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魔力容量増加法

「アリス姉様、魔力量が増やせる可能性があるって、本当ですか!」


 エルシミリアの喋った後の、口が半開きになっている。超絶美少女なのに、少々バカっぽく見える。そこが可愛い。愛でたくなったので、ギュッとした。


「な、突然、何をなさるのですか? お姉様!」 エルシーが、顔を真っ赤にする。


「いえ、別に意味はありません。エルシー分が足りてなくて、補給しただけですよ。単なる生理的現象です」


「エルシー分って何ですか! 私は糖分ですか!」

「かもしれませんね。エルシーは私に、甘々ですから。私が成人病になったら、エルシーのせいですよ。介護お願いしますね」


「もう! アリス姉様の言っていることの意味がわかりません、もう知りません! ぷぃっ!」


 エルシミリアがそっぽを向いた。

 いやー、ぷぃっ!って言いながら、人がそっぽを向くの初めて見たよ。私の中で、エルシミリアの萌え度が急上昇した。


「あー、そこのバカ姉。妹で遊んでる場合ではない。そろそろ話を続けなさい。本当ならとんでもないことだ」


 オリアーナ大叔母様に(たしな)められた。ごもっともである。でも、大叔母様も人のことは言えないと思う、お母様に対する態度とかどうよ。


「すみません、大叔母様。では話を続けます」


 私は、ことの発端から説明を始めた。


「以前、コレットが、何気なく言ったんです、『加護の紋を賜って以来、(魔術を)少しずつ使えるようになってまいりました』。これ、おかしくないですか?」


「おかしいな」

「おかしいですね」


「でしょ」二人の呑み込みが早くて助かる。


「でも、コレットは嘘は言っていません。コレットに聞いてみました。炎の魔術などは、紋を得た時点では、蝋燭くらいのレベルだったらしいです。ですが、面接に来た時点では、薪を完全に炭化出来るレベルです」


「普通なら、ありえないですね」 真顔のエルシミリア。


「有り得るとすれば………」 と、私。


「魔力量が、段々と増えていっただな」オリアーナ大叔母様が締めた。


「しかし、増える理屈がわからない。それが分からなければ、魔力容量を増やすなんて夢物語だ」


 至極当然のことを、大叔母様が言う。


「理屈はわかりますよ。簡単です」


「 「 な、なんだってー!! 」 」


 MMRか、何もかも懐かしい……


 驚く二人をスルーして、私は説明を続ける。まず、紙袋を一つ取り出した。


「この袋を使って説明しますね。これが、魔力を溜める袋だと思って下さい。貴族は皆、この袋を一つずつ持っています。その袋の大小が、魔力容量の差に繋がります」


 コレット以外の平民も、この袋を持っている可能性があることについては、割愛した。今は、魔力容量を増加させる方法の説明に集中したい。


「アリス姉様が特大の袋、わたしが大の袋、オリアーナ大叔母様が中の袋ですね。お姉様の圧勝です」


 フッ という感じで、エルシミリアが大叔母を見る。オリアーナ大叔母様は、はいはい、って感じ。


 エルシー、オーラ見えないから仕方ないけど、対抗心燃やさない方が良いよ。ほんとだよ。


「では、増やせる理由の説明です。コレットの袋はこうなっていたのです。だから、魔力容量が増えるなどという、珍事がおこったのです」


 そう、言いながら、紙袋の下の方、半分を、私は、()()()上げた。


「これだと、どうです。入る容量は、紙袋本来の半分しか入りません」


「!」

「!」


 エルシミリアも、オリアーナ大叔母様も、分かったようだ。二人とも、ほんと頭の回転が速い。


「そうです。コレットの袋は捻じれた状態だった。ただ、その捻じれの強度が弱く、その捻じれが、時間と共に、段々、()()()いった。それで、魔力容量が増え、使える魔術が高度化していった。ね、簡単なことでしょう」


