カイン
「愚か者どもが、いつまでたっても過ちを犯す。いっそ、人など滅ぼしてしまうか?」
「馬鹿を言うでない、我ら、十二柱だけではつまらん。娯楽がなくなってしまうではないか」
「つまらんとはなんだ。お主は、この前負けたから、拗ねておるのであろう」
「負けてなどおらぬ、譲ってやったのだ。それもわからぬか、血の巡りが悪いのー」
ルーシャ様の声が聞こえる。けれど、喋ってるのはルーシャ様じゃない。
二柱の神々……。
神々が、ルーシャ様の体に降臨するのは全く予想外。せいぜいルーシャ様の魔術に、加勢するくらいだと思ってた。甘かった、甘過ぎた。
どうしたら良いの? どうすれば、この窮地を打開できるの?
ルーシャ様の身体から放たれる、神圧が強烈。まるで深海の底にいるように体全体が押さえつけられる。手足の自由が全く効かない。頭もギリギリする。頭痛の強烈なヤツ、レベル。ノーシンでもバファリンでも良い、誰かちょうだい!
あー! 腹が立つ! 何が滅ぼすよ! 何が娯楽よ!
この世界の神々はろくなもんじゃない! 最低っ!
他の皆は……。なんとか視線だけ動かせる。
お父様も、お母様も、大叔母様も、エルシミリアも、侍女たちも、皆、全員倒れてる。全く動かない、まさか……そんな。
視覚をオーラモードに切り替えた。皆のオーラが見える。皆、生きている、気を失っているだけみたい。良かった、ほんと良かった。
けれど、意識あるの、私一人だけか……。
一人で、二柱の神々に立ち向かうの?
こんな状態で?
無理。
無理。
無理。
無理。
絶対無理。無理ゲー過ぎる。
誰か替わってよ、ゲーム得意じゃないんよ。
ん? 私の一番近くにいる、オリアーナ大叔母様がぴくっとした。もしかして意識が戻りかけてる? 大叔母様に向かって、念を送る、念しか送れない。これしか出来ない。
目覚めて! オリアーナ大叔母様! 目覚めてよ! 心細いよ!
貴女の、可愛い可愛い、又姪がピンチなの! 助けてよ!
教官でしょ! 三等騎士一人にしないでよ! 目覚めて! 目覚めて!
早く目覚めろー! この大悪霊!!!!
罵倒が通じた。オリアーナ大叔母様の目が開きかけている。さすが、魂の格が高いだけある。あの強烈な白色オーラは伊達じゃないね。凄いよ。
あ、目覚めた! でも、大叔母様も視線だけしか動かせないみたい。二人ともこれじゃ、どうしようもないよ。
もう!「印」は何してんの! こちらの神々を「格下~」とか、蔑んでたくせに!
『ごめん、ごめん、もうすぐ解析終わるからさ。もうちょっと待ってよ』
え? あなたは、もしかして……。
『僕の名前はキュゥべえ。僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ』
はあ、キュゥべえ? 魔法少女? あなた何いってんの? 魔術少女ならもうなってるわよ。
『あ、これは君が、野乃が、死んだ後の作品だった。今の忘れてよ』
あなた、「印」でしょ、「500円玉ちゃん」でしょ。
『「500円玉ちゃん」って。まんま過ぎ、ダサすぎ、もうちょっといい呼び方考えてよ』
そんなのどうでも良いでしょ、緊急時なのよ。
『名前は大事だよ。君だって「アリスティア」って名前持ってるのに、不公平だよ。僕に何か良い名前付けてよ』
はいはい、わかったわよ。僕っていうことは男の子ね。男の子名前で、500円玉に合うのって……。
『男の子? はは、アリスティアはバカだなー。500円玉に性別なんてありませ~~ん』
ムカつくわ。あんた本当に500円玉ちゃん? 偽物じゃないでしょうねー。
『あんまり時間ないよ、早くしてよ』
ダメだ、こいつ人の話聞かないタイプだ…… もう! 付ければいいんでしょ! 付ければ!
『カッコイイのお願いね。可愛いのでもOK』
あなた、ムカつくから可愛いのは駄目。500円玉、硬貨、コイン…… カイン!
ちょっと安直だけど、カインでどうよ。
『カインね、カインとアリスティア。なんだか悲劇が起こりそうだね』
悲劇? どういうこと?
