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忠の民、罪の民

 かつて、この世界は、カオスに飲み込まれ暗黒に閉ざされていた。


 そこに、十二柱の神々が顕現された。その神々の名は、


  一の神  マイス神

  二の神  バッファ神

  三の神  ティーゲル神

  四の神  ピーター神

  五の神  ドランケン神

  六の神  クイネス神

  七の神  ホーサー神

  八の神  シーファ神

  九の神  マンキ神

  十の神  バンド神

 十一の神  ドング神

 十二の神  ボーター神


 神々は、その大いなる神力で、世界を覆うカオスを吹き飛ばされた。しかし、暗黒の中で蠢くだけだったこの世界の生き物には、触覚器以外の感覚器が全くなかった。神々は考えた。これではいけない、あまりにも哀れだ。


 神々はこの世界の生き物に、視覚器を与え、聴覚器を与え、臭覚器を与え、味覚器を与えた。


 そして、ひとつの生き物には、さらに、言葉と魔力を与えた。



   人よ、この世界を統べよ。


   人よ、我ら十二柱を、崇めよ。


   人よ、我らの教えに従え。



 人の世は、こうして十二柱の神々によって始まった。


 しかし、この後、魔力を得て傲慢になった人は、神々を真似て、己が魔力を獣に与え、魔獣を作った。そして、その魔獣と共に、神々に反乱を起こす。怒った神々は、人から魔力を奪い去った。神々に従った、極一部の人は、引き続き魔力を持つことを許された。


 こうして人は、忠の民 と 罪の民、へと別れていった。



「あー、神話がこれじゃあなー」


 私、アリスティアは、パタン! と絵本を閉じた。

 題名は「世界の始まり、この世の始まり」。なかなか寝付けなかったので、大昔に読んだ、子供向けの絵本を引っ張り出し、ベッドで寝そべりながら、ボーっと眺めていたのだ。


 貴族・神々を信じ従った『忠の民』の子孫、魔力有り。


 平民・神々に反乱を起こした『罪の民』の子孫、魔力無し。


 これでは平民達は永遠に、貴族に押さえつけられたままだ。人の世を成り立たせている基盤「魔力」を持ってない上に、「罪の民」だもんなー。こんな状況で上位階層に上がるなんて無理だ。


 ゴロンゴと体の向きを変えた。このベッドは大きい、少々ゴロンゴロンしても落ちはしない。


 平民が上位階層へ移る手段として一番に思い浮かぶのは、やはり「金」。しかし、これも無理だろう。貨幣経済はあることにはある。しかし前世の地球程発達していないし、流通自体がお粗末だ。これでは貴族を越える大商人なんて出て来れる訳がない。


 結局、今のところ、この世界でものをいうのは魔力なのだ。


 コレットの件が良い例。

 私は最初、コレットが平民出身ということで、蔑まれたりするような問題が多々起こるだろうと予想し、心配していた。けれど、セシルの妹の件などもあったが、それ以外は、驚くほどスムーズに貴族社会に受け入れられた。他の侍女達からも、最年少のコレットは可愛がられ、良くしてもらっている。


 これは、コレットの人柄もあるが、やはり魔力を持っているのが効いている。神々は「罪の民」である平民から魔力を奪い去った。しかし、コレットは平民であるにも拘らず、「魔力」を持っている。つまり、コレットは神に許されたのだ、神に許された者は、既に「罪の民」ではない。罪の民ではない者を、貴族社会に迎え入れても何ら問題はない。


 とどのつまり、この世界では、魔力を持てない平民は、報われることはない。永遠に社会の下層で這いつくばるしかない。

 

 しかし、本当に、平民は魔力を持てないのだろうか? 

 持てないなら何故に、紋章の劣化版とはいえ、魔術の術式を紡ぐことが出来る「紋」を与えられるのか? 矛盾も甚だしい。


 ()()()()()とは、どういうことだろう? 

 簡単な例えで言うと、魔力を溜める袋を持っているということ。

 

 貴族はその袋を持っていて、平民は持っていない。


 しかし、別の考え方もできる。


 貴族も平民も、どちらも魔力を溜める袋を持っている。

 ただ、貴族の袋の口は開いているのに対し、平民の袋の口は閉じられている。だから、魔力を入れられない、溜められない。コレットの場合は、その口がたまたま開いていたのだろう。


 では、平民の袋の口を閉じたのは誰か? 神々? もしくはそれ以外?


 神話によれば、それは神々。神力を持って閉じた。これでは、どうしようもない。人の魔術ごときで、対応できるものではない。神々の気が変わって開いてくれるのを祈るしかない。


 思うに、神々もいつかは開く気が有るのではないだろうか。その時の為に、平民にも「紋」を与え続けているのではないか? 


 全部推測だが、平民に魔術の術式を紡ぐことが出来る「紋」が与えられる説明にはなると思う。



 そして、もし、平民達の魔力を溜める袋を閉じたのが、神々でなかったとしたら…… 社会に大変革が起こせる可能性が出て来る。人の為したことなら修正は不可能ではない。


 このことに関しては、これからも少しずつ調べていきたいと思う。



 魔力関連の話題でもう一つ。


 私は、以前から、コレットの言葉で疑問に思っているものがある。


 『加護の紋を賜って以来、()()()()使()()()()()()なってまいりました』


 この言葉はおかしい、貴族は紋章を授かると、その時点で、第二段階までの魔術は自由に使いこなせるようになる。少しずつとか、段々とではない、即なのだ。(紋章と紋の違いは、効率の違いだけだと、私は考えている)


 それなのに、コレットは「少しずつ使えるようになった」と言った。普通、こんなことはあり得ない。あり得るとすれば……


 私は一つの仮説を立てた。


 この仮説が正しければ、ある悩みを持っている者達を救える可能性が出て来る。


 その悩みとは何か?


 それは、『魔力量不足』。


 私、アリスティアには無縁だが、多くの貴族達が、抱える深刻な問題だ。


この世界でも一年は十二カ月です。

神々の名前は順番に月の名前になります。一月は、マイス月、十二月は、ボーター月。

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