、馬で、街道を行くのは楽しいです。同行人がいると、なお良いですね。旅の時間を共有すると、人と人との関係は深まりますもの」


「味気ないか、確にそうだな。瞬間移動で、山に登ろうなどとは考えたりはしないな」


「山? リーアム兄上は山に登られるのですか?」


「ああ、山はいいぞ、楽しいぞ」


「楽しい? 何が楽しいのですか?」


「わからん、とにかく楽しい」


 お兄様の受け答えには、笑ってしまう。もう少し何とかならないものか。


 山登りは、楽しめる人と楽しめない人に、奇麗に分かれる。楽しめない人は、全く楽しめない。さて、ルーシャお姉様はどちらだろう。今度、お兄様と一緒に登る時、誘ってみよう。当然、エルシーもね。


 警護の近衛騎士団の分隊とお付きの者達の一団の馬車が、王都へ出立すると、ゲインズブラント邸は普段の落ち着きを取り戻した。宴の後、静かだ。ホッとする。


 私とルーシャお姉様が危惧していた余興のダンスは杞憂だった。三姉妹全員が最高の出来。理由は簡単、ノエル殿下が、無茶苦茶上手で、完璧なリードをしてくれたから。

 私やルーシャお姉様とのダンスも良かったとは思うが、私的にみるに、エルシーとのダンスが一番良かったと思う。ノエル殿下と踊るエルシーは、まるでシンデレラのように思えた。あまりに美しく見事なダンスだったので、ちょっと悔しくなって、つい、足踏んずけろとか思ってしまった……


 これでは、シンデレラの意地悪な姉そのもの。心が狭い姉でゴメンね。エルシー


 使用人達には、今回とても頑張ってもらった。その慰労の一つとして、エルシミリアの発案で、三日の臨時休暇が与えられることになった。さすがに全員休まれては、伯爵家(私達)が困ってしまうので、二つのグループに分かれてもらい、交代で休んでもらう。


 お母様は、エルシーは賢くてしっかりしていると仰っていた。ほんとにそうだ、これでは本当に「エルシミリアお姉様」になってもらった方が良いかもしれない。(絶対受け入れてくれないだろうけれど)


 エルシーが失敗したり、暴走したりするのは私が絡んだ事柄が多い。もし、私が最初から存在していなかったら、彼女は完璧だったかもしれない。済まない、ほんと申し訳ない。


 でも、許してよ、私がいなかったら、エルシーは寂しいでしょ? 私は、エルシーがいなかったら、めっちゃ寂しいよ。大好きだよ。エルシー。


 あ、でも、あの絵はないな。あの絵は。

 あれは私のせいではないよ。エルシー画伯。




 数日後、私達は王都へ、王宮へ向かうことになっている。行くのは、警護の騎士達を除けば、九人。三台の馬車に分乗する。


 オリアーナ大叔母様、ルーシャお姉様、私 、エルシミリア、大叔母様の侍女、私とエルシーの侍女 セシル、コレット、キャロライナ、サンドラ。


 ルーシャお姉様の侍女はまだ、決まっていない。さすがに、王宮へ侍女無しで向かうことは、非常識なので、実家のメイチェスター家から、ルーシャお姉様の以前の侍女を派遣してもらうことになっている。


 王宮に行くにあたって、私には一つ気掛かりがある。


 私の侍女の一人、コレット。

 彼女は元々、平民であった。しかし、シュバル家の養女となり貴族の仲間入りを果たした。オールストレームの法や慣習において、貴族とは、貴族家に属し、魔術全ての分野で、最低、第二段階の以上の魔術が使えることとなっている。「眷属の紋章」の有無は定義されていない。


 コレットはその基準を軽く満たしている。だから誰も、正式には、彼女が貴族であることに文句はつけられない。

 しかし、コレットは右手の甲に、平民が持つ「加護の紋」を持っている。これは明らかに目立つ。オルバリスのような田舎領地ならともかく、高位貴族がひしめく王宮で、彼女がどう扱われるか? 全く良い想像ができない、差別されるに決まっている。最初は、コレットには残ってもらった方が良いのでは、と考えたが、


 それは出来ない、してはいけない。

 彼女はただの侍女ではない。挺身侍女なのだ、命をかける決断を経て、私の侍女になってくれている。そんな彼女を一人置いて行くのは、厭だ。絶対に厭だ。


 でも、連れて行けば、コレットが嫌な目をみることは確実、どうしたものかと悩み。王都へ戻られる前のノエル殿下に相談した。ノエル殿下は王族とは思えないほど、フランクな方なので、つい愚痴ってしまった。