『わからなかったら良いよ。それでいこ』
『僕の名前はカイン。僕と契約して、魔術少女になって欲しいんだ』
もうそれ良いから、もうなってるから。解析終わった?
『終わったよ。準備はOK、いつでもいけるよ、弾けるよ』
じゃ、お願い、カイン! 弾いて! 無効化して!
『無効化発動! さあ! アリスティア、傲慢な神々に目にもの見せてやれ~!」
目にものを見せてやれ? どうやって?
『さあね、それは自分で考えてよ』
ちょ、ちょっと待ってよ。ここで、丸投げって酷くない? 奥の手!とかないの?
『アリスティア、500円玉に何を期待しているの? 500円だよ、500円。キツネうどん一杯食べたら、終わりだよ。せめて僕が、一万円札ちゃんだったら、もうちょっとサービスするんだけどね。せっかく、聖藤の合格が叶ったのに、せこい、君が悪いんだよ。自業自得だね。自力でがんばろ~~~~』
『僕はいつも君を見守っているよ。はーと。』
ムカつく、ほんとこいつ、ムカつくわー。
駄目だ、カインと馬鹿やってる場合じゃない。こんな奴もう無視だ! 無視!
とにかく協力者が必要だ、さすがに一人で神々に立ち向かうのは恐ろし過ぎる。
神圧は、感じなくなった。もう自由に動ける。でも、それを神々に悟らせてはいけない。
ゆっくり、ゆっくりオリアーナ大叔母様へ手を伸ばす。もう少し、もう少し。
届いた!
カイン! お願い、大叔母様の分も無効化して!
『あれ? 無視じゃなかったの?』
言葉の綾よ、言葉の綾!
『はいはい。大叔母様の分もしてあげるよ。それと忠告もあげる。神々を絶対、これ以上怒らせては駄目だよ。下手に出るんだ、超下手に出て、なだめる。こちらも頑張ってるのです、どうかお許しを~って感じでさ』
どうか、お許しを~って、さっき、あんた「目にもの見せてやれ~!」って言ったのは、何なのよ!
『ははは、君はほんと馬鹿だな~。この世界の神々と喧嘩してどうするの、生き辛くなるよ。言葉の綾だよ、言葉の綾。そんなのもわかんないのかい? 先が思いやられるね』
なんやねん、こいつ。私、こいつと、一生人生を共にするの? ほんと勘弁してよ。
「ドング、お前は頭が固過ぎ、固過ぎじゃ」
「キーキー、五月蠅いわ。浅知恵、空回りのお前よりマシじゃ、マンキ」
「なんだともう一度言ってみろ」
神々は口喧嘩を始めてる。ほんとにこいつら神なのか? それにルーシャ様の口が、二人分喋ってるので、とってもシュール。これを録画して、本物のルーシャ様に見せたら恥ずかしさのあまり、身投げするかもしれない。これは心の中に封印しておこう。私は何も見なかった、聞かなかった。
しかし、好都合ではある。今ならオリアーナ大叔母様とこっそり話をしても大丈夫そうだ。
「大叔母様、楽になりましたか? 動けますか?」
「ああ、なんとかね。アリスティアが助けてくれたの?」
「いいえ、『印』です。私にそんな力はありません」
「ああ、あれね。話には聞いていたけれど神々にまで通用するなんて凄いわね」
「これからどうしましょう?」
「謝るしかないわね。相手は神々、勝ち目はないわ」
「やっぱり」
大叔母様もカインと同じ意見、もう太鼓持ちにでも何でもなろう。相手、神様だし仕方がないよ。
「オリアーナ大叔母様、私が話しますから、調子合せて下さいね」
「アリスティア、大丈夫か?」
「ドン!と任せて下さい。失敗したら消し飛ぶだけです」
大叔母様の目が悲しそう。言いたいことはわかる。消し飛んではだめだ……それは分かってる。最善を尽くすよ。それで勘弁してよ。
私は、必死で上半身を持ち上げる演技をした。そして神々に奏上する。
「いと尊き神々よ。我は塵芥のごとき人の身。不敬なのは重々承知でございます。なれど、我が意を述べることをお許し下さいませ。我とて忠の民の子孫、憐れみを、憐れみを。何卒、何卒、伏してお願い申し上げまする」
魔法少女と意味は変わらないと思うのですが、魔術少女と書くと何か怪し気になるのは何故でしょう。