 二人に向かって、にっと笑う。

 でも、二人とも真顔のまま固まっている。ことの重大性を考えれば致し方無い。


「アリス姉様、そ、それでは、もしかして他の貴族の袋も捻じれてる可能性が……」

「有りますね」

「アリスティア、それは貴族全員に有り得るのか?」


「可能性としては、有り得ます。でも、全員は無いと思います。袋が開き切ってる人も多いでしょう。でも、捻じれてる人もかなりいるんじゃないでしょうか」


「お前凄いな。よくこんなこと考えついたな。常識打破もいいところだよ」


「コレットの御蔭ですよ、あの子と会わなかったら、絶対気づいていません」

「いいえ、やっぱり凄いです、私もコレットの言葉を聞いていたのに、聞き流しただけでした。尊敬いたします! アリス姉様!」


 エルシーの目がキラキラを通り越して、ギラギラしている。ヤバい、これ以上、エルシーのシスコンを助長してはいけない。このままでは、嫁ぎもせず、一生私の傍に居そう。彼女の人生を壊してはいけない。


「神々が啓示を下さったのよ、凄いのは神々なの、私ではないのよ」


 落ち着いて、エルシミリア。


「まあ、なんて素晴らしい! やはり、神々はお姉様をとても愛されているのです。アリス姉様はもはや、神の子といっても過言ではありません。ああ、お姉様の妹に生まれて良かった! 私、絶対嫁いだりしません! 一生お姉様のお傍にいます!!」


 No!!!!!!! エルシミリアが暴走しだした。

 火に油を注いてしまった。最悪だ!


 トン!


 大叔母様の手刀が、エルシーの首元に入った。エルシーがカクン!となった。


「魔力の流れを寸断しただけよ。大丈夫、すぐに意識は戻って来る」


 剣豪か! あなたは剣豪なのか!


「はっ、わたしは何を……」


 にっこり顔の大叔母様が言う。


「エルシミリア、せっかく貴女の姉が、興味深い話をしているのに、居眠りなんていただけないわ」

「す、すみません、お姉様。大変な失礼を!」

「い、いいのよ、気にしないで」

「エルシミリアは賢いのに、時々、抜けているところがあるわね。可愛いわ」


 大叔母様の笑顔が恐ろしい。

 この人に逆らうのは、絶対止めよう。ほんと怖い、このひと怖い。


「では、話を続けよう。理屈はわかった。でも、どうやって、その捻じれを解消する? 方法に目途は立っているのか?」


「はい、これも簡単です」


 私は下の方を捻じった袋の口を両手で窄め、自分の口に当てて、一気に息を吹き込んだ。パン!という子気味良い音と共に、紙袋のねじれが解消する。

 

「おお!」

「!」


「これと同じことを、魔力ですれば良いのです。己の魔力を、相手にガンガン押し込み、相手の魔力を溜める袋の内圧を高めます。そうすれば、捻じれは解消されていく筈です」


「確かに理屈ではそうなるが……、そう上手くいくか?」

「ですね。机上では大丈夫でも、実践ではってこと往々にしてありますものね」


 大叔母様からもエルシーからも、全面的な賛同は得られなかった。


「うーん、どうでしょう? この方法が可能になるのには二つの条件をクリアーしなければなりません。一つは、魔力を溜める袋が捻じれていること。二つ目は、捻じれの強度が強すぎないこと。これらが大丈夫なら、私的には、かなりいけると思います」


 現実に魔力容量が増えているコレットがいるのだ。可能な筈! と思いたい。


「こういうものは、議論していても仕方ありません。私達の侍女に協力してもらって、実践しましょう」


「侍女達にですか? どうやってするのです?」


「これも簡単ですよ。彼女達に抱き着いて、自分の魔力粒子を彼女達の体内に送り込めば良いのです。エルシーも、サンドラとキャロライナにお願いね。実験結果は多い方が良いわ」


