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お説教

 私達、三姉妹がコーデリア姫の侍女になることを承諾した、その日の晩のこと。


 お父様の執務室は、沢山の灯火の魔術で照らされ、まるで昼間のような明るさです。

 しかし、部屋の中の雰囲気は真っ暗。

 

 部屋の中にいるのは、総勢七名。


 執務机を背にして、ロバートお父様、エリザベートお母様、オリアーナ大叔母様、三名が横並びで、立っておられます。


 その前には、項垂れ、意気消沈した者が四名。

 ルーシャお姉様、私、エルシミリア、ベルノルトお祖父様。


 皆、正座です。足が痛いです、うう。


 エリザお母様が口火を切る。


「アレグザンター陛下が、娘達とフランクに話をしたいと仰られるので、私達は遠慮したのです。陛下と付き合いの長い父上が同席なされるようだから、まあ、大丈夫であろうと」


 お母様がお祖父様を睨みつけています。怖いです。


「それが何ですか、どこをどうしたら、うちの娘達が全員、コーデリア姫の侍女になることに、なったりするんですか! お父様! あなたは何のために同席なされたのですか! どうして途中で止めて下さらなかったのですか!」


 お祖父様の額に沢山冷や汗が浮かんでいます。可哀そうです。


「いや、エリザ、私は止めようと思った、異議を挟もうと思ったんだ」

「では、どうして、そうして下さらなかったのですか」

「それは、その……」


 お祖父様はついにハンカチーフを取り出し、大汗を拭いだしました。


「何故か、口が動かなかった」


「はあ? 口が動かなかったですって、子供でももう少しマシな言い訳します。もっと真面な弁明はないのですか!」


「動かなかったものは動かなかったのだ、仕方なかろう! 大体なんだ、親を正座させて問い詰めるとはとんだ親不孝娘だ!」


「そんな親不孝をさせる状況にしたのは、お父様ではないですか!」


 ついに、親子喧嘩になってしまった。どうしょう。



 ねえ、どうしたら良いと思う?


 私は、喋らなくても相談できるカインに助けを求めた。


『さあね、難しいね。君が矢面に立ちなよ、諸悪の根源はアリスティア、君でしょ』


 諸悪の根源って、まあ、今回はそうだけどさ。でも矢面に立つのはちょっとね。今日のお母様、とっても怖いし。お祖父様、ゴメン! 許して!


『薄情だね、どうせ侯爵の次は、君が怒られるのに』


 やっぱり? 怒られる?


『当たり前だろ、怒られないと思う方がどうかしてるよ』


 だよねー。

 気分がさらに暗くなる、コーデリア姫を救う前に、私の方が救って欲しい状況になってしまった。


『ところでさあ、侯爵の弁明、君はどう思う?』


 弁明って、「何故か、口が動かなかった」ってやつ?

 

『そう、それ。僕は侯爵は嘘をついてないと思う。君のお祖父様は、本当に口が動かなかったんだよ、だから止められなかった、意義を挟めなかった」


 そう、じゃ何で口が動かなったの? 理由がある筈でしょ。


『これ、確実とは言えないんだけど、微かな「神力」を感じたんだよねー、そのせいかも』


 神力! また、あの二柱? 


『マンキやドングではないと思う。巧妙に隠蔽された神力だったから、確実とは言えないけれど、波長が違うと思う。関与したとしたら別の神だよ』


 別の神! もう勘弁してよ、この世界の神々って、そんなに暇なの? もっとやることあるでしょ、大地の力を高めて作物の実りを良くするとかさー。


『僕に言われてもね。まあ、僕の勘違いかもしれないから断言はしないよ。一応、心に留めておいてよ』


 わかった、留めとく。でも、もう神々は遠慮したいな、神々って、存在感が巨大過ぎ。前に立たれると、自分が蚤になった気分になるの、会いたくないよ。


『ははは、僕がいる限り大丈夫だよ、神々だって君を、プチッとは出来ない。跳ね返してあげるよ』


 そう、プチッとは大丈夫なのね。じゃ、相手がフルパワーで、ドン!って来たらどうなの?


『 …… 』


 カインは無言の行に突入した。不安だ。



「アリスティア!」


 ついに、矛先が私に来た。でも、ホッとする。お父様だ、お父様なら乗り切れる。男親は娘に甘い!


 体を、微かに震わせ、両手は胸の前で握り合う、眉は八の字、口元は少し強張らす。そして、

 (隠蔽術式展開! 水分創生術式展開!)

 目は超涙目、決壊寸前!


 どうだ、これだけ反省と怯えを可愛い愛娘が体全体で表現しているのだ、怒るに怒れまい。


「うう、お父様。私は、コーデリア姫が、ノエル殿下が、アレグザンター陛下が、苦しんでいるのを助けて差し上げたくて、つい、浅慮な行動に出てしまいました。しかし、これも世の為、人の為。陛下達の心の安寧は、民の安寧に繋がるのです。どうか、お許し下さいませ。」


 さらに畳み掛ける。


「私はいつも、お父様の大きな愛に包まれて、幸せでございます。この幸せを、他の皆様にも分けとうございます。コーデリア姫を救いとうございます」


 偽の涙で、少々ぼやけて見えるが、お父様の表情は明らかに柔らかくなっている。いけそう!


「アリスティア、お前はなんて優しくて心の広い子なのだ……」


 やった! 乗り切れた! と思った瞬間。


 スパーン! 大叔母様が、ハリセンでお父様の頭を一閃した。


 何故に、この世界にハリセンが?