「加護の紋を、眷属の紋章に書き換えられたら良いのに……」


 ノエル殿下は苦笑する。


「それはさすがに神々でなきゃ無理だね。でも、別に書き換える必要はないだろう、紋が見えなければいいんでしょ」

「手袋ですか? 屋外ならともかく、室内でも着用し続けるのはダメでしょう、不自然過ぎですよ」


「違う違う、隠すんじゃない。見えにくくするんだよ。紋の位置をずらすんだ」


「紋の位置をずらす? そのようなことが出来るのですか? まさか殿下が!」


 驚く私に、殿下が、さらに苦笑して手を振る。


「僕が? 出来る訳無い。父上でも教皇様でも無理だね。絶対無理」

「それじゃ、誰が出来ると言うのです。殿下の言ってることの意味がわかりません」


「ユンカー。ユンカーに頼めばいいんだ」

「ユンカーさん? どのようなお方なのですか? 神々が与えし紋の位置を動かせるなんて、信じられません」


「それが、出来るんだ。ユンカーはエルフ。神々が作った人の上位種だからね。ちょっと人とは次元違うんだよ」


「エルフ!」 


 あの耳の尖った奴か! 数百年もの寿命を持ち、魔術に優れ、美男美女ばかりという、チートの塊のような奴か! さすが、異世界! 異世界万歳!


「まだ存在していたのですね。とっくに、絶滅したのかと思っていました」


「勝手に絶滅させちゃ可哀そう。でも、そう思われても仕方ないか、大陸で確認されているエルフは、たった数人。オールストレームでは、ユンカーだけだよ」


「では、そのエルフのユンカーさんに、ノエル殿下の方から頼んで頂けるのですね」


「別に頼んでもいいけれど、アリスティア嬢が直接頼めばいいよ。どうせ会うことになるし」


「会うことになる?」


「そうだよ、ユンカーはコーデリアの専任メイド、そして二百年前は、オールストレーム王朝初代王王妃。つまり、僕やコーデリアの生きているご先祖様なんだ。そうそう、国王の父上より決定権があるから、事実上の国のトップということになるね。まあ、政治には滅多に口を出さないよ、ここ五十年くらいは出してない筈」


 ちょ、ちょっと待て、情報量が多すぎて、頭の処理が追い付かない。整理しよう。


 えーっと、ユンカーさん、いやユンカー様は、エルフ、


 人の上位種なので、魔術チート。加護の紋の位置も動かせる、


 二百年以上生きていて、現王朝初代王の妻であった、


 アレグザンター陛下やノエル殿下、コーデリア姫殿下は、ユンカー様の子孫、


 国王よりヒエラルキーは上、国の本当のトップ



 それなのに、コーデリア姫の専任メイド!



 もう、訳がわからない。本当なの? ウソじゃないの? 殿下は私をからかってんじゃないの?


「あ、これは、オールストレームの超国家機密だからね。口外厳禁、内緒の内緒でお願いね」


「内緒の内緒って、ノエル殿下…」


 私は、呆れてしまって、それ以上言葉が続かない。


「む、不服そうだね。よし、僕も男だ。喋ってしまった以上仕方ない。譲歩しよう!」


「譲歩?」


「エルシミリア嬢とルーシャ嬢にまでは教えていいよ、それ以上は無理! 勘弁!」


 ノエル殿下は口のへの字に曲げ、両手をクロスさせ、大きな×を作っている。

 微笑まし………… くない!


 頭が痛くなってきた。王宮は権謀術数渦巻く怖いところだろうとは思っていた。でもこのような、カオスな状況は想像もしていなかった。


 国の最高権力者がメイドとか、訳がわからない。


 そして、私達はコーデリア姫の元で、侍女として、その最高権力者であるメイドのユンカー様と一緒に働くことになる。上手くやれる自信がなくなって来た。それでなくても、多くの優秀な令嬢を泣きまくらせた、難度の高い案件であるのに。


「ノエル殿下、今回の件、お断りしてもよろしいでしょうか?」


「え、今更ダメだよ、ダメに決まってる」



 ですよねー。

 

エルフを出すとファンタジーって感増しますね。便利です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 確かにエルシーさんの方がお姉様のようにしっかりしていますね!でもアリスさんとエルシーさんどっちが居なくでも寂しいでしょう。やっぱり姉妹百合は最高です〜 魔術…
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