「抱き着いてって、そんなはしたないことを!」

「相手は女の子、自分の侍女ですよ。何の問題もありません。ですよね、大叔母様」


「ああ、別段問題はない。子供が出来るわけじゃあるまいし」

「ちょ、子供が出来るって、わたしそんなことしません!」

「はて、そんなことって、どんなこと? 大叔母さんは、わからないなー、説明してよ」


「もう! 大叔母様嫌いです! 大嫌い!」


 エルシミリアを宥めるのに、えらく時間がかかった。大叔母様が真面目に謝っているのを初めてみた。悪乗りし過ぎたオリアーナ大叔母様が悪い。エルシミリアは結構純心だよ。


 結局、エルシミリアも協力してくれることになった。被験者(私達姉妹の侍女四人)の実験前後の、魔力容量の計測も、神官様に頼むと快く了承してくれた。


 そして、数日をかけて、魔力容量増加の実験が行われ、結果が出た。


 大成功、一人。

 普通の成功、一人。

 小さな成功、一人。 

 失敗、一人。


 大成功はコレット。アイアンの中位が、ブロンズの中位になった。


 普通の成功が、サンドラ。アイアンの上位が、ブロンズの下位に。


 小さな成功が、セシル。ブロンズの下位の判定は変わらずだが、魔力量は増えていて、もう少しで中位に届きそうだとのこと。


 失敗はキャロライナ。魔力容量全く増えず、彼女は大層悲しんだが、まあ元々、侍女の中では一番多い魔力容量、ブロンズの上位を持っているのだ。気を落とす必要はない。


 私は結果に、かなり満足した。しかし、一つ問題が発覚した。

 

 コレットのように、もともと捻じれ強度が弱い者は、大丈夫なのだが、捻じれ強度が強い者や、捻じれ自体が無い者に、魔力粒子を押し込んでいくと、大変痛がるのだ。

 

 私の場合はセシル、エルシーの場合はキャロライナ。二人とも、とっても痛がった。キャロライナに至っては、抱き着いて魔力を押し込んでくるエルシーを振り飛ばした。


 キャロライナは後で、必死で謝ったらしいが、別段謝る必要はない。エルシーは怒っていないし、痛みを与えた方が悪いのだ。エルシーにさせたのは私、つまり私が悪いのだ。ごめんね、キャロライナ。


 大叔母様に、結果を報告すると、予想していたより、ずっと良い結果だと喜んでくれた。

 そして、悪い顔になった。


「アリスティア、将来は安泰だな」

「へへ、でしょ」

「大儲け、間違いなし、私もやって儲けてみようかな」


「あ、オリアーナ大叔母様は無理ですよ。儲けられません」

「どうしてよ、魔力送り込めば良いだけでしょ」


「やってみてわかったんですよ。自分の魔力を相手に押し込もうとすると、それを押し返そうとする反発力が凄いのです。それに逆らって、押し込むには強力な魔力出力が必要です。エルシミリアでも、ギリギリだったらしいですよ」


「エルシミリアのランクどれくらいだったっけ?」

「ゴールドの中位」

「……」


 オリアーナ大叔母様の野望は砕けさった。魂の格が高いのだから、そろそろ、そういう俗な欲望は捨ててはどうだろう。


 私が考えた魔力容量増加の方法は、かなり成功した。ただ、条件が結構、厳しい。この方法で貴族全体の魔力容量を底上げするのは、難しいだろう。大体ゴールド中位以上もっているのは、殆ど王族だ。今、この方法を公開すると、さらに王族の権力を高めることになる。それは不味い。この方法の公開はしないことにした。


 それ以前に、被験者の数が少なすぎる、たった四人では、データとしての信頼性は皆無と言われても仕方のないレベル。じっくりと実験を繰り返し、着実に検証して行こう!



 ……と先日までは、考えていた。


 しかし、ルーシャ様の悩みを知った今、私達の寿命が掛かった今、この方法に賭けるしかない!


「ルーシャ様、宜しいですか? 準備は良いですか?」


「はい、アリスティア様、覚悟は決めております。目一杯お願いします」


 オリアーナ大叔母様が、術式を唱える。

 三本のロープが、一瞬でルーシャ様を拘束する。縛られたルーシャ様は侍女達、四人の手でベッドまで運ばれる。


「エルシミリア、良いですか! 今回は共同作業です、息を合わせていきますよ」

「はい、アリスティアお姉様、押し込んで、押し込んで、ルーシャ様の奥の奥まで、到達しましょう!」


 あのエルシー、その表現はちょっと、ちょっとね。間違ってはいないけどね。


 もう少し言い方、あるよね。見てよ、ルーシャ様のお顔。



 前にみたいに鼻だけじゃなく、全体が真っ赤だよ。


貴族が魔力が枯渇した時、自然回復を待つのは、反発力があるからです。他者から入れた魔力は、すぐに排出されてしまいます。アリスティアの方法が今まで、発見されなかったのは、そのせいです。無理やり押し込み続けるという発想に、至りませんでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! エルシーさん、本当に超萌え可愛いです!!無くでは成らない要素です〜 なるほど、最大魔力を増やすというより、本来に有るべき魔力を引き出すという事ですね。 大叔…
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