 私は時々だが、好奇心旺盛なオリアーナ大叔母様に、前世の世界のことを色々と教えている。ハリセンはたまたま話題に出て、大叔母様が興味を持たれたので作り方を教えたしだい。叩いた時の小気味良い音がとても気にいった大叔母様は、ここ数日、常時ハリセンを携帯されている。騎士団服の時はまだマシだが、ドレスの時はさすがに止めてもらいたい。ミスマッチも甚だしい。ハリセンを持った貴婦人。ギャグにしかならない。


「ロバート、お前はいつから、そんな残念な奴になってしまったんだ! どうして、アリスの隠蔽魔術に気づかない! あの涙は偽物、水分創生の魔術だ! これくらい判れ、バカ者!」


「アリスティア、お前は……」


 お父様は、可愛い可愛い愛娘が、自分を騙そうとしたことにショックを受けているようだ。


 やばい! やばい! ここは、なんとしても誤魔化さねば! 


 父親の娘への幻想を壊してはいけない。

 父親にはいつまでも、思っていてもらいたいではないか、


 自分の娘はピュアだと!

 一時流行った、あのフレーズのように思っていてもらいたい!


 【 守りたい、この笑顔 】


 指で、目に溜まった、大粒の偽の涙を拭う。そして、その拭った指を口にいれて、にっこりする。



「塩辛~い、ですよ」



 お父様の幻想は崩れ去った。

 可哀そうなことをしてしまった。これからは父親孝行に励もうと思う。


 この後、当然、私達はみっちり怒られた。私が怒られるは仕方がないが、エルシミリアとルーシャお姉様も、きつくきつく叱られた。申し訳ない。姉妹孝行にも励もうと思う。


 ただ、二人とも意気消沈はしていない。エルシミリアは、元々しっかりした子なので予想通りだが、ルーシャお姉様は意外だった。ルーシャお姉様のメンタルはそう強い方ではない。禁術に逃げようとしたことでもそれは明らか。不思議だったので聞いてみた。答えは簡単なものだった。


 養女なのに、私やエルシミリアと同様に扱い叱ってくれたのが嬉しかったとのこと。


「姉である貴女が、アリスティアに引っ張られて、どうするのですか! 姉として、アリスティアやエルシミリアを、導かねばならぬ立場なのです、よく肝に銘じておきなさい、ルーシャ!」


「はい、エリザお母様。申し訳ございませんでした。これからはきちんと二人を導きます!」



 この二人の、やり取りを思い出すと、私よりずっと、親子しているようでちょっと悔しい。いや、大いに悔しい。あまりに、悔しいので、お母様の部屋に行き、お母様に言った。


「お母様、私も姉としてエルシミリアをきちんと導いてみせます!」


「あら、導かれるのはあなたですよ。エルシミリアはあなたよりずっと賢くて、しっかりしています。まだ気づいていなかったのですか?」


 駄目だ、立ち直れないかもしれない。心の奥ではわかっていたことではあるが、こうもズバリと突き付けられると、心が折れる、折れてしまう。


 母親というものは、同じ女性である娘には時々残酷な刃をみせる。前世の母親もそうだった。


『野乃、今はまだ良いけれど、大人になったら、女らしさを身に着けなさいよ、きちんとメイクも覚えるの。でなきゃ、いつまでも、兄さん、兄さん、言ってるようなあなたには、男は寄って来ない。本当よ、保証するわ』


 母は、私のことをとても愛してくれた。けれど、母と私には、決定的に違うところがあった。母は美人ではなかったが、男性を惹きつける何かを持っていた。私にはない、女としての不思議な魅力があった。だから、そうでない者の気持ちが分からない。思いやれない。


 とっても悲しくなって来た…………、


 しかし、お母様は、呆然としていた私の手をとり、引き寄せ、抱きしめてくれた。


「アリスティア、あなたは十分頑張っています。頑張り過ぎているのです。だから、周りにもっと頼りなさい。あなたの周りにいるのは、あなたが導かねばならない存在ではありません。皆、あなたを助けたい、手伝いたいと思っています。助けられるよりは、助けたいのです」


 お母様のお胸地獄で、息が苦しくなって来た。お母様の悪い癖。顔をずらして、息を確保する。


「お母様、それは分かっています。でも私も気持ちは同じなのです」

「でしょうね。だから、皆が、あなたのことを思い、あなたを中心として動くのです。ほんと幸せな子ですよ、あなたは」


 お母様の言葉に、私は返事ができなかった。お母様の声は、幸せな子、のあたりでは、明らかに震えていた。


 お母様、心配ばかりかけてごめんなさい。


 私は、きちんとお母様の元へ帰ってきます。絶対に、絶対です。

 野乃のような過ちは、決して犯しません。


 三人揃って笑って帰ってきます。待ってて下さいませ、お母様。


 私は、部屋に戻る気になれなかったので、そのままお母様の部屋で寝たいと頼んだら、笑って了承してくれた。今回は、エルシミリアはいない、私がお母様を一人占め。抱き着いて眠った。


 その晩、川で溺れて、窒息しそうになる夢を見た、苦しい、苦しい、ほんと苦しい夢。


 朝起きて後悔した。後ろから抱き着けば良かった。


 

 お母様のお胸は凶器だ。恐ろしい。


アリスティアとエルシミリアは、性格違っても、やはり双子。

似た者同士ですね。書いてて気づきました。


ブラコン、シスコン、基本は同じ。(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! まさか偽涙目を作りとは、何という魔法の面白い無駄扱いでしょうw  あざといだと思われるかも知れませんけど、それはそれで可愛いですよw しかし、悪霊に無駄な知…